★阿修羅♪ > 国家破産49 > 637.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20070316/121215/
つい先頃の株式市場の動揺は我々に何か重大なことを告げているのだろうか。それとも、ただ単に「愚か者の語る世迷い言、騒々しいばかりで、何の意味もありはしない(※)」のか。(※ 注=シェークスピア劇のマクベスのセリフ)
アナリストの中には株式市場の日々の動きを説明してくれるばかりか、今後の動きまで予想してくれる人がいる。私は原因を説明できるほどの頭脳は持ち合わせていないし、未来を予言するほど無思慮でもない。ただ、ここで4点ほど指摘する覚悟はある。
市場の変化は歓迎すべきこと
まず、ある程度の市場のボラティリティー(振れ)は歓迎すべきであること。次に、主だった株式市場は確かに割高に思われること。3番目に、それにもかかわらず割高と見なされていない原因は、世界経済の常軌を逸した状態にあること。最後に、この状態が果たしていつまで持続するかが大きな問題だということである。
市場が安定している期間が長いと、投機が助長される。そのようなリスクテークが過度に至った場合、とりわけ巨額の借り入れによる投機が進むと、大きな変動が起こる可能性が高まる。資産市場が全体的に活況を呈し、リスクプレミアムが低い時には、リスクの度合いを再認識する必要がある。
サンフランシスコ生まれの人なら知っているように、小さな地震が続く方が、平穏な日々が続いた後、大地震に見舞われるよりは、はるかにましだ。同様に、市場の陶酔は危険を孕むから、時折揺さぶられる必要がある。バブルが大きくなりすぎて1990年の日本市場あるいは2000年の米国市場のような規模に達する前に、である。
我々が2月末に主要株式市場で経験した株価調整は軽微なものだった。問題の週、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)500株価指数は4.4%、MSCIワールドインデックスは4.5%下落しただけだ。しかし、今回の調整はさらに大きな変動の先駆けとなるのだろうか。この疑問に取り組むには、最も重要な株式市場、すなわち米国の株式市場のバリュエーションを検証するのが1つの手だろう
企業収益が膨れ上がっている
ここに、ロンドンに本拠を置くスミザーズのデータから作成したグラフがある。1881年以降のS&P500株価指数の実績PER(株価収益率)と景気循環部分を除いたPERを示したものである。景気循環部分を除いたPERは、エール大学のロバート・シラー教授の手法に依拠している。つまり、過去 10年間の企業収益の移動平均に対する株価の割合を消費者物価指数で割り引いた数字だ。
グラフによると、今の実績PERは長期の平均値である15倍超に極めて近い。ところが景気循環部分を除いた直近のPERは26.5倍と、長期平均を3分の2相当上まわっている。2000年当時のPERほど天文学的に高くはないにしろ、歴史的な水準と比べて極めて高いことは否めない。一体、何が起きているのだろうか。その答えは、米国、そして世界の大部分で企業収益が途方もなく膨れ上がっていることに帰せられる。
2つ目のグラフには、実質EPS(1株利益)及び10年間の実質EPSの移動平均を示してある。ここで浮かび上がってくるのは収益の循環性だ。また同様に鮮明になるのは、最近の収益拡大の大きさである。2002年3月から2006年12月にかけて、実質EPSは192%上昇した。しかし、1991 年12月から2000年9月にかけても実質EPSは170%上昇していた。そしてその後、急落を辿ったのである。結局のところ、2002年3月の実質 EPSは、10年以上前の底に比べて19%高かったにすぎない。
循環的な変動をトレンドと混同するのは常に誤りである。企業収益の場合には、それは誤りでは済まない。とてつもない大失敗である。循環的変動部分を省かないPERが役に立たない指標である最大の理由は、企業収益が高度の循環性を帯びているからだ。人が問題にすべきなのは、企業収益が今後も維持できるのか、それとも歴史的にそうだったように再び下落するのかという点である。
過去125年間にわたってS&P500の企業の実質収益は、年間わずか1.5%の伸びしか示していない。これは経済全体の伸びよりも低い数値である。S&P500の構成銘柄に新興の躍進的な企業が仲間入りすることは滅多にないからだ。直近の4半世紀に限っても、実質収益の伸びは年間3%である。直近の谷間以来続いているような年間25%の収益の伸びは続かない。これまでの経験に徴すれば、マイナスに転じる可能性が極めて高い。
転換点はいつか
その転換点はいつになるのか。それを探るには、企業収益の膨張が現在の世界経済の常軌を逸した特徴のうちのほんの1つに過ぎないという事実を認識する必要がある。その他の特徴を幾つか挙げよう。
まず、ダイナミックで、かつ広く共有されている経済成長。そして、リスクのない有価証券の低い実質金利。低いインフレリスクプレミアムと低い信用リスクプレミアム及び極めて低い名目金利。さらに、経常収支の膨大な「不均衡」。最後に、原油を中心としたコモディティー(商品)価格の高騰にもかかわらず低いままのインフレ率などである。
金融市場で見られる現象の多くが上記の特徴の組み合わせによって説明がつく。プライベートエクイティファンドが多額の借り入れをして企業資産の買収に動いていることなどがその例である。
我々が今日目にしている現象の中にも驚くべきことがある。中でも特に驚異的なのは、急速な世界経済の拡大と企業収益の膨張に実質金利の低さとインフレに対する懸念の薄さが伴っていることである。今のような世界は本来、高い実質金利とインフレ懸念が予想されて然るべき状況なのに、事情は正反対なのだ。
さて、何が原因でこういう具合になるのか。いくつかの答えが浮かび上がる。1つは金融政策に寄せる信頼感。それはこの4半世紀に各国の中央銀行が成し遂げた偉大な功績である。もう1つは、モノ・サービス・資本の世界市場のグローバル化。また、中国が世界経済の中に組み入れられたこと。中国の為替レートの実質的固定相場制とそれから派生する製品のドル建て価格に対する下方圧力。
さらに、世界の所得が貯蓄率の高い2つのグループ――東アジア諸国及び近年の原油輸出国――にシフトしたこと、そしてその結果、これらの国の貯蓄超過が莫大な額に達したこと。各国政府が米国のドル債務、特に長期国債の引き受け手の役割を果たしていること。米国が借り手及び消費者として「最後の頼みの綱」の地位にあること。米国の生産性が急激に向上したこと、等々である。
以上の要因が相重なって、安定した経済成長の条件が整えられた。だが、幸福な時間はいつまで続くだろうか。
危険は小さくない
前方に控えている危険は小さからぬものに思われる。その1つは、市場が背伸びしすぎて、結果的に安定を破壊する調整を招くことである。また、米国以外の国の過剰な貯蓄が減少することと世界の金利が引き上げられること。米国の生産性の伸びが鈍化すること。さらにまた、世界の金融情勢が変化し、米金融業界の急成長している収益が脅かされることだ。
しかし最大の危険は、米国の不動産ブームが終焉を迎え、家計が財布の口を締めるようになること、そして、それによって米国が世界的な大消費者としての役割に幕を引く一方で、貯蓄過剰の国々が代わりに消費を引き受ける時間的余裕がないことである。
今の収益の伸びが今後も同じペースで続かないことは請け負ってもよい。とはいえ、急激な転換は、その可能性を否定できないとしても、差し迫っているとも断言できない。経済上のリスクは判然としている。市場は割高の様相を呈している。しかし、私はターニングポイントを予測するまい。それは私よりずっと賢明で、腹の据わった方々にお任せしよう。
(Martin Wolf)