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http://www.ohmynews.co.jp/OhmyColumn.aspx?news_id=000000003417より転載。
あまりに醜悪な日本社会 〜斎藤貴男コラム〜
朝鮮学校に通う児童、生徒らに対する嫌がらせや暴力などの実態をまとめた調査資料『在日朝鮮人への人権侵害について(2006年7月以降)』が、このほど発行された。在日朝鮮人・人権セミナー(実行委員長・床井茂弁護士)の編集・発行。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が7月にミサイルの発射実験を行って以降の日本社会の、あまり報道されない無惨が露(あら)わにされている。
それによれば、7月5日から同月31日までに朝鮮学校および教職員、生徒に対して行われた暴行、暴言、嫌がらせ等は合計121件。具体的には以下のような事例があったという。
<通学路で男が初等部(小学校)1年男子児童の頬を殴り、逃走した>(大阪)、
<大宮駅構内の階段付近で、初等部3年女子児童のスカートにガムがつけられる>(埼玉)、
<「朝鮮人を殺す!」「1週間以内に高校生5人を殺してやる!」「お前ら人間じゃねえ、動物だ、殺してやるからな」等の脅迫電話>(北海道)、
<学校の代表アドレスに「外道朝鮮人死ね」「朝鮮人に対しても何をしても罪に問われないよう法改正すべきだな!!」「ミサイル発射、外道朝鮮人皆殺しキボンヌ」等のメールが届く>(西東京)、
<ヘリコプターが学校上空を旋回し、時折ホバリング。生徒たちが怖がり、校長も危険を感じたので警察に通報したが、「ヘリの所有者を照会したが確認できず」の返答>(山口)等。
10月9日の核実験から同月31日までを取り出すと49件だった。
<休校中の学校の音楽室に不審者が忍び込み、チューバやトロンボーンなどの楽器約10点と楽譜が運動場に投棄された>(山口)、
<学校付近の町内会の掲示板に、「核には制裁を。目には目を」の落書きがあった>(東京)、
<大声で、「チョーセン帰れ!」等の暴言>(福岡)、
<学校のホームページに「気持ち悪い」の書き込み>(福岡)等。
在日本朝鮮人総聨合会(朝鮮総聨)の各機関に対する放火や破壊などの事件も9件にのぼった。中央会館の議長宛に切断された小指と脅迫文を郵送してきた男は逮捕・起訴されたが、それ以外の捜査は進んでいない。神奈川湘南西湘支部事務所前での8月の放火未遂事件では、建物のそばに「テポドンハッシャキネンオチュウゲンオトドケシマス」とカタカナで書かれた布が置かれていたという。
この国は、社会は、今、とてつもなく醜(みにく)い。調査資料に掲載されている前田朗・東京造形大学教授(刑事人権論)の文章が的確な分析だと思われるので引用しておきたい。彼は現在の日本政府や社会全体の意識は、アメリカに何もかも支配されることをむしろ歓迎しているのではないか、こうした「植民地になりたがる」精神構造を“自己植民地主義”と呼ぼう、と提唱して、次のように指摘しているのだ。
<“自己植民地主義”のメカニズムは、自己よりも「上」のアメリカ崇拝と、他方で「下」のアジア諸国民への蔑視(べっし)と差別を生み出す。とりわけ隣の外国人である在日朝鮮人への露骨な差別となる。日本政府による朝鮮人差別政策とともに、日本社会における執拗(しつよう)な朝鮮人差別が再生産されてきた>
もうひとつ。調査資料にはミサイル発射実験直後の7月11日に開催されたシンポジウム「東京・平和フォーラム」での、実際に嫌がらせを受けた朝鮮学校の女子生徒の発言も紹介されていた。チマチョゴリ姿で電車に乗っていると、自分よりも幼い中学生に暴言を吐かれたという彼女は、こう述べていた。
<このとき私は、反発もしなければ、涙も流しませんでした。絶対泣くまいと思って、目を開いて口を結んでいました。このときに「ああ、私は朝鮮人なんだな、コリアンなんだな」と思いました。ここにいらっしゃる日本のみなさん、自分が日本人だと感じるのはどういうときですか? 着物を着ているときとか、きれいな歌舞伎を見たり、きれいな京都の町を歩いているときに、「ああ、日本人なんだな」と感じませんか?
私が朝鮮人だと感じるときは暴言や暴力を振るわれたとき、朝鮮人だと感じます。これは人間にとって、一番の侮辱だと思いました。私に対する侮辱はいくらでも我慢できますが、来年18歳になった後輩たちが同じ侮辱を受けるのかと思うと、私は許せません。
私は来年の7月11日に19歳になります。19歳になったときは別の言葉を覚えたいと思います。ここにある「平和」という文字を実感したいのです>――
ここまで醜悪(しゅうあく)な社会が、仮にも人間の世にあってよいものだろうか。在日朝鮮人への人権侵害を止めろと言っただけで罵倒(ばとう)や嘲笑(ちょうしょう)の嵐を浴びるに違いないこの国の日本の現実を承知の上で、あえて強調しないではいられない。恥を知ろう。金正日が憎ければ、どんな手段を用いても、彼本人を殺しに行けばよいではないか。どうして何の関係もない、しかも子どもや女性を襲うのだ。
人間ならば。日本人をこれ以上貶(おとし)めたくなければ。
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さいとう・たかお 1958年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。イギリス・バーミンガム大学修士(国際学MA)。日本工業新聞記者、『プレジデント』編集部、『週刊文春』記者などを経てフリーに。『カルト資本主義』(文春文庫)『バブルの復讐』(講談社文庫)『小泉改革と監視社会』(岩波書店)など著書多数。最新作に『ルポ 改憲潮流』(岩波新書)
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