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この人に聞きたい080312up
明石昇二郎さんに聞いた(その1)
「原発崩壊」の危機
日本全国を震撼させた、新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原発事故。
テレビに映し出された、黒い煙を上げ続ける原子力発電所を見て、
不安な気持ちにおそわれたことは、記憶に新しいところです。
原発問題に詳しいジャーナリストの明石昇二郎さんにお聞きしました。
あかし・しょうじろう
東京生まれ。87年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の核燃料サイクル基地計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。以後『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』などで執筆活動。94年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。著書に『ニュークリア・レインのあとに』(白水社)、『六ヶ所「核燃」村長選』(野草社)、『黒い赤ちゃん カネミ油症34年の空白』(講談社)、『原発崩壊 誰も想定したくないその日』(金曜日)ほか多数
原発と活断層の問題を追って
編集部 『原発崩壊』(金曜日刊、1500円+税)を読ませていただきました。とても面白いノンフィクションでしたね。
明石 ありがとうございます。
編集部 これは、2007年7月16日に発生した「新潟県中越沖地震」による柏崎刈羽原発の被害と、それにまつわるさまざまな出来事、そして、それ以前に取材した島根原発の活断層をめぐる問題などを、克明に追ったものですよね。
明石 そうです。『週刊プレイボーイ』の4回連載分と、『週刊金曜日』に2回書いたものがベースになっているんです。それから、第3章のシミュレーション・ノベルは、『サンデー毎日』に連載したものです。
編集部 精力的に原発問題を追い続けているんですね。
明石 これだけ発表の場があるということは、メディアの関心も強い証拠だと思いますけど。まあ、メディアといってもごく一部だし、残念ながらテレビではほとんど取り上げてくれませんが。
編集部 そうですね。特にテレビは、電力会社が巨大スポンサーですから、原発批判はまずやりませんからね。それで、本の売れ行きはいかがですか?
明石 こういった硬派のノンフィクションとしては、まずまず順調に売れているようです。やっと、じわじわと世の中に存在が知られ始めたというか…。大出版社じゃないので、宣伝なんかもあまりできないし、クチコミやネットなんかで広がり始めたというところでしょうか。
編集部 内容は、面白いというよりも、とても怖い本でしたね。
明石 そうですね。読んでいただければ分かると思いますが、これまで原発推進とか賛成の立場であった方たちも、この本では強い憤りを述べておられます。それほど怖い。研究者たちでさえ、危機感を持っているということですね。
編集部 印象深いのは、実名でいろんな方たちが発言なさっていることです。特に、地震と原発の問題ですね。
明石 ええ、最初の取材は、一昨年の秋ぐらいから始めました。もちろん、中越沖地震の前です。あの地震の1年ほど前から、実は、原発と活断層の問題に取り組み始めていたんです。島根原発と活断層の関係ですね。僕は原発の問題に関してはずっと追いかけていたし、地震についても、静岡の浜岡原発の事故シミュレーションでかなり勉強していたので、それなりの知識はあったのですが、活断層の話は完全に素人でしたから、大変でしたね。
浜岡原発は、必ずしも活断層云々とは関係ないのです。フィリピン海プレートが日本列島の下へもぐりこむという巨大なメカニズムの話ですから。でも、島根や柏崎刈羽に建つ原発のケースでは、まさにその直近に活断層が走っている。それをどう評価するか、という問題になるわけです。僕が取材し始めた段階では、柏崎の地震はまだ起こっていないわけで、その評価をめぐって専門家や地元住民の間で議論がたたかわされていた、という状況だったんです。
編集部 そこで、住民側と電力側の専門家の意見が対立するわけですね。
たまたま運が良かっただけの
“柏崎刈羽”原発
明石 実際、裁判の場では、住民が「これは活断層だ、活褶曲だ」と指摘している箇所がいっぱいあった。それが、現実に地震が起こってみると、専門家と称する学者や電力会社の説がことごとくぶち壊されて、住民たちの言っていたことのほうが正しかったということが分かってしまったわけです。
例えば、柏崎刈羽には7基の原発があるわけですが、地震以前から、地盤に歪みがあって原発自体が傾いていた事実も指摘されているんですよ。
編集部 えっ、地震以前にですか?
明石 そうです。それが、今回の地震で決定的に傾いた。不幸中の幸いで、とりあえず暴走事故には至らずに済んだわけですが。でもね、これはたまたま運がよかっただけですよ。だってね、例えば排気筒から放射性ヨウ素が漏れ出してしまった7号機なんか、本当の岩盤ではない「人工岩盤(マンメイド・ロック)」の上に建っているんですよ。
編集部 人工岩盤?
明石 そうです。東京電力は「原子炉建屋は岩盤の上に直接建てています」と言いながら、岩盤がなければ「人工岩盤」を造ってまで、むりやりその上に建てていたんです。つまり、この土地の地盤の強度に、東京電力自身も不安を持っていたということです。それを補強するために、人工岩盤を造って、その上に原発を建てた。
柏崎刈羽原発は、ほんとうに危険な原発です。地震の規模を甘く想定していたことから、数千ヵ所で崩壊や破壊が起きていたわけで、これをなんとか修復して運転再開しようなんて言っていますが、僕には正気の沙汰とは思えない。
原発を建てる上での大前提である「想定」自体が間違いだったのだから、当然、ほかの原発だって想定の見直しが必要になっているはず。でも、例の浜岡原発の裁判でも分かるように、地震規模の想定見直しによる原発の停止を、国も電力会社も行おうとはしないんですね。ほんとうに、この国の原発行政は歪んでいます。それに裁判所までお墨付きを与えている。
編集部 そんな状況では、幸運が2度も3度も続くわけがない…。今度また、巨大地震が起こったら。そう考えると、ほんとうにぞっとしますよね。特に、活断層の問題は避けて通れない。その視点から、この本では、島根原発の活断層問題が大きく取り上げられていますが・・。
原子力安全委員会の謎
明石 国の原発の耐震指針の改訂を議論するのが、原子力安全委員会というところなんですが、その専門委員のお一人の石橋克彦神戸大学教授(地震学)が、この会議のあまりのひどさに激怒して、専門委員を辞任しました(06年8月)。
「安全委員会は4月に改訂案を発表し、それに対し一般からの意見を公募した。最終案にはその公募意見も取り入れるべきだと、主張した。だが、それがまったく反映されない。それでは、意見を寄せた人たちへの背信行為になる」というのが、石橋先生の辞任の理由でした。僕が取材したとき、特に大きな問題として石橋先生が指摘なさったのが、改訂案発表後に発覚した島根原発近くの活断層の問題だったんです。
編集部 そこから、明石さんの執念の取材が始まった。
明石 そこで、島根原発の直近を走る活断層の問題を指摘した、広島工業大学の中田高教授(自然地理学、地形学)を取材したわけです。
編集部 『原発崩壊』に、まるで主人公のように出てくる先生ですね。
明石 そうです。素人の僕が、すっかり学生のようになってしまって、中田先生のご指導のもと、一から活断層の勉強を始めたわけです。その上で、国の原子力安全委員会の議事録を読み込んでいくと、妙なことに気づくんです。
編集部 妙なこと?
明石 審査をお願いするほうと、その審査を行う側に、同じ人物が関わっているという事実です。電力会社が原発建設の申請を国に出しますよね。その申請に関していろいろとアドバイスしている人物が、実は国の審査会の委員でもあった、ということです。
編集部 それは、隠れてやっていることなんですか?
明石 いいえ。その証拠に、さまざまな書類にちゃんと氏名まで載っているんです。
編集部 ん…(絶句)。
明石 そのうちのお一人が東京工業大学の衣笠善博教授です。この方は、中国電力が島根原発3号機の原子炉設置許可申請前に実施した活断層調査に関わっています。そこで、中電に対して技術指導を行っているんです。もちろん、そのこと自体に問題があるわけじゃないですよ。でも、衣笠氏は、中電からの申請を審査する経済産業省の原子力安全・保安院の委員も兼ねていたんです。国が島根原発の安全審査を実施した際、保安院の委員として、国の審査にまで関与していたんですよ。
編集部 つまり、許可申請を出した原発側と、申請を審査する国の機関に同じ人物が加わっていた、と?
明石 そういうことになります。自分が書いた書類を、自分が審査して許可を出す、ということですね。
編集部 そんなことが許されるんですか?
明石 許されるも何も、それが事実なんですから。だから、むちゃくちゃなことが起こります。
一部の学者が牛耳る、
原子力における活断層研究
明石 島根原発2号機が運転開始した1989年ごろまで、「原発の耐震性に影響を与えるような活断層は、近くにはない」と、中国電力は言っていました。ところが、98年になって、中電は突然「原発から2キロ離れたところに8キロの長さの活断層があった」と発表します。しかし「10キロの活断層が引き起こす地震の規模はマグニチュード6.5だから、それに耐えられる耐震設計であればいい、というのが国が定めた耐震設計審査基準だ。それには合致している」として、8キロの長さは10キロ以下だから問題なし、としたんです。このとき、中電へのアドバイザーとして、衣笠氏が関わっていました。
それが2004年には「10キロだった」と訂正されます。
編集部 まるで、活断層がじわじわ成長しているみたいですね。
明石 ね、おかしな話でしょ? この10キロ説については、異論が多かった。先ほどの広島工大の中田先生をはじめとする活断層専門家の方たちは、20キロはあるのではないかと考えていました。2005年に、中田教授たちは、原子力安全・保安院からの委託でこの地でトレンチ掘削調査を行い、「活断層が確認された」との報告書を国に提出しています。ところが、島根原発3号機の安全審査では、なぜかこの報告書は完全に無視されるんです。
さらに、翌年には、中電が「活断層はない」と断言していた場所で中田教授たちが同じトレンチ掘削調査を実施し、実はこの活断層が18キロ以上にも及んでいることがわかったんです。ところがこの調査結果も、やはり無視されます。
ここで、さきほどの衣笠氏の果たした役割が大きいんです。石橋教授が言っています。「原子力における活断層研究は異常です。非常に特殊なごく一部の人が牛耳っている。電力側と審査側の双方に、同じ少数の専門家が深く関わっているという、信じがたいことがまかり通っている」
編集部 う〜ん、信じたくない話ですね。
明石 調べていくと、驚くべきことが続々出てくるんです。衣笠教授は、島根原発の活断層過小評価だけではなく、北陸電力の志賀原発(石川県)でも、活断層の長さの過小評価に加担していたんです。その証拠が、『原発崩壊』にも掲載した「能登半島西方海域の新第三紀〜第四紀地質構造形成」(『地学雑誌』114巻5号、2005年)です。衣笠教授と北陸電力社員らの共同執筆の論文です。ここでは、能登半島の沖合いを走るのは、3本の小さな活断層だ、と結論付けています。
しかし、07年3月の能登半島地震で起きた想定外の揺れにより、そのデタラメさが暴露されます。地震後の調査で、この活断層は、小さな独立した3本ではなく、実はつながった1本であり、その長さは18キロにも及んでいたことが判明します。しかし、衣笠教授は自分が書いた論文については、その後、まったく触れようとはしません。頬かむりです。その論文と衣笠教授を信じて原発を造った北陸電力は、いったいどうすればいいんでしょうね。
編集部 その衣笠教授というのは、一体どのような経歴の方なんですか?
明石 衣笠氏はもともと、通産省工業技術院地質調査所(現・独立行政法人産業技術総合研究所)の地震地質課長という、研究職の公務員だった方です。
編集部 なるほど。それでとにかく国策に関しては、徹底的に協力をしていく、というお役人意識が強いわけですか。
明石 まあ、どういう感覚の方かは知らないですが、何が何でも原発を建てたいと考える電力会社にとっては、とても都合のいい学者であることは間違いないですね。
---その2へつづきます---
原子力の安全性の審査までもが、利権がらみだとしたら・・・。
にわかには信じられないおそろしい現実や、原子力産業に携わる人たちの
危機管理意識について、さらに聞いていきます。
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