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柏崎・刈羽原発震災−地震と原子力発電所の安全性− 〈小出裕章〉
〈こいで・ひろあき:京都大学原子炉実験所〉
はじめに
プレートテクトニクス
科学は一歩一歩進歩する.私たちが立っている大地が平らではなく実は球面の一部であったこと,つまり地球が球体であり,その地球が太陽の周りを回る惑星の1つであることが分かったのも,科学の一歩一歩の進歩の中でであった.その地球表面の地殻と呼ばれる部分が,プレートと呼ばれる十数枚の巨大な岩盤でできていて,それらのプレートが相対的に移動していることが十分な科学的な裏づけを持って理解されたのは1960年代に入ってからであった.日本は全世界で起きる地震の10%を超える地震が集中する世界一の地震多発国であるが,その理由は太平洋プレート,フィリピン海プレート,オホーツク海プレート,アムールプレートの4枚の巨大なプレートが衝突している特殊な場所だからである.中でも移動速度の速い太平洋プレートがオホーツク海プレートに衝突する北日本の太平洋岸,フィリピン海プレートがアムールプレートに衝突する東海地方以西の太平洋岸は巨大地震の巣であった(図1参照).
しかし,日本海側もオホーツク海プレートとアムールプレートが衝突しており,「日本海東縁変動帯」と呼ばれる地震の巣である1).1964年にはマグニチュード(以下,Mと表記 注1) )7.5の新潟地震が起きたし,83年には日本海中部地震(M7.7),93年には北海道南西沖地震(M7.8)が起きている.さらに,2004年には中越地震(M6.8),2007年には能登半島地震(M6.9)と立て続けにこの地域で地震が起きた.そして2007年7月16日,新潟県中越沖地震(M6.8)が柏崎・刈羽原子力発電所を襲った.
予想されていた地震
その地震を受け,東京電力の勝俣社長は「想像を超える地震だった」と発言した.しかし,M6.8の地震は決して大地震でないし,柏崎・刈羽原子力発電所が建設されようとした当初から,その発生を警告されていた地震であった.
柏崎・刈羽原子力発電所には現在7基(821万kW)の原子炉があり,世界一巨大な原子力発電所である.その1号機が電源開発調整審議会で認められたのは1974年7月のことであった.しかし,それ以前から,柏崎周辺の住民は,予定地直下に真殿坂断層が存在していること,東京電力が岩盤と言う西山層自体が劣悪であることを指摘,柏崎・刈羽原発を「豆腐の上の原発」と呼んだ.東京電力はそうした住民の指摘を無視し,活断層はないと断定,原子炉建屋は岩盤まで掘り下げて建設するので問題ないとした,そして,国もそれを認めて設置許可を与えたのであった 注2).
しかし,事実は異なっていた.東京電力がこれ以上の地震は決して起きないとして想定した最大の直下地震はM6.5であったのに,中越沖地震はM6.8と3倍もの大きさであった.その上,発電所敷地は全体では周辺に比べて10cm隆起したし,敷地内ではあちこちで不均等に隆起や陥没を起こし,発電所敷地内は惨憺たる有様となった.法令の定めに合わないことが分かった事象は10月23日までの累計で2947件に上っている.
被害の実態
予想できなかった数々のトラブル
地震が起きた直後に,変圧器の一部から発火.本来は発電所の自衛消防隊が消火するはずであったが自衛消防隊は活動できなかった.2名の社員と2名の下請け作業員が消火作業に当たろうとしたが,消火栓配管が破断してしまっていて水は出なかった.水が出なければ消火できるはずがないし,もともと油火災に対処するための化学消防車もなかった.結局,油火災で危険が伴うとの判断で,柏崎市の消防隊が到着するまで全くなす術もないまま火災の進行を傍観した2).ただし,当時発電所内で働いていた人々はとにかく原子炉を安全に停止させるために,次々と出る警報の下,管理区域内で苦闘していた.稼動中だった4機の原子炉のうち最後の4号機が冷態停止に至ったのは翌17日6:54であったが,その時には運転員たちの中から自然に拍手が起きたと伝えられているが3),その気持ちがよく分かる.管理区域の外にある変圧器の火災などに対処する余裕はもともとなかった.
一方,破断した消火栓配管からの水は地面に溢れただけでなく,建屋の破壊箇所から管理区域内に流入し,地下5階の放射性廃水貯留槽に流入,それが溢れ,地下全体に放射能汚染を広げた.その水は2000トンに達し,現在ポンプでくみ上げて放射性廃水処理系統で処理作業を続けている.しかし,一度汚染されてしまった建屋の床や壁は,結局は下請け労働者がバケツと雑巾で掃除することになる.
また,7基の原発ではすべての使用済み核燃料プールから水が溢れた.6号機でのそれは非管理区域へ流出し,何のチェックも受けないまま海へ放出された.一体どうして管理区域から非管理区域に放射性廃水が移ることができるのか.その後の東京電力の発表によれば,管理区域と非管理区域を分ける建屋の壁を電気ケーブルが貫通しており,それは単にシール材で漏洩を防ぐだけの構造であった.さらに,ケープルは管理区域側で床下に設けられた配電ボックスを通っており,溢れた放射能汚染水がその配電ボックスに流入,さらに地震で損傷したシール材を通って,非管理区域に出て行ってしまったのだという.
さらに,排気筒からはヨウ素などの放射能が大気中に流出した.そして,放射能のこのような環境への漏出を監視するためにこそインターネット上でリアルタイムに公開されてきた環境モニタリングデータは,地震直後から「調整中」なる表示に変わって全く見えなくなってしまった.それでも,東京電力は「安全です」「環境への影響はありません」とだけ言い続けた.7月31日に経済産業省で開催された「第1回中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会」において,斎田英司新潟県危機管理監が「東京電力自らが『安全である』と言えば言うほど現地は不安になる」と発言したことも当然である4).
管理区域内の破壊状況も少しずつ公表されてきた.使用済み核燃料や原子炉圧力容器上蓋の移動に使うクレーンは車軸が折れていたし,使用済み核燃料の移動に使う作業架台が使用済み核燃料の上に落下していた.地震当日稼動中だった2,3,4,7号機についてはいまだに圧力容器の上蓋を開けることすらできず,一番大切な原子炉内部は目視すらできない.
耐震設計指針の破綻
地震に対して原子力発電所が健全性を保たねばならないことは「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(1981年7月20日制定,「旧指針」と呼ぶ)で規定されていて,柏崎・刈羽原子力発電所も,その規定に基づいて許可された.
旧指針では「設計用最強地震」(歴史地震を基本とし,活断層による地震も考慮した上で最も影響の大きいもの)を考え,この地震による基準地震動S1によっても原子力施設の耐震重要度分類のAs及びAクラスの重要な施設が「弾性変形」の範囲内に納まることを求めた.さらに「設計用限界地震」(設計用最強地震を上回る地震で,地震学的な知見を踏まえた上で,最も大きな地震)を考え,それによる基準地震動S2に対しても,耐震重要度分類のうち最も重要度の高いAsクラスの施設が,弾性変形を超えて「塑性変形」が生じても安全機能を保持できることを求めている(表1参照).
東京電力は,柏崎刈羽原子力発電所の敷地については,北東20kmのM6.9の地震を「設計用最強地震」とし,開放基盤面で300ガル(S1地震動)を想定した.「設計用限界地震」としてはM6.5の直下地震で同じく450ガル(S2地震動)を想定すれば完壁であるとしていた.しかし,今回の地震は,「設計用限界地震」として選定されたM6.5の地震を3倍超える地震であったし,あらゆる場所で基準地震動S1を超える揺れに襲われた.中でも2号機での揺れはS1を3倍以上超えるものであった(表2参照) 5).当然,最重要のAsクラスの機器も含め,多くの装置や機器に損傷や塑性変形が発生した.
変圧器火災
今回の地震では,3号機の変圧器が火災を起こした.変圧器は耐震重要度分類では重要度がもっとも低いCクラスに分類されている.そのため,変圧器の火災は原子力発電所の安全性に関して重要でないと思う人たちがいる.しかし,原子炉の破局的事故を考える場合,変圧器は極めて重要な装置である.
今回がそうであったように,原子炉停止を要する事故になった場合,制御棒を挿入して原子炉を止めようとする.そして,運よくそうできたとするとタービンも停止し,原子力発電所は発電能力を失う,しかし,原子炉を冷却し続けるためには,冷却水ポンプなどを運転し続けなければならない.そのためには電気が必要で,自らはすでに発電能力を失った原子力発電所は外部からの電力供給に頼るしかない.そして,変圧器とは受け入れた電力を所内用の適切な電圧に変換する装置なのである.
変圧器が動作しなくなった場合の最後の手段は非常用発電機を作動させることである.しかし,今回も,非常用発電機用の燃料タンク周辺の土地が陥没した.燃料を送る配管が損傷する可能性もあったし,そうなれば非常用発電機の運転も不可能になる.当然,原子炉を冷却することはできず,必然的に破局的な事故に直結する.奇しくも北海道電力泊1号機で,9月20日,2台ある非常用発電機の両方ともが動作不能になっていることが分かった.
かつて米国原子力規制委員会が型式の異なる5基の原子力発電所について確率論的安全評価を行った6).柏崎・刈羽原発にもっとも似た型式のGrandGulf原発(GE社製,BWR-6,MarkV格納容器,121万kW)の場合,炉心損傷確率の97%,つまりほとんどすべての炉心損傷事故は発電所の全停電(blackout)によって引き起こされると評価されている.
教訓の学び方
lAEAの対応
2006年12月末において,世界には429基の原子力発電所があった.日本を除いたそれはほとんど例外なく地震地帯を避けて建設されている.しかし,日本は世界一の地震国であり,地震から免れる場所はどこにもない.その日本に私たちはすでに55基の原子力発電所を林立させてしまった.当然,世界中の原子力関係者は,地震が日本の原子力発電所に及ぼす影響に特別の注目を払ってきた。そのため,今回の地震が起きて直ちに国際原子力機関(IAEA)は視察を申し込んできた.現場の混乱を理由に一度は受け入れを断った日本政府も,新潟県知事などの要請を受け,IAEAの視察を受け入れた.
原子炉容器上蓋が開けられず,一番重要な部分を見ることができない状況の下,IAEA調査団は8月6日から10日まで調査をし,17日に報告書を公表した7).その報告書は「安全に直接関係ない構造物,システム,機器などは,地面,アンカー破損,油漏れなど深刻な影響をこうむった」が「安全に関連する構造物,システム,機器は,これほど強い地震から予想された被害に比べればはるかにましであったようにみえる」(下線は筆者)と述べ,今回の震災でチェルノブイリのような大事故にはならなかったことにまずはほっと安堵したのであった.しかし,それに続けてIAEAは「原子炉圧力容器や炉内構造物,燃料要素など重要な機器については,いまだに調べることもできていない」「中越沖地震の教訓や改定された耐震指針に照らし,柏崎刈羽原発の耐震安全性を再評価する必要がある」と述べ,地震国日本における原子力発電所の安全性をしっかりと調査するよう求めたのであった.
そして,「今回の地震によって生じた隠された損傷が原発を長期間運転することに影響する可能性も考える必要がある」と釘を刺している.
問題の本質
都会に建設されなかった原子力発電所
火力発電とは,石炭,石油,天然ガスなどを燃やして発電するシステムである.一方,原子力発電とは,ウランやプルトニウムなどの核分裂反応を利用して発電するシステムである.火力発電所が電力の消費地に建設されているのに対して,原子力発電所は決して電力消費地に建設できなかった.それらは電力ロスを覚悟の上で消費地から遠く離れた地に建設され,長大な送電線を敷いて消費地に電力を送ってきた.東京電力は柏崎・刈羽に7基(821万kW),福島第一に6基(470万kW),福島第二に4基(440万kW),合計17基(1731万kW)の原子力発電所を有する世界一の電力会社である.しかし,東京電力は原子力発電所だけは自分の給電範囲に作ることができず,すべてを東北電力の給電範囲に建設した.今,下北半島に計画中の東通原発に至っては,東北電力管内の,それまた最北端である。
塑性変形した原子炉の再稼動は論外
IAEAは,弾性変形の限界を超えて変形した原発をもし今後も運転するのであれば,想定していないトラブルが起きることを警告した.「旧指針」はAsクラスの機器が「設計用限界地震」に襲われて,塑性変形をするとしても安全機能を保持することを求めた.それは,最悪の事故を回避するためのぎりぎりの基準であり,塑性変形した機器の再使用を許可するための基準ではない.その上,今回は東京電力が想定した「設計用限界地震」による揺れを遷かに超える揺れに襲われた.東京電力は,「重要な設備がある格納容器内の機器の外観を目視点検した結果,損傷は確認されていない.同様に,原子炉施設の耐震設計上重要であるAsクラス,Aクラスの機器に関しては,目視点検の結果,これまで損傷は確認されていない」と主張している8).しかし,10月に入ってから,ようやく始まった圧力容器の上蓋を開けての点検では,原子炉ウェル破損による漏水,制御棒の引き抜き不能などAsクラスの装置で損傷や塑性変形の事実が次々と明らかになってきた.仮に目視で損傷が確認されない部位も,塑性変形の有無については材料工学的検査が必要である.しかし,すでに放射化し,あるいは放射性物質で汚染されているAsクラスの機器の検査は多大の被曝労働を伴うし,すべての部位を材料工学的に検査することは不可能であろう.
確率論的安全評価は不可能
昨年改定された新しい耐震設計審査指針(「新指針」と記す)は原子力発電所の「(すべての)建物・構築物は十分な支持性能をもつ地盤に設置されなければならない」と定めている.今回の地震は,柏崎・刈羽原子力発電所がこの基準を満たしていないことを明示した,当然,柏崎・刈羽原発の運転再開は「新指針」に照らしても許されるべきではない.
本来は日本のような地震国ではどんなに活断層を調査したところで,これまでの事実が示し,今回の震災も示したように,活断層を見落とすことはありうる.また,地盤の脆弱性を見落とすこともありうる.したがって,原発が地震によって事故を引き起こす可能性は常に残っている.「新指針」はそれを「残余のリスク」と呼んで,そのリスクの大きさを定量的に示すことを求めている.
これまで原発のリスクを定量的に示そうとする学問は確率論的安全評価(PSA)と呼ばれ,長い間取り組まれてきた,しかし現在,リスクの絶対値を評価することにPSAは成功していない.地震をはじめとする外部起因事象までも含めたPSAはレベル4と呼ばれる.そのような評価自体が未だにできていない.結局あくまでも科学的にいうのであれば,「残余のリスク」を示すこともできない.
今後,国は新指針の再度の改定と各原発の新指針への適合性を検甜することになろう.しかし,本質的な問題はそのようなレベルにはとどまらない.今回の震災は,日本という地震国に原子力発電所を建ててしまったことの是非を考えるよう,貴重な機会を与えてくれたのである.
注1)マグニチュード(magnitude):地震が発生するエネルギーの大きさを表した指標値.エネルギーの対数をとったもので,マグニチュードが2増えるとエネルギーは1000倍,1増えた場合は約32倍になる.
注2)裁判は一審・二審とも住民の訴えを退け,現在最高裁で審理中.事実は住民の指摘が正しかったことを示しており,最高裁の判断が注目される.
参考文献
1)石橋克彦:巨大地震が原発を襲う,「原発震災」多発の危機,別冊宝島483号(2000年1月15日)
2)東京電力,柏崎刈羽3号機所内変圧器(B)の火災に対する課題と今後の対応方針について(2007年7月20日)
3 )新潟日報,8月16日
4)新潟県,http://bosai.pref.niigata.jp/bosaiportal/0716jishin/genshiryoku/kikikanrikanhatsugen070731.html
5)東京電力,新潟県中越沖地震における柏崎刈羽原子力発電所の地震観測記録について,(2007年7月19日,http://www.tepco.coj.p/cc/press/07071901-j.html)
6)U.S.Nuclear Regulatory Commission,Severe Accident Risks:Assessment for Five U.S.NuclearPowerPlants,NUREG-1150(1990)
7)IAEA,Preliminary Findings and Lessons Learned from the 16 July 2007 Earthquake at Kashiwazaki -Kariwa NPP,17 August 2007
8)東京電力,http://www.tepco.co.jp/nu/kk-np/chuetsu/jisho-j.html
出典:潟Aグネ技術センター「金属」12月号より許可を得て転載
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