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格差社会 −労働ダンピングで何が起こるか
2006-11-27 00:00:27 / ◆格差社会
1990年代後半にはすでに、それまでの雇用と労働条件とは様相を一変する事態が進行していたといわれる。いま中野麻美の『労働ダンピング』(岩波新書)を私は読んでいる。
その中野らがおこなった賃金アンケート調査(1999年)では、時間給が1996年の1702円から42円ダウンして1660円になったことが衝撃的な出来事として受け止められたらしい(同書「はじめに」)。
中野らの調査によれば賃金はその後も下落していった。そしてその一方で、正社員も成果主義・能力主義処遇によって振り分けられた二極化傾向を示したと、中野はまとめている。その要因は、中野によればグローバル化と規制緩和である。
それによって生み出される格差と不安定雇用を容認するシステムが作動し、激変が労働者にはもたらされた。
格差がこんにち、さまざまな形で論じられている。少し周りをみわたせば、だれもがそれを実感するような日本社会をおおう格差がそこにある。いまわれわれが目の当たりにする格差とは「社会の貧困化」を表わすそれである。
中野の著した本著の、いちばん最初の章のタイトルは「いま何が起こっているか」というものである。そこにはすさまじい実態を示す事例があげられている。
本著全体にかかわっては別の機会に紹介したいが、ここでは第1章であつかわれている事例をあげたい。
感じるのは、これらのケースはいずれも雇用と労働にかかわる格差が生み出すさまざまな問題であるが、それは同じように社会のさまざまな場面で経ち起こる事象に共通しているということである。最近の教育における、噴き出した諸問題のように。
【ケース;低賃金・細切れ労働】
製造業で嘱託社員として働く勤続20年の54歳の男性は、「仕事内容は正社員とまったく同じだが、賃金は正社員の3分の1」だといって、賃金や処遇面での理不尽な格差を訴えている。
ほかにも、「正社員の3分の1の賃金で正社員以上の仕事をさせられる」(30代・女性・金融関係・派遣・6か月更新)など、正社員と同じ仕事をしているのに賃金は3分の1というのはいかにも不公平だ。
こんな大きな所得格差が、正規雇用を巻き込んだ貧困化や少子化、社会保障の財源や国と自治体の財政の脆弱化を引き起こすことになるのだが、日本の社会は、これまで深刻な社会問題につながる雇用形態による格差を放置してきた。
「社員と同じ仕事をしているのに、社員と格差がある。退職金もない。有休もない。ボーナスの格差が一番頭にくる」(56歳・女性・ガソリンスタンド勤務・パート・勤続20年・時給850円〕という訴えなどからは、雇用が「生活」の支えになり得ていないことを痛感させられる。
時給850円では自立して生きていけない。それが勤続20年、何事もなく仕事をこなしてきた働き手の賃金なのだ。「ポーナスの格差が一番頭にくる」という実感は、非正規雇用で働く人たちに共通しているのではないだろうか。
10年以上にわたって精密機械製造会社で働き続けてきた50歳代の女性は、最初は一年契約だったのが10年目に半年契約に変えさせられたうえに次の契約時には、「時給ダウン」と勤務時間「短縮」を呑まなければ雇用は保障しないと通告された。
彼女は、正社員以上に会社に貢献してきたという自負をもっていたこともあって、この通告はひどくこたえた。女性は悩んだ末、「承服できない」「これまで通りの条件で働きたい」と返事をしたが、会社は彼女の雇用を打ち切った――。
このケースのように、期問満了時に契約条件の変更を通告されたという相談が受けている。変更される契約条件は、使用者の都合によってありとあらゆる労働条件に及んでいる。
契約期間の「細切れ化」も進んでいる。
ある信販会社に働く30歳代の女性は、10数年前に働き始めたときには1年契約だったが、その数年後には半年契約、そのまた数年後には3か月契約になって、数年前からは1か月契約で働いている。
職場に貢献してきた期間が長ければ長.いほど契約期間が短期化するなどという「細切れ化」は、これまでの常識では考えられなかったことだが、最近では、「2年契約を2回、6か月契約を12回、3か月契約を4回更新して、最後は契約満了で解雇」(41歳・男性・営業派遣・時給1800円)とか、ハローワークを通して就職した時の話では6か月更新という条件だったはずなのに、それが3か月更新になったり1か月更新にされたり、使用者の都合に応じて契約期問が変更されたといった苦情も少なくない。
【ケース;働いても働いても生活できない】
最近増えている「アルバイト派遣」「日雇い派遣」といわれるスタイルで製造ラインに派遣された、ある神奈川在住の女性は、時給700円しか支給されなかった。
当時の神奈川県の最低賃金は712円(2005年10月1日)だから、これは最低賃金法に違反している。この女性の場合、さらに、交通費が1日1000円支給されるという話だったのに支給されなかったという。
アルバイト派遣は、低賃金であることに加え待遇もハードだ。
敗戦後の食べ物にも事欠いた時代ならともかく、何でも手に入る豊かな時代には最低賃金法以下の賃金など想像できない、あってもごくごく例外だろうと考えている読者も多いことだろう。
実際、規制緩和論者のなかには、もはや「最低賃金法」は必要ないという人もいる。
しかし、最低賃金法違反は、このように「アルバイト派遣」「日雇い派遣」といった新しい労働形態を通じて確実に拡大している。たとえ、その時々の労働に支払われる賃金が最低賃金法に違反していなかったとしても、1か月のうち仕事がない日も結構あるから、平均すると最低賃金を割り込んでしまう。
求人誌を見て派遣会社に登録し、アルバイト派遣で働くある男性は、「明日は○○行ってくれ」と連絡されて軽作業に従事している。日給は4800〜5000円というが、4、5日連続で仕事の紹介がないこともあり、それでは生活に困るし、不安で精神的に参ってしまうと訴えている。
「管理監督職」が最低賃金以下の時給で働くという、かつてならばまったく考えられなかったようなことも起きている。
若い人たちが「店長」とか「チーフ」とかの肩書きをつけられて、死んでしまいそうな過酷な働き方に巻き込まれていて、親たちから、このままでは死んでしまう、と訴える相談も増えている。
一日8時間、週40時間を超えて働かせたときに支払うことが義務づけられている割増賃金も支払われない。
労働基準監督署に申告すると、使用者から、「時間外労働は命じていない」「時間外になるのは能力がないから」「割増賃金を支払わなくてもよい「管理監督職」だから」と弁明されたりする。外食産業など過当競争のなかでコスト削減への要請がいっそう強まる分野では、若い働き手を店長として採用し、その下にアルバイトを配置して管理させている。
こうした店長たちから、深夜過ぎまで1日16時間働くが、固定給だけで時聞外等割増賃金は支給されないという相談が結構ある。あるケースでは、実際に働いた時間で固定給を割ると、時間あたり670円強と、714円(2005年10月1日現在)の東京の最低賃金はるかに下回ってしまっていた。労働基準法に基づく時間外・休日・深夜割増賃金不払いの総額は2年間で300万円を超える程の長時間労働だった。
彼の身分は契約社員で、昼間の勤務が時間給800円、夜間の勤務で1000円である。時給800円といえば東京の最低賃金714円を上回る水準ではあるが、単身生活でも、住居を確保し、水道光熱費や通信費を支払ってその日その日を工夫してぎりぎりの生活をつなぐとしても、これを長期間続けることは困難だ。
まして、子どもを育てていくことなど不可能で、パート就労しか働き口のないシングルマザーの生活は深刻だ。この条件で、政府が労働時間短縮目標として掲げていた、年間1800時間まで働く時間をセーブしたとすれば、年収は140万円強にしかならない。これでは、国民に健康で文化的な生活を営む権利を保障する憲法25条を受けて制定された生活保護法に基づく給付の水準を、はるかに下回る。
【ケース;社会からの排除】
「一年契約の更新で5年近く働いているのに雇用保険にも社会保険にも入れてもらえない」という苦情を訴えるのは、請負形態で日給8000円で事務機器修理に従事しているという男性。会社では、パートも社員も、一方的に「個人事業主」として請負契約を結ばされて、雇用保険も「解除された」という。
30くらいの事業所で正社員事務職として13年働いてきたFさんは、上司から呼ばれて「営業所が赤字なので、社員からパートになってほしい」と言われた。また、9年間勤務してきた別の女性は、それまで女性だからというだけで「補助」扱いされてきたのに、事務所から「補助」にとどまるなら時間給で1年契約で働くパート社員に転換させるという通知を受けた。
「いまさら」という思いと、親の介護の必要もあって、これまで通りの条件で働きたいと返事をしたら、解雇されてしまったという。親の介護や子どもの世話など、家族的責任を主に負担している女性に「正社員で頑張る努力が必要」といっても、いったいどうすれぱ残業対応の可能な働き方ができるというのだろうか。
【ケース;いじめやハラスメント】
製造業派遣で働く男性は、同じ仕事(オペレーター)をしているのに、派遣だからと見下されて、いじめられると訴えている。正社員は仕事を教えない、しかも失敗すると怒る。挨拶もせず無視して、いてもいなくてもどうでもいいような扱いをしながら、「休むな」と言って休ませない。
2年前から休日出勤も強制されていると苦渋を訴える。正社員は正社員で、派遣労働者に仕事なんか教えようものなら、自分の立場が危うくなると言う。
外資系金融会社に派遣された30歳代の女性は、1か月後に会社をやめさせられる正社員の仕事を引き継ぐよう指示された。
割高感の強い正社員はいらないということなのだろう。退職勧奨か解雇かはわからないが、とにかく削減対象者として選定された人のポストに派遣社員を充てるというのが会社の「戦略的配置」であった。しかし、引き継ぎは「針の筵」だった。仕事を教えてくれないというのは前述の男性と同じで、配属された部署の女生社員全員から口もきいてもらえない「村八分」にあい、ランチにも一人だけ残されたという。