★阿修羅♪ > アジア8 > 147.html
 ★阿修羅♪
【慰安婦】 「アジア女性基金」について
http://www.asyura2.com/07/asia8/msg/147.html
投稿者 kamenoko 日時 2007 年 5 月 15 日 19:16:21: pabqsWuV.mDlg
 

「アジア女性基金」について


2007年05月14日(月)

ドイツ在住ジャーナリスト 美濃口坦


 しばらく前から欧米の新聞を読んでいると「慰安婦」についての記事を
見かける。これは、米国下院で日本政府に対して「慰安婦」問題の公式謝罪を
求める決議が上程されたからである。この数年来、欧米メディアでこのテーマは
靖国神社の陰にかくれてしまっているところがあった。

 ■責任逃れの隠れ蓑

 この「慰安婦」についてよく報道されたのは1990年代である。当時も今も
欧米では「過去から目をそむける日本」という内容の記事が多い。そのために、
4月10日付けの「BBCニュース」の記事を読んでいて私は少し驚く。という
のは、「アジア諸国は日本が第二次大戦中の残虐行為を直視しないといいはる。
でもこのような非難にもかからず日本国民も過去の傷跡をいやすために少なく
ともいくばくかの努力をした」と書いてあるからだ。

 クリス・ホッグさんが書いたこの記事は「対立をひきおこした日本の『慰安婦』
基金」という題名で(http://news.bbc.co.uk/go/pr/fr/-/1/hi/world/asia-pacific/6530197.stm)、1995年に設立されて先月解散した「アジア女性基金」を
扱っている。ちなみに日本がこのような基金をつくったことはあまり知られていない。数年前ドイツの日本学関係者と議論する機会をもったが、彼らもろくろく知らない
ことに気がついて私は驚いた。

 この記事の読者は、「はじめから議論が分かれていて、右翼が補償や謝罪に反対
するだけでなく、『慰安婦』の出身国の活動家は謝罪も補償金も政府からでない
ために公的なものでないと怒った」こと、また「日本政府がたくさん支出した」
のにもかかわらず、この基金が「日本政府の責任逃れの隠れ蓑」と思われて、韓国
と台湾ではボイコット運動にあって用意した償い金をうけとってもらえなかった
ことなどをはじめて知る。それだけでない。「これらの国では、女性は日本から
お金を受けとらないことを条件に自国から補償を受けることができた」とある。
とすると、彼女たちは同国人もしくは自国政府から日本から受け取らないように
圧力まで受けたことになり、このようなことは、ほとんどの欧州の読者にとって
想像外のことである。

 クリス・ホッグさんは「、、、これらの困難はかならずしも日本側ばかりを
咎めることができない」と書いているように、この東京発の記事を読んだ人は、
東アジアには「過去を直視しない日本」だけでは片付かない問題があることを
感じたのではないのだろうか。

 「アジア女性基金」は「女性のためのアジア平和国民基金」の略称であるが、
なぜこれほど韓国や台湾の活動家の反発をかったのであろうか。この記事からは
わからないが、日本で補償推進活動をしていた人々もこの基金方式に反対した。
その理由は、この記事の中で和田春樹前基金専務理事が発言しているように、
「これ(基金)が国家補償でなかったことは事実だ」からである。それなら、
ここでいう「国家補償」とは何なのだろうか。

 ■補償先進国ドイツ

 好奇心に駆られた私は「アジア女性基金」のホームページ訪れて、いろいろ
読みあさる。1996年2月5日付けの「アジア女性基金ニュース」の第4号に
「寄付をいただいた方からの声」という欄があり、そこに「ドイツと同様に国家が
補償すべきと思います」(横浜市男性)という文句が目にとびこんできた。
その途端、1990年代前半、よく日本人の口から「補償先進国ドイツ」という
コトバを聞いたことが思い出された。

 メディア関係者、補償推進の活動家、政治家とかいったさまざまなカラーの
日本人がドイツを訪れてこの国の補償関係者(活動家、政治家、補償関連官庁
の役人)と会った。私もいろいろなきっかけからその場にいたが、もともと狭い
世界で同じドイツ人に何度も出会う。また日本人から質問をされたりすることも
あって、当時私も、誰も読まなくなった昔の法律・連邦補償法を手に取ったり、
そのコメンタールを参照したり、補償関係の本を読みかじったりした。

 しばらくして日本でこのテーマに対する関心が下火になり、「アジア女性基金」
ができたのに評判が悪いという話を聞く。当時私は何も考えなかったが、今
解散されたこの基金のホームページを眼の前にして奇妙な疑いが浮かぶ。

 「BBCニュース」の記事の題名は「対立をひきおこした日本の『慰安婦』
基金」で、基金に関して賛否両論が対立している印象をあたえる。でも「アジア
女性基金」に心から賛成していた人がいたのだろうか。というのは、基金賛同者も
本当は国家が補償すべきと考えていて、基金方式が国家による補償でないと思い
ながら仕方がなしに賛成しているようにしか見えないからだ。

 次に、基金方式に反対した日本人も、またアジアの活動家も上記の横浜市男性と
同じように「ドイツと同様に国家が補償すべきと思います」と考えていたのだ
としたら、それはとんでもない誤解である。

 ■ドイツも基金方式

 1990年前半ドイツの補償問題関係者は、日本から訪れたメディア関係者や
活動家に(連邦補償法のような)法律をつくって補償をするのでなく基金方式で
解決することをすすめた。例えば、緑の党の補償問題助言者で、何度も訪日した
歴史家のギュンター・ザートホフさんも、そのように考えていた人々の一人で、
私はボンで彼から何度もそう聞いている。

 多数のドイツ人が基金方式をすすめた理由は、戦後実施した「連邦補償法」に
よる補償に対する反省のためである。これは煩雑な法律であっただけでない。
補償される権利を認めるために犠牲者に厳格な被害証明を要求する官僚的手続き
が不可避になり、強制収容所で受けた迫害の記憶をよみがえらせて再度迫害する
ことになったと、当時ドイツの補償関係者のあいだでは評判がよくなかった。
だからこそ、彼らは柔軟に対応できて被害証明も簡略にする基金方式のほうがよい
といった。

 その証拠に、ザートホフさんの緑の党も、また社民党も、1989年に(うまく
行かなかったが、)戦時下に強制労働に従事した人々の補償のために基金をつくろう
とした。また東西ドイツ統一後、ドイツは基金方式でソ連、ポーランドなどのナチ
不法行為犠牲者に対して補償した。また1990年代後半、米国で戦時下の強制
労働補償を要求する集団訴訟に遭った自国企業のために何かしなければいけないと
思ったドイツ政府は、2000年にドイツ経済界からの寄付と税金の半々で基金を
設立して償い金を支払った。

 ドイツが設立したこれらの基金は、日本の「アジア女性基金」とどこが違うのか。
ドイツのほうは基金設立のために法律をつくることがあったのに、日本は政府の
意思表示だけですませた。この相違も、ドイツのほうが日本よりはるかに多数の
犠牲者を対象にしているに対して、日本の基金の規模が小さいことを考えると、
本質的だと思われない。また2000年に設立された基金に関連して独米二国間
協定が調印されているが、これはドイツ企業が将来にまた集団訴訟をおこされる
ことを心配したからである。

 日独どちらの場合も、国家の代表者とおぼしき人々が、遺憾を表明したり謝罪
したりして設立しただけでなく、彼らの似たような内容の謝罪の手紙が償い金と
いっしょに渡された。このような事情を考慮すると、日本もドイツも同じような
ことをしたことになる。ところが、ドイツのほうは国家が償いをしたことになって
いいるのに、日本のほうはそう思われない。

 そうであるのは東アジアの「官尊民卑」と関係があったのだろうか。それ以上に、
ほんとうの理由は、日本で補償を推進していた人々にとって、「連邦補償法」
という法律によって西ドイツが戦後実施した補償が理想だったからである。彼らに
とって、ドイツは「戦後に日本国民にしそこなったことがある」ことを警告する
ためにのみ存在し、だからこそドイツがした「戦後補償」が重要であった。だから
彼らは(戦後でなく)今のドイツ人が説明する基金方式にろくろく耳を傾けなかった。
ちなみに「戦後補償」というコトバはドイツであまり使用されない日本独特の
表現である。

 ■前に進めない構造

 「連邦補償法」が、(すでに指摘した「煩雑で官僚的な手続き」という欠点
以外に)ドイツの補償推進派にとって参考にならない別の重要な理由があった。
それは、ナチの不法行為(人種・宗教・世界観のためからの迫害)の犠牲者を
補償するこの法律が国内法で、(歴史家のウリリッヒ・ヘルベルトによると)
これによって補償された90%以上がドイツ人もしくは戦前の旧ドイツ領居住者
であった。迫害に遭ったユダヤ人の大多数が戦後イスラエルや米国に移住して
そこで年金方式の補償を受け取っているからといって、国内法という性格が変わる
ものではない。

 ところが、80年代、90年代にドイツの推進派が補償しようとしていた人々は
外国に居住していた。このような人々に対して、敗戦国が補償法をつくって個人
請求権を認めることは誤解を招く行動とされる。というのは、隣国の人々が戦争で
破壊された家屋の修理費までいっせいに請求しだしたら厄介なことになるからである。
「賠償問題は解決済み」というのがドイツの立場である以上、自国が犯した特別の
悪事(=「ナチ的不法行為」)だけに限定する基金方式がベストであり、それも
大声で「補償」といわずに「人道的性格」を強調するほうがよいことになる。

 以上ドイツについて述べたことはほとんどすべて日本にもあてはまる。私たちも
「賠償問題は解決済み」という立場をとっている。1990年代前半に、私たちも
外国に居住する「慰安婦」だった人々に対して「償い」をしたいと思った。これは、
どこかの国のように自国製品不買運動が起こる前に、自発的にそう思ったので、
りっぱなことである。こうして目的が限定された「アジア女性基金」を設立した。
本来、当時日本もドイツとほど同じ頃に同じようなことをしたことになる。

 ドイツにいて、こう考える私から見て、すでにふれた「ドイツと同様に国家が
補償すべきと思います」という横浜市の男性の見解に賛成できない。

 このような意見を聞くと、私は、買い物をして(他のお客と同じように)レジで
代金を支払ったのに外に出てから「自分たちはちゃんと払わなかった」と嘆いて
いる人を連想する。この奇妙な人に挑発されて、別の奇妙な人が「買ったものなかに
不良商品があった」と怒りだす。これこそ、私たちが同じ議論を繰り返して、
いつまでも前に進めない構造である。そのうちに近くでこの議論を聞いていた
人々も「ちゃんと払わなかった」といいだす。これは、ほんとうに残念なことである。

 美濃口さんにメール Tan.Minoguchi@munich.netsurf.de

http://www.yorozubp.com/0705/070514.htm

 次へ  前へ


  拍手はせず、拍手一覧を見る

▲このページのTOPへ      HOME > アジア8掲示板

フォローアップ:

このページに返信するときは、このボタンを押してください。投稿フォームが開きます。

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。