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韓国がIPTV全国免許許可へ・放送局の抵抗いかに
韓国の国会は6日、放送と通信を巡る長い論争の末に、IPTVの全国放送許可で合意した。11月中に国会の本会議でこれが通れば、IPTVは4年に及ぶ議論を経てようやく2008年6月にも地上波の同時再送信サービスを始められるようになる。
■ケーブルTV業界は地域免許を主張
韓国の地上波テレビは、日本と同じように地域ごとの免許制で、その土地の放送局の放送しか見られないようになっている。事情が違うのは、難視聴改善のためにケーブルTVの普及に力を入れたことで、現在は全世帯の80%ほどが地上波放送を受信するためにケーブルTVに加入している。そのケーブルTVにしても、独占を防ぐため参入できる地域に制限が設けられている。
そうした規制のなかで、持ち上がったのがIP通信網を通じて全国に地上波放送を再送信するIPTVの許可問題だ。元国営の巨大通信会社KTや政府の情報通信部がIPTVの解禁を働きかけ、一方の放送局や放送委員会が反対するという「通信業界VS.放送業界」の戦いになった。
論争は多岐にわたり、IPTVをどこの管轄にするか、情報通信部と放送委員会を一つにしたような機関を作るのか、IPTVを第3の法律で規制するのか、既存の放送法で規制するかなどの議論が続いてきた。国会では放送と通信にまたがる放送通信特別委員会が設けられ、ようやくIPTVの全国放送許可で合意したが、「KTのための法律だ」「放送の独立性と公共性を守れない」などと反対の声は一向に収まらない。
韓国の通信会社は現在、IPTVの手前に当たる「インターネットTV」のサービスを展開している。テレビにセット・トップ・ボックスをつけたIP放送で、KTの「MegaTV」やHanaroTelecomの「HanaTV」などがあるが、サービス内容はドラマや映画のビデオ・オン・デマンド(VOD)だけしかない。IPTVが解禁になれば、本格的にリアルタイムでインタラクティブな放送サービスが全国で視聴できるようになる。
その打撃をどこよりも受けるのはケーブルTVだ。ケーブルTV業界は全国の有線ケーブル放送をデジタル化して、VODやインタラクティブ放送機能の追加などに力を入れている。しかし、通信会社がIPTVを始めれば、今までケーブルTVがやってきた役目をIPTVが提供することになり、しかもブロードバンド接続やIP電話とセットで加入すれば利用料も割引されるので、より安く通信も放送も利用できるようになる。
今回の合意では、「地域別に特定事業者のシェアが3分の1を超えてはならない」というルールは取り入れている。しかし、ケーブルTV放送協会は「IPTVと同じ機能を持つデジタルケーブルTVは全国を77の圏域に分け、その圏域の20%に当たる16地域以内でしかサービスを提供できない規制がある。IPTVがいきなり全国でサービスできるなど理解できない決定であり、IPTV事業者も地域別免許にするべき」と猛反発している。
■放送法による規制求める放送業界
IPTVを放送法の改正により規制するのか、IPTV関連特別法を作るのか、さらに放送行政と通信行政をひとまとめにした放送通信委員会機構統合法案についても意見は分かれている。放送業界は当然、放送法の中で取り締まるべきと主張する。
放送法では衛星放送は33%、総合有線放送事業者は49%以上の株式を外国人が保有してはならないとしている。このため、放送法を適用すれば、既に外国人の持ち株が50%を超える通信会社がIPTVを提供するには、株主比率の調整や別会社化などの対策が必要になる。
民放キー局などは、「IPTVだけ特別扱いせず、放送法そのものの規制を緩和してみんな一緒に公平に競争できるようにしてほしい」という主張だ。しかし、IPTVに放送法を適用するのであれば、最初から国会に放送通信特別委員会などをつくる必要もなかったという意見も多く、国会が大統領選挙の前に法律を通そうと急ぎ、通信業界と放送業界の溝ばかりが深まったと心配する声もある。
地方放送局も反対の急先鋒だ。全国言論労働組合地域放送協議会は声明を発表し、「放送の公共性維持と媒体間の均等発展のために作られた放送法をIPTVに限って適用しないという考えは放送市場を巨大な通信財閥に献納するようなこと」と主張している。地域民放が参加している地域放送協議会も「通信会社にIPTV全国事業権を与えれば、儲かる首都圏の投資だけを優先し、地方に住む人はIPTVを利用できなくなる。地域免許によってやっと生存してきた地方放送局はIPTVと不公正な競争をしなければならない」と、訴える。
これに対し、放送通信特別委員会は「KTやHanaroの通信市場での圧倒的な支配力が放送市場に転移されないよう、網同等接近権を保障するといった施行令を細かく作成し規制する」と説明する。KTやHanaroも、キー局の地上波を全国に再送信するのではなく地方では地方放送局の地上波放送を再送信するとし、「社会的弱者もIPTVを利用できるよう普及型料金制度を提供する。難視聴改善のため努力し公益性を高める」といったことを発表して放送業界の反発をなだめようとしている。
しかし、放送業界は国会での可決に反対すると依然声を荒げており、仮に11月中に法律が通ったとしても、IPTVが無事2008年6月からサービスを開始できるのかは難しいところだろう。
■「放送」「通信」の区分けの意味は
2007年10月末時点での韓国のインターネットTVの加入者はKTのMegaTVが約23万人、HanaroTelecomのHanaTVが約66万人にのぼる。VODサービスだけにもかかわらず、予想を上回る速度で加入者が増えている。
KTは2007年末までにMegaTVのコンテンツ確保のために1500億ウォン、システム安定化のために1000億ウォン、ネットワーク拡大のためのFTTH整備に4000億ウォン、2010年までに1兆2000億ウォンを投資してIPTVを軌道に乗せるとしている。Hanaroも投資額を増やしているほか、LGデイコムも2007年12月を目標にインターネットTVを開始する計画を持っている。通信業界にとっては飽和状態のブロードバンドよりこれからはIPTVで勝負するという意気込みだろうか。
インターネットTVの加入者が増えているのはもちろん3カ月間無料お試しや割引の効果もある。だが、ユーザーにとってはすでにテレビだけでなく、携帯電話やカーナビゲーション、パソコンなどさまざまな端末でワンセグや衛星モバイル放送を視聴できるようになっている。それが「放送」なのか「通信」なのかはもう重要ではなく、より高画質の放送を安く利用できればそれで済む問題かもしれない。
放送業界は、通信会社が主導するIPTVは、ADSLやVDSLがそうだったように、最初は安いサービスで加入者を集め、競合会社を全て潰した後、独占サービスとして高い料金を取るようになると警告する。「水道の蛇口をひねると水が出るように、テレビをつけると放送が流れるという本当の意味での放送はなくなってしまうかもしれない」とユーザーにもっと先を見るよう訴えるが、それがユーザーにどこまで届くかは疑問かもしれない。
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000020112007
韓国「放送局優位」を揺さぶる視聴率低下とネット配信の関係
2007年もあとわずかというこの時期、韓国ではテレビ放送業界が大きな変化を迎えている。前回もお伝えしたとおり、IPTVを使った地上波放送の全国同時再送信が国会で認められ、本格的なオールIP時代に突入するからだ。それと足並みをそろえるように視聴率やプロダクションとの権利関係、広告規制なども大きく変わろうとしていて、放送局は次々と対応を迫られている。(IT先進国・韓国の素顔)
■VODがテレビの視聴率を奪う
韓国の地上波放送の視聴率を集計しているTNSメディアコリアは来年上半期から、視聴率の測定方法を変えると発表した。これまでの地上波視聴率に加えて、放送局が自社のインターネットサイトで提供しているドラマの再放送ビデオ・オン・デマンド(VOD)とネット再送信オンエア(テレビで流れている画面がそのままネットでも流れる)も集計に含めるという。
TNSメディアコリアによると「オンラインが活性化している時代の変化を反映し、オンライン広告の価値を測定する」というのが目的で、IPTVの地上波同時再送信が始まればその視聴率を別途集計する方策も模索しているという。それ自体はIPTVへの対応として自然な流れかもしれないが、背景には地上波の視聴率が年々低下しているという実態がある。
韓国では2000年ごろまで人気ドラマの視聴率は60%を超えていたが、最近はどんなに国民的ドラマといわれようが50%は難しい。地上波放送の平均視聴率は2002年の37%が2006年には32.4%まで落ちた。その原因の1つが、「ダシボギ(もう一度観る)」という名前でサービスされている有料VODだ。
韓国の放送局はドラマやニュース、お笑いなど海外から輸入する映画やドラマ以外ほぼ全ての番組を自社サイト上に有料VODとして公開している。料金は一般画質の300kbpsで500ウォン(6時間の間は何度でも利用可能)、高画質の1Mbpsで1000ウォン、ダウンロードの場合で1500ウォン(PC2台、PMP1台から30日間再生可能)で、人気ドラマだと月160万件以上も利用されているという。ダシボギの利用件数は公式に発表されていないが、一部ドラマは放映が終わった後もダシボギだけで年間15億ウォンもの収入をあげているという報道もあった(1ウォン=約0.12円)。
その結果として、地上波の視聴率は最下位なのにダシボギ利用件数は圧倒的1位になるといったドラマが次々と出てくるようになった。日本でも放送された時代劇「ジュモン」は毎回50%近い視聴率を集め怪物ドラマといわれた。この裏番組であったドラマ「雪の女王」は地上波の視聴率は一ケタに過ぎなかったが、ダシボギの利用件数は「ジュモン」より多かった。
現在の視聴率集計システムはどうしてもリモコンを握っている中年層に人気がある番組が高く出る。韓国も視聴率至上主義の広告市場で、視聴率でその番組の良し悪しが決まり、視聴率が落ちると広告もすぐなくなる。IPTVの同時再送信が始まればますます視聴率低下が避けられなくなるだけに、放送局にとって測定方法の見直しは死活問題なのだ。
■俳優との契約「放送局優位」の崩壊
放送局が収益確保に焦る背景には、俳優やプロダクションとの力関係の変化もある。
日本の人からはよく、韓国の放送局は俳優や出演者などと契約せずにVODサービスをしているのではないか、といった質問をされる。もちろんそんなことはなく、韓国では1999年からドラマのインターネット再放送が始まっていて、そのころからドラマの制作段階でVOD収益の配分まで契約書に明記するようになった(1999年以前に製作されたドラマのVOD収益については今も曖昧なままになっているところがあるらしいが)。
それができたのは、編成権を握る放送局がプロダクションや作家、タレントに対して強い力を持っているためで、放送局は「あなたの作品をネットで再放送して収益が出たら分けましょう」という言い分でVOD再放送を強行してきた。しかも契約は芸能人個人とするのではなくプロダクションとまとめて交わす。だから韓国でドラマに出演するということは、同時にインターネットで有料VODとしても公開され、ケーブルTVやIPTVでも放映されることを前提にしている。
以前はプロダクションが気に入らないことをすると、どんなにドラマの出来がよくてもテレビ放映を契約してくれないこともあったというほど放送局の力は強かった。プロダクションはいつも弱者の立場であったわけだが、その関係も「韓流」の影響で逆転しようとしている。
代表的な事例がヨン様ことぺ・ヨンジュンだ。彼は「冬のソナタ」の爆発的なヒット以降、ライセンスや有料VOD、DVD製作などに目覚めたらしく、自らBOFというマネジメント会社を立ち上げ、その後彼が出演する作品や肖像権のライセンスをとても巧みにコントロールしている。韓流スターと騒がれるとすぐ有頂天になり写真集やライセンス商品をあちこちで契約しては商品価値を落として飽きられてしまう人も多いなか、ぺ・ヨンジュンは別格と言われる理由はここにあるのかもしれない。
ぺ・ヨンジュンが主演のドラマ「太王四神記」はプロダクションが事前に製作して、放送局を選んで契約し、DVD製作やドラマ関連ライセンス事業はBOFとぺ・ヨンジュンが最大株主のKEYEASTとプロダクションが収益を分けるようになっている(結局は撮影や編集が間に合わず、夜9時55分から放映予定のはずが9時のニュースを引き延ばして10時10分から始まったり、放映寸前に編集テープが届いたりとほとんど生放送ドラマになってしまったが)。
「太王四神記」を放映した民放MBCのサイトは現在、有料ダシボギを提供しているが、海外ユーザー向けVOD公開はしていない。VOD利用件数によって放送局と収益を配分する契約なので、一定期間中はVODを自由に見られるサービスも制限されている。海外版権やDVD製作など、ドラマに関する全てを今までのように放送局の勝手にはできない。韓国放送局の収益は広告以外に有料VODから得る分も大きいが、IPTV時代になればぺ・ヨンジュンに続く動きはますます増えていくだろう。
■放送局は収益を守れるか
既存の収益モデルが次々と脅かされるなか、放送局にとって数少ない明るい話題といえば、早ければ2008年上半期から解禁される中間広告だ。
中間広告とは番組の途中に15分間隔ぐらいで入る広告のこと。日本では当たり前の存在だが、韓国では今まで規制され番組の前後にしか広告がつけられなかった。その規制が地上デジタル放送推進のための財源確保を目的に緩和されることになる。
また韓国では1981年に設立された韓国放送広告公社がテレビ、ラジオ、ケーブルテレビすべての放送広告を仕切っているが、これも自由化される。全国の公衆波テレビ、ラジオなど36媒体、16つのチャンネルを持つ地上波DMB(ワンセグ)のすべての広告はこれまで韓国放送広告公社を経由しないといけなかったが、日本のように民営広告代理店を通して広告が取れるようにする。これも番組制作を競争させ収益を増やすことで、地デジ転換費用を確保するという名目で、放送局には追い風になる。
だが、中間広告の解禁に対しては、ケーブルテレビ業界が反対しており、視聴者の評判も悪い。
ケーブルTV業界の資料によると、地上波放送の2006年広告収入は2兆4687億ウォン。ここに中間広告が加わることで5305億ウォンの収入増が見込まれるという。韓国放送広告公社が取り扱っている広告の78%は地上波放送で占めており、中間広告によってさらに地上波放送へ偏ってしまうというのが、ケーブルテレビ業界の反対理由だ。これに地上波放送局は中間広告による収入は年間400億ウォンに過ぎないとしている。
一方、視聴者団体は「地デジ転換費用は放送局の経営改善で十分まかなえる。視聴者の意見には耳を傾けず、取れるところから収益を産み出そうとする安易な考え方では、またすぐお金がなくて地デジができないと言い出すに違いない」と反対する。
今ですら広告主によってニュースの中身までも左右されているのに、中間広告が解禁されればますます番組や報道の中身が偏ってしまうのではないかという心配もあるようだ。今大統領選挙と並んで韓国を騒がせているサムスングループの不正資金提供疑惑が当初はあまり報道されなかったことも、そうした懸念を強めている面もある。
放送局にしてみれば、まだ心の準備すらできてないのに通信と放送の融合が勝手に始まっていつの間にかオールIP時代を迎えてしまい、なんとか収益の足場を守り抜きたいというのが本音だろう。だが、視聴者にしてみれば、広告でお金をとり有料VODで視聴料をとり、さらに公営放送であるKBSは値上げまで計画していて、どこまでよくばるのかというのが素直な気持ちではないか。
しかしテレビ離れが加速しても、何よりも人気の高いコンテンツは地上波番組ということは韓国も日本も変わらない。万人の娯楽である放送を維持させていくために、番組制作にかかわるみんなが儲かるようにすることでコンテンツを確保し、多メディア時代を生き抜いてほしい。
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT13000004122007