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【日経BP記事】 セックスの快感は脳を麻痺させる (keyword: CSR、 ネットワーク、悪用、セックス、匿名性)
http://www.asyura2.com/07/bd51/msg/493.html
投稿者 passenger 日時 2008 年 1 月 15 日 04:50:53: eZ/Nw96TErl1Y
 


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引用元:http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20080109/144567/

セックスの快感は脳を麻痺させる
―――性的ネット濫用の本質を脳測定から考える(CSR解体新書24)

              2008年1月15日 火曜日 伊東 乾
              CSR  ネットワーク  悪用  セックス  匿名性 

 突然ですが、ヒトが性的快感の絶頂にある時、脳の内部状態はどのようになっていると思われますか?

 正月早々、いったい何の話と思われるかもしれません。実はそういう脳科学的な測定を行ってみたのです(2ページ目の測定結果をご参照ください)。今回は「アサヒ芸能」誌(徳間書店、1月15日発売)袋とじグラビアとのタイアップで記事を企画してみました。

●学生の風俗サイト閲覧

 前回の、大学でのネットワークリテラシー教育の文脈から話を始めたいと思います。

 新入学生に「情報公開ガイドライン」について講義する際、必ず取り上げるケースがあります。「プリンターの利用」に関する部分で、もし端末からのプリンター出力で何か事故があった場合、必ずセンターのスタッフに報告連絡相談すること、と話してから、かつて実際にあった例として、以下の話を紹介します。

 ある日のこと、東京大学教養学部に在学するX君は、大学のネットワーク端末上で海外のエロサイトを閲覧していました。秀才もヒトの子ですから、いろいろなことに興味があります。

 それはまあ人間として避け難いことですし、人類という種が滅亡しないためにも、健康な欲望はあってしかるべきものでしょう。ただ大学のマシンを占有して、海外のサーバー上にあるヌード画像を見ているのは、あまり感心した話ではありません。

 実は大学のコンピューターの全アクセスは、端末だけではなく中央の管理者側に記録が残っています。誰が何年何月何日何時何分にどのようなサイトを閲覧したかの情報は、すべて記録されている。

「だから賢明なる諸君は、大学での情報機器の利用ガイドラインから外れる利用、つまり教育・研究目的から外れたネット利用はしないようにしてくださいね」と、ここでも強調しますが、この話のポイントは逸脱アクセスではなくプリンター利用の方にあります。

●故障プリンターから大量のエロ写真が

 さて、多分ここまで読まれて、多くの読者はお察しくださったと思います。しかり、X君はネット上で、海外のエロサイトで発見した、お気に入りのヌード画像を、大学のプリンターで印刷したくなってしまったのです。

 プリントアウトしてどうするのかは知りませんが、ともかく大変興味があったようで、またかなり興奮していたのか、やたらにたくさんプリントアウトを試みたらしい。

 ところが、短時間に出力ジョブをたくさん指定して、それがシステム上で詰まってしまったようで、プリンターが故障して動かなくなってしまったのです。X君はさぞ困ったことでしょう。

 何かよからぬことをコソコソやっている時に限って、機械が壊れたりします。この日のX君もそうでした。

 でもX君が、もう少しネットワークのハードやソフトに知識や経験、そして何よりも「社会的な責任感」や倫理観を持っていたら、違う行動を取っていたかもしれません。

 現実には、この日X君は出力ができないと分かった時点で「まあいいや、どうせこんなの分からないだろうから」と、すべてをほったらかして帰ってしまったのですね…。

 例の「匿名性幻想」というやつです。これがいけなかった。

 さて、大学の情報教育棟に数台しかないプリンターの1台が壊れていれば、ほかの学生が職員に通報するのが普通です。実際、大学では機器の故障を発見した時は、速やかにスタッフに連絡することを求めています。

 当然、他の学生からクレームがあったので、職員がプリンターを正常動作させてみたところ、印刷ジョブとして既に端末からデータが送られていたため、「その手の画像」が何枚も何枚も(私は現物を見ていないのですが)、三十数枚だか、出力されてきたそうです。発見した職員や学生の唖然とする顔が目に浮かぶようです。

●匿名性幻想で自滅する

 ただちにユーザー記録を調べ、X君に呼び出しがかかりました。多分、X君はイヤな予感がしたことでしょう。しかし、単位や学籍もかかっているので、出てゆかぬわけにはいきません。

 センターに出頭すると担当の教官から、「これに見覚えはありますか?」と、何やら写真のようなものを見せられる。

 教官の机の上にはプリンターから排出された画像類が山積みになっていました。悪い予感は当たり、観念したX君は、自分のしたことをすべて白状したそうです。それは記録に残っている通りだったので、この時点での担当者教官の心証は悪くなかったといいます。


 大学の場合、すべてのアクセス記録が残っているので、この期におよんで下手なウソをつかなかったのは不幸中の幸いだったでしょう。

 でも、そもそも、「プリンター出力くらい、何をやっても誰も分からないだろう」という匿名性幻想で責任意識ゼロの行動を取った、この事自体は決して褒められません。

 ここでX君が「情報公開ガイドライン」に添って問われた責任は「目的外使用」(研究・教育に無関係な情報の閲覧、研究・教育に無関係な情報の出力)、および付加的に、自分の責任で発生した機器の故障を職員に報告しなかった怠慢などです。素直に自分の非を認め、正直に報告したことで情状を酌量され、下された処分は一定期間、大学でのコンピューター利用資格の停止にとどまりました。

 この話でおかしい(と言ってはいけませんが)のは、肝心の(?)出力されてきたプリントアウトというのは全く粗悪な白黒画像で、面白くもおかしくもない代物だったということです。

 事件があったのは1990年代のことで、当時、学生用に使っていたのは大変旧式な白黒のドットプリンターでした。画像は何が写っているのか克明には分からず、見ても興奮も何もしないシロモノでした。でも何が写っているかは誰の目にも一目瞭然だったわけです。

 大変な冒険をしたはずなのに出力に失敗し、さらに教官に見せられたのがただのインクのシミだった。踏んだり蹴ったりのX君でした。

 と、教室でこの話をすると、学生は笑ってくれます。でも、ネットにアクセスするうえで「こんなことをしても分かるまい」と「匿名性幻想」を決め込む部分について、実は多くの日本人ユーザーは決してX君を笑えない現状にあります。

●ネットカフェも匿名ではない

 ここでネットカフェの仕掛けをご存じのユーザーは「いや、ネットカフェなんかでは誰がアクセスしたかシステムに記録は残らない」と言われるかもしれません。本当にそうでしょうか? 

 多くのネットカフェは会員登録時に免許証など身分証明書の提示を求めます。ちなみにNBオンラインのユーザー登録もメールアドレスと対照する読者番号の記録があります。

 ネットカフェも、公開サイトも、どの会員がどの端末で何年何月何日の何時にどういう行動を取ったか、それこそ「個人情報」保護の限界範囲内で記録を取っています。そういう「社会的責任」の取り方が求められているわけです。

 また身分証を提示させないネットカフェ店舗では、必ず防犯カメラに画像が残っています。実際、ネットを利用した組織犯罪は、常にそうした場所を舞台に繰り広げられます。

 多発するネット犯罪に対抗すべく、警察からも各種の通達が出ているはずで、捜査を容易にする証拠資料が様々に残されている。「誰も見てないだろう」と小人閑居して不善をなすかのごとき行動は、くれぐれも慎んだ方が、何より自分の身のためだと思います。

●エロサイトはヒトをサルにする?

 さて、上の「プリントアウト事件」はかつて東京大学内で実際に起きた事実で、このX君も本来は優秀な東大生です。難しい入学試験をパスして大学に入ってきたはずなのに、ここで取っている行動はあまりにお粗末であります(一面コミカルでもありますが)。

 俗に色ボケ、欲ボケなどと言うように「◎◎に目がくらんで」思わずナニゴトかを仕出かしちゃった、という話は、ささやかで微笑ましいケースから、重大な刑事事件まで、世の中に枚挙に暇がありません。

 ペーパーテストに答えれば優秀かもしれないX君が、なぜ、こんなにアホなことをしてしまうのか?

 その一因は「分かりはしないだろう」という「匿名性幻想」です。ではなぜそういう状態で取る行動がかくも愚かしいのか。X君も私たちもみなホモ・サピエンスで、似たような脳みそを使って思考していますから、脳のメカニズムからきちんと考えると、万人に通じる背景が分かるかもしれません。

 「これは、うまく考えればたぶん実証できるだろう」と私は目算をつけました。そしてそれを実際に計ってみたのです。

 というのも、以前私は「なぜ優秀な理系の学生がオウム真理教に騙されたのか」という問題設定に、脳機能可視化装置を援用してアプローチして一定の成果を上げたことがあります(ご興味があれば拙著『さよなら、サイレント・ネイビー』をお読みください)。

 それと同じ背景と手法できちんとした測定を行えば、科学的に議論が可能になるはずです。

 そのポイントを一言で言うなら「エロサイトはヒトをサルにする」というものです。四の五の言うより測定結果をお目にかけましょう。

●オーガズム脳は窒息する!



《性的絶頂の状態で、前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度が著しく低下している被験者(40代、女性)の脳血流可視化マッピング。青色は酸素化ヘモグロビンの低濃度を示す。(測定:東京大学大学院伊東研究室/実験協力―徳間書店) 》

 図は、性的興奮状態の絶頂にある被験者(40代、女性)の大脳新皮質・前頭前野の血流を、近赤外光吸収で測定した結果を可視化したものです。

 長方形の部分で、青色は血液中の酸素を含むヘモグロビンが著しく減少している部位を、緑色は変化の少ない部分を、黄色〜赤は増加している部分を示します。

 分かりやすく言えば、赤や黄色は脳が活性化していることを示し、逆に青は脳が不活性化している状態を意味します。なぜなら、その部位に酸素を豊富に含む「動脈タイプ」の血液供給が不足しているので、ニューロンが作動しようにも、酸欠のために動力源となるエネルギーを得られないからです。

 ちなみに、血流が滞ってモノの5分も酸素供給がなければ、脳細胞は壊死してしまいます。よく知られた「脳血栓」などの症状がこれに当たります。

 一言で言うなら「オーガズム脳は窒息している」のです。セックスの快感によって、脳が麻痺して、ヒトが悟性的な判断を下す脳部位が働かない状況を直接測定することができました。

 極度に性的興奮している状況では、ヒト脳の意識の座は十全に活動することができず、合理的に、賢明に、ものを考えることはできない!

 経験的にナントナク分かるような事柄ですが、これを科学的に追試可能な合理的測定手法で示した例は内外に多く存在しません。赤外光吸収による脳血流測定で示したのは(当研究室の仕事ですので、少しハニカミますが)、たぶん世界で最初のケースだと思います。

 今回の測定では2人の被験者とも、前頭前野の酸素化ヘモグロビン量の著しい減少が見られました。追試の必要がありますが、まずもって妥当な結果が得られたと思っています。得られた結果は、追加実験を加えて、欧文の国際誌にも出すつもりです。

 エロ画像を出力しようとしていた先ほどのX君が、どの程度興奮していたかは定かでありません。が、一般に性的にエキサイトした状態では、悟性を持って十分に慎重な判断を下すことができないことが察せられます。

 以下では一体どうやってこのデータを取ったのか、「アサヒ芸能」誌に書かなかった舞台裏をお話ししてみましょう。

●袋とじヌードグラビア撮影の舞台裏

 被験者として2人のAV女優さんにご協力いただきました。また被験者さんに性的絶頂に達していただくべく、「テレクラマンガ」の成田アキラさんに大変なお力添えをいただきました。

 被験者の方には本当にきちんとオーガズムに達していただき、その過程全体を、ヴァイタルデータ(体温、心拍数、血圧など)と共に記録、分析しました。

 「袋とじヌードグラビア」の方にご興味の方は、どうかどうか、ぜひ1月15日発売の「アサヒ芸能」をご覧ください。そちらでも「業界的にこういうものは初めて」と、ありがたい反響を呼びつつあります。

 ぜひ「興味本位」で見ていただきたいと思います。というのも、そういう興味本位から発して、その途中で判断を誤ると、上記のX君のようなことになるわけですから、本物のエロメディア上でこれを行うことに意味があるし、その形で多くの読者に見、感じ考えていただくのが大切だと思うからです。

 ちなみに、「アサヒ芸能」は全国の駅のキヨスクでも売っており、購入しても個人情報は残りません(笑)。

 ここで、この記事に私自身は顔と名前を出したうえ、東京大学准教授として専門の見地から内容を監修、保証する旨を明記しています。

 先週からの文脈で言えば「実名と社会的責任を負っての情報公開」です。実際、この記事を作る、ないし測定を行ううえでは、業界常識で考えられないほどのご理解とご協力を、あらゆる関係者の皆さんにいただきました。

●「性の巨匠」と科学測定!

 この測定には一切、「ヤラセ」がありません。被験者として2人のAV女優の方に協力していただきましたが、「酸素化ヘモグロビン」「近赤外光吸収」といったメカニズムを現場で最も熱心に聞き、理解してくださったのはモデルさんたちでした。

 事前に被験者さんご自身から突っ込んだ質問をたくさんいただいて、これはとてもうれしかったですね。

 また「性の巨匠」成田アキラさんには、1カ月以上前に、あらかじめ「脳血流可視化測定」を実際に体験していただき、準備をお願いしました。

 準備の測定で「テレクラ王」の成田さんは、脳血流をモニターしながら「下北沢の女性」とケータイでいろいろお話をされて、その最中の自分自身の脳血流変化をご覧になり、いろいろ感じるところが多かったようです。十分に準備して、測定に臨んでいただきました。

 このあたりの話は大変面白いのですが。成田さんご自身がマンガに描かれると思うので、そちらにお譲りしたいと思います。ともすれば人が簡単に考えるような細かな事まで、非常に真摯に、まじめに取り組まれる成田さんの姿勢に、深く敬意を持ちました。

 測定は「正しい計測」を実体験した成田さんが、主として指先による極微の「テクニック」によって、被験者が性的な興奮を感じる状況を整えました。被験者を徹底して受け身にし、興奮以外の脳活動要素(測定ノイズ=アーティファクトと言います)を極力抑え、「性的快感」に起因する脳血流変化を選択的にデータテイクするようにしました。

 また科学的な検証手続きとして「対照実験」が必要です。これは「そうでない場合」、つまり被験者さんが純然と受け身で感じているのではなく、あれこれ能動的に行動して、確かに脳血流に変化が出ることをチェックするものです。これも過不足なく確認できました。

●撮影の光量も制限

 測定として絶対に押さえねばならないポイントを、事前にライターの大嶽さんに細かくお話ししました。大嶽さんはマンガ原作やVシネマのお仕事もしておられます。

 ポイントをすべてクリアしたうえで「袋とじグラビア企画」として成立するシナリオを構成していただきました(グラビアをご覧になる方は、そういう観点で読まれると、実はエピソードのすべてに根拠があることがお分かりいただけると思います)。

 出来上がりの写真校正で、ベテランのグラビア編集者で、ご自身もカメラマンである徳間書店の守屋さんが言われたことばが、とても印象的でした。

 「ほら、ほっぺたから肩から胸から、こんなに皮膚が赤くなってるでしょう。普段のグラビア現場では絶対、こんなことないんですよ。写真としてエロのポーズができていれば、ヌードグラビアとしてはOKですから…」

 「ここ、首筋の皮膚が紅潮しちゃってるのなんかは、普通だったら生々しすぎるんで修正するんです。でも、今回はこれだけ準備したんだし、冗談企画とか、いい加減なモノではない、本物だって読者に分かってもらいたいですから、全部そのまま残したんですよ」

 担当者に背景を深く理解していただいたおかげで、おのおのの方が各自のご判断で、こんなふうに仕事してくださいました。そもそも科学的測定の再現性を考えれば、被験者は最低でも2人は必要です。ということは被験者の予算が2倍かかります。セッティングの当初から、そんなお願いを全部聞いていただきました。

 また現場でも、カメラの大駅さん、メークさんはじめすべてのスタッフの方に、かなり無理なお願いをしました。特に、測定は血液中のヘモグロビン量を光吸収で見るので、フラッシュライトの光がデータに影響を及ぼします。

 実際、最初の撮影照明のセッティングでは、正確な測定ができなかったので、一度進行を止めてもらい、照明セットも全部変えました。スタジオ内の光量を極限まで絞り、瞬間的なフラッシュライトだけで撮影する、その瞬間的な写真光量も、データに影響を及ぼさないよう、測定装置のモニターを使って較正しました。

 私は物理の大学院時代、極低温物性実験の研究に携わっていたので、アナログのノイズリダクション技術が音楽レコーディングやテレビ現場で今でも役に立ちます。でもまさか40歳を過ぎて、雑誌の袋とじヌードグラビア撮影で、光電子増倍管と撮影照明のマッチングを行うとは思いませんでした(笑)。

 また光ファイバーの密着には、髪の毛の処理などヘアメークさんにもお手伝いいただきましたし、10人以上の大の大人が真剣に取り組んで、スタジオは大変イイ現場だったと思います。関係者の皆さんに、この場をお借りして再度、心からお礼を申し上げます。

●麻原彰晃の悪事がヒントに

 読者の皆さんはいろいろなご感想を持たれるでしょう。できれば是非、率直なフィードバックを寄せていただきたいと思います。私自身も決意を持ってこの仕事に取り組みました。

 実はこの測定の直接の準備だけで、2006年の秋から1年以上の時間を要しました。

 脳機能可視化技術を用いて、クラシック音楽の演奏中の脳機能測定を土台に、ネットワークリテラシーからオウム真理教のマインドコントロールまで、いろいろな問題を取り扱ってきたわけです。

 しかし、一番最初の2003年頃から、人間存在の最も根幹に触れるケースとして、セックスと脳の関わりを直接測定したいと考えていました。

 発想のきっかけは、麻原彰晃の性的マインドコントロールの実態を知ったことです。麻原こと松本智津夫は、かなりえげつない形で性を悪用していました。こういう外道になんとか科学的なメスを入れるべきだと思ったのです。

 プランの話を海外ですると、米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)、スタンフォード大学など、様々なトップ大学の研究者が軒並み「それは価値がある」と言ってくれました。

 でも誰一人として競合するライバルにはなりませんでした。(これは俺が測る巡り合わせになっているのかな)と思いました。

 またその後「ネットいじめ」関連で性的虐待の報道なども見るにつけ、これはちゃんとやらなければ、という思いを強くしました。

 人は多くの場合、性をあからさまに語りたがりません。特に子供の前などではごまかしたり、口をつぐみがちです。「大人の世界」で語る場合はファンタジーに流れて、やはり真剣に俎上に載せることは少ない。

 しかし、性病予防などで考えれば明らかなように、セックスに関する正しい知見を多くの人がきちんと持つことは、大変重要だと思います。

 実は、性の測定は「イジメ」の本質的理解と深い関連があります。過度に情動が働いている時、つまり「キレている」時、人間が合理的思考能力を失ってしまう。その脳内メカニズムは共通する部分があるのです。

 このあたりの話題は来週以後、ネットワークの話題に直結してお話ししたいと思います。

生命の進化史から考える

 測定の科学的推論の背景も簡単に説明しておきましょう。生殖そして性欲は、およそ命あるものすべてに最も本質的な機能です。サルでもイヌでもネコでも、性的快感を持っていると思います(イヌやネコに聞いたわけではないですが、察することはできますね)。

 ということは、進化史的に考えて、ヒトも持っている、より動物的な「古い脳」が中心となって、セックスの機能やその快感はサポートされているはずです。実際、ヒトもサルもネコも、大脳辺縁系や小脳、延髄などが、性に重要な役割を果たしていると考えられています。

 であるならば、高等霊長類にのみ発達した大脳新皮質、とりわけその中で、ヒトの高次な知的活動を司る前頭前野連合野などは、生殖の最中にはほとんど使うことはないはずだろう。そう予測が立ちます。

 実際、セックスに限らず、摂食、排泄から妊娠出産など、およそ個体と種を保存するために必要な生命としての根幹部分は、ヒトの高次な知的活動と独立して動いています。

●すべて音楽研究から派生した

 私の本業である音楽は、そういう心の深い感動と人間ならではの知的な感動、2つを結びつける必要があります。それを脳機能可視化などの道具で追っていった結果、こういう測定もしなければホンモノじゃない、というところまで来てしまいました。

 「イメージとして上品であるべきクラシック音楽家のあなたが、なぜ?」と言ってくださる方もありましたが、そういうことじゃないんです。生きていることの本質に関わるからこそ、ヒトは感動するのです。ここまで話が詰まってきたら、それはやらなきゃダメでしょう。

 こうした論考は人間にとっても生命にとっても、本当に大切なものだと思います。私自身、岩波書店のような枠組みでもきちんとまとめていくつもりです。でも、実際に「被験者さんに性的快感を感じてもらう」測定を、どこで、どう科学的に厳密に、しかも社会に発表できる形でできるか、というと、これは全く容易なことではありません。

 「伊東研究室では昼間からなにやら怪しげなコトをしている」などと勘違いされても困りますし(昼間が悪くて夜中ならよいということでもなかろうし)要らぬ火の粉を呼ぶわけにもいきません。大学の外の適切なTPO、時宜、場所と状況をセッティングする必要がありました。

 テレビ業界に仲間が多いので、当初は深夜放送枠の企画なども考えたのですが、2006年、私の『さよなら、サイレント・ネイビー』という本の紹介記事でアサヒ芸能誌とご縁ができ、そこでご相談を始めて、15カ月目にしてやっと実現したものです。徳間書店編集部の加々見さん、守屋さんの粘り強いお取り組みがなければ、絶対に不可能でした。

●セックスの脳測定から数理経済学へ

 ここで得た成果は「定性的な測定結果」です。もしかすると読者フィードバックで「科学的測定は定量性がなければならない」という話が出てくるかもしれません。

 以前、宮田さんのコラムでそういう話題が出たことがありました。ここでの測定結果は「有効数字」が出る以前の、本当に世界で最初に計られた結果です。それをサイエンスとして深化させてゆく1つのポイントは「数理モデル」にあります。

 多くの方が誤解しておられますが、数理モデルの骨格は本質的に「定性的」なものです(定量化するには統計要素や誤差の処理が必要不可欠です)。今回得たような定性的な結果は「符号化」という形で理論に取り込むことができます。

 岩井克人さんの言葉を借りれば、経済は「欲望の無限連鎖」を動因とするもの。今回計ったような、ヒト脳の欲望に対する反応そのものを測定して経済学を展開する手法は「ニューラルエコノミー」として1990年代以後、欧米で大きな流れになっていることは、既に本連載でもご紹介しました。

 そうした研究の一端に私自身も大学人として取り組んでいる、実はそういう文脈でも筋道がついたので、安心して決意を持ってコレを実行したんですね。「興味本位でセックス中の脳内を覗き見してみただけに終わっている」などとは誰にも言わせない理論的枠組みを整えてから、正面切って実際の測定に踏み切りました。

 というわけで、今回の測定は最初から「アサヒ芸能」と「NBオンライン」の双方があって、そこで同時に社会発信する計画を立てて、それを実行したわけです。

 冒頭のX君の実話は東大で10年以上、毎年学生を牽制するために紹介されるトピックですが、単に過去の事実とそれで学生が受けた処分を話すにとどまらず、その行動の最中、欲望にとらわれたヒト脳がどうしてネット濫用(Network abuse)などに流れやすいのか、メカニズムから説明して得られる理解は、単なる「戒め」とは比較にならぬ強さを持ちます。

 全く同様に「イジメはいけない」ではなく「イジメに暴走している時、ヒトの脳はいかに愚かか、またシラフに戻った時、その社会的責任を問われたら、いかに負いきれないほど大変なことになるか」と、きちんと根拠から示して理解させる教育に、社会的責任を自覚させるうえでの本当に深い、強い力があると、私は思います。

 そんな観点から、欲望という根深い情動に支配されて動く社会、経済、市場、そしてネットワークと、脳の働きの本質的な関係を、引き続き考えてみたいと思います。

(つづく)

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[伊東 乾の「常識の源流探訪」]

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