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アメリカの原点はロックの人間モデル(前編)
(小室直樹 日本人のためのアメリカ原論)
2008年01月11日 小室直樹(政治・経済学者)
ホッブスとロックは世界で初めて抽象的人間モデルをつくった人である。
2人を比較すると、唯一点だけにおいて違う。
2つの人間モデル
ホッブスは、人間から社会的なすべてを捨象し、人間を自己保存力のみ持つ存在とした。したがって、人間は、現在だけでなく、将来もまた現在の如く生存し続けることを欲するであろう。世の中に有用なものは有限であるから、他の誰かが少しでも取れば、自分の取り分はそれだけ少なくなる。故に、有限の物質をめぐって、すべての人は、他のすべての人の敵となる。1人は他の一人の敵である、とはこのことをいう。
ロックは、唯一点だけを除いてホッブスと違うといったが、それは労働の導入である。このことによって、モデルは根本的に違うものになった。ホッブスにおいては、人間の外にある利用可能なものは有限であったが、ロックにおいては、労働によっていくらでも増やすことができる。
では、労働によって増やしたものは、誰に属するか。それは労働を投入した人に属する。ここがポイント!
かくて、ロックの諸説によって、私有財産の起源も説明されるようになった。ロックは政治学の元祖だけでなく、経済学の元祖にもなったのである。アダム・スミスの労働価値説は、ロックのモデルがなければ創出することはできなかったであろう。
共和国とは何か
のちにナポレオンが軍隊を率いてヨーロッパを征服したのも、私有財産の神聖さが根本にある。これはナポレオン法典の根本的前提であり、資本主義の宣言を兼ねたものであった。このイデオロギーも根源まで遡れば、ロックにまで遡る。
ロックは17世紀に生きた人ではあるが、18世紀を支配した人物であるといわれる。18世紀最大の出来事は、アメリカの独立とフランス革命であるが、両方ともロックの思想による。ロックが著述を発表した時、世の人々は社会契約説による国家など1つもないと批判したが、その後、アメリカ合衆国とナポレオン帝国という社会契約説による国家が2つも生まれ、さらにそれからは激増したではないか。
アメリカ合衆国も独立後しばらくの間は、デモクラシーという単語を一言も使わず、すべて共和国で統一している。フランス帝国の皇帝ナポレオンも、共和国皇帝と名乗っていた。
ここで注意すべきことは、共和国の意味である。共和国が君主のない国であるという理解は中国の古典による(「史記・周本記」周の王が追放されて協議制の政治が行われた)。一方、西洋での共和国は、君主のあるなしとは関係ない。故にこそ、アメリカ独立の直後には、ワシントンを“王様”にする運動も強かったし、ナポレオンは実際に共和国皇帝にもなっている。
いずれも、社会契約説からすれば、少しもおかしいことはない。現に、初代ローマ皇帝カエサルも、王になるとローマ市民に暗殺されるのではないかと恐れ、王より位の低い皇帝にあえてなったに過ぎないのである。
王様よりも偉い存在に
時が経つに従って、しだいに“王”より皇帝の方が偉くなってしまった(ローマ帝国のコンスタンティヌス大帝の頃から)。例えば、アメリカ大統領(President of the United States of America)や日本の征夷大将軍を参照せよ。アメリカの大統領も必ず「 of the United States 」を付け加えなければ、知事といずれが偉いのかわからなかったのである。
ワシントンは“王”に推薦された時、これを断った。それなら仕方がないので、ジェネラル・ガバナーと呼ぼうとしたら、ワシントンはこれも断った。「単にプレジデントだけでいい」と。
その上、大統領選挙もむちゃくちゃに複雑化して、候補者の本質を誰にも見抜かせるようにした。その後、大統領が3選することを禁止するように憲法も改正した(例外として、F・ルーズベルトの4選があるが)。
日本の征夷大将軍も初めは令外官であり、地位も低かったが、その後だんだんと偉くなって、徳川時代には正二位や従一位の極官にまで出世したのである。アメリカ大統領もこのようなものだと考えていい。初めは、それほど偉い感じはなかったけれども、南北戦争以後、急速にその地位が高まって、今や知事のガバナーとは比較にならない地位を獲得したのである。
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アメリカの原点はロックの人間モデル(後編)
(小室直樹 日本人のためのアメリカ原論)
2008年01月25日 小室直樹(政治・経済学者)
ロックの経済学と政治学
このように、ロックは政治学の元祖となっただけでなく、重商主義(mercantilism)の背景の下で、古典派経済学のマンデビル、アダム・スミスの先蹤になった。
当時の世の中は、資本主義以前の商業組合や中世的産業組合(ギルド)が至るところにはびこっていた。しかし、英国古典派はギルドを一切無視して、ロック的、抽象的人間としての資本家と労働者をつくりあげた。そして、彼らを交渉させた上で雇い入れ、労働的生産物を売って利潤を上げるというモデルを構築したのである。かくて古典派経済学に理論のモデルができるが、このモデルはロックのモデルをサンプルにしている。
さて、ロックの政治理論はどのようなものであったか。
自然的人間が集まって国家社会をつくる場合、
統治者は如何に選ばれるべきであるか。
ロックは私有財産を認めたが、特に、国家の成立よりも先に私有財産を認めたことに注意する必要がある。つまり、私有財産制度は国家よりも優先する。すべての人は勤勉になり、私有財産を拡大することに専心するだろう。貨幣が導入されると、私有財産の拡大は途方もなく大きなものにもなりうる。そこで、「あいつは、あんなに大きな財産をつくっている」と妬んで、これを奪う者が現れるかもしれない。だから、そのような者を取り締まるために、国家権力が必要になってくる。
ロックは主権という概念をまだ出していなかったが、その萌芽はすでにあった。国家権力の中で主要なものとして立法権があるが、これは法律をつくる権力である。それまで、法律は権力がつくるものではなく、慣習の中から発見されるべきものとされてきた。もしそうであるとすれば、主権者といえども、やはり過去の慣習に支配され、伝統主義的にならざるをえない。しかし、ロックモデルにおいては、主権者に法律をつくる能力を与えることによって、国家権力は途方もなく強いものとなる。
国家権力を怪獣にたとえたのも、この理由による。無秩序の怪獣ビヒモスは、怪獣リバイアサン(国家権力)でないと退治ができないが、この怪獣は強大な力を持っている。そこで、国家権力という怪獣から国民を守るために、憲法という歯止めが必要になった。
このロックモデルから、必然的に、立法府が権力の歯止めとなる法律をつくるための議会になる淵源がみられるのである。
中世の世界を破壊したロックモデル
ロックがつくった人間モデルは、そもそも封建制を完全に突き壊すきっかけになったことにも注意しておこう。
中世ヨーロッパの主従関係は、日本人には想像もつかないものであった。日本では、忠臣二君に仕えずというが、ヨーロッパでは何人の王にでも勝手に仕えることができた。
例えば、ある領主貴族がフランス王から領地をもらって、契約をし、フランス王の家臣になったとしよう。さらに、この貴族がスペイン王から別の領土をもらって、スペイン王の家来になったとする。そうすると、この貴族はフランス王の家臣でもあり、同時にスペイン王の家臣でもある。このようなことは、中世において、ごく普通のことであった。
最も極端な例として、英国王は、フランス最大の領地を持つ、フランス第一の貴族であることもあった。英国王はフランス最大の家臣であるが、英国の王でもあったのだ。幸いなことに、この時、英仏間は平和であったが、もし百年戦争でも起きたら、どんなことになったであろう。
今でも、ピレネー山脈やアルプス山脈などにミニ国家が存在するのは、中世の名残である。いずれにせよ、このような複雑な中世国家があまり残らず、消滅したというのも、結局は、ロック的、象徴的人間論の効用といえるだろう。
独立宣言はロックそのまま
ロック的抽象論とは、極めて単純な理論の所産である。ところが、18世紀最大の人といわれたロックの思想は、アメリカの独立の基礎となり、フランス革命を引き起こした。アメリカ独立宣言(抄)は、ロックの言葉そのままである。
【アメリカ独立宣言】(抄)
人類の発展過程に、一国民が、従来、他国民の下に存した結合の政治的紐帯を断ち、自然の法と自然の神の法とにより賦与される自立平等の地位を、世界の諸強国のあいだに占めることが必要となる場合に、その国民が分立を余儀なくさせられた理由を表明することは、人類一般の意見に対して抱く当然の尊重の結果である。
われわれは、自明の真理として、すべての人は平等に造られ、造物主によって、一定の奪いがたい天賦の権利を付与され、そのなかに生命、自由および幸福の追求の含まれることを信ずる。(以下略)
(『人権宣言集』(岩波文庫)収録の斎藤真訳より)
フランス革命もまたロックの思想から起きている。ナポレオンがフランス王とはならず、フランス共和国皇帝となったのは、ユリウス・カイザルを2000年ののちに追ったものであり、これまたロックの思想の影響といえる。
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