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NYフィル平壌公演のお膳立てと秘められたメッセージ?--「パフォーマンスは両刃の剣となったのか」---JMM
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投稿者 ミスター第二分類 日時 2008 年 3 月 01 日 19:46:37: syFUAx3Wc1pTw
 

NYフィル平壌公演のお膳立てと秘められたメッセージ?--「パフォーマンスは両刃の剣となったのか」---JMM
                              2008年3月1日発行
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JMM [Japan Mail Media]                No.468 Saturday Edition
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                       http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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  ■ 『from 911/USAレポート』第345回
「パフォーマンスは両刃の剣となったのか」

 ■ 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)

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 ■ 『from 911/USAレポート』第345回
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「パフォーマンスは両刃の剣となったのか」

 ニューヨーク・フィルハーモニック(NYフィル)と各国報道陣を乗せた北京発平壌行きのチャーター機は、アシアナ航空のボーイング747のダッシュ400型でした。
 さすがに着陸の様子の中継はありませんでしたが、順安(スナン)国際空港のターミナル前に駐機した同機にタラップが横付けされた写真からは、2002年9月の第一回小泉訪朝の光景を思い起こさせられました。
 あのときの、そして2004年の第二回訪朝時もそうですが、日本の政府専用機も同じダッシュ400機でしたから、こうした大型機の飛来は珍しいこの空港の整備体制も少し対応が慣れていたのかもしれません。

 あの小泉訪朝は、多くの拉致被害者の死亡という事実が明るみに出たことで、日本の対北朝鮮姿勢が硬化するきっかけになった事件です。
 そして、米朝間の緊張緩和を狙った今回のNYフィル訪朝はこれとは政治的には逆の動きのようにも見えます。
 ですが、音楽監督のローリン・マゼールに言わせると必ずしもそうではないようです。

「今回の訪朝は西側における北朝鮮のイメージアップを狙ったものだという見方があり、確かにそうかもしれませんが、同時にそれは両刃の剣でもあるのです。私たちが持ち込む西側の自由という空気は北朝鮮の社会を意外なスピードで変えるでしょう」

 とマエストロはハッキリ言っているのですが、果たして今回の公演ではその「裏側の刃」は機能したのでしょうか。


 ところで、今回の訪朝はNYフィルに取っては別の意味で「両刃の剣」となる危険も秘めていました。
 北朝鮮はブッシュ政権にとっては「悪の枢軸」の一つであり、何よりも六カ国協議によって核開発の放棄を約束しているにも関わらず、恐らくは交渉カードの温存と国内の威信維持のためにその廃棄をズルズルと延ばしているという現状があります。

 ですから、この訪朝に関しては発表時にこの欄でお話ししたようにアメリカ国内の保守派から攻撃される危険もあるわけで、万が一訪朝の際のイメージ演出が融和的に過ぎたり、直後に北朝鮮が政治的に硬化したりすれば楽団の世評に傷がついてしまう危険があるのです。

 ちなみに、ブッシュ政権としては、同時期に韓国の李明博新大統領就任式に出席のためにアジアを歴訪中のライス国務長官が「外交上は特に効果は期待しない」というような冷淡なことを言っています。
 ホワイトハウスも同様の姿勢であり、北朝鮮外交に関して硬軟取り混ぜた外交の一つという評価か、ほとんど黙殺というムードが漂っています。
 そんな中、楽団のパブリシティは慎重の上にも慎重を期したものにならざるを得ませんでした。
 また受け入れる北朝鮮側の対応にも相当な計算が見て取れるように思うのです。

 まず、楽団そしてニューヨークのメディアですが、とにかく何でも「二段構え」の戦術に出ています。
 オーケストラが平壌に着くと楽団のホームページで、1月の直前視察団の様子に到着の様子の写真がスライドショー形式で公開され、実際に歓迎のレセプションやコンサートが行われると、時間差で写真が追加されていっています。

 一気に公開するのでも、リアルタイムでどんどん公開するのでもないのです。
 恐らく、楽団とアメリカの当局(国務省)がパブリシティ効果を考えて、どの写真を公開するか計算しているのでしょう。

 そのコンサートの中継ですが、アメリカ側から北朝鮮側への条件として「北朝鮮国内および世界への同時中継」というのが入っており、実際に北朝鮮では中継がされた(と発表されています)のですが、アメリカでは放映は翌日になっています。
 というのは、実際のコンサートはアメリカ東部時間では火曜日の朝になってしまい、クラシックのコンサートの放映する時間帯ではないという事情もありますが、それ以上に今回の訪朝の意義を説明するドキュメンタリーを挿入して編集するのに時間を要したということがあるようです。

 ところで中継を行ったのはPBS(アメリカの公共放送、民主党のカルチャーの影響下にある)でしたが、その『グレート・パフォーマンス(名演奏の時間)』という番組の中には、昨年にABC(三大ネットワークの一つ、ディズニー社の一部門で少なくともリベラルではない)が北朝鮮に取材して製作したドキュメンタリーが挿入されていました。

 要するに二社の共同製作(ただし責任はPBSにある)という形を取っていたのです。

 そのドキュメンタリーの内容は北朝鮮の「現状」を穏やかながら暴露したものです。
 例えば衛星の写真では夜は真っ暗であるとか、政治犯の収容所(らしきもの)の空撮映像なども入ったもので、決して「融和ムード」の編集ではない内容です。

 この中継番組では、演奏の前に約15分ほどそうした「辛口」のドキュメンタリーが入って、それから演奏の映像になりました。
 ただ、今回の番組のホストは、同じABCといっても、ややリベラル寄りのボブ・ウッドルフで、コンサート会場となった平壌の東大劇場の大理石造り(に見える)のエントランスに立って「歴史的な交流」に興奮した様子で番組を進行しています。

 ただ、このウッドルフという人物は、ABCの夜のニュースのメインキャスターに抜擢された直後に、イラクの取材中に武装勢力の襲撃にあって全身に銃弾を撃ち込まれる中、奇跡の生還をしたいわば国家的英雄なのです。
 そのウッドルフが平壌の白亜の建物の前に立って「歴史的和解」とレポートすれば、アメリカの保守派もあまり文句は言えない、どうもそうした計算もされていたようです。

 そんな風に、不思議な演出の番組でしたが、実際の放映も「二段階方式」で、コンサートが火曜の朝(アメリカ東部時間)で、NY地区(チャンネル13)ではその日の晩8時からの二時間番組として放映し、その他の州では翌日の水曜日の晩の放映ということで日程にズレがありました。

 これはNY地区での放映で視聴者のリアクションを見た上で、他の州では流そうという計算と、それから火曜の晩9時からは民主党の「ヒラリー対オバマ」のオハイオ/テキサス予備選の直前最終ディベートがあって、その視聴者と同じ層が対象のために日程をずらした、恐らくはその両方だと思います(ちなみに、このディベートではオバマは一切スキを見せず、ヒラリーを相当追い詰めていました)。

 前にお話ししたように、この企画の発表も「二段階作戦」で一旦メディアにリークして翌日正式発表、その直前に定期会員には根回しのメールという段取りで、新聞の報道も二段階になっていました。
 今回も、到着を報ずる記事が出て、その翌日にコンサートの様子を報ずる記事が出ています。
 まあ「大ニュース」ですから毎日の動静を報ずるのも自然と言えば自然ですが、ここでも世論を刺激しないように「小出し」の報道になっています。
 そんな配慮のせいか、今のところ大きな批判は出てはいません。


 さて、肝心の演奏はどうだったのでしょう。
 まずセットリストは、いやクラシックではそうは言わないので当夜の演目ですが、以下の通りでした。
(1)ワーグナー:楽劇『ローエングリン』から第三幕への前奏曲
(2)ドボルザーク:交響曲第九番『新世界より』全曲
(3)ガーシュイン:『パリのアメリカ人』

以降はプログラムにはなく、アンコールとして演奏されたものです。
(4)ビゼー:『アルルの女』第二組曲より「ファランドール」
(5)バースタイン:歌劇『キャンディード』序曲
(6)朝鮮(韓国)古歌『アリラン』
というなかなか興味深いチョイスでした。

 最初のワグナーですが、これは昨年12月の訪朝発表時には曲目の中に入っていなかったものです。
 TV中継のホスト、ウッドルフは「和解と信頼のオペラ」であり、しかもこの三幕への前奏曲というのは有名な結婚行進曲の直前であることから意味があるという言い方をしていました。

 ですが、本当はこの物語はハッピーエンドではないのです。

 無垢な騎士は魔法の小舟に乗って消えてゆき、結婚相手の王女もその他の王国の主要な人物なども死んでしまうのです。

 意地の悪い見方をすれば、疑念から逃れられない独裁国家の人々は死に、騎士は静かに立ち去るのみ、という「謎かけ」が入っている、そんな解釈も可能です。

 ただ、実際はワグナー自身どちらかと言えば独裁を「良し」とした人物ですし、特に本人の責任ではないにしても後世にアドルフ・ヒットラーが持ち上げたこともあって「民主化への謎かけ」というのはムリがあるかもしれません。

 むしろ、この『ローエングリン』というのは、マゼールが30歳の若さでワグナーだけを演奏する「バイロイト音楽祭」にデビューして華々しいキャリアの階段を上っていったいわば「いわくつき」の曲でもあります。

 ユダヤ系でありながらまたワグナーを積極的に振ったことで、一部から批判を受けたこともあり、その一方で、同じユダヤ系のライバル指揮者、ダニエル・バレンボイムがイスラエルでは禁止されていたそのワグナーをイスラエル・フィルと演奏して物議を醸す中、パレスチナとの和解を積極的に訴えていた、それに比べてマゼールの方はノンポリだとして、これまた何かと比べられたりもしています。

 NYフィルの音楽監督を来年で勇退するマゼールに取っては年齢的にも来週には78歳になるわけで、キャリアの総決算として何としてもこの平壌公演を成功させたいという思いは強いと思います。

 その幕開けが「ワグナー」の「ローエングリン」というのは何とも興味深いチョイスでした。
 演奏もテンポのしっかりしたブリリアントなものだったと思います。

 次の『新世界から』はアメリカに因んでのチョイスだということですが、ちょっと選曲としては軽すぎたように思います。
 また演奏も「これが西側の現代風の解釈だ」と言わんばかりにテンポを動かしていて、例えば第一楽章の第二主題などは音楽の流れがスムーズでない感じでした。
 有名な「家路」のメロディを含む第二楽章も、テンポの差をドラマチックにしているだけで歌の高潔さは今一つだったと思います。
 この選曲、この解釈はちょっと「北朝鮮の観客をなめている」と言われても仕方がないでしょう。

 ガーシュインの方も、少しジャズのリズムを取り入れた音楽なのですが、あまり「ノリノリ」でやるとクラシックに聞こえないか、独裁国家の謹厳なエリートには向かないと思ったのか、演奏は堅さがあって、音楽としてはあまり上質ではなかったように思います。

 面白かったのはアンコールでした。最初の「アルル」は曲想は派手で、演奏も立派だったのですが、この曲自体は劇音楽で、そのストーリーは失恋した男が自殺する話なのです。

 このノリの良い「ファランドール」は祭典の音楽で、その祭りの最中に男が自殺するのですから少々不吉なところもあり、意図を勘ぐれば勘ぐれるのですが、まあご愛敬というところでしょうか。


 アンコール二曲目の『キャンディード序曲』では面白いことが起こりました。
『キャンディード』を作曲したバースタインは、このオーケストラの黄金時代を築いた名指揮者であり、バースタインの指揮の記憶は多くの楽団員の血肉と化しているのです。
 そこで指揮者のマゼールは、「この指揮台にバースタインがいると思って演奏するように」と言って袖に引っ込んでしまったのです。

 実際にコンサート・マスターのグレン・ディクトロウの合図で曲が始まると、楽団は指揮者なしで見事な演奏を披露しました。

 このエピソードも色々なことを思い起こさせてくれました。
 まず、バースタインといえば、1989年にベルリンの壁が崩壊したときに、その年のクリスマスにベルリンでヨーロッパとソ連など多くの国の音楽家による混声オーケストラを率いて、ベートーベンの交響曲第九番を演奏したというのが有名です。

 この時は有名な第4楽章の合唱部分で、「歓喜(フロイデ)」を「自由(フライハイト)」に変えて歌ったというのが伝説になっています。
 そう考えると、マゼールの「この指揮台にバーンスタインが」というのは、「壁を崩壊させよ」というメッセージと重なってくるのです。

 また「指揮者なし」での演奏をするということは、「独裁者なし」の国にせよという意味にも取れますし、逆に「幽霊の指揮」で演奏が可能だとすれば、死んだ金日成やこの場にはいない金正日が動かしている社会を皮肉ったとも取れます。


 更に言えば、この『キャンディード』というオペラの脚本を書いたのはユダヤ系のリベラルな作家リリアン・ヘルマンで、彼女は「赤狩り」のターゲットとして狙われていた人物、その一方でストーリーの内容は世界の「独裁や苦悩」から楽天的な主人公が逃げ回る話、しかも元の原作は啓蒙思想家のヴォルテールというわけで、「意図」を考え始めると三段構えぐらいになっている、そんな、なかなか面白い趣向でした。


 最後の『アリラン』は感動的だったと報じられていますし、楽団員の中に8人いるという韓国系の奏者の中には、演奏しながら泣いてしまった人もいるそうで、ある種エモーショナルな瞬間になりました。

 ただ、本来この曲の持っている心の底から絞り出すようなメロディーの鋭さは消されていて、いかにもアメリカ的にスムースな演奏になっていたので、音楽の趣向としては穏やかな表現に終わっています。
 まあ、これはこれで良かったのかもしれません。


 さて、北朝鮮での公演を終えたメンバーは、引き続きアシアナのチャーター機でソウル入りしていますが、楽団のサイトに出ていた写真入りの記事によれば、仁川ではアシアナの朴CEOが直々に出迎えています。
 アシアナとしては、北朝鮮との融和が進んでこの地域が安定することが、ビジネスの上ではメリットになるのは間違いないでしょう。
 その意味で、今回の北京=平壌=ソウルのフライトは、良い宣伝になったのではないでしょうか。

 さて、そんなわけで「無事」に終わったNYフィルの平壌公演ですが、今のところアメリカでは大きな批判は起きてはいません。
 では、マエストロ・マゼールの言う「両刃の剣」は機能するのでしょうか。

 私が今回の中継映像で興味深かったのは、客席の様子でした。
 オーケストラの直前の良いところに座っている、いわゆるエリート階層の観客は、勿論全員「金日成バッチ」をつけていましたが、栄養状態も良さそうで、しかも堂々としていました。
 それは感情を表に出さない訓練をされている一方で、彼等なりに、一定のルールに基づくゲームを生き抜く才覚を持った人々のように見えました。
 それにしても大判でカラー印刷のプログラムには驚きました。内容は分かりませんが、その豪華さは異様でした。

 この着飾った人々は、仮に「自由の風」が入ってきたとして一気に思想が変わるのでしょうか?
 例えば「自由と人権」を掲げて政府を倒すのでしょうか?
 いや、そうではなくて保身に走って改革を潰しにかかるでしょうか?
 それは分かりません。

 ただ、この客席の様子を見ていると、この人たちは相当な「サバイバル術」を持っていることは間違いなさそうです。
 この国の体制は、一人の独裁者が押さえつけているのではなく、こうしたエリートたちの消極的な支持によって強固なものになっているのでしょう。
 客席の様子を見ていて、改めてそう思いました。

 では、どうすればこの強固な体制は崩せるのでしょうか。
 私は、それはチェコの「ビロード革命」のような穏やかなものでもなく、ルーマニアの「チャウシェスク夫妻の銃殺」のような残虐なものでもなく、正にベルリンの壁崩壊のような「ドラマチックな急展開だが犠牲は最小限」というパターンになるのではないかと思います。
 またそうすべきだと思います。

 一部には、北朝鮮の体制崩壊が起きた瞬間には、中国の人民解放軍が越境して傀儡国家を作るのであって、それは米中の緩衝地帯になる以上、アメリカも支持している、そんな説もあるようです。

 ですが、国際法上では朝鮮戦争では戦争がまだ継続しています。
 そのために韓国には国連軍という名で米軍が駐留しているのです。
 ですから、北朝鮮で争乱が起きたり無政府状態が生じた際には、国連軍がまず秩序の維持と治安回復を行う責任があるのです。

 その際に、無用な混乱を避けるために、その国連軍には中国の人民解放軍も青い帽子をかぶって参加させるべきだと思います。
 その上で旧北朝鮮地区では暫定的な選挙管理政権を作り、国連の監視下で住民投票を行って、韓国への合併か独立(その場合は中国寄りの政権になるという含みも出るのは仕方がないでしょう)かを選択するという手続きになるではないかと思います。

 それ以外の国際法を無視した手続きで中国が傘下に収めたり、逆にそれを力で先回りして米韓が併合したりというような荒っぽい話になるようでは、何のために潘基文氏が国連事務総長をやっているのか分からないことになりますし、東アジア全体の経済もグラグラしてしまうでしょう。

 ところで、体制が崩壊するとなると、過去の人権侵害や他国民の拉致やテロ工作に関して、真相解明と責任追及がようやくではありますが、可能になることを意味しますが、この追及もドイツ方式が参考になるのではないでしょうか。

 私はすでに韓国の統一省はその実務的な案を持っていると思いますし、今回の新政権でもその統一省が存続するようですから実務的には準備が進むのではないかと思います。

 そんなわけで、シナリオは書けるのですが、ではそうした体制の崩壊へ向けて、今回のコンサートは「両刃の剣」の役割を果たしたのでしょうか。
 例えば、この晩の聴衆の中に、東ドイツのホーネッカー体制を崩壊へ導いたエゴン・クレンツのような人物が仮にいたとして、その人物に何かを覚悟させるようなきっかけになったのでしょうか? 余り大きなことは望めないようです。
 特に、プログラムそのものは、もう少し音楽的にパワフルなものにした方が良かったように思います。
 余りにも入門編的な内容であり、演奏もマゼールらしい推進力はあったものの、圧倒的な説得力というほどではなかったからです。

 ただ「千丈の堤も蟻の一穴から」というように、これを機会にアメリカからの情報流入が進み、気がついたら人々が独裁体制の馬鹿馬鹿しさに気づいていた、という一歩にはなったのではないかと思います。その意味で、NYフィル側が北朝鮮国内でのTV生中継にこだわったというのは、実際の視聴率は爆発的なものではなかったかもしれませんが、大事なポイントだったのではないでしょうか。

 東ドイツを崩壊させたのは、強硬策を一切取らなかった(その点は評価すべきでしょうが)クレンツの功績でも何でもなく、ただひたすらに自由を希求した民衆の力だったからです。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わったか』『メジャーリーグの愛され方』。訳書に『チャター』がある。
最新刊『「関係の空気」「場の空気」』(講談社現代新書)
<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061498444/jmm05-22>
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(コメント)
 結局、この文を読んで知る事となったのは「演奏している人」も、「聞いている人」も、「放送している人」も、全員が音楽を「プロパガンダの道具」として捉えて利用していると言う事実です。
 忘れてましたが「この文を配信している人」も「転載しているこの私」もです。
 結局、この演奏会では「一生懸命に演奏した楽団員」が損をしただけだっかのかもしれません。
 
 いえ、最大の被害者は「音楽そのもの」だったようで・・・・・・・・・・・・・・・・・・


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