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ネットが支持した“第三の道”
□日本学術振興会特別研究員・高原基彰
韓国大統領選挙から1カ月ほどがたった。今回の選挙で有権者が明確に示したのは、何より経済成長をもたらす指導者が必要であるという世論だった。その中では、現代建設の元社長として伝説の企業人である李明博が、当初から優勢だった。
ハンナラ党に対抗する、進歩的な「民主化勢力」が支持したのは、大統合民主新党の鄭東泳だったが、大差の次点だった。この勢力に近い盧武鉉政権に対する「審判」が下された形となり、進歩陣営は国民の「保守化」に対し危機感を強めている。
ところが単純な「保守化」とも言えないことを示すのが、インターネット上で目立った創造韓国党の文国現の人気である。最終的な支持率は6.1%で4位だったが、各種のオンライン調査では最も支持されていた。ネット新聞大手のオーマイニュースに端を発した人気であり、前回の大統領選に似たネット独自の動きがあったとすれば、これである。
文国現は、柳韓キンバリーの元CEOである。この会社は現代建設のような大企業ではないが、IMF外貨危機の際にも社員を解雇せず、ワークシェアリングを活用して雇用を守ったことで知られる。今回、文国現は著名な経営者出身でありながら、「人中心の経済」というスローガンを掲げ、雇用創出と安全網の整備に力点を置いた公約で、有権者に新鮮な印象を与えた。彼は進歩派の一員だが、旧来のイデオロギー対立とは異なる論理で支持を集めたのである。
ほぼ政治経験のない彼が当選する可能性は、最初から低かった。またネット上で高い支持を得ても、二大候補に数えられなかったことなどにより、文国現の実際の得票は、体感的な人気よりも低かった。しかし、彼が一定の支持を得たことは、成長と分配のバランスをめぐる議論の契機となるだろう。韓国は現在も年4%程度の成長を続けているが、その中でも日本に似た格差拡大と雇用不安が広く実感されているのである。
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【プロフィル】高原基彰
たかはら・もとあき 1976年神奈川県生。東京大学院博士課程単位取得退学、専攻は社会情報学。日本学術振興会特別研究員。グローバル化にともなう日韓中の開発体制の変容を研究。著書に『不安型ナショナリズムの時代』(洋泉社新書)。
http://sankei.jp.msn.com/economy/it/080130/its0801300803001-n2.htm
関連記事:(注:少し前に同じ筆者が書いた記事)
予測不可能な韓国「真の民意」 - MSN産経ニュース
■日本学術振興会特別研究員 高原基彰
韓国はインターネット先進国といわれている。確かに韓国では、日常生活そのものが、すでにネットなしでは成り立たない。
そんな韓国で、目下最大の話題といえば、今年末の大統領選挙だろう。2002年の前回選挙では、若い世代が革新系の盧武鉉現大統領を熱狂的に支持し、ネットをフルに活用して当選にまで導いた。この前回選挙の成り行きも、韓国をネット先進国とするイメージの形成に、一役買っているのではないだろうか。
韓国のマスメディア、特に全国紙は、伝統的に保守色が強い。確かに2002年当時には、「マスコミ対ネット」という対立構図が存在していた。しかしその後、マスコミとネットの融合が進むと同時に、「ネット世論」内部も多元化しつつある。
マスコミとネットの融合は、既存のマスメディアがインターネットを積極的に活用したことによる。新聞社の発信したニュースが人々の目に触れる最大の回路は、すでに新聞そのものではなく、ポータルサイトへの配信ニュースである。そのニュースには掲示板が付いており、人々の活発な議論が行われている。記事の作り手もそれを意識することで、マスコミとネット世論との相互作用が生じている。
また、今回のネット世論は、一般的な支持動向と同じく、保守に好意的である。野党ハンナラ党の李明博候補の圧倒的優位は変わらないものの、革新系の一翼である文国現候補を推す動きが、特にネット上でじわじわ拡大してもいる。
2002年当時は、「悪しき守旧派=保守」のマスコミに対する「真の民意=革新」としてのネット世論という構図が、若い世代を中心に受容されていたが、今回はより多様で流動的である。ひどく固定化していたイデオロギー的保革対立が揺らぐのは歓迎すべきだが、マスコミとも連携を深める「真の民意」というラディカリズムの行方が、まったく予測不可能なのは、恐ろしくもある。
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【プロフィル】高原基彰
たかはら・もとあき 昭和51年神奈川県生。東京大学院博士課程単位取得退学、選考は社会情報学。日本学術振興会特別研究員。グローバル化にともなう日韓中の開発体制の変容を研究。著書に『不安型ナショナリズムの時代』(洋泉社新書)。
http://sankei.jp.msn.com/world/korea/071205/kor0712050834000-n1.htm