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毎年10月になると韓国の官庁や政府関連機関の業務は一斉にストップする。行政機関に対する国政監査が始まるからだ。行政機関の2007年度の業務を評価し、不正などがないか国会議員らが監査をするのだが、12月に大統領選を控えた今年は、マスコミやポータルサイトへの規制に特に注目が集まっている。(趙章恩のIT先進国・韓国の素顔)
■記者が会見をボイコット
マスコミに関して、予算の無駄使いであると何よりも問題になったのはノ・ムヒョン政権が強行している「取材支援システム先進化法案」だ。その内容は以前のこのコラムでも書いたが、国政監査では与野党議員が一致団結して「公務員への取材を規制することのどこが先進化だ」「方法が違うだけで立派な言論統制だ」と非難を集中させた。
2003年から誰でも政府のブリーフィングに参加できるようにしていたのを、2007年10月から急に記者登録制に変えたことも非難の対象になっている。1980年代に軍事政権が「プレスカード」という制度を導入し、プレスカードを持つ記者だけが政府の記者会見に参加でき、政府に批判的な記事を書く記者や新聞にはカードを発行しないという手法で弾圧してきたのと何が違うのかと言われている。記者の省庁への入館カードにICチップをつけて、誰がどこにいるのかを監視しようとする計画も持ち上がったが、さすがにそれはなかったことになった。
政府が着々と記者室を閉鎖し記者の追い出しにかかっている一方、記者らは省庁のロビーに集団で座り込んだり、国政ブリーフィングをボイコットしたりといった、一般市民から見るとちょっと幼稚な意地の張り合いも続いている。各省庁の記者室は最近リフォーム工事を行ったばかりだったが、それを突然閉鎖して新しく統合プレスセンターを作るとは本当にもったいない。政府は「合理的で取材しやすい環境になった」というが、野党のハンナラ党は自分たちが次の政権を取ったら、記者室を元通りにすると話している。血税が二重に無駄遣いされることに他ならない。マスコミと政府の溝は深まるばかりだ。
■ポータルのニュースが世論をリード
NAVERのニュースサイト
12 月の大統領選ではネット世論が大きな影響を与えるだけに、今回の国政監査ではやはり「ポータルサイトのマスコミとしての役割」「ポータル規制」に関する政府の姿勢にも関心が集まった。2002年の大統領選挙はインターネット新聞、つまり紙媒体を持たない「オーマイニュース」のような、新しいしがらみのないインターネット言論が人々の痒いところに手が届く情報を提供し世論をリードした。しかし、2007年の選挙ではポータルサイトがその役割を担っているからだ。
韓国人の朝は地下鉄の無料新聞とポータルサイトのニュースで始まるというほど、ポータルのニュースページにアクセスが集中している。インターネット視聴率調査サイトRANKEY.comによると、9月時点のポータルのシェアはNAVERが42.25%、DAUMが 22.56%、NATEが19.99%という順になっている。韓国人のネットライフはNAVERなしでは語れないほど依存率が高く、ポータルのニュースのアクセスも当然のようにNAVERに集中している。
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NAVERにニュースを提供している新聞、地方紙、インターネット新聞、TV局、雑誌などの一覧ページ
朝鮮日報、中央日報といった日刊紙、インターネット新聞、雑誌などの記事のほとんどは、NAVER、DAUMといったポータルサイトに行けばサイトを移動することなく、写真付きで誌面そのままの形で全部読める。検索も便利で、キーワード一つでテレビニュースの動画まで検索してくれる。
また各ポータルは「ブロガー記者団」という名前で自社のブログと市民記者制度をつなげている。新聞社のニュースと同じ扱いでブロガーのニュースも表示し、「コンテンツの豊富さ」を競う。既存新聞社の信頼できるニュースを提供する一方、ニュースの裏側や話題の芸能ネタはさらにブロガーを利用して目撃談や投稿写真などを掲載し、新聞社以上にニュースのボリュームを増やしている。
現在はポータルサイトはもちろん、新聞社のネット版、インターネット新聞もニュースの下にコメント欄を設け、ユーザーがコメントを書き込めるようにしているが、ニュースの元である新聞社のサイトよりポータルの方が断然ユーザーが多い。ユーザーが多いから論争する甲斐があるとさらにポータルに人が集まる。
■ポータルにニュース編集権はあるか
DAUMは右側に自社が選択した今日の主なニュースとブロガーニュースを表示している
こんな勢力図のなかでクローズアップされているのが、ポータルサイトのニュース編集権、裏返せば、ニュースの発信元である新聞社の著作権だ。
ポータルサイトは新聞社のニュースを機械的に転載するだけでなく、クリック率を高めようと見出しを勝手に編集することまである。これに対し、今年10月からは新聞社もニュースの著作権管理を強化し、ポータルサイトでニュースの見出しをクリックすると該当新聞社のページに飛ぶように契約を切り替えた。しかし、ポータルサイトは自社のニュース編集権を主張し、見出しには手を付けなくてもポータルが選んだニュースを上位に表示させたり、気に入らないニュースは掲載しなかったりといったことをしている。
大統領選挙運動真っ只中の10月、ハンナラ党のイ・ミョンバク候補陣営が、イ候補に関する良くない記事のポータルへの掲載を差し止め、「NAVERは手に入れた。DAUMはコメントとブログを注視すべき」といった発言をしたことが問題となった。NAVERは一般ユーザーに対する誹謗中傷コメントは野放しにしながら、政治記事にはコメントをつけられないようにしたが、これもイ候補と関連があるのではないかと疑われている。
国会議員らは「ポータルサイトがニュース編集権を主張する以上、言論仲裁法、新聞法の対象にするべき」と指摘している。
■ポータル規制論が高まるわけ
インターネット新聞や新聞社のネット版(韓国ではこれを言論ドットコムといってインターネット新聞と区別している)は誹謗中傷や名誉毀損といった問題が発生した場合、言論仲裁委員会に届け出る必要があり、言論仲裁委員会の調査や仲裁の結果によっては謝罪記事の掲載や損害賠償の責任を負う。だがポータルは「削除申請」をするボタンを一応つけているが、対応が遅れる場合もあり、削除しなかったからといって責任を負うわけではない。被害に対して何か補償をしてくれるわけでもない。
ポータルサイトは約款に「コメントを書き込んだ人に責任がある」と明記していると、言い逃れている。ポータルサイトがコメント欄の管理をしなかったために個人情報が露出して通常の生活ができなくなった男性が民事訴訟を起こし、ポータルに数百万ウォンの慰謝料支払いを命じる判決もあった。しかし、この金額では弁護士費用にもならないため、訴訟を起こす人は滅多にいないのが現実だ。
コメント欄はログインをしないと書き込めない仕様になっているが、本人認証をしても平気で悪口を書き込む人は絶えず、新聞社のネット版よりポータルのニュースの方が人権侵害のダメージは大きい。だからこそ、ポータルもマスコミとして規制や取り締まりを行うべき、という主張が広がっているのだ。
■広告収入を巡る争い
朝鮮日報のニュースサイト
一方で、マスコミとポータルのニュース著作権、ニュース流通を巡る論争も1年以上も前から話し合いが続いているが平行線のままだ。マスコミ側はニュースを著作しているマスコミの権利を取り戻すべきだと「ニュースコンテンツ著作権協会」を結成し、「ポータルが見出しを変え、ニュースを選んで優先的に掲載するといった編集権を持つのは著作権侵害である」「ニュースをポータルのページに提供せず、新聞社サイトへのリンクだけにする」「リンク期限は7日とする」などを主張。ポータル側は、それではニュース検索ができなくなるためユーザーが困ると難色を示している。
だが本当の問題は広告収入にある。ポータルは安いニュース使用料をマスコミに払い、各マスコミが作り出したニュースに自社が集めた広告をつけて莫大な利益を上げている。苦労して取材した新聞社のサイトにはユーザーが集まらないので広告も集まらない。見出しをクリックすると新聞社のページへ移動するようになった10月以降は、新聞社がページビューを増やそうとわざと同じ記事を何度もポータルに送稿していたことも発覚した。
マスコミはニュース流通の新しい方法として「ニュース+広告」をセットにしてポータルに渡すことで、広告収入をマスコミのものにしたがっている。今年9月からは放送や言論の政策を担当する中央省庁の文化観光部も調整に乗り出し、ポータルとマスコミのニュース使用に関する標準契約書やニュース流通ガイドラインを早期に作成すると発表した。
■安易にネット化に乗り出した新聞
そもそも、ポータルのニュースだけにユーザーが集中するようになった原因は新聞社にもある。韓国の新聞社はネットブームに乗り、ニュースの著作権ルールを深く考えることなく、とにかく他社より早くテキストと写真をウェブで公開し、新聞をデジタル化すればイメージアップにつながるのではないかと焦りすぎた。オーマイニュースのようなインターネット新聞が世論の中心になってくると、負けじとすべての記事に対してそれを書いた記者の名前とメールアドレス、ブログのアドレスを公開し、記事の下に自由にコメントを書けるようにした。
市民記者制度も取り入れた。紙の新聞には載せられなかったインタビュー動画や記者が伝える取材現場の裏側などを掲載するのはいいが、誰でもアクセスできるように公開されたニュースの著作権や無断複製問題にどう対応すべきか、どのようなビジネスモデルを組み立てるかというところまで描いてはいなかった(これは韓国に限らず世界の新聞社も同じだが)。
マスコミは今まで10年近くも、新聞や雑誌のニュースをコピーしてブログに掲載しても何も言わなかったが、最近になり突然著作権侵害であると片っ端からブロガーを告発して罰金を徴収している。コメント欄が炎上すると会員登録時の約款を根拠に管理者の権限で書き込みを勝手に削除しては火に油を注ぐ結果になったりもしている。
ポータルとマスコミのニュース著作権、広告収入は誰のもの?という論争はまだポータルが有利だ。ユーザーの利用動向を随時把握して、見やすくクリックしやすいニュースサイトにしようと努力し、ユーザーの支持を得ているのは新聞ではなくポータルだからだ。政府のメディア規制を声高に批判しながらオーナーの利権によって記事の書き方を変える新聞、特定人物に偏りすぎて斬新さをなくしたインターネット新聞。これらのメディアが初心に戻らない限り、自由奔放な空気が吸えるポータルのニュースにユーザーが集まるのは当然といえるだろう。
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT13000006112007