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多様性を失った組織【ITpro】
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投稿者 そのまんま西 日時 2007 年 8 月 12 日 01:20:59: sypgvaaYz82Hc
 

多様性を失った組織【ITpro】(戸並隆:SEは中流を目指せ!より)

2007年06月28日

多様性を失った組織(前編)
天才とは何か?

 天才数学者ガロアは21才のとき,女性問題が原因で決闘し,死んだと言われています。彼の数学の業績は時代を超越し過ぎていて,死後15年経ってやっと時代が彼に追いつき,世界は彼の業績を理解できたのです。ガロア理論は現代数学に繋がる群論や体論という抽象代数学と言われるもので,相対性理論や量子力学を含め,現代科学の多くの分野における数学的基礎体系を構成しています。しかし,彼が生きていた間は全く評価されることはなかったのです。

 ガロアは自分の天才的頭脳を知っていたでしょうか?人は世界を切り取って自分の脳に射影し,「自分の認知世界」を構築します。その認知世界こそが,彼にとっての世界の実体です。この認知世界に自分の脳はありませんから,頭が良いとか悪いとかを自分で感じることはできません。頭の良し悪しは,他の人との比較でわかることです。

 彼は高校生の時,大学数学科の学生が2年間で履修する幾何学の教科書を,たった2日で完全に理解読破しました。弱冠17歳で代数方程式に関する論文を書き,その研究論文をコーシー(ドイツの数学者ガウスになぞらえて“フランスのガウス”と呼ばれる,今でも著名な数学者)に,学士院へ提出するように頼みましたが,コーシーがそれを紛失してしまう不運に見舞われます。


天才のほとんどはアンバランス

 そんな天才的頭脳は,エコール・ポリテクニック(フランス最難関の理工科大学)受験で,口頭試問の数学教官に黒板消しを投げつけて不合格になってしまいます。彼は何故,黒板消しを投げつけるという蛮行に及んだのでしょう。ガロアはおそらく,自分の飛び抜けた天才的優秀性を知らなかったのでしょう。

 天才ガロアにとっては,エコール・ポリテクニックの口頭試問も,大学生が小学生の教官から口頭試問を受けているようなものです。最難関の理工科大学の口頭試問だと思っていたら,「3+5はいくつ?」と質問された。だから,教官が人を小ばかにした問題を出し,自分という人間の尊厳を無視し侮辱した,と憤りを感じたのです。天才に腹を立ててもしょうがありません。見えている世界(認知世界)が全く違いますから。

 でも,彼の飛びぬけた頭脳は,数学を通してだけのものです。物理と化学では「少しも勉強しない」と酷評されています。もっと広い意味での人間力では,ガロアは凡人でまだ小僧です。アンバランスなんです。だから黒板消しを投げつけたのです。天才のほとんどはアンバランスです。

 天才や超人は,環境変化に備えて種が生き延びる個体を残すための突然変異として生まれる,大きな生命摂理での自然現象です。このため,天才の多くは現状の環境に適合できず,障害者と呼ばれます。つまり,天才も障害者も同じ役割を担って生まれてくるのです。ですから我々は障害者の方々に感謝し,手厚いサポートをしなくてはなりません。

 天才の多くは,生まれながら脳の障害を持っており,外界からの刺激に反応して脳が変化していく「脳の可塑性」により,ある部分が集中的に発達して,出現するとも言われていてます。バリー・レビンソン監督の映画「レインマン」では,ダスティ・ホフマン演じる自閉症患者が,床にばらまかれた楊枝の数を一瞬のうちに246本と数えてみせました。アンバランスですが,並外れた記憶力を持つ天才です。アインシュタインもゲーテもダビンチもエジソンも,うつ病も含めれば,ニュートンもチャーチルもユングも,そうしたアンバランスな面を抱えていました。

 何か尖っているものを持っている人間を,社会が認める風土。その部分で圧倒的に日本は弱い。アンバランスや異端・異能を認める社会の許容性包容力。自分達の社会が伸びていく戦略でもあるのですが,まだまだ日本は凡庸な人間を評価する協調的社会です。だからこそ,得意なことに集中する「得手に帆を上げて」で行くべきなんです。不得意なこと嫌いなことは捨てましょう。集中と選択です。アンバランスを怖れることなかれです。バランス感覚に溢れる人間ばかりでは,面白くもありませんから。

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20070625/275847/?L=r2

2007年07月05日

多様性を失った組織(後編)
異質への寛容と進化の逆流現象

 「異質への寛容を放棄した社会は厚みを失い,多様性という未来への資産を切り捨てた人類は,進化の袋小路へ迷い込む」。好きなフレーズの一つです。

 地球の生態系は,人間が認識しているより遥(はる)かに膨大な多様性によって構成されています。人間にとって役に立つもの,都合の良いものだけを取捨選択し,身の回りに配して一方的に利用するという効率優先の自然との付き合い方では,この多様性は維持できません。そればかりか,人類自体が衰亡減退する可能性も大きくなる,と言われています。

 生物進化も人類社会の進化も,異端異質を穏やかに内包する一種の寛容さによって支えられています。単細胞生物は自然の脅威から身を守るために仲良くくっつき,多細胞になりました。人間は60兆の細胞の協調分散システムとして,機能構成しています。無性生殖で命を繋いできた生命体が有性生殖を獲得してから,進化は急速に複雑化・高度化し,現在の豊潤な生命体が生まれ,種の多様性は爆発しました。

 有性生殖では,役に立たないジャンク遺伝子やマイナスな突然変異なども,表に出ない因子として集団の中にそっとため込まれています。これが未来の環境変化への対応や,新しい能力を身に付けていくための重要なインフラとなっています。

 しかし,人間と共に暮す植物の中に最近,有性生殖から無性生殖への進化の逆流現象が起きているそうです。有性生殖は,多様性を育むための時間とコストがかかる“民主主義”のようなものです。それに対して,効率性を優先した“独裁主義”のような,無性生殖への逆流現象。

 異質への寛容を放棄し,多様性という未来への資産を切り捨てる。これこそ,複雑な要素の巧妙なバランスにより成り立っている地球システムを壊す本質的な環境破壊です。


環境への過剰適応は適応力を衰退させる

 「ガイヤ(地球)を守れ!」は,人間のとんでもないエゴ欺瞞(ぎまん)です。世界の人口は,6月末か7月初めに66億人を突破します。有限な地球資源を,高速かつ大量に人間の望む富に転換し,地球上を高速移動させ消費しています。そんな人間世界は,地球システムの負の圧力を強烈に受け始めている。それが,人間が言う“環境問題”です。

 地球が本来の美しい自然を取り戻したり,人間に搾取されてきた他の生命体が命を吹き込まれることが「ガイヤを守る」ことなら,万物の霊長を豪語する傲慢な人間世界が縮小・消滅するしかありません。そのためには,人類がこのまま好きなように,欲望の赴くまま生きていけば,そう遠くない時点で,有限地球の強烈巨大なプレシャーにより人間世界は縮小され,理想通りの地球になります。それはまさに自然淘汰です。

 着床前診断による受精卵の人為的選択や遺伝子工学は,悠久の時間のなかで育まれてきた進化のメカニズムを破壊します。“現在”への過剰適用や著しい効率化は,“未来”への様々な可能性の放棄です。短期的には成功するが,進化の袋小路に迷い込む衰亡への危うい一歩とも言われています。弱者は必死に生きようとして思わぬ進化を遂げる。環境に適応すればするほど,環境適応力は衰える。

 そう言った意味で言えば,組織を構成する「2:6:2(優秀な人が2割,普通の人が6割,役立たずが2割)」法則における「役立たず」の2割も,ジャンクや異端です。目的が明確な効率的組織は,下の2割を切り捨てます。その人間のキャパシティの絶対値の大きさと,2:6:2のどこに入るかはあまり関係がありません。組織目的に反するマイナス人間でも,環境変化がキャパシティのマイナス値をプラスに転換させることがあります。そうなったときキャパシティの絶対値が大きければ,絶対値の小さいプラス人間より遥(はる)かに役に立ちます。絶対値を大きくすることは至難でも,プラスマイナスの反転は簡単です。逆にプラスの人間でも,組織のモチベーションが下がれば,一気にマイナスへ転落します。

 高度成長時代は,無性生殖のような垂直型金太郎飴企業がうまく機能しました。ムービングターゲット,目的も動く環境変化が激しい今は,垂直 vs フラット,組織 vs 個人,独裁 vs 民主,金太郎飴 vs 多様性,上意下達 vs 自主自立,野球型 vs サッカー型…,というシーソーバランスの重心移動が俊敏にできるかどうか?

 過去の成功体験の路線延長的な,単なるガンバリズムは効果無しです。ニーズや需要の構造が変わってしまっています。そんな危機的な状況では,辺境にある下2割のジャンクから,キャパシティの絶対値が大きい異端者が表舞台に登壇し,脅威を機会に転換するため八面六臂の活躍を見せます。ただし,それはその企業や組織に寛容性や冗長性があればこそ。超効率的で,環境に適応し過ぎた無駄のない組織では,環境適応力は衰退し,組織は煮詰まっていきます。

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20070625/275848/?L=r2

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