★阿修羅♪ > 国家破産49 > 569.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
読売ウイークリー
(2007年3月25日号より)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yw/yw07032501.htm
記者会見するシティ・グループのダグラス・ピーターソン氏(右)と日興の桑島社長。「互いにメリットがある」と強調したが、シティの本当の思惑は?(尾崎 孝 撮影)
【日興が外資傘下に】顧客、従業員、株主みなが損する現実
3大証券の一角でありながら、悪質な不正会計で信用を失った日興コーディアルグループが、日本市場の失地回復を狙う米金融大手シティ・グループの傘下に入ることになった。渡りに船の買収劇では、お互いが相思相愛ぶりを演じ、その統合効果を強調する。しかし、今後のストーリーは、日興社員の大リストラで始まる「残酷物語」に行き着く可能性さえささやかれている。
本誌 高畑基宏 二階堂祥生
粉飾決算で大きくつまずいた日興がシティにのみ込まれる様は、連日のように報道されている。十年一昔というが、1997年に経営破綻した山一証券を重ね合わせる向きは少なくないだろう。
「辞任した前社長が周囲をイエスマンで固めて不正隠しをしていたことや、内部告発が飛び交ったことなど、山一のときにそっくりだ。次にくるのは、やはり山一同様、大量のクビ切りでしょう」
山一OBの市場関係者は、こう嘆息する。6日に記者会見した日興の桑島正治社長が、「全国の店舗を何かするということはないし、従業員も今までどおり」と断言したにもかかわらずである。
今回の買収により、日興が持つ大量の個人顧客は、そっくりシティの手に渡る。日興に株取引口座を持つこれらの個人投資家は、上場廃止になってもこれまで通り、株式が売買できる。日興に預けている投資信託などの資産は分別管理されており、保全されるので心配はない。
とはいえ、日興がシティの子会社になることが個人顧客に有利に働くと思うと、当てが外れそうだ。
記者会見で両社は、業務提携の中身について、「幅広い商品サービスを提供する」と、あいまいな説明に終始した。これを証券アナリストの吉見俊彦さんは、
「日興の株主がシティに代わるだけで、目新しいサービスや商品がすぐに出てくるとは思えない」
と読み解く。
外資の商品は会社に有利
日興の個人顧客が、これまでにはなかったグローバルな商品サービスを受けられるようになるという見立てもある。だが、業界関係者は、「外資の商品は顧客に有利な商品というより証券会社に有利な商品」と口をそろえ、顧客メリットを疑問視するのだ。
それどころか、こうした個人顧客の多くは、いずれ切り捨てられる可能性もあるという。
シティはもともと、主力ビジネスとして日本国内に富裕層向けのプライベートバンク(PB)部門を持っていたが、数々の不正取引が表面化したことから、2004年、当局によって認可を取り消され撤退を余儀なくされた経緯がある。
シティにとって、日興の自滅は国内での劣勢を挽回するのに十分すぎるほどの棚ボタをもたらしたのだ。業界関係者は、「一度は取り上げられた富裕層ビジネスが倍返しで戻ってくる」と、その規模の大きさを表現する。
シティが欲しいのは、個人顧客の中でも、高い収益が期待できる富裕層ビジネスであって、個人向け営業(リテール)をトータルにとらえているわけではないと見るのが自然だ。会見で桑島・日興社長と同席したシティバンク在日支店のダグラス・ピーターソン最高経営責任者は、いみじくも「(日興とシティ)両機関の人材でシナジー(相乗)効果を上げていく」と語った。
別の証券アナリストは、
「外資が言う人材は単なる人員ではなく、あくまで適材であり、シナジー効果は、イコール生産性となる。人件費などのコストに見合わない小口の個人顧客は要らないということだ。翻訳すれば、必要最小限の営業社員で金持ちだけを相手に最大の収益を上げる、ということになる」
と解説する。
山一は社員10分の1に
それは山一のケースを振り返れば瞭然だ。山一のリテール部門を引き継ぎ、2000人の社員を受け入れた米メリルリンチ日本証券は、わずか3年ほどで個人顧客を富裕層に特化。山一出身の社員は実に10分の1の200人にまで削減され、支店は大阪、名古屋、福岡の3か所のみとなった。山一の地方支店の店頭を訪ね、1000株単位で売り買いするような古くからの顧客が切り捨てられた結果だった。冒頭の山一OBが、シティ傘下の日興に重ね合わせるシナリオだ。
これを裏打ちするように、国内でシティのライバル関係となる外資系証券の幹部は言う。
「日興の地方支店の営業マンは、のほほんとしていられないね。シティは、遠からず、採算の合わない顧客、店舗、社員を絶対に切りますよ。それがグローバルスタンダードのリテールビジネスですから」
個人株主も裏切られるのか
昨年12月、本誌編集部に一本の電話がかかってきた。
「日興の株をずっと持っていたのに、大損ですよ。決算をごまかしていたなんて、ライブドアと同じじゃないですか。経営者は逮捕されないんですか」
電話の向こうで、日興の株主だという男性が怒りをぶちまけた。
無理もない。日興の株価は、不正会計問題が発覚した翌日の12月19日、値幅制限の下限(ストップ安)となる200円安の1219円まで急落。さらに翌日には一時、1000円台に落ち込んだのだ。
その後、株価は1300円台まで持ち直したが、1月末、外部の専門家による調査委員会が「日興の不正会計は組織ぐるみ」と認定すると、再び1100円台へと急落。12月の問題発覚後も株を売らずに我慢していた株主も、完全に裏切られた。
一方、こうした個人株主の悲鳴をよそに、安くなった日興の株を大量に取得したのが海外の投資ファンドだ。シティは株式公開買い付け(TOB)によって日興株を買収するが、買い付け価格は1株1350円と、通常のTOBと比べて上乗せ幅が少ない。とはいえ、投資ファンドがTOBに応じれば確実に利益を上げられる。筆頭株主の米国の投資顧問会社だけでも、昨年12月からのわずかな期間に61億円が転がり込む計算だ。
そもそも日興は経営破綻したわけではなく、組織ぐるみの不正と、有村純一前社長ら旧経営陣の危機意識の低さが命取りになった。日興はその旧経営陣に対して、多額の損害賠償を求めるが、退職金については、おとがめなしの姿勢だ。株式投資にリスクはつきものとはいえ、株価急落後に日興株を買ったファンドが得をし、旧経営陣への責任追及が不十分というのでは、やりきれぬ思いを抱く株主がいても不思議ではない。
顧客、従業員、そして株主の誰も得しない。それが、外資参入の現実でもある。
(読売ウイークリー2007年3月25日号より)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yw/yw07032501.htm