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「ああ、見て、見て、朝鮮半島じゃない?!」
家内の言葉に、急いで飛行機の窓から覗き見る。2月23日午前10時10分のことだ。
眼下に広がる山野。
瞬間、背筋にヒヤリとしたものが走る。黒みがかった森と赤みがかった茶色の田野。
そうだ。かの地の色だ。僕たちが24年間、すべての自由を束縛されていた、かの地の山野の色だった。やはり体は覚えていた。
訪ねたくてたまらなかった韓国。その地を見たら、おそらくうれしく、楽しい思いに包まれるだろうと想像していた。
でも、僕の体に刻みこまれていたおぞましい24年間の歳月が、その地を目のあたりにした瞬間に、甦ったのだ。
トラウマとは、こんなことを言うのだろうか? 気持ちが暗くなり、外の風景から目が離せなくなる。
30年前、拉致されて、初めてこれと同じ色の山野を見たときのことが思い浮かぶ。
恐怖感と絶望感だけを与える色だった。悪夢のようだった。いや、悪夢でもそれが夢で終わるなら、どんなによかっただろう。夢なら、いつかは醒めてくれるのだから……。
さらに、5年半前、一時帰国という名目で平壌を発ち、日本に向かうとき、この色の山野を見下ろした。そのときも、期待よりも不安を与える色だった。自分の運命がどうなるのか、子どもたちの将来はどうなるのか、まるで予想がつかなかった。よくも悪くも、やはり夢を見ているようだった。窓外の景色を見る僕の目は、うつろだったに違いない。
そして今。取材で韓国に向かいながら見る朝鮮半島。初めての海外旅行だというのに、はしゃぐ気分にさせてくれない山野の色が、ここにある。この陸続きの地に、まだ帰国を果せない、多くの拉致被害者たちがいるのだ。新たに任された今回の仕事がうまくこなせるかという心配も拭いきれない。
だからといって、憂鬱な感情にばかり襲われていたわけではなかった。今度の旅で何か新しいものを得たいという希望、今後の日韓の文学交流に新しい可能性が見いだせるかもしれないという期待、これを機に拉致事件解決に向けた世論喚起に役立つ何かを発信していきたいという願いがあったからだ。
午前10時30分、着陸態勢に入るというアナウンスとともに、機体が傾き始める。シートベルトを締め、窓の外に目を走らせる。立ち並ぶ壮大な高層アパート群と、溢れるほどの車が走る、広々とした多車線道路が視界に飛び込んでくる。本でしか見たことのない、話でしか聞いたことのないソウルの街が、すぐそこにあるのだ。
http://www.shinchosha.co.jp/topics/hasuike/blog/2008/03/_2_4.html
5年半ぶりの朝鮮半島 ─蓮池薫のソウル紀行 その1−蓮池薫BLOG
http://www.asyura2.com/07/asia10/msg/418.html