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真夏の夜の夢【SOGO_e-text_library】
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投稿者 そのまんま西 日時 2007 年 8 月 16 日 23:13:50: sypgvaaYz82Hc
 

真夏の夜の夢【SOGO_e-text_library】
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昔々、アテネという都市に1つの法律が施行されていた。その法律によれば、その都市の市民は、娘を自分が決めた人と結婚させることができる権限を持っていた。もしも娘があくまでも、父が娘むこに選んだ男との結婚を拒んだときには、父は法律に従って、娘を死刑に処する権限を持っていた。しかし、父というものは、自分の娘の死など望まないのが常なので、娘が少しくらい意地をはったところで、この法律はめったに実行されることはなかった。もちろん、その都市の娘たちは、両親たちの脅しによって、この法律の恐ろしさを知っていただろうということは想像に難くない。
ところである時、イージアスという老人がこの都市にいたのであるが、この人がシーシアス(当時アテネを治めていた君主)の前に進み出て、実際に娘のハーミアを死刑にしていただきたいと訴えでたのである。イージアスは娘に、アテネ在住の貴族の出であるディミートリアスという青年と結婚するように命じたのであるが、娘は、ライサンダーというアテネ人を愛していたために、父に従うことを拒否したのだ。イージアスはシーシアスに、裁判を開いて、この残酷な法に従って娘を死刑にしていただきたいと願い出たのである。

ハーミアは、父の命令に従わない理由として、以下のようなことを言った。ディミートリアスは、自分の親友であるヘレナに愛を告白したことがあります。ヘレナは彼のことを気も狂わんばかりに愛しております。しかし、ハーミアが父の命令に従わない理由として挙げた、もっともな理由でさえ、厳格なイージアスの心を動かすには至らなかった。

シーシアスは偉大なる君主であり、慈悲深い人であったけれども、自らの国の法律を変える権限を持っていなかったので、ハーミアに4日間の猶予期間を与えることしかできなかった。もしその期間が終わっても、彼女がまだディミートリアスとの結婚を拒めば、彼女は死刑となることに決まってしまったのだった。

ハーミアは、君主の御前を辞したあとに、愛するライサンダーのもとを訪ね、彼女の身にふりかかった危険を告げて、ライサンダーをあきらめてディミートリアスと結婚するか、4日後に命を失うか、2つに1つになった、と語った。

ライサンダーは、このようなひどい知らせに対して深い痛みを覚えた。しかし、彼のおばがアテネから離れた場所に住んでいるのを思いだし、おばの住むところでは、あの残酷な法律もハーミアに何ら適用されないこと(この法律は、アテネの境界内にしか通用しなかった)に気づいた。そこで、ライサンダーは、ハーミアにこう提案した。夜になったら、父の家から抜けだして、自分とともにおばの家へ行こう、そして、そこで結婚しよう。

「町の外、何マイルか離れた場所にある森で会うことにしましょう。」ライサンダーは言った。「ぼくたちが、ヘレナと一緒にあの楽しい5月に[#注1]よく散歩した、あの愉快な森の中で。」
この提案に、ハーミアは喜んで同意した。そして、家出のことは誰にも話さなかったが、親友であるヘレナにだけはうちあけた。ヘレナは(娘というものは、恋のためには実におろかなことをするものであるが)たいへんばかなことに、ディミートリアスのところへ行ってこの話をしようと決心した。ヘレナは親友の秘密を暴くことで報酬を期待してはいなかった。ただ、森へ行った不実な恋人の後を追おうというささやかな望みがあっただけであった。ヘレナには、ディミートリアスがハーミアの後を追っていくだろう、ということがよく分かっていたのだ。

さて、ライサンダーとハーミアが会うことにしていた森は、妖精《フェアリー》という名で知られている小さな人が集まる場所だった。

妖精《フェアリー》の王であるオーベロンと、女王であるティターニアは、おおぜいの小人たちとともに、この森で深夜の宴会を開いていた。

妖精《フェアリー》の王と女王の間には、このごろ悲しい仲違いが起こっていた。2人がこの愉しい森の、月明かりに照らされた木陰の道で会うと必ずけんかが始まるので、配下の妖精《フェアリー》すべてが2人を怖がって、みんなどんぐりのさらの中へはいこんで隠れてしまうようになってしまった。

不幸な仲違いの原因は、ティターニアがオーベロンに小さいとりかえ子[#注2]を与えるのを拒んだからである。その子はティターニアの友達が産んだ子で、彼女が死んだあとは女王が、乳母の手からその子を盗んで、森の中で育ててきたのだ。

恋人たちが森で待ち合わせをしていた夜、ティターニアが侍女を従えて歩いていると、妖精《フェアリー》の家来を従えたオーベロンに出会った。

「月明かりで、運悪くも会ってしまったね、高慢なティターニア。」妖精《フェアリー》の王が言った。

「あら、やきもち焼きのオーベロン、いかがなさって? 妖精《フェアリー》たち、早く立ち去りましょう。私はあの人と一緒にいないことに決めてますから。」女王が答えた。

「待ちなさい、せっかちな妖精《フェアリー》。」オーベロンが言った。「私はそなたの夫ではないか。なぜティターニアは私に逆らうのかね? 君の小さなとりかえ子を私の小姓にもらえないか。」

「心配無用。」女王は答えた。「あなたの王国全部を差し出すと言われても、あの子を手放す気はありませんから。」

そして、怒りに燃えた夫を残して立ち去った。

「ようし、勝手にするがいい。」オーベロンは言った。「朝がくる前に、その無礼に対して仕返ししてやる。」

そして、オーベロンは、第一のお気に入りで普段から腹心と頼みにしている、パックを呼んだ。

パック(時々ロビン・グットフェローとも呼ばれている)はいたずら好きの腕白な妖精《フェアリー》で、近隣の村に微笑ましいいたずらを仕掛けるのを常としていた。ときどき彼は、バター作りをしているところに入り込んでミルクをすすったり、バターを作る攪《かく》乳器の中に、空気のように軽い体をつっこんだりした。パックが攪《かく》乳器の中で体を踊らせているときには、乳しぼりの女がいくらバターをクリームにしようとしても無駄だった。村の若者たちでもだめだった。パックが醸造用の銅がまの中でいたずらをしようとしたなら、確実にビールは台無しだった。

村の良き隣人たちが集まって、一緒にビールを飲んでいると、パックは焼きりんごに化けてビールの中に飛び込んだり、どこかのおばあさんが飲もうとすると、その唇にひょいと触れて、しわくちゃのあごにビールをこぼさせたりしていた。その後のことだが、例のおばあさんが隣人に、大まじめにもの悲しい話をしようとして、礼儀正しく椅子に座ろうとしていたときに、パックが三脚いすをすべらせて、おばあさんに尻もちをさせてしまったことがあった。そのとき一座の老人たちは腹をかかえて大笑い。こんなに楽しかったことはないと口々にいうのだった。

「こっちへおいで、パック。」オーベロンはこの小さなふざけんぼうの、夜の放浪者に言った。「娘たちが、なまけんぼうの恋花と呼んでいる花を持ってきなさい。その、紫色の花の汁を、眠っている人のまぶたに垂らすと、その作用で、その人が起きたときに最初に目にはいったものを愛するようになる。

その花の汁を、ティターミアが眠っているときにまぶたに落としてやろうと思う。彼女は目を開けて最初に見るものと恋に落ちるんだ、それがライオンや熊や、おせっかいな猿や気ぜわしい尾なし猿だったとしてもね。私がこの魔法を取り除くまえに――これは私の知っている別の魔法でできるんだ――あの少年を私の小姓にすることに同意させよう。」

パックはいたずらが心から好きだったので、主人が提案したこのいたずらに対してもとても喜んで、その花を探しに走っていった。一方、オーベロンは、パックが帰ってくるのを待つ間に、ディミートリアスとヘレナが森に入ってきたのを見ていた。また、ディミートリアスがヘレナに、ついてくるなと言っているのをもれ聞いた。ディミートリアスが冷たい言葉を数多くヘレナに言ったのに対して、ヘレナの方では、男がむかし自分に言った告白と、彼女への愛情を思いだしてくれと彼をいさめていた。ついに男は、野獣にでも食われてしまえと(まさにそう言ったのだ)言い捨てて去ってしまい、女は懸命に男を追っかけていった。

妖精《フェアリー》の王は、いつも恋人たちに親切だったので、ヘレナに対して深く同情した。もちろん、ライサンダーが言うところによれば、この愉快な森を月明かりでよく歩いていたのだから、たぶんオーベロンはディミートリアスに愛されていたときの幸せなヘレナを見たことがあるだろう。そうこうするうちに、パックが小さな紫花を持って帰ってきたので、オーベロンは彼のお気に入りにこう言った。

「この花を少し持っていきなさい。ここにかわいいアテネ人の娘がいるんだ。彼女は自分を軽蔑している青年を愛している。もし男が寝ているのを見つけたら、その目に愛の汁を垂らしなさい。ただし、娘がその男のそばにいるときに垂らすようにするんだ。目を覚ました男が最初に見るのが、彼にきらわれている娘であるようにね。彼が着ているアテネ風の服でその男は分かるだろう。」

パックは、できる限りうまくやりましょうと答えた。オーベロンはティターミアに見つからないように、彼女の寝室へ出向いた。そのときティターミアは休む支度をしていた。彼女の優美な寝室は堤であり、そこには野生のたちじゃこう草やきばらのくりんざくらや、匂いのいいすみれが、すいかずらやじゃこうばらや、赤い野ばらでできた天蓋の下に咲いていた。ティターミアはいつもそこでしばらく眠ることにしていた。かけぶとんはエナメルを塗った蛇の皮で、小さなおおいだったけれども、ティターミアを包み込むには十分な大きさであった。

オーベロンは、ティターミアが侍女たちに、自分が寝ている間にやっておくべき仕事を告げているところを見つけた。女王はこう言っていた。「誰か、じゃこうばらのつぼみにひそんでいる害虫を殺しておきなさい。それから、こうもりと戦って、皮の翼をとっておくように。これは、私のかわいい妖精《フェアリー》たちの上着を作るのに使います。それから、夜ごとにほうほう鳴く、やかましいふくろうが私のそばに近づかないように、見張りをしておきなさい。だけど、まずは歌を歌って私を寝かせてちょうだいな。」

そこで、皆はこんな歌を歌い始めた。

舌がふたつのまだらへび
姿見せるな はりねずみ
いもりやとかげ いたずらするな
我らが女王にちかよるな

ナイチンゲールよ いい節で
いっしょに歌おう 子守歌
ルラ ルラ ルラバイ ルラ ルラ ルラバイ

わるさも 呪文も 魔法の力も
お妃さまには ちかよるな
お休みなさい 子守歌《ララバイ》きいて

侍女たちは、このようなかわいい子守歌で彼らの女王を寝かしつけた後に、女王に命じられた大事な用事を果たすために、女王のそばを離れていった。

オーベロンは、それを見届けた後でそっとティターミアに近づき、まぶたに愛の汁を落としてこう言った。「目覚めてお前が見たものを、まことの恋人と思いなさい。」

ところで話をハーミアに戻すと、彼女は夜になって父の家から出ていった。彼女がディミートリアスと結婚するのを断ったとがで死刑となるのを避けるためであった。ハーミアは森に入り、愛するライサンダーが彼女を待っているのを見つけた。ライサンダーはハーミアを自らのおばの家に案内するつもりだったけれども、2人が森の真ん中あたりまでいかないうちに、ハーミアが疲れてしまった。そこでライサンダーは、自分のためにその生命を危険にさらし、彼を愛していることを身をもって証明してくれたハーミアの体を気遣い、柔らかいこけの堤の上で、朝まで休むようにすすめた。自分はハーミアから少し離れた場所に横になった。2人はすぐにぐっすり眠ってしまった。

さて、ここで2人はパックに見つかったのだ。パックは美青年が眠っているのを見たし、その着物はアテネ仕立て、おまけにかわいい女性が彼のそばで眠っているので、この2人がアテネの娘と彼女をきらっている恋人にちがいないと決め込んでしまった。また、無理もないことであるが、2人のそばには誰もいないことから、彼が起きたときに最初に見るものがそばにいる女性になるに違いないと、パックは推量した。だからさっそく、彼の目に小さな紫花の汁を注ぐことにした。しかし、ヘレナがその道をやってきたので、ハーミアのかわりにヘレナが、ライサンダーが目を開けたとき最初に見たものとなってしまった。とても不思議なことに、恋の魔力はとても強力なものだったので、ライサンダーがハーミアを愛する心はどこかへ行ってしまって、そしてヘレナを愛するようになってしまった。


ライサンダーが目を覚まして最初に見たのがハーミアだったなら、パックの犯した間違いは大したことにはならなかっただろう。彼はあの誠実な娘をこれ以上ないくらいに愛していたのだから。しかし、かわいそうなライサンダーは、妖精《フェアリー》の「恋の魔法」によって、彼自身の本当の恋人ハーミアを忘れるように仕向けられてしまい、他の女の後を追って駆けだしていった。ハーミアは、1人真夜中の森に置き去りにされたまま眠っていたが、なんて情けないことになったものか。
そういうわけで、このような不幸が起こった。前に話したとおり、ヘレナは、彼女から素っ気なく逃げていくディミートリアスの後ろを遅れまいと頑張っていた。けれども、長時間あまりにも早いペースで走りつづけることができなかった。男というものは、常に女よりも優れた長距離走の走者なのだから、当然である。ヘレナはすぐに、ディミートリアスを見失った。ヘレナは絶望してしまった。今後の見通しも立たぬままにあたりをさまよい、やがてライサンダーが眠っている場所にたどり着いた。

「ああ、ライサンダーが地面で倒れているわ。死んでいるのかしら、それとも眠っているだけかしら。」ヘレナはつぶやいた。そして、彼にそっと触って、こう言った。「あなた、生きているのなら、起きてちょうだい。」

ライサンダーは目を開けた。そして(恋の魔法が働きはじめたので)すぐにヘレナに狂おしい愛情と賛美の言葉を言いはじめた。ヘレナがハーミアよりも美しい、まさに鳩が大がらすに勝っているようだ、とか、愛するあなたのためなら、火の中だってくぐってみせるなどと、恋人らしい言葉をたくさん言ってしまった。ヘレナは、ライサンダーが彼女の友達ハーミアの恋人で、すでに正式に結婚を約束した仲であることを知っていたので、そんなふうに話しかけられて、怒ってしまった。(もっともなことであるが)彼女はライサンダーが自分をからかっていると思ったのだ。「ああ、どうして私はみんなにあざけられたり軽蔑されるようになってしまったのでしょう。ディミートリアスに優しくされず、親切な言葉ひとつかけられないというだけでたくさんなのに、まだつらい目にあうのかしら。それとも、あなたは私を馬鹿にしようと、こんなふうに言い寄るふりをする義理があるとでもいうの。ライサンダーさん、私はあなたのことを本当の人格者だと思ってましたのに。」怒りのままにこう言い残して、ヘレナは走っていってしまった。ライサンダーは、まだ眠っているハーミアを忘れてしまって、ヘレナの後を追っていってしまった。

ハーミアは、目が覚めたとき、自分がひとりぼっちだったのでびっくりした。ライサンダーがどうなったのかまるで分からず、彼を捜すにはどちらへいけばいいかもわからずに、森の中をさまよい歩いた。一方、ディミートリアスはというと、ハーミアと、その恋を争っているライサンダーを見つけだすことができなかった。さんざん捜しまわったあげく、疲れてしまってぐっすり眠っているところをオーベロンによって発見された。オーベロンは、パックに問いただしたところから、パックは間違った人の目に愛の魔法をかけたことを知っていた。今こそ、最初に目指していた人を見つけたので、眠っているディミートリアスのまぶたに愛の汁を垂らした。すると、ディミートリアスはすぐに目を覚ました。彼が最初に見たのはヘレナだったので、ライサンダーが以前にしたみたいに、ヘレナに愛の言葉をかけはじめた。ちょうどそのとき(パックの不幸な間違いによって、今ではハーミアが恋人を追いかける番になってしまったから)ハーミアに追われたライサンダーが姿を見せた。ライサンダーとディミートリアスとは、2人いっしょにヘレナに愛を告白した。2人とも、同じ力を持つ魔法にかかっていたからである。
ヘレナは驚き、ディミートリアスもライサンダーも、かって親友だったハーミアまでがみんなしめし合わせて彼女をからかっていると思った。

ハーミアもヘレナ同様たいそう驚いた。彼女は、なぜ以前はともに自分を愛してくれた、ライサンダーとディミートリアスが、今ではヘレナの恋人となっているのか分からなかった。ハーミアにとっては、ことは冗談に見えなかった。

以前はいつも仲良しだった2人の娘は、今や激論を始めていた。

「ひどいわ、ハーミア。」ヘレナは言った。「あなた、ライサンダーに、私をからかい半分に褒めそやすようにけしかけたのね。あなたのもう1人の恋人だったディミートリアスにも、以前は私を足げにせんばかりだったのに、私を絶世の、気高く美しい、この世のものならぬ女神だ、ニンフだと呼ぶように、あなたがいいつけたのでしょう? 彼はそんなふうに私を呼ばないわ、私は彼にきらわれているのよ。あなたが言わなかったらこんな冗談言わないわ。あなたはひどい人ね、男たちといっしょになって、みじめな親友を笑いものにするなんて。学校時代にはあんなに友情を誓ったじゃない。忘れてしまったの、ハーミア? 私たち、よく2人いっしょにひとつのクッションに座って、歌を歌って、ひとつ花を2人で針で刺しながら、同じお手本を見ながら作ったじゃないの。赤の他人とも思えない、双子の桜ん坊みたいに育ったじゃない。ハーミア、それはいじわるよ。男性たちといっしょになってあわれな友達をからかうなんて、慎みに欠けるんじゃない。」

「そんなに怒った言い方をするなんて驚きですわ。」ハーミアは言った。「私はあなたをからかいなどしませんわ。あなたこそ私を馬鹿にしているようね。」

「ああ、そう。」ヘレナは言い返した。「いつまでもやるがいいわ。深刻そうな顔をして、私が後ろを向いたらそれ見たかって顔をするんでしょう。なら、あなた達どうしで結構な軽口でも言ってなさい。あなたに同情心や気品やマナーが身についているなら、私をこんな目にあわせたりしないでしょうよ。」

ヘレナとハーミアがこんな口論をかわしているうちに、ディミートリアスとライサンダーはいなくなってしまった。ヘレナの愛をかけて、2人で決闘しようということになったのだ。

2人は男たちがいなくなってしまったことに気づき、そこを立ち去って、再び恋人を捜しに森の中へあてもなく入っていった。

娘たちがいってしまうと、妖精《フェアリー》の王はパックに問いただした。2人はこれらの争いをみな聞いていたのだ。「これはお前の手抜かりだよ、パック。それとも、わざとこうしたのかね。」

「とんでもありません、王様。」パックは答えた。「何かの間違いです。あなたはアテネふうの着物でその人が分かるとおっしゃいませんでしたか。けど、こうなっても悪いなとは私は思いませんね。2人のけんかはとびきりの気晴らしですよ。」

「お前も聞いただろうが。」オーベロンは言った。「ディミートリアスとライサンダーは、決闘に好都合な場所を探しに行ってしまった。お前に命ずる。夜を濃霧で包み、決闘をしにいった2人の恋人たちを道に迷わせ、互いに相手を見つけられないようにしなさい。2人の声をまねて、ののしって2人を怒らせて、お前の後をつけさせて、自分は敵が言った悪口を聞いていると思わせるんだ。2人がへとへとになって動けなくなるまで続けるんだ。それで、彼らが眠ったら、この、別の花の汁をライサンダーの目に垂らすのだ。目が覚めたら、ヘレナへの新しい愛情はさめて、ハーミアに対する以前の愛情を思い出すだろう。それで、2人の美人は、それぞれ恋人といっしょになって幸せになるさ。過去のことは一場の悪夢だと思うよ。すぐとりかかるんだ、パック。私は、ティターニアが何を恋人にしたのか見にいくことにする。」

ティターニアはまだ眠っていた。オーベロンは、彼女のそばに、森の中で道に迷って、同じように眠ってしまったいなか者がいるのを見て、「こいつをティターニアの恋人にしてやろう。」と言った。そして、ろばの頭をいなか者の頭にのせた。その頭はもともといなか者の肩から生えてきたかのようにぴったりくっついているように見えた。オーベロンは、ろばの頭をそっとのせたのだが、それで彼は目を覚まし、起きあがった。そして、オーベロンがしたことに気づかないままに、女王が眠っている木陰の方に歩いていった。

「あら! なんという天使がいるのでしょう。」ティターニアは目を開くと言った。あの紫花の汁が効きはじめていたのだ。「あなたはその美しさとともに、賢さをあわせもっているのかしら。」

「いや奥様。」と愚かないなか者はいった。「この森を抜けだす道が見つけられれば、それで十分です。」

「森を抜けだすなんて考えないでくださいな。」恋に落ちた女王は言った。「私はふつうの妖精《フェアリー》ではないのよ。私、あなたが好きなの。私といっしょにいらっしゃい。あなたのお世話をする妖精《フェアリー》をさしあげますわ。」

それから女王は4人の妖精《フェアリー》を呼んだ。その名は豆の花、くもの巣、蛾、からし種と言った。

「お世話をしなさい。」女王は言った。「この立派な紳士の。この方のお歩きになるところでとんだり、見えるところで踊ってさしあげなさい。ぶどうやあんずを食べていただいたり、みつばちからみつ袋をとってきてさしあげなさい。あなた、私といっしょにお座りなさい。」最後の言葉はいなか者に向けて、女王は言った。

さらに女王は、「あなたのかわいい毛むくじゃらのほっぺに触らせて、私のかわいいろばさん。あなたのきれいな大きい耳にキスさせてね。私のやさしい大事な方。」と言った。

「豆の花はどこにいるかね。」ろばの頭をつけたいなか者が言った。彼は女王が甘えてくるのは気にしておらず、むしろ新しい侍女がいるのを得意がっていた。

「ここにおります。」小さな豆の花が言った。

「私の頭をかいておくれ。」いなか者は言った。「くもの巣はどこかね。」

「ここにおります。」くもの巣は言った。

「くもの巣君。」愚かないなか者は言った。「向こうのあざみのてっぺんにいる、赤いまるはなばちを殺しておくれ。それから、くもの巣君、私にみつ袋を持ってきておくれ。持ってくるときに、あまり気短にしないでくれよ、くもの巣君。みつ袋が破れないように気をつけてくれよ。君がみつ袋をひっかぶったら気の毒だからね。からし種はどこにいるかね。」

「ここにおります。」からし種は答えた。「ご用はなんでしょうか。」

「なんでもないんだ。」いなか者は答えた。「からし種君、豆の花君を手伝って、頭をかいておくれ。どうも床屋へ行かなきゃならんな、そうだろ、からし種君、どうも、私の顔のあたりがとても毛むくじゃらになっているようだからな。」

「あなた。」女王が言った。「あなたは何をお食べになるの。私は冒険好きな妖精《フェアリー》を従えています。その子にりすの貯えを探させて、あなたに新しい木の実をさしあげるつもりですけど。」

「それより乾豆一握りの方がいいね。いなか者が言った。ろばの頭がついたので、ろばの食欲を持っていたのだ。「だがお願いだ。あなたの部下に私の邪魔をさせないようにしてください。私は眠たいんだ。」

「では、おやすみなさい。」女王は言った。「私が抱いてさしあげましょう。あなたを愛してるわ。とっても大好き。」

妖精《フェアリー》の王は、いなか者が女王の腕の中で眠っているのを見た。彼女の前にでてきて、彼女がろばに対してふんだんに愛情を注いだことをとがめた。

これを彼女は否定できなかった。相手の男は、彼女に作ってもらった花飾りで頭を飾っており、また、腕の中で眠っているところだったから。

オーベロンはしばらくティターニアをいじめた後で、またとりかえ子を要求した。彼女は、新しいお気に入りといっしょにいるところを主人に見られてしまい、恥じ入っていたから、オーベロンの要求を断れなかった。

オーベロンは、ついに長らく小姓に欲しいと思っていたとりかえ子を得た。そうすると、オーベロンの愉快な計略によって不名誉な立場にたってしまったティターニアのことがかわいそうに思えてきた。そこで、別の花の汁を彼女の目に垂らしてやった。すると、妖精《フェアリー》の女王はたちまち正気に返った。ついさっきまでののぼせようを不思議がり、その相手だった奇妙な怪物を、もう見るのもいやだというのだった。

同じように、オーベロンはろばの頭をいなか者からとってしまって、もう元の頭を肩の上にのせているそのいなか者が、昼寝をし終えるまで放っておいた。

オーベロンと、彼の妻ティターニアは、今や完全に仲直りしていた。オーベロンは、ティターニアに恋人たちの物語と深夜のけんかのことを話した。彼女は、彼といっしょに話の結末を見に行くことに賛同した。

妖精《フェアリー》の王と女王の2人は、恋人たちと、その美しい娘たちが、ごく近い距離をおいて、草地の上に眠っているのを見つけた。パックが、自分の間違いの埋め合わせをしようと、恋人たち全員を同じ場所に、互いにそれと知れぬまま集めようと全力を尽くしたのだった。すでにライサンダーの目からは、王が与えた解毒剤を使って、魔力を取り除いてあった。

ハーミアが最初に目を覚ました。彼女は、見失ってしまったはずのライサンダーがそばにいるのを見て、彼が見せた奇妙な心変わりを不審がっていた。まもなくライサンダーが目を開けた。愛するハーミアを見ているうちに、妖精《フェアリー》の魔力で曇っていた正気が戻ってきて、再びハーミアを愛するようになった。2人はその夜起こった事件について語り始めた。果たして事件が本当に起こったのか、それとも同じ夢を見ていただけなのか、疑っていた。

ヘレナとディミートリアスは、そのとき、もう起きていた。快い眠りによって、ヘレナの中では腹だたしい気分はすっかりおさまっていた。そして、ディミートリアスが聞かせてくれる愛の告白に喜んで耳を傾けていた。嬉しくも驚いたことに、ヘレナはその告白が誠実なものだと思い始めていたのだった。

不思議な夜を体験した美しい娘たちは、今ではもう競争相手ではなく、再び親友同士となった。これまでのひどい言葉はみな許されて、今やるべき最前のことは何だろうと一同で話しあった。やがて決まったことは、ディミートリアスはハーミアに対する要求を放棄したのだから、ハーミアの父を説得して、ハーミアに下された死刑宣告を取り消させる、ということだった。ディミートリアスが、この親切な目的のためにアテネに帰る準備を始めた。そのとき、驚くべきことが起こった。ハーミアの父イージアスが現れたのだ。彼は逃げだした娘を追って森にやってきたのだ。

イージアスは、ディミートリアスがもう娘と結婚する気がなくなったことを知って、これ以上ライサンダーと娘との結婚を反対しないことにして、今から4日後に娘とライサンダーが結婚することを許可した。その日はちょうど、ハーミアが命を失うことになっていた日だった。また、同じ日にヘレナは、今や誠実な彼女の愛人となったディミートリアスと結婚することに、喜んで同意した。

妖精《フェアリー》の王と女王は、この和解の見えざる目撃者となった。恋人たちの物語が、オーベロンの親切な計らいによって、めでたい結末に終わったのを見て、大いに喜んだ。この親切な妖精《フェアリー》たちは、近づく婚礼を、妖精《フェアリー》国全土を挙げての宴楽でもって祝うことに決めた。

ところで、もし妖精《フェアリー》たちが悪ふざけをしたこの物語に対して、信じられない奇談と判断して腹を立てる人がいるなら、その人たちには以下のように考えてもらえばそれでいい。その人たちは夢を見ていたんだろうし、この事件は夢の中で見た幻に過ぎないのだと。そして、読者の中に、この美しく無邪気な真夏の夜の夢に腹を立てるような、わけの分からぬ人などいないことを私は望んでいるのだ。

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