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カナダに渡った侍の娘〜ある日系一世の回想(かなだ・じゃーなる)
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投稿者 kamenoko 日時 2007 年 4 月 03 日 01:56:01: pabqsWuV.mDlg
 

カナダに渡った侍の娘〜ある日系一世の回想(かなだ・じゃーなる)

カナダに渡った侍の娘 ― ある日系一世の回想 (草思社 1600円)
ロイ・キヨオカ著、増谷松樹訳


遠い存在
我々戦後移住者に取って日系一世というのは、正直言って遠い存在である。

しかし去年125年を迎えた日系史を振り返るまでもなく、今私たちがこの
カナダ社会で日本人、或いは日系人としてさして問題もなく暮らせるのは、
過去の日系一世たちの存在なくしては考えられない。

それは誰でも分かることだが、「さてそれでは一世の人々とは?」とふと
立ち止まって考えたとき、一体私たちの脳裏にはどんな言葉が思い浮かぶ
だろうか?

日系史の初期のころなら「移民船」「過酷な労働」「黙々と働く」
「市民権なし」「写真婚」「子沢山」といった言葉が次々と浮かぶ。そして
時代が移り、第2次世界大戦に突入した頃になれば「ジャップ」「強制移動」
「収容所」「排斥」「家族離散」と言った言葉が続く。残念ながらどれもこれも、
決して明るいイメージとは言いがたい。

だがそんな現実に立ち向かい、言葉も習慣もまったく違った新天地で貧しさと
戦いながら、この時代を何とか生き抜いた一世の人々は、果たして「不幸」で
立ち行かなかったのかというとそうばかりとは言い切れないようだ。

人間ってそう簡単にはくたばらないものなのだ――そうい思いを抱かせて
くれるのがこの「カナダに渡った侍の娘」である。人はどんな環境に置かれ
ても、その周りを見回しながら何とか生きる道を模索し、生き抜く英知を
生み出すものなのだと言うことをこの本はしっかりと教えてくれる。

周知の通り今までにも移民一世の人々のことを書いた本は何冊かあった。

それなのに、「今また何故もう一冊?」との思いはあっても、読み終わって
みると、こうした本は何冊あっても無駄ではないということを確信させられる。

なぜならその歴史に消えた人々は、必ず次の世代に何かを残し、その残された
ものを受け継いで人々は生活し、流れた長い年月の折り重なりの末端に今の
時代があることを教えてくれるからだ。

特にこの本は土佐の侍の娘であった女性が、結婚でカナダに渡り、7人の
子供を育て上げた後100歳まで生きたものの、最後まで父親から受け継いだ
武士道の精神を失わずにいた点が読者の興味と関心を呼ぶ。

侍の娘
この本は主人公であるメリー・キヨシ・キヨオカが書いたものではない。
著者はメリーの次男で、60年代には一世を風靡した画家であり、詩人、
ミュージシャンであったマルチアーティストのロイ・キヨオカ氏である。

彼は1965年にサンパウロ国際ビエンナーレで銀賞を受賞し、
1969年には大阪万博のためにカナダ館の彫刻を制作し、78年には
日系文化人として初のオーダー・オブ・カナダを受賞している。

そのロイが幼いときから何度となく聞かされた“侍の娘である母の
生い立ち”を書いたのが原書「Mothertalk」である。

だがその本が生まれるまでには、陰で橋渡し訳として協力を惜しまな
かった友人の増谷松樹氏の存在がある。よく知られるように耳から
習った一世の英語はおぼつかないし、両親の語る言葉から習った2世の
日本語もまた怪しい。

そのギャップを埋めたのが増谷氏で、彼はまずメリーの土佐弁の話を
12本のテープに録音して起こした後、日本語の読めないロイのために
粗く英訳した。それを元にロイが言葉を紡ぎながら著したのが原書であり、
さらにそれを日本語訳したのが増谷氏である。

私は原著を読んでいないが、出版後は「比類のない傑作」と絶賛された
ということだ。だが残念ながら、ロイはこの原書の刊行を見ることなく、
母メーリーよりも2年早く94年に68歳でこの世を去っている。

含蓄ある言葉
決して平坦ではない人生の辛苦をなめた先達が語る言葉からは、その
思いがにじみ出る幾つもの含蓄のある言葉が聞けることが多い。
当然ながらメリーもその一人で、本書のそこかしこかにそうした言葉が
ちりばめられている。幾つかを拾ってみよう。

「あたしの価値観は父から教わったもの、それをそのまま実行している
だけ。価値観は自分でつくりだすわけにはいかないし、買うわけにも
いかないよ。自分の行動が全体の一部になることを知りつつ振舞う仕方よ」

「何が母親から娘に伝わっていくか、これといってわからないけれど、
日常の行動のすみずみまで影響される」

「一目ぼれというわけじゃなかったよ。昔はね、恋なんてケーキの
アイシングみないなもの、ケーキ自体ではないというわけよ」。

「あたしの生活は節約の連続だったけれど、お金では幸福を買えない
ことを知っていたから、別に不服はないよ。一世のなかでも苦労したことを
おぼえていない人もいれば、日々の生活の中での小さな行いの輝きが大切
だと信じている人もいる。ものごとの真の姿がちゃんと見えるようになる
にはずいぶん年月がかかる」

100年もの人生のなかでは多くの仲間の悲しい死にも出会っている。

「あたしがカナダに来た頃、写真花嫁で来た人をよく知っていた。
やさしい、いい人だった。その人が言うには、夫なる人を最初見たときは
気に入らなかったけど、目をそらさずにじっと見入るその目を見つめて
いたら、引き返すわけには行かないと悟り、承知したという。

結局は子供を6人産み、立派な家族をつくりあげた。最後はガンで
亡くなったけど、病院に見舞いにいったら『ああ、灰になったら、
故郷の山に帰りたい、帰りたい』って、そのことしか頭になかった。
あの気持ちが痛いほどよくわかる」

「ああまだあの時代のことをおぼえている人がいるってすごく喜んで
再会を約束したけど、その後は姿を現さなかった。一世はみんな夏の
せみのようにどんどん死んでいく」

また自分たちの力ではどうすることも出来ない戦争という現実。
生まれた国を後にしながらも、祖国日本の政治的姿勢に翻弄された
日系人の悲しみは想像に余りある。

「日本がパールハーバーを爆撃して、新聞が日本人を『ジャップ』と
呼び始める頃になると、近所付き合いにも支障が出てきはじめた。
あたし達を避ける人々もいたし、道で会っても、あいさつもしないで
そっぽを向く人も出てきた。何と言ってもショックだったのは、
子供たちが涙を浮かべながら学校から走って帰ってきて、理由も
ないのに仲間はずれにされると泣かれたことだった」

「パールハーバーそしてヒロシマ、多くの一世たちは屈辱に喘ぎながら、
仕方がないと言いながら、ずたずたになった生活を立て直した。
抑えられた怒り、苦痛のことを思うと、補償は小さな慰め。破られた
移民の夢はいくら金を積んでもあがなえない。日系人が補償されるなら、
政府はあの屈辱的な人頭税を支払わせた中国系カナダ人も補償するの
かしら。それにあたしたちよりひどい扱いを受けたネイティブの人々の
補償はどうなるのかしらね」

苦境の中での楽しみは子供の成長で、自分が生きた歴史の証しは
子供たちへの思いに託す。

「一世の女性たちにとっては、子供だけが豊饒の徴、これがわかるかい?」

「パーク・メモリアル教会で74年に行なわれたパパ(夫)の最後の
お別れの式典で、みんなを前にして、牧師さんがパパのことを話した。
パパの生涯は、多くのアジア人の移民者と同じように楽なものでは
なかったけれど、7人の子供を持ち、その子供がぜんぶ立派なカナダ
市民に育ったのは非常に幸運であった。牧師さんは、パパの家族や
友達の前でそういった」

だが苦労が報いられずに生きた人たちもまた多かった。おそらく一番
悲惨な生き方をしたのは、苦界に身を落とさざるをえなかった女性たち
だろう。メリーの思いはそんな女性たちにも及ぶ。

「あの頃は周旋屋に騙されて売春婦になった若い娘がたくさんいた。
はした金といく先の住所だけを渡されて船に乗せられた。〜中略〜 
子沢山で食べるものが足りないから、若い娘が商品になってしまう」

「大金が稼げるからって言われて連れてこられて、来てみたら帰ろうにも
帰れない。一度入り込んだら、恥ずかしくて何処に行くところがないから、
死ぬまでそこにいるしかない。そこで働いていたとても綺麗な日本の人が
いたけど、身体が腐る変な病気をうつされた。醜くなっていく自分に
耐えられず、最後は売春宿に火をつけて不幸に終止符を打った」

こうして生き抜いてきた多くの移民一世たちの過去を、今カナダに住む
私たちは決して忘れてはなるまい。


March 2003, 日系の声


http://canadajournal.whitesnow.jp/article/book.html#samurai

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