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□ 【湯浅博の世界読解】対中非難決議の方こそ注目を [産経新聞]
http://www.sankei.co.jp/kokusai/usa/070627/usa070627004.htm
【湯浅博の世界読解】対中非難決議の方こそ注目を
米下院の対日非難決議といえば、1990年代初めに通商問題を中心にピークを迎えたものだ。日本人記者は連邦議会に日参して決議案の行方を追い、通商代表部(USTR)のコメントを取るのが日課だった。
あまりに数が多くて、ベタ記事にしかならないものが多かった。それがいまは、マイク・ホンダ議員が主導する慰安婦問題1本に振り回される。そのいかがわしさについては、多くの論者が語っているので、ここでは内容に触れない。
それより、現状を子細に眺めれば下院の対中非難決議や法案の方が圧倒的に多いことに、注目したい。中国が石油ほしさにアフリカ北東部のスーダンに武器を輸出、同国ダルフール地方での大量殺戮(さつりく)を見逃しているという非難の嵐なのだ。
慰安婦という戦時中の出来事を扱う対日非難決議と違って、今まさに進行中である。この人権問題が、来年開催の北京五輪と結びつけられるから、深刻さの度合いは日本の比ではない。
厳しい対中非難をそらすため、中国系団体が下院議員らを慰安婦問題に誘導しているのではないかとのうがった見方もしたくなる。
スーダンにからむ対中非難が出てきたのは4年前からである。日本に対する1本の非難決議に対して、あちらダルフール関連の決議案と法案は20本以上にもなる。米紙の扱いも、慰安婦問題は無視されることがあっても、ダルフールにからむ対中非難が掲載されない日はないほどだ。
ここ1年あまりの中国たたきは、有名女優が先頭に立っているために注目度が極めて高い。特に、女優のミア・ファローさんが3月下旬、ウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿したスピルバーグ監督に対する警告文は激烈だった。
彼女は「ローズマリーの赤ちゃん」の主演女優として知られ、映画監督の方は北京五輪の芸術顧問に就任している。ファローさんはナチス支配下のベルリン五輪を引き合いに出し、虐殺されたユダヤ人の苦悩を知るべきだとして、北京五輪を「ジェノサイド・オリンピック」と非難した。
このため、同監督は胡錦濤主席に、「影響力の行使を」と書簡を送った。中国はただちにスーダン政府に特使を送り、国連平和維持軍の受け入れを進言した。
さらに、5月上旬には米下院議員108人が北京五輪のボイコットに触れながら、影響力のある中国が虐殺をやめさせるよう書簡を胡主席に送った。すると中国は、間髪を入れずに劉貴今氏をアフリカ問題大使に任命したうえ、道路復興などに従事する工兵275人の派遣を決定している。
ここで重要なのは、非難決議や書簡を受け取ったあとの、中国政府の素早い決定と実行である。
ワシントンの在米大使館を中心とした議会へのロビー活動はもちろんだ。在京外交筋によると、世界に展開する大使館に対して北京五輪のボイコットを防止すべく働きかけるよう訓令を出したという。失敗した場合には、何らかの“制裁”も示唆しているそうだ。
中国は「内政干渉はしない」という原則を自ら破るわけで、米国発の圧力に対していかに危機感を持っているかが分かる。
中国政府はダルフール問題が他の少数民族に対する人権問題に波及することを何よりも恐れていよう。チベット問題ではハリウッド俳優のリチャード・ギアさんらが、活発に独立運動を支援しているし、新彊ウイグル自治区でも米欧の支援活動が活発だ。
中国の対応はあくまで対中非難をかわすための見せかけにしかみえない。スーダンの石油輸出の7割を受け入れているままだし、武器輸出を停止したわけでもない。安倍政権は慰安婦決議1本に惑わされることなく、いまの民主主義、人権、法の支配に基づく「価値の外交」を貫けばよい。(東京特派員)
(2007/06/27 09:04)