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【国際政治経済学入門】給料はなぜ上がらない
就職、給与、ショッピング、株式投資、マイホーム−−。身近な経済はグローバリゼーションの波に翻弄される。上海の株式バブル、イラクの泥沼、北朝鮮の核も結局はわれわれの経済に跳ね返る。なぜか、この連載を通じてそのプロセスを解き明かしてみよう。
企業業績の回復は著しい。景気もほどよく拡大しているというのに、会社員の懐具合ははかばかしく改善しない。厚生労働省によると、物価上昇分を除く2006年の実質賃金は前年比0.6%減で2年ぶりに減少に転じた。企業はなぜ賃金を上げないのか。
1グラム当たりの自動車価格はいくらか。車種によって違うがこの20年来、1円から2円の間だという。車のハイテク化がいくら進んでもこの価格帯は変わらない。
「完成車メーカーからの圧力でわれわれはコストを下げるしかない」(自動車部品業界関係者)。
プラスチック素材「ポリマー」の出荷価格は、0.2円。原料の石油価格が高騰しても、自動車や家電業界などユーザーから値上げを認めてもらえない。ちなみに自動販売機のミネラル・ウオーターも0.2円という計算になる。
「われわれは巨額の設備と技術を投入しているというのに、天然水と値段が同じとは」と化学業界大手の幹部は嘆く。
より正確には、「交易条件指数」がある。要は販売価格指数を仕入れ価格指数で割ったもの。交易条件がよいという意味は、安く仕入れて高く売るわけで当然企業は儲かる。逆に仕入れ価格が上がって販売価格に転嫁できないと交易条件は悪化する。
円高になると仕入れ価格が下がり交易条件はよくなるというのが定説になっていたが、グラフをみるとそうでもない。製造業の交易条件はそれとは無関係に一貫して悪化している。とくに2001年12月の中国の世界貿易機関(WTO)加盟を機に、奈落の底に急落する状況である。
WTO加盟は中国の貿易・投資条件を整えた。カラーテレビやAV機器、半導体など電気機械は日本、韓国、台湾などのメーカーの対中進出が加速したほか、中国の国産メーカーも急成長してきた。鉄鋼も中国メーカーが台頭している。自動車の中国市場も日米欧のメーカーの進出、増設に加えて国産勢も生産能力を高めている。世界の工場、中国の供給力の膨張が日本製造業の交易条件、つまり競争条件を厳しくしている。
もうひとつ、見逃せないのが、株主重視の米国標準である。株主に利益を還元しないとM&A(合併・買収)の標的にさらされる。村上ファンドの村上世彰はインサイダー取引容疑で被告の身になったが、「物言う株主」は株主の国際化もあって主流になりつつある。1990年代後半からのリストラや資産の切り売りは一段落したが、残る手段はひとつ、人件費を減らすことで利益水準を上げ続けなければならない。
企業は新規雇用を人件費が正社員の三分の一で済む人材派遣や請負い業に頼る。さらに円安が進めば、輸出は有利になるし、ドルやユーロでの海外法人の儲けは円に置き直すと増える。かくして企業は潤うが、経営者は株主に分配しても働く者には後回しにする。これは日本だけの現象ではない。日本と同じく景気回復してきたドイツもそうだ。
世は「格差」社会だという。だが、正社員であろうとパートであろうと、雇われる者は同じ舟に乗っている。(田村秀男)
(2007/02/06 15:16)
http://www.sankei.co.jp/keizai/kseisaku/070206/ksk070206003.htm