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「歯磨きでインフル発症率10分の1」は本当?
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http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090306-00000002-cbn-soci
「歯磨きでインフル発症率10分の1」は本当?
3月6日18時9分配信
医療介護CBニュース
歯磨き指導でインフルエンザ発症率が10分の1に―。NHKが今年2月4日、情報番組「ためしてガッテン」で紹介したインフル予防法について、一部の内科医や感染症医が「医師など専門家の裏付けコメントが一切なく、釈然としない内容だった」と首をかしげている。また、ある一般視聴者は「番組を見て、数人の歯科医、感染症医、歯科衛生士に話したところ、『そんな話は初めて聞いた』という答えしか返ってこなかった」と話す。インターネット上の掲示板などでも、予防法そのものを疑問視する書き込みが目立つ。番組内では、歯科衛生士がデイケアに通う高齢者に歯磨き指導をしたところ、発症率が10分の1になった事例を挙げ、口腔ケアが予防につながるとしていたが、果たして「歯磨きでインフル予防」は本当なのか―。
2月4日、NHKは「ためしてガッテン」で「インフルエンザ特集」を緊急生放送。番組中で、東京都府中市の特別養護老人ホームあさひ苑で歯磨き指導をしたところ、発症率が10分の1になったという事例を紹介し、次のように説明した。
「インフルのウイルスは気道の粘膜に付いて増殖するが、粘膜にはタンパク質の覆いのようなものがあって、ウイルスが簡単にくっ付かないようになっている。ところが、ある酵素がそのタンパク質を破壊してしまう。タンパク質が破壊された状態でウイルスが入って来ると、そこで大増殖してしまう」
続けて、予防法を紹介した。
「(粘膜の)タンパク質を破壊する酵素は、歯垢、歯石、舌苔(ぜったい)などから発生している。つまり、口腔内を清潔に保つことで、酵素ができにくくなり、ウイルスの増殖が抑えられる(インフル予防につながる)。正しい歯磨きで、歯と歯茎の間の歯石、歯垢はきちんと除去。舌は、専用の舌ブラシか古くなった歯ブラシで磨いて、舌苔を取り除く」
同番組は11日に再放送された。
NHKによると、番組で紹介した予防法は「東京歯科大の奥田克爾名誉教授(微生物学講座)の研究内容に基づいたもの。2006年2月放送の『ためしてガッテン』で最初に紹介した。その時は、奥田名誉教授にスタジオ出演していただき、解説もしていただいた」という。同研究については、「国内外の論文誌にアクセプトされて(受け入れられて)掲載されており、科学的根拠の十分あるもの」だと説明する。
■「口腔ケアあり」は発症者1人、「なし」は9人
そこで、奥田名誉教授の過去の論文を調べてみると、厚生労働省の03年度老人保健健康増進等事業で、「地域保健研究会口腔ケアによる気道感染予防研究委員会」の8人のメンバーによって、「口腔ケアとインフルの発症率」という調査が行われていたことが分かった。
同調査は03年9月中旬から04年3月中旬までの6か月間、あさひ苑と府中市内のもう一つの通所介護事業所の協力を得て行われた。65歳以上のデイケアに通う在宅介護高齢者を、年齢、性別、残存歯数、ADL(日常生活動作)、既往症(脳血管障害や肺炎など)の有無、痴呆の有無、インフル予防ワクチン接種率などの条件で偏りが出ないように2グループに分類。あさひ苑の高齢者98人のグループを歯科衛生士が積極的に介入してケアする「専門的口腔ケア実施群」(平均年齢81.0歳)、もう一つの施設の高齢者92人のグループをこれまで通り自分で口腔ケアをする「コントロール群」(同83.5歳)とした。前者のグループには、歯科衛生士が口腔ケアと集団口腔衛生指導を1週間に1回実施した。
調査開始から半年後、前者の口腔内を調べると、細菌数が減り、プロテアーゼとノイラミニダーゼの細菌性酵素活性の低下が確認された。インフル発症者は、前者は1人、後者は9人だった。研究委は、調査結果を厚労省に報告し、海外誌などにも発表した。
■幅広い年齢層の大規模調査で、エビデンス蓄積を
「地域保健研究会口腔ケアによる気道感染予防研究委員会」のメンバーとして研究に携わった阿部修さん(歯科医)は、「調査前からある程度インフル発症は減るだろうと仮説は立てていたものの、10分の1という結果には驚いた」と振り返る。
「過去の研究結果で、細菌性プロテアーゼがインフルウイルス感染を助長することは証明されており、口腔内の細菌が(インフル感染に)影響を与えることは、理論的整合性が高いとみられる。耐性ウイルス出現などワクチンでの予防に限界がある中で、個人レベルで可能な予防法はできるだけ実践した方がよい。口腔ケアもその予防法の一つであると考えている」
その一方で、「現時点で言えることは、口腔ケアがインフルの予防に寄与する可能性があるというだけで、その効果の程度については、今後さらなる検証が必要」とクギを刺している。
「調査結果は『口腔ケアがインフル予防に寄与する可能性がある』ことを示し、この研究分野における最初の一歩となった。大規模調査をしたときに、同じように発症率10分の1という劇的な数字になるかどうかは分からないが、エビデンスを蓄積していくためにも、この研究を基に1000人、1万人を対象とした大規模臨床研究や基礎研究を進める必要がある」
また、阿部さんは、同研究では歯科衛生士が「正しい歯磨き法」の指導を行ったことにも注目すべきだと指摘する。
「あさひ苑では、専門知識を持った歯科衛生士たちが高齢者の歯垢や歯石などを徹底的に除去し、さらに家族や介護者にも徹底的に『正しい歯磨き法』の指導を行った。指導を受けていない人が漠然と歯磨きしただけでは、口腔内細菌は減少しないし、インフルの予防効果が高まるとは思えない」
「発症率10分の1」という結果が出たことで、あさひ苑では高齢者の口腔ケアに力を入れて取り組むようになった。ある職員は「口腔ケアがインフル予防につながっているかどうかは分からない」としながらも、「確かに、ここ3年ほど感染者が出たという話は聞いたことがない」と話す。
■科学的に証明なら、衛生士の活躍の場広がる
この研究報告を見たある内科医は、「エビデンスはないが、口腔内を清潔にしておくことが、ウイルス感染予防に効果があるのは間違いないと考えている。例えば、高齢者の肺炎の発症率は、口腔ケアをすることで下がることが明らかになっている。高齢者は、口腔内を不潔な状態にしておくと、異物が入って来たときに『せき反射』が起きにくくなる。せきが出なくなると、異物を追い出すことができないため、ウイルスに感染しやすくなる」と説明する。
その上で、「この調査結果を活用しないのは、もったいない。国内の研究者でも海外の研究者でも構わないので、子どもから大人まで幅広い世代を対象に、大規模調査をぜひ行ってもらいたい。歯磨きの時間と頻度、うがいの頻度、口腔内の細菌数、マスクの有無、インフルウイルスへの曝露時間と回数、湿度など、さまざまに条件を絞って調査を重ね、口腔ケアがインフル予防につながることを科学的に証明してほしい。口腔ケアで発症率が下がることが証明されれば、歯科衛生士の活躍の場も一気に広がるだろう」と期待を寄せている。
厚労省健康局結核感染症課新型インフルエンザ対策推進室の高山義浩さん(感染症医)は、「こういった話(研究結果)があることは把握しているが、エビデンスが蓄積されていないので、まだ国として(予防法として)推奨する段階には至っていない」との見解を示し、その上で、「専門家の調査、意見が集約されるのを待ちたい」とコメントした。
【プロテアーゼ】
タンパク質を加水分解する酵素の総称で、消化液に含まれ、微生物からも分泌される。洗剤などの製品にも利用されている。
【地域保健研究会口腔ケアによる気道感染予防研究委員会】
メンバーは、佐々木英忠氏(東北大医学部老年呼吸器内科教授)、奥田克爾氏(東京歯科大名誉教授・微生物学講座)、菊谷武氏(日本歯科大歯学部附属病院口腔介護・リハビリテーションセンター長)、阿部修氏(東京歯科大微生物学講座)、小川弘純氏(府中市歯科医師会会長)、北原稔氏(茅ヶ崎保健福祉事務所)、足立三枝子氏(府中市民医療センター歯科衛生士)、田中甲子氏(地域保健研究会代表)の8人(肩書、所属はすべて04年3月時点のもの)。
研究結果は、06年の「口腔ケアによる気道感染予防教室の実施方法と有効性の評価に関する研究事業報告書」(社会保険研究所刊)、Archives of Gerontology and Geriatrics誌 (Abe S、 Ishihara K、 Adachi M、 Sasaki H、 Tanaka K、 Okuda K. Professional oral care reduces influenza infection in elderly. Arch Gerontol Geriatr.2006 .43:157-64.) 、06年発行の日本歯科医学学会誌、06年3月15日発行の「歯界展望」などに掲載されている。
【2006年3月15日発行の「歯界展望」】
「口腔ケアによる細菌性酵素活性の減少とインフルエンザ感染予防」(阿部修、石原和幸、足立三枝子、佐々木英忠、田中甲子、奥田克爾)より一部抜粋。
「口腔ケアがなぜインフルエンザ感染に影響するのか〜口腔内細菌とインフルエンザウイルスの関係〜」
インフルエンザウイルスは表面に赤血球凝集素(Hemagglutinin:HA)とノイラミニダーゼ(Neuraminidase:NA)というタンパク質を有しており、宿主細胞への感染と増殖にはそれらが重要な役割を担っている。感染はウイルス表面のHAが、宿主細胞表面のシアル酸を含むウイルスレセプターと結合することで始まる。その後、細胞内にRNAが送りこまれ、ウイルスは宿主細胞を使って増殖を開始する。次に増殖したウイルスは細胞表層に瘤状に存在しNAが結合部のシアル酸を分解することによって、細胞から遊離し他の細胞に感染する。こうした機序によりウイルスは細胞から細胞へと増殖して、感染が進んでゆく。このような感染から増殖、拡散という機序において、細胞内で増殖したウイルスを細胞から遊離させないことによって、感染を抑えるのが、昨今インフルエンザの特効薬として知られるノイラミニダーゼ阻害薬(タミフルなど)である。
空気中に飛散しているインフルエンザウイルスが咽頭や上気道粘膜に吸着し、細胞に侵入して感染するためには、あらかじめウイルスのHAがサブタンパクユニットであるHA1とHA2とに開裂されていなければならない。その開裂を起こさせる役割を果たすのが、気道上皮細胞や黄色ブドウ球菌などの細菌が産生するトリプシン様プロテアーゼ(TLP)であることが明らかにされている。その他、アエロコッカスや緑膿菌、インフルエンザ菌、セラチア菌、肺炎球菌などの関与も示されている。さらに、直接HA開裂を引き起こさない細菌群においても、気道感染を起こすことによってそれらの内毒素が気道上に刺激を与え、細胞からのTLP産生が促進されることも示唆されている。
要介護高齢者の口腔内細菌数は増加しており、そのなかにはセラチア菌や黄色ブドウ球菌も存在する。さらにわれわれは高齢者の口腔内衛生状態が悪化しているときに、そうした細菌が増加することを明らかにしてきた。TLPやNAは多くの他の口腔内細菌によっても産生されることが報告されている。さらに、Porphyromonas gingivails(P.g.)、Treponema denticola(T.d.)、Tannerella for sythensis(T.f.)などの歯周病原性細菌が産生する細菌性酵素もTLPであることが明らかにされている。このような状況を考慮すると、口腔内細菌の産生するプロテアーゼが、ウイルス感染に影響する可能性がある。
このような背景の下に、筆者らは口腔ケアによる唾液中の細菌性TLP活性およびNA活性の変化と、それによるインフルエンザ発症率の関係を調査した。
「研究の概要」―専門的口腔ケア実施群のインフルエンザ発症率が減少―
(略)2003年9月から2004年3月までの冬季6か月間を介入期間とし、介入前後の唾液内の総生菌数算定、NA活性試験およびTLP活性試験を実施するとともに、期間内のインフルエンザ発症者を調べた。
唾液内総生菌数、TLP活性、そしてNA活性のすべてにおいて、専門的口腔ケア実施群に有意な低下が認められた。それに対し、コントロール群はすべての項目で介入期間前後での差は認められなかった。
介入期間内のインフルエンザ発症者数は10名(実施群1名<1.0%>、コントロール群9名<9.8%>であり、コントロール群において有意に発症者数が多かった。(以下略)
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最終更新:3月6日18時40分
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