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最大野党ハンナラ党の李明博(イ・ミョンバク)候補(65)が40%以上の支持率を維持し、独走態勢の韓国大統領選挙戦。投票日は12月19日と目前に迫る。
李明博氏を追うのは、盧武鉉政権を引き継ぐ与党系の大統合民主新党から出た鄭東泳(チョン・ドンヨン)候補(54)と、ハンナラ党を離党し無所属で立候補した保守本流の李会昌(イ・フェチャン)候補(72)の2人だ。
最も有力視されている李明博氏は保守のハンナラ党候補だが、経済成長に手腕を発揮してくれるだろうという期待が大きく、左右を越えて支持が集まっている。
街中に各陣営の横断幕が張り出され選挙前の雰囲気をつくっているが、前回選挙ほどの盛り上がりはないようだ。
李明博氏は大阪市出身。戦後韓国に引き揚げ、貧乏な家庭で育った。高麗大学時代には、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の軍事独裁に反対するデモを学生会長として率い、逮捕されている。その後、韓国最大の財閥・現代グループ内の中小企業、現代建設に入社、アパート団地を造成して会社を急成長させ、若くして社長、会長にまで上りつめた。叩き上げの経歴は、韓国の「サラリーマン神話」と呼ばれる。
この後政界入りし、ソウル市長時代には市中心部で暗渠と高架道路に覆われていた清渓川というドブ川を復元させる大工事を強行し、川を人気観光地にした(おもな関連記事:日韓国際環境賞・おもな関連サイト:清渓川・ソウル市)。これらの経歴から経済政策に評価が高く、支持者も盧武鉉政権の5年間で貧富の格差が拡大した経済の建て直しに期待している。支持基盤は慶尚道とソウルだ。キャッチフレーズは「実践する経済大統領」。
ただ、ハンナラ党という軍事独裁政権の流れを汲む党にあって、李明博氏はリベラル色が強く、真の保守を自認する党員や、大統領候補を選ぶ党内選挙で李明博氏に破れた朴槿恵(パク・クネ、朴正煕の娘)氏一派の動向も心配されている。
株式不正操作などの疑惑(BBK事件)がささやかれていたが、検察が関与していないという捜査結果を出した。しかし与党側は捜査結果に疑問を呈しており、李明博氏にはブラックなイメージも付きまとう。
盧武鉉政権を受け継ぐ与党系の大統合民主新党の鄭東泳候補は全羅北道出身、ソウル大卒。テレビキャスターを経て当時のヨルリン・ウリ党から政界入りし、盧武鉉政権下で統一相を務め、金正日総書記との電撃面談などを果たす。北朝鮮の開城工業団地を軌道に乗せた。キャッチフレーズは「家族が幸福な国」。
その他与党系からは、創造韓国党から文国現(ムン・グッキョン)氏、民主党から李仁斉(イ・インジェ)氏などが出て分裂している。
無所属の李会昌候補は黄海北道(現北朝鮮)出身、ソウル大卒。最高裁判事や金泳三政権の首相を経たエリートだ。過去2回の大統領選挙に出馬しどちらも惜敗した。今回は、李明博氏がBBK事件で与党や検察から追及されたことを受けて、ハンナラ党を飛び出して突然3度目の出馬を表明。保守を分裂させた。
李明博氏の疑惑は結局、検察によってシロとされたが、出馬を取りやめず10%後半の支持率を保っている。主な地盤は慶尚道、忠清道。キャッチフレーズは「きちんとした大韓民国」。
国中に張り出された選挙ポスター。12人が乱立している。
3氏が中心となった選挙戦を、韓国政治に詳しい延世(ヨンセ)大学政治学科博士課程の緒方義広さんと展望した。(敬称略)
角南:
李明博は保守のハンナラから出ているが、彼を知れば知るほど、保守とは違う気がする。北朝鮮に対しても強硬姿勢は出していない。
緒方:
確かに。朴槿恵は保守のイメージにぴったりだったが、李明博はそれほどのイメージはなく、生粋のハンナラ支持者には物足りないかもしれない。保守を分裂させてまで李会昌が立候補して歓迎されたのは、そういう背景がある。それでも李明博が候補になれたのは、保守対進歩というイデオロギー図式が薄まっているからではないか。
角南:
そう言えば民主新党の鄭東泳は盧武鉉政権の後継者だが、「左」や「進歩」というイメージはない。「家族が幸福な国」というキャッチフレーズも家族主義を助長するようで微妙だ。
緒方:
保守の李会昌も前回の選挙では強硬なことを喋っていたのに、今回は結構ソフトなことを主張している。ただ歳をとっただけなのかもしれないが、やはり保守対進歩という構造が崩れているんだろう。
その中でも保守本流の受け皿となっている李会昌は、選挙後に新党を結成するそうだ。もしかしたら朴槿恵も加わるかも。そうなると李明博は当選した後の地盤が弱くなる。
角南:
李会昌らは保守の再構成を求めているようだが、大部分の国民はイデオロギー対立から遠ざかりつつあるのだろうか。
緒方:
今までの民主と独裁という国民を2分する対立軸がなくなり、どの候補も経済成長など似たり寄ったりの主張をしている。対北政策も対日政策もそれほど差異がない。
盧武鉉政権は歴史清算までやり、韓国は革新政権ができるほどの国になった。これからは誰が大統領になっても民主政権であることは変わらない。社会の成熟とも言える。
角南:
ところで進歩系・与党系の分裂・統合にはあきれる。民主新党など与党系の動きはどうか。
緒方:
それこそ日本の某政党のように節操がない。盧武鉉の不人気もあり、全体的に支持は低い。鄭東泳は地盤の全羅道でも支持が高くない。
進歩勢力というのは元々、民主化運動のため逮捕歴があるような人々が本流だが、彼にはそういう経歴もなく、経済立て直しを求める国民に、鄭東泳はすべての面で中途半端だ。
そういう意味で、創造韓国党の文国現が注目された。企業家出身で経済に明るく、活発に市民運動もしているので与党系の受け皿になっていた。鄭東泳と文国現の候補統一化が実現すれば少しは勢力図が変わるだろうが、統一化は難しいようだ。
角南:
それにしても、みんな経済、経済と言って今回の大統領選挙のテーマが「経済の立て直し」になってしまっているが、成長を続ける韓国経済のどこが問題なのか。韓国は経済大国だろう。格差拡大というが、それは盧武鉉政権のせいではなく、世界的な流れではないのか。メディアの誘導を感じる。
緒方:
もっとバランスの取れた選挙戦が必要なのだが、日本のように郵政民営化だけが選挙の争点になるように、韓国でも経済だけが争点になってしまった。格差が拡大したのは確かに盧武鉉だけの責任ではなく、金大中以前の開発独裁のツケが回ってきたという面もある。格差拡大は資本主義国家が常に抱えている問題だ。
角南:
なるほど。盧武鉉政権には期待が大きかった分、失望も大きかったが、この5年は現代韓国が求めていた時代だったのかもしれない。
このままでは李明博が次期大統領になりそうだが、対北政策と対日政策はどうなるだろうか。
緒方:
太陽政策は少し変わるだろう。一応は対決姿勢を見せるだろうが、実質的な対決ができる時代ではない。保守系の大統領としては難しい立場に立たされる。北に強硬な姿勢が見せられなければ、それを不満に思う保守本流が離反する可能性もある。既に李会昌は新党をつくる構想を話しており、朴槿恵らがハンナラ党を出て合流する可能性もある。
対日政策は大きくは変わらない。親日派の流れを汲むハンナラ党といえども、対日政策も対北政策も、政権によって大きな違いが出る時代ではなくなっている。
今回の選挙から保守対進歩というイデオロギー対立がほとんど消えかかり、経済不安という「作られた」テーマが最大の争点となっているようだ。消えかかったと言っても、分断国家・韓国の保守陣営には反共軍事独裁の血塗られた歴史があるし、進歩陣営には民主化運動の系譜があり、他の国の保守対革新の消滅と内実は同様ではない。
南北統一への歩みは、スピードダウンはあっても逆戻りすることはないだろう。10年間の「民主化政権」を経た韓国で、新しく保守政権が生まれた場合、どのように評価されるかはまだ未知数だ。
http://www.news.janjan.jp/world/0712/0712130164/1.php