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波紋広がる「情報通信部」廃止・韓国新政権のIT政策構想(上)
昨年12月19日、第17代韓国大統領選挙で、保守系野党ハンナラ党のイ・ミョンバク候補が当選した。得票率は48.7%で、26.1%で2位となった大統合民主新党のチョン・ドンヨン候補に約530万票差をつけての圧勝となった。これは1987年大統領直接選挙が復活して以来最大の票差である。国民がイ・ミョンバク政権に期待しているのは何よりも「景気回復」。「経済を生き返らせる」が公約のメーンテーマだっただけに、雇用を増やして庶民の懐にも金が回るようにしてほしいというのが国民の切実な願いだ。
■景気回復への期待高まる
ノ・ムヒョン政権の5年間は期待が大きすぎた分、庶民はがっかりさせられることも多かった。税制改革の結果、不動産価格は急騰。雇用安定のため、パート社員でも2年以上継続雇用した場合は正社員として採用しなくてはならないとする非正規職保護法はかえって企業を圧迫し、1年10カ月で解雇される人々が後を絶たなかった。雇用不安と物価上昇で、所得の格差はますます開いてしまった。
新年の記者会見を行う韓国のイ・ミョンバク次期大統領=14日、ソウル市内〔共同〕
景気は悪くなるばかりで新卒の採用も伸びず、海外でなんとか就職できないものかと国を後にする若者が増える一方、「子供を入試地獄の韓国で育てたくない」「グローバルな人材に育てたい」と小学校から海外留学させる親も増えた。そのような格差と混沌のなか、頼れるリーダーを探していた国民は、保守ハンナラ党の候補であり、前ソウル市長としてソウルを環境都市として活気溢れる街によみがえらせた実績のある「ブルドーザー」イ・ミョンバクを選択した。
2月25日の就任式までイ・ミョンバク候補は「当選人」という地位になり、第17代大統領職引受委員会が中心となって公約を実践するための政府組織改変や政策調整を進めている。
イ・ミョンバク政権の景気回復公約は「李ノミクス」「MBノミクス」などと呼ばれるほど、期待値がぐっとあがっている。規制緩和、自由競争、庶民生活の安定に焦点が当てられている公約は「豊かな国民、温かい社会、強い国を建設し、先進一流国家、国民成功時代を迎える」というキャッチフレーズの下に「7%の経済成長で一人当たり国民所得4万ドル時代を切り開き、世界7大強国になる」という「7・4・7・公約」を筆頭に「3大ビジョン、10大希望、43大課題、92の約束」という数字を並べている。
イ・ミョンバク当選人は経済成長7%に強い自信を持っていて、「これは非現実な目標ではなく、既に専門家を集めて細部を検討し、年度別実行計画まで樹立した政策であり、引受委員会で公約を縮小したり変更したりすることもなく、実践するのみ」と話している。
■省庁のリストラ巡る綱引き始まる
このようなバラ色の経済成長公約に国民の期待は膨らんでいるが、スリムな政府を目指し予算20兆ウォンの節減を命じられた公務員たちは気が気でない様子だ。公務員の人的なリストラは行わないとしているが、18の政府省庁を14―15に減らして予算を評価し、無駄を徹底的に省いていくという原則の下で、引受委員会と各省庁間の組織統廃合をめぐる綱引きが始まっているからだ。
組織の見直しにより廃止が予定されているのは、1月12日時点で女性部、国政広報処、科学技術部、海洋水産部、情報通信部などだ。統一部は廃止の予定だったが、「北朝鮮との統一は国民の宿願である」と反発が大きすぎたため存続させることになった。人事決定の時間も必要なので組織改編の最終決定は1月3週目の予定。2月新政権が始まる前にはすべての準備を終えなくてはならない。
政府組織改編案の大まかな内容は、
・企画予算処、国務調整室、財政経済部を合わせて企画財政部を新設
・財政経済部の金融政策機能を切り離して金融監督委員会と金融監督院と統合
・保健福祉部と女性家族部を統合させ家族福祉部に
・海洋水産部は農林部に吸収し、農水産海洋部に
・国政広報処は文化観光部と統合
・情報通信部は業務内容を分け、行政自治部と産業資源部、文化観光部に吸収
・産業資源部は科学技術部と情報通信部の一部機能を取り込んで経済産業部に再編
・文化観光部は情報通信部のコンテンツ政策と国政広報の機能を合わせて文化観光広報部に拡大
となる。この政府組織改編案のなかで何より論争になっているのは、韓国をIT強国としてIMF経済危機から救ってくれた「情報通信部」を廃止していいのだろうかという点だ。
■インフラから活用へ・情報通信部廃止論
イ・ミョンバク当選人のIT政策のキーワードは「デジタル融合」である。1月5日に行われた情報通信部・郵政事業本部の業務報告で、引受委員会は以下のように説明して情報通信部廃止を切り出した。
「93年に情報通信部が設立され、韓国の経済発展に多大な貢献をしたのは確かだが、情報通信の規制が厳しいために通信費が高止まりし、IPTVや新技術がなかなか普及しないといった制度的問題もあった。これからは融合の時代であり、情報通信部が独自にできることより、ほかの省庁と協力しなければならない部分の方がもっと大きい。ノ・ムヒョン政権が推進してきたIT839政策も見直さなければならない」
政府の規模は縮小、規制は緩和、あまった政府予算は有望な核心事業に投資して積極的に育成することで企業の投資を促進。現在4%台の経済成長率を7%に引き上げ、毎年60万人、5年で300万人以上の新たな雇用を生み、青年失業を4%に抑えるというのが次期政権の究極の目標である。
雇用の増加は設備投資が少ないソフトウエア・メディアコンテンツ産業を中核としている。したがって、情報通信部を廃止するのはITに関心がないからではなく、IT政策をインフラの普及促進からITと異業種の「融合」として拡大させるためというのが、イ・ミョンバク当選人の主張だ。
引受委員会は2003年から韓国IT産業の基本政策であった「IT839」に批判的で、「情報通信部は見栄えのいい立派な政策を打ち立てたのはよいが、結局目標を達成できず空回りした。目標を達成するために企業に無理やり投資をさせた部分もある。2007年までに27万人雇用とうたいながら4万人ほどしか新規雇用できなかった。ソフトウエア開発やIT人材に対する待遇も悪くなるばかりだった」と分析している。
例えば無線通信規格の「Wibro」にしても「国際標準に採択され情報通信部は自分たちの成果だと自賛しているが、市場ではサービスのカバレッジが狭すぎることからユーザー数が伸びないでいる」と辛口だ。確かにWibroは韓国発の世界標準だが、通信事業者のKTはユーザーが増えたらカバレッジを広げると言い、ユーザーはカバレッジが広がったら加入すると言っているお見合い状態が続く。無線タグ(RFID)も技術面では世界最高と自負しているが、一部大手企業の物流システムに導入されただけで、一般国民が肌で感じるほどのものでもない。
次期政権のIT政策は、インフラや基盤技術をいつまでに開発するといったレベルではなく、今まで築いてきたインフラを最大限活用し、医療・教育・交通・建設・環境などの異業種とデジタルを融合させ社会発展モデルを作るため、ソフトウエアとコンテンツ産業を育成することに的を絞るとしている。イ・ミョンバク当選人が強調しているのはデジタルインフラよりは活用、ハードウエアよりはソフトウエアとコンテンツ、そしてITに基盤を置く新事業やITと他産業の融合により中小企業を育てることにある。
■IT関連法案の行方は?
情報通信部はITとメディア、コンテンツ分野の政策を総括する「情報文化メディア部」の設置を提案したが、引受委員会は情報技術育成に関しては産業資源部、コンテンツ関連は文化観光部、電子政府関連は行政自治部に移管するとの方針を崩さない。そのため情報通信部はIPTV、Wibroといった新規サービスの活性化で雇用を促進し、「U-City構築」などの大規模プロジェクトを通じて2012年までに革新型中小企業1万社設立、雇用50万人増加をめざす計画などをアピールし組織廃止を食い止めようと必死になっている。
郵政に関しては「日本の小泉改革の象徴が郵政であったように、韓国でも郵政の改革が必要だ。2012年より前倒しで民営化するように」という注文を出している。
情報通信部が廃止されれば、何よりもやっとサービスのめどがたったIPTVは宙に浮いてしまう可能性がある。2007年12月、やっとの思いで国会を通過したIPTV法や施行令制定はどうなるのか。情報通信部がなくなれば、国会に提出された情報通信部と放送委員会の機能を一つにした放送と通信の融合を管轄する放送通信委員会を作るという統合機構法案は自動的に廃棄され、放送と通信の融合に関しては原点に戻り再検討を始めなければならない。
統合機構がなければIPTVの技術標準、利用者保護などを規定する施行令の作成を担当する部門がない。現在IPTV法では統合機構が設立されるまで、情報通信部と放送委員会がIPTVに関する権限を持つ、という規定になっているが、情報通信部がなくなればこの規定も変えなくてはならない。
通信業界は「地上波放送のIP経由同時再送信が決定し、2008年8月から本格的にIPTVを始めようとした矢先、主管組織である情報通信部が廃止されるとは信じられない。通信業界はIPTVにかなりの資金を投資してきた。これでまたサービス開始が遅れることになってしまっては損失が大きすぎる。2008年上半期内には何とか統合機構が決まるといいが…」と不安と混乱で大騒ぎになっている。
もちろん「情報通信部があったからこそ通信産業もITベンチャーも成長できた。情報通信部は負の面よりプラスの方が多いのに、効率ばかり追いかけて大丈夫なの?」といった反対意見もある。ITベンチャー企業連合会は「業界が望むスリムな政府は省庁の数を減らすことより規制と行政手続きを減らすことである。特徴あるIT産業政策を打ち出すための機構改編でなければならない」と要望している。
何でそこまで無理に組織を統廃合しなくてはならないのか。「これこそまさに、見栄ばかりの政府ではないか」と反発する業界関係者も多いのである。(下に続く)
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT13000015012008
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※コメント:
ここでいうIPTVとは日本の「ギャオ」のような「ネット放送」とは違うので要注意。