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□北朝鮮公式HPから読み解く米政策転換の深層=佐藤優 [SAPIO]
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070726-01-0401.html
2007年7月26日
北朝鮮公式HPから読み解く米政策転換の深層=佐藤優
北朝鮮が外交攻勢を強めている。筆者は北朝鮮情勢を分析する際に、北朝鮮政府の事実上のホームページである「ネナラ(朝鮮語で“わが国”の意)・朝鮮民主主義人民共和国」に掲載される報道に注目している。6月半ばから、「ネナラ」日本語版が頻繁に更新されるようになっている。これを読み解いていけば、北朝鮮がどのような外交戦略を組み立てているかがわかる。
まずはレバノン情勢に関する「極悪非道な圧力攻勢」と題する6月21日付の論評だ。
「現在レバノンでは、政府軍と極端なパレスチナ武装勢力間の衝突によって緊張が高まっている。5月に始まった双方間の武力衝突は日を追って激化している。
レバノンの事態に関連し、米国が対シリア圧力攻勢を強めることによって、情勢はさらに複雑化している。
米国の策動は、シリアを『テロ支援国』として公認させることによって国際的に孤立させ、ひいてはシリアの国家体制を転覆させることに目的がある。米国が、国連安保理で多くの国、ことにレバノンの多くの政治勢力の反対にもかかわらず、シリアを狙った、前レバノン首相暗殺事件の関連者を裁判にかけるための国際裁判所創設の決議案を強圧的に通過させたのをはじめ、レバノン政府軍と極端なパレスチナ武装勢力間の衝突をシリアの操縦によるものときめつけ、その責任をシリアに転嫁しているのは、それに関連している。
米国は、何をもってしても反シリア策動を正当化することはできず、レバノン事態の責任を免れない」
この論評で、北朝鮮はシリア支持の立場を明確にしている。ここでいう「極端なパレスチナ武装勢力」とは、スンニー派系過激派「ファタハ・イスラーム」を指している。レバノンの「ファタハ・イスラーム」はスンニー派、「ヒズボラ」はシーア派であるが、イスラエル国家を地上から抹消するという共通戦略で結びついている。この戦線にパレスチナのスンニー派過激派の「ハマス」が加わっている。これらの過激派を支援しているのがイランとシリアだ。
日本ではスンニー派とシーア派の対立を過大に評価する傾向があるが、イスラエルという共通の敵に対して、両派は完全な統一戦線を組んでいる。6月下旬、筆者に中東某国の専門家が興味深いことを語った。
「佐藤さん、イラン外交とインテリジェンス工作のプラグマティズム(実際主義)に注目したらいいと思います。現在、ハマスに最大の支援を与えているのはイランです」
「シーア派のイランが、本気でスンニー派原理主義者のハマスを支援しているのですか」
「イランの工作は実効性の観点からなされています。イスラエルに打撃を与える能力をハマスがもっているから支援するという論理です」
中東戦争を回避するためアメリカは北朝鮮に妥協
更にこの専門家は、北朝鮮情勢を分析する上でも中東情勢が重要だという。 「北朝鮮が最近、イランやシリアに対する働きかけを強めています。アメリカはイラクの泥沼から抜け出すことができない。ここでパレスチナ、レバノン情勢が悪化すれば、アメリカは更に中東に釘付けにされる。そこで北朝鮮の核保有を事実上認めさせ、金正日体制の保全を図るという戦略です。中東情勢が悪化すればするほど北朝鮮にとって有利な状況が生まれます」
「アメリカのヒル国務次官補の訪朝も、中東情勢にアメリカが専心できる環境を整えるために、北朝鮮と一定の手打ちをするということでしょうか」 「そう見て間違いないと思います。アメリカ内政にとって北朝鮮情勢は死活的に重要な問題ではない。しかし、中東情勢はそうではありません。北朝鮮から核技術がイランに移転されるようなことになれば、第5次中東戦争の危機が生じます。それは第3次世界大戦に発展しかねない。そのことを日本人は冷静に認識しておく必要があります」
確かにこの専門家の描く構図には説得力がある。ヒル国務次官補の訪朝に対する評価を、北朝鮮は訪問直後に北朝鮮外務省代弁人(スポークスマン)発言という形で発表した。6月23日に「ネナラ」に掲載された全文を引用しておく。
「朝鮮民主主義人民共和国外務省の代弁人は6月23日、米国務省次官補の訪朝に関連して、朝鮮中央通信社記者の質問に次のように答えた。
クリストファー・ヒル米国務省次官補が、6月21日から22日までわが国を訪問した。訪問期間に彼は外相と会見し、外務省副相と会談した。談話と会談において朝米双方は、この1月にベルリンで凍結資金の問題を解決することで合意したように、この問題を完全に解消し、今後、金融取引分野で協力を強めていくための方途について討議した。2・13合意履行の問題に関連して、双方は、資金送金の問題が最終的に落着するのを前提に、その履行に移るということで見解を同じくし、次段階における各者の行動措置について深みのある意見を交換し、今後、接触と協議をさらに深めていくことにした。問題の討議は包括的かつ生産的なものであった。双方は当面、7月上旬の6者団長会談と8月初めのフィリピンでのASEAN地域フォーラム閣僚会議の期間に、6者外相会議開催の可能性を検討し、それを成立させるために協力することにした」
筆者はこのスポークスマン発言を北朝鮮の「勝利発言」と受けとめている。 「2・13合意」とは、本年2月13日に6者会合(協議)で、日米中露韓の5か国と北朝鮮が、北朝鮮の核廃棄に向けた2005年9月の共同声明を履行するための初期段階措置に合意したことを指す。この合意に基づき、まず、北朝鮮が60日以内に寧辺の実験用原子炉など核施設を停止・封印した上で、IAEA(国際原子力機関)との合意に従い必要な監視、検証のためIAEA査察官を復帰させる。その見返りに、5か国は重油5万t相当の支援を行なう。更に、その後、北朝鮮がすべての核計画を申告し、すべての核施設を無能力化すれば、5か国は北朝鮮に重油100万t(前述の5万tを含む)相当の支援を与えるということだ。
今回、北朝鮮は「2・13合意」の履行にアメリカによる北朝鮮資産の凍結解除という追加条件をつけ、それに対してヒル氏がわざわざ平壌を訪れ、北朝鮮の理不尽な追加条件を呑んでいるのである。「問題の討議は包括的かつ生産的なものであった」ということは、北朝鮮が協議したいというすべての問題にアメリカが付き合い、北朝鮮が満足するような言質を与えたということだ。日本では、アメリカがあたかも梯子を外したかのような論評が散見されるが、問題は中東情勢の緊張、特に北朝鮮からイランに核技術が移転し、第3次世界大戦につながるシナリオをアメリカが本気で懸念していることだ。
今、拉致問題を毅然と主張しなければ国際的議題から外れる
日本としては、いまこそ国策の基本である拉致問題解決を毅然と主張すべきだ。ここできちんと声をあげておかないと拉致問題が対北朝鮮外交における国際的な議題から外れてしまう。それと同時に、イラン、シリアなどで日本が持っているカードをきちんと整え、中東情勢安定のために貢献する方策を考えるべきだ。更にイスラエルに対して、拉致問題について日本の立場を理解してもらうべく積極的なロビー活動を展開すべきだ。
ところでロシアは、アメリカの対北朝鮮外交の方針転換を横目で見つつ、北朝鮮内部に影響を拡大すべく腐心している。「ネナラ」にそのことを窺わせる興味深い記事が「ロシアの大使館員が親善労働を行う」という題で、6月16日に掲載された。
「ワレリ・スヒニン駐朝ロシア大使と大使館員が6月14日、千里馬郡にある朝鮮・ロシア親善古倉協同農場の農作業を手伝った。
彼らは、穀物を増産することによって強盛大国の建設に寄与するという一念で農作業に励んでいる農場員たちとともに、トウモロコシ畑の草取りをした。大使館員たちは農場に支援物資を手渡した」
ロシア大使が農作業を手伝うというのは異例だが、そのようにしてロシアが北朝鮮国民の食料問題解決に貢献しているという印象を植え付けようとしている。このような記事が「ネナラ」に掲載されること自体が北朝鮮に「ロシア・ロビー」ができつつあることを示すものだ。(起訴休職外務事務官)