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□ソウルのタクシー事情〜模範タクシーの憂鬱 [犬鍋の韓国便り]
http://blog.goo.ne.jp/bosintang/e/69c801bfdf5ec382c630aa9a6dc7af09
ソウルのタクシー事情〜模範タクシーの憂鬱
ある朝,レジデンスのタクシー乗り場に見慣れない模範が止まっていた。外車らしい。乗りこんでからキサニムに聞くとリンカーン・コンチネンタルだという。
「珍しい車ですね」
「いや,以前は数台あったんですが,最近は景気が悪くて,ソウルで残ってるのはこれ一台ですよ」
「そうですか。ベンツの模範タクシーは乗ったことがあるけれど,リンカーンは初めてです」
「昔,景気のよかった時代は外車に乗る人も多かったですよ。とにかく儲かったからね」
「へえ,いつごろがよかったんですか」
「5年ぐらい前までかな」
「でもIMFのときは大変だったでしょう?」
「いや,模範は関係なかったよ。為替のせいで,外国人旅行者がいっぱい来てね,みな模範に乗ってくれたからかえってよかったくらい」
「今はだめですか」
「韓国人はほとんど乗らないし,このところのウォン高で,外国人も減っちゃったからね」
「この車,どのぐらい走りましたか」
「今,40万キロ。もうすぐ国産車に買い換えるよ」
どの運転手に聞いても,模範タクシーは苦しいという嘆き節が聞かれます。
理由は何か。複数の模範の運転手さんの証言から総合すると…。
一般タクシーの水準アップ
景気や為替の影響もあるだろうけれど,最大の原因は模範と一般の格差がなくなったことじゃないでしょうか。
模範タクシーが生まれたのは92年。88年のオリンピックで外国人がたくさん来るようになったのだが,タクシーの質が悪いと悪評がたった。それを改善して外国人観光客を誘致しようというのが,模範の起源だと聞いています。
パルパル(88)以前のソウルのタクシーは,話に聞くとひどかったらしい。運転手の質が悪かっただけでなく,車体もひどかった。傷だらけなのはいいほうで,窓が割れたまま直してなかったり,床に穴が空いていて石ころはぱちぱち跳ね上がったり…。それはそれはひどかったそうです。
それで,特に外国人が安心して快適に乗れるようにと造られたのが模範タクシー。ピカピカに磨かれた黒塗りの大型車。3年間無事故の運転手のなかから選抜されたそうで,運転マナーもきわめていい。値段が高くても,外国人はほとんど模範に乗りました。
11年前,私が赴任したときも,模範と一般の差はかなり感じました。一般には,窓にひびが入ったままのタクシーなんてのもあったし,まず英語も日本語も通じなかった。だから,私がいないとき家族には必ず模範に乗るようにと言ってありました。
それから11年。
一般タクシーはずいぶんよくなりました。以前,模範タクシーは領収書が出ましたが,一般タクシーは出ませんでした。いまやすべての一般タクシーで領収書がもらえます。
じゃ,なぜ一般タクシーの質が向上したのか。次はある運転手さんの説明です。
昔はタクシーは典型的な3K労働で,学歴がない人がやるものだった。ところが,IMFの不況期,会社をクビになった人たちがたくさん運転手になった。そういう人の中には大学卒も多い。英語も多少でき,礼儀もわきまえた人も増えた。こうして一般タクシーの水準が向上したというのです。
二極化現象
盧泰愚から金泳三の時代は,韓国にも中産階級といえる人がいた。そういう人がけっこう模範に乗りました。一般の2〜3倍とはいっても,タクシーそのものが安かったから。
その後,IMFを契機に,所得の階層分化が進み,大金持ちと貧困層が増えて中産階級が減った。そして金持ちのほうは自家用車や,運転手付きの車に乗り,貧困層は大衆交通機関(バス,地下鉄)か,せいぜい一般タクシーどまりで,模範には乗らない。
競争相手
模範の運転手さんがいう「競争相手」は三つ。
一つは,レンタカー。といってもタクシー免許を持たず,一般の車で営業する車です。不法の「白タク」とは別。彼らはホテルのベルボーイに取り込み(たぶん賄賂を渡しているんでしょう),空港とか遠距離に行く「いいお客さん」があると,ホテルで待っている模範をさしおいて,レンタカーに乗せる。
次にコールバン。これは少し前にテレビでやっていました。これもいちおうは合法で,ミニバンのような大型車で運送業の免許を持っている。どうも,タクシーとは認可を出す役所が違うようです。
価格も決められていないので,改造したメーターを搭載して高い料金をとっているらしい。タクシーは,メーターの不法改造を取り締まるために定期検査が義務づけられているのに,コールバンにはそれがない。
テレビでやっていた悪質コールバンの価格は,一般タクシーの5倍,模範の3倍。韓国人は知っているのでめったに乗らないが,事情のわからない外国人がひっかかる。テレビでは被害にあった中国人が出ていました。
三つ目は代理運転。昔は飲み会があるときは自家用車に乗らず,タクシーで帰った。今では代理運転が価格競争をしていて,模範より安い場合がある。これが模範の営業を圧迫しているらしい。
あと,仁川のタクシーの悪口をいう運転手さんもいる。
「日本のガイドブックに,タクシーは黒いの(模範)に乗れって書いてあるでしょう。それで,インチョンのタクシーがずるいことをしやがった。一般のくせして車体を黒にしてるんだよね」
いやはや,世の中にはいろんなことを考える人がいるもんです。