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FT東京支局長デビッド・ピリング
日本では、誰かを「可愛い餃子ちゃん」とは決して言わない(訳注・英語では「餃子=chinese dumplings」。そして「my little dumpling」とは「かわいい子」の意)。
特に最近は。中国製の冷凍餃子を食べた10人もの人が体調を崩し、1人が重体となって以来、日本メディアは「毒入り餃子」熱にかかってしまった。
問題の餃子を輸入したのは日本たばこ産業(JT)。国が半分以上を所有する特殊会社で、たばこ製造が主業務だ。食品事業へと多角化をねらったところ、ふだん販売している商品よりもはるかに危険な商品にあたってしまったという、あり得ないような話だ。
しかし主に疑われているのは中国。餃子のパッケージからきわめて毒性の高い殺虫剤が検出されたせいで、ただでさえ信用の低い中国の衛生状態や中国企業の組織の有り様が、さらに信頼を失墜させてしまった。
中国に詳しい東京大学の田中明彦教授は「世間的には、今回のことはある意味で、中国社会はうまくいっていないという疑惑の確認につながったことになる」と話す。
反中感情は日本にはびこっている。米世論調査会社ピューリサーチセンターによる最近の世論調査では、日本人の67%が中国を好ましく思っていなかった。1970年代や80年代には、多くの日本人にとって中国は大好きな国のひとつとだったのと対照的だ。歴史家ケネス・パイル氏が指摘するように、今の日本人は中国を「戦争の犠牲者」と見るのではなく、経済的・戦略的なライバルととらえているのだ。
日本国民の対中感情が悪化したのは、意外でもなんでもない。特に1989年の天安門事件の後には、中国の学校はことさらに日本の戦争行為を強調して子供たちに教育。おかげで、親や祖父母たちよりもさらに激しく「日本鬼子」を嫌悪する若い世代が中国に誕生したのだ。中国のサッカースタジアムで数年前、中国の観衆が日本チームに激しい罵声を浴びせたとき、多くの日本人は自分たちもいい加減ブーイングを返さなくてはと決心したのだ。
毒入り餃子が火に油を注いでいる今、日中関係を楽観的に評価するのはおかしいかもしれない。しかし過去15カ月の間に両国政府は、壊れた関係の修復に努力し、そして素晴らしい前進を遂げてきた。今や、何年来とも言える画期的な関係改善の寸前にあるのだ。
東シナ海のガス田共同開発について、両政府は合意目前だと広く言われている。4月に控える胡錦濤・中国国家主席の訪日に間に合うように何らかの合意が得られれば、それは経済的な効果を超えて、政治的な意味合いをもつ。
というのもこの摩擦は、埋蔵量はさほどではないと確認されているガスの問題というよりは、領土の問題だからだ。ガス田の多くは両国の海岸線から計った中間線上にある。日本にとっての問題は、中国政府がこの中間線を認めないこと。認めるどころか中国政府は、中国の排他的経済水域はもっと日本の海岸線寄りだと主張している。この言い分によると、ガスは間違いなく中国のものということになる。
最近まで、議論はそこで止まってしまっていた。しかし外交的な突破口が今や見出せたようなのだ。日本が主張する中間線にも一定の蓋然性があると、中国は受け入れる用意があるかもしれないのだ。
日本の小泉純一郎元首相が東京の靖国神社(中国にとっては憎き日本軍国主義の象徴)を参拝していたほんの数年前まで、両国の首脳はほとんど口もきかない関係にあった。しかし小泉氏の退任を機に、中国政府が「オリーブの枝」を差し出し、日本政府がこれをつかんだのだ。
小泉氏の愛国主義を受け継ぐ安倍晋三前首相でさえ、靖国は参拝しなかった。それをきっかけに様々なハイレベル会合が立て続けに行われた。2006年10月の安倍首相訪中も、日中雪解けのための一里塚だった。さらに親中派として知られる福田康夫首相の就任によって、両国関係はいっそう回復してきた。
そうやって積み上げてきた好意が、ガス田共同開発合意に結実すれば、もう何十年にもわたって危なっかしくうごめいていた懸案事項が一気に解決することになる。戦後に仏独が政治レベルで協力関係を結ぶことに成功した欧州と違い、アジアの2大国は正式に国交回復したものの、本物の友好関係は芽生えていない。冷戦のせいだ。日本では多くの指導者たちが中国と融通し合う実務的・実際的な関係を望んでいたが、冷戦下にあっては米国の顧客国として、それは不可能だった。今になって、きわめて具体的な課題について協力しあうことで両国政府は、経済プロジェクトの名目で政治的な和解を実現することがやっとできるようになった。
大げさに過大評価するのは良くない。アジアで統一通貨が受け入れられるようになるには、何十年もかかる。それでも実現しないかもしれない。しかしガス田共同開発を皮切りに、ほかにも経済プロジェクトの形を借りた様々な協力関係が続くかもしれないし、その中には日本の環境技術の提供も含まれるかもしれない。もし日中両国が歴史的経緯の封印を選ぶなら(なかなかありえなさそうだが)、双方にとってのメリットはたくさんあるのだ。
日本と真当な二国関係が築ければ、中国は平和的な新興国としてイメージがアップする。日本にとっては、中国は日本製品をどんよくに求めている市場だ。日本製の鉄製品、精密機器、そして最近では消費財を中国は強く求めている。今回の毒入り餃子問題でさえ、前向きにとらえることができる。第一に、自分たちの利害は中国人のそれと密接にからみあっているのだと、日本人にはっきり示すことができた。日本が輸入する食料品の約17%は中国からやってくるのだ。
さらに大事なのは、この問題を機になかなか大した「餃子外交」が一気に展開していることだ。中国当局は実に速やかに事実調査に乗り出したし、両国の政治家たちは慎重に発言している。日本側は中国当局者の訪日を受け入れたし、日本当局者も中国の工場を視察している。日本側は、殺虫剤が何者かによって意図的に混入された可能性もあるとまで認めた(だとしたらそれは、中国でも日本でも起こりうる)。
真相がなんであれ、仮に世論やメディアがヒステリー状態になったからといって両国関係が悪化する必要はないのだと、日中両政府は態度で示した。同じように、ガス田開発をめぐるこれまでの論争も、分断ではなく和解のきっかけとすることができるのだ。
http://news.goo.ne.jp/article/ft/world/ft-20080210-01.html