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【投資大国ニッポンの危うさ】「貿易立国」から変貌するこの国の心許ない投資知識【NBonline】
http://www.asyura2.com/07/hasan49/msg/519.html
投稿者 ダイナモ 日時 2007 年 3 月 08 日 22:35:53: mY9T/8MdR98ug
 

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070302/120224/

 日本人の私たちにとって「貿易立国」という理念は、「そうあるべき」「そうでなければならない」といったように、心の奥に刷り込まれた強迫観念に近い。ところが国際収支を見る限り、日本経済のマクロ的な構造は急速に「投資立国」に向けて変貌を遂げている。


貿易黒字をはるかに上回る対外投資収支

 2006年の経常収支黒字は過去最大の19兆8000億円となった。このうち海外との配当や利息の受け払いの差額である所得収支の黒字は前年比2兆 3000億円増の13兆7000億円となり、貿易・サービス収支の黒字7兆3000億円を大きく上回った。この所得収支の巨額な黒字は2006年末時点で 181兆円に積み上がった日本の対外純資産(対外資産残高506兆円、対外負債325兆円)が生み出した投資リターンにほかならない。

 こうした対外資産の積み上がりの背後で、国内の貯蓄・投資の流れにも変化が生じている。1990年代まで外貨資産への投資の主体は生損保や信託銀行の年金資金など機関投資家だった。ところが過去数年、外貨投資の分野で個人投資家の裾野が急速に拡大している。長引く超低金利に業を煮やし、投資信託などのリスク性の金融資産に家計の資金がシフトし始めたのだ。

 特に高金利の外貨金融資産に投資して配当利回りの高さを競う投資信託が売れている。公募投資信託(2007年1月末の総純資産71兆円)のうち、外貨投資残高は過去5年間で25兆円も増加し28兆8000億円に達した。


立派な「投資立国」なのに投資知識は貧弱

 日本の国民所得を増やすために対外投資が果たす役割は今後ますます大きくなるだろう。ところが、今日の日本の「投資に関する知識」の状況は、なんとも貧困である。巨額な対外純資産残高を積み上げる世界最大の債権国であり、対外投資のパフォーマンス向上、それを担う機関や個人投資家の合理的な投資戦略、知識がますます重要になっているにもかかわらず、である。

 戦後の長きにわたって日本人は黙々と働き、貯蓄することが美徳とされ、合理的な投資知識の普及はなおざりにされてきた。家計は銀行や郵便貯金に貯蓄し、その資金の運用は銀行や官僚がコントロールするモデルだった。

 バブルの崩壊を契機に1990年代から旧モデルの行き詰まりと解体が始まった。家計サイドも高度成長期のような本業所得の高い伸びが期待できなくなったので、投資による所得増加を期待する人々が増えた。

 こうした流れの中で、政府は近年ようやく「貯蓄から投資へ」と基本的な政策理念を転換したのである。

 ところが目立つのは、株や外国為替のインターネットトレーディングで短期的な売買益を稼ぐゲームに興じる人々の急増である。まず株のトレーディングが先行し、次いで外国為替の証拠金先物取引が急速に増えた。

 先物専業業者に証券会社も参入し、手数料や利便性、取り引きの透明性が格段に改善したというメリットもあった。この結果、FX(外国為替証拠金取引)ネットトレードの個人会員数は今や35万人、証拠金残高で数千億円の規模となり、最大で数兆円規模の外貨持ち高(ほとんどは高金利外貨の買い持ち高)に達すると推定される。


まるで“猿”が投資ゲームに興じているような…

 しかし、書店で出回る株や外貨投資の書籍に目を向けると、短期売買で簡単に儲けることを扇動するような“ジャンク”なものが溢れている。短期売買の投資ゲームで一般個人投資家が一時的に儲かることはあっても、長期的に高いパフォーマンスを維持することは極めて難しい。

 このように言うと、「私は株の売買で儲けてきた」と反論される方もいるだろう。しかし、冷静に考えてみていただきたい。猿に投資ゲームをさせてみたとしよう。猿を1万匹集めて、売るか買うかの操作をレバーでさせる相場ゲームである。確率的に半数の猿は儲け、残り半数の猿は損をする。全体の平均値は損益ゼロになる。最も成績の良いサル10匹だけを見れば、何度も繰り返し儲けているだろうが、それは確率的偏差の産物でしかない。

 日本は既に投資立国の道を歩み始めているのにもかかわらず投資知識の面では、果たしてどれほど猿より賢いだろうか。

 「投資先進国」の米国でも、大衆投資家の非合理な投資行動を挙げればきりがない。それでも、リスク分散と長期投資による資産形成を目指す方が短期売買に興じるよりも一般投資家にとって長期的に高い投資パフォ−マンスを上げられることを、実証分析や啓蒙的な投資指南書が説いている。アカデミックな投資理論や実証分析から抽出された教訓を、一般投資家に分かりやすく解説するエコノミストも少なくない。しかし、日本ではアカデミズムの投資論と市場での実践とは隔絶されたままだ。


高金利外貨に投資すれば儲かるというのは全くの“錯覚”

 最近の投資ゲームの中で流布している懸念すべき“錯覚”を1つだけ指摘しよう。次のような思い込みである。

「高金利通貨に投資すれば、短期的な相場変動のリスクはあっても、長期的には勝ち越せる」

 この錯覚は根強いもので、1980年代には日本の生損保など大手の機関投資家が高金利のドル債に盛んに投資し、80年代後半に為替損の山を築いた。ドルと円で短期金利格差は現在4.75%もある。ドル相場の上下動は不確実だが、上昇も下落も確率5分5分なら、高金利が稼げる分だけドル資産に投資(ドル買い)した方が有利だと多くの一般投資家も考えているようだ。しかしこれは全くの錯覚である。

 ドルの名目金利が円金利より高いのには明確な理由がある。各国の名目金利差は長期的にはインフレ率の格差を反映している。高金利通貨は高インフレ通貨である。インフレとは通貨の購買力が減少することである。通貨の価値は、それでどれだけの商品が買えるか、つまり購買力に依存している。従って、長期的にはこういう関係が成り立つ。

 高金利通貨 = 高インフレ通貨 → 購買力の長期的減少 → 為替相場(通貨価値)の下落

 これは為替相場に関するごく基礎的な知見である。

 実際、変動相場制に移行した1973年以降、2005年までの日米のインフレ率の格差は、米国が日本よりも高く、企業物価で2.8%の格差があった。同じ期間にドル円の為替相場は年率平均2.6%でドルが下落した。つまり日米の企業物価格差とほぼ同じ比率でドル相場は円に対して下落したことになる。

 一方、日米の期間10年の国債利回りで計った長期金利は米国の方が日本より高く、その金利格差は80年代3.9%、90年代2.7%、2000〜05年3.3%だった。長期金利差から上記の趨勢的なドル相場の年間下落率2.6%を差し引くと、僅少な利回りしか残らない。


割高圏に入ってから投資したのでは遅過ぎる

 「しかし、2005年1月の1ドル=100円台前半を底にドル相場は対円で過去2年も上昇基調をたどっている。ドル投資のリターンは高い」と言われる方もいるだろう。

 もちろん、ドルをはじめ高金利外貨の為替相場が短期的、あるいは中期的に上昇する局面は、過去何度もあった。確かに高金利外貨投資で高いリターンを上げる機会はある。ただし、高い確率で成功するためには投資対象通貨が過小評価された割安局面でスタートすることが欠かせない。

 ヘッジファンドが「円売り・高金利買いのキャリートレード」をしてきたのは事実だが、彼らには長期にキャリーすれば金利差分を勝ち越せるという錯覚はない。あくまでも目先円相場が下がるという見通しで円を売ってきた。その見通しが変われば、彼らはすぐに円買いに転じる。

 実際、3月に入ってから米国経済の景況感に弱気の見方が強まり、ドル金利引き下げの観測が浮上すると、途端に彼らは相場観を修正して、円売り持ち高を縮小したようだ。大局的に見ても1ドル=120円に上昇したドル相場は割高圏にあった。猫の目のように変化するのが短期的な相場変動だから、再びドル高・円安になる可能性も否定しない。しかしドル相場が上がるほど、次第に低下するオッズ(確率)に賭けるゲームをしていることを忘れてはならない。

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