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核に無知な日本人に贈る基礎知識 =江畑謙介 [中央公論]
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投稿者 white 日時 2006 年 12 月 15 日 17:08:41: QYBiAyr6jr5Ac
 

□核に無知な日本人に贈る基礎知識 =江畑謙介 [中央公論]

▽核に無知な日本人に贈る基礎知識 =江畑謙介(その1)

 http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20061215-01-0501.html

2006年12月15日
核に無知な日本人に贈る基礎知識 =江畑謙介(その1)
ルールは変わった。日本は否応なしに核ゲームの中に放り込まれた。持つ、持たないにかかわらず、独自の核兵器研究がなければ、有効な対策を打ち出すことはできない

ルビコン川を越えた北朝鮮
 平壌が核実験を行い、それを世界に宣言したことで、北朝鮮の核兵器保有を巡る外交、安全保障(軍事)の環境は、これまでと全く異なる次元の領域に突入した。
 外交分野では六ヵ国協議の(表向きの)目的が違ってくる。六ヵ国協議は元来、北朝鮮に核兵器を持たせないためのものであり、プルトニウム生産の効率が悪い軽水炉を提供するなどの方策が採られてきた。だが北朝鮮が核兵器を持ったとなれば、以後は(同協議が存続するとして)核兵器を放棄させ、それが明確に検証できる手段の構築を図っていかねばならない。だが、正直言って、その実現性は小さい。
 安全保障・軍事の面では今後、平壌が核兵器を使用する可能性の下にすべてを考えねばならなくなる。北朝鮮が核実験を宣言し、それを行った点が重要で、実験が失敗したか否かは大きな問題ではない。
 北朝鮮が既に核兵器を持っているのではという疑惑は、以前から安全保障・軍事関係者の間では囁かれてきた。一九九八年のパキスタン連続核実験の際に、北朝鮮が自国製の「核爆発装置」の実験を行ったのではという疑念がある。この実験の成否に関しては議論があるのだが、パキスタンは今後しばらくは核実験を行わないだろうから、北朝鮮は、もうパキスタンでの実験はできない。
 パキスタンもインドも、短期間に一連の爆発実験を行って実質的核保有国としての地位を世界に認めさせ、各種爆発方式の確認やシミュレーションによる改良、核弾頭の維持管理などに必要な最小限のデータを取得して、後は国際社会の非難が収まるのを待つという目的での実験だったと推測されるからである。
 したがって、北朝鮮は自国内で核実験を行わねばならず、実験の開始は技術的に非常に大きな意味を持つ。たとえ国内初の核実験が設計どおりの核爆発を起こさなかった、つまり失敗したとしても、原因を推測し、改良を加えていけば、いつかは必ず成功する。技術とはそういうもので、設計だけ理論計算だけで、実験をしなければ、果たして本当に目的どおりに作動するのか、予定の性能を発揮するのか分からない。そんなものは実用には供しえない。そのため周辺国は脅威と感じず、平壌が意図する「核抑止力」は発揮しない。 
 核爆発装置(爆弾、弾頭)にはいろいろな方式がある。どれが自国の軍事的要求に最も適しているか(所期の性能を発揮するか)を調べるには、実際に爆発させてみないと分からない。
 コンピュータ・シミュレーションで、と簡単に言うが、シミュレーションには相当な量の現実データの蓄積(データベース)が必要とされる。北朝鮮にデータを提供してくれる国があるとは思えない。だが、実験を繰り返せばデータは取れるし、各種の爆発方式の実用化もできる。弾道ミサイルに搭載できる小型軽量型もいつかは完成する。
 平壌はそれぞれの実験に当たっては、外交上、最も効果的と考えられる機会を狙って行うだろう。北朝鮮が現在どのくらいのプルトニウムや濃縮ウランを保有しているか分からないが、兵器級(高純度、高濃縮度)核分裂物質がある限り実験を行える。核分裂物質をどれだけ持っているかを世界が知らないという現実は北朝鮮にとっては好都合で、実際は使い切っていても、実戦用の核兵器を持っているのではという疑惑を拭いきれない。それは北朝鮮が実質的に核兵器保有国であることを意味する。

時間は北朝鮮の味方
 ここから今後の世界は、北朝鮮を核兵器保有国であるとして(彼らはそれを使う可能性があるとして)付き合って行かねばならない。「北朝鮮は遠からず崩壊する」と予言する人も少なくない。「崩壊論」はもう二〇年以上前から言われてきているのだが、具体的にどんな形で「崩壊」が起こるのか、現実的で具体的なシナリオを提示できる人は誰もいない。金正日一族の国外逃亡、軍によるクーデター、国民の反体制蜂起(革命)、いろいろなシナリオは考えられても、どの可能性が高いかとなると誰にも分からない。
 飢饉・食糧不足により、一〇〇万とも三〇〇万とも推測されている数の国民(北朝鮮の人口は二二七〇万)が餓死しても体制は揺るがなかった。軍は「先軍主義」で物と金を最優先してくれる限り、金体制を戴いている方が得である。経済制裁などで物と金が回ってこなくなったとしても、クーデターで政権を取ったところで、飢えた二三〇〇万人の人民を食べさせていく責任がのし掛かってくる。その人民はこれまで一三パーセントが餓死しても、政権に対して暴動を起こすことはしなかった。金正日総書記・国防委員長の後継が誰になるか分からないが、金体制は今後も継続する可能性が高いと考えるのが現実的であろう。
 北朝鮮の周辺諸国も、どんな経緯にせよ、北朝鮮が崩壊しては困る。大量の難民が押し寄せる可能性だけではなく、中国は米国の息のかかった統一朝鮮(米国経済圏に入らなければ生き残れない)の民主主義体制と川一本で接することになる。ロシアは日本と統一朝鮮で太平洋への出口を完全に塞がれる。韓国は飢えた(大変な経済格差がある)同胞を抱え込むことになる。これらの周辺国が北朝鮮の崩壊を恐れる理由は理解できる。
 結局、少なくとも安全保障の見地からは、北朝鮮は核兵器保有国として存在し続けるとして対応戦略を考えねばならない。一方、体制の崩壊さえなければ、時間は北朝鮮に味方する。時間が経てばプルトニウムの量は確実に増える。二〇〇三年に建設を再開したと推測される寧辺の熱出力二〇〇メガワット黒鉛減速炉が完成すれば(早ければ今年か来年早々)、年間四〇〜五五キログラムのプルトニウムが生まれる。核爆発を起こすために最小限必要とされる量をIAEA(国際原子力機関)がいう六〜九キログラムとするなら、毎年四〜九発分のプルトニウムが生産され、八〇年代末から稼働している二五メガワット実験炉と同様に一回の核燃料での運転期間を二年とすると、二年ごとに核爆弾(弾頭)八〜一八発分のプルトニウムが得られる計算になる。実験炉での生産分を加えると、二年で一二〜二四発分程度の生産が可能になる。
 さらに、北朝鮮はウラン濃縮を行っていると認めている。
 核の闇市場を作ったパキスタンのカーン博士は、九〇年代後半から北朝鮮にウラン濃縮技術を提供したと発言した。北朝鮮が現在どの程度の濃縮を行っているのかは分からない。原子炉と違ってウラン濃縮は地下やトンネル施設でもできるので、どこで行われているのかということすら分からない。カーン博士の言葉を信じるなら、既に一〇年以上経過しているから、相当量の濃縮が行われていても不思議ではない。ウラン濃縮技術も時間が経てば、いずれは実用化できる。
 つまり、時間は北朝鮮に有利である。核爆弾、核弾頭を五〇発も持っていると推測される状況になったなら、北朝鮮は押しも押されもせぬ核保有国である(と世界は認めざるを得ない)。イスラエルは一〇〇〜二〇〇発の核兵器(爆弾、弾頭)を保有していると推測され、その運搬手段(航空機、弾道ミサイル、巡航ミサイル)も持っているため、イランを除けば、イスラエルを攻撃して「地図の上から抹消」しようと考える周辺諸国はなくなってしまった。
 
(その2)へ続く


▽核に無知な日本人に贈る基礎知識 =江畑謙介(その2)

 http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20061215-02-0501.html

2006年12月15日
核に無知な日本人に贈る基礎知識 =江畑謙介(その2)

弾道ミサイル防衛と米国の核の傘の信頼度
「核兵器保有国」北朝鮮とは正規の外交関係がなく、それどころか拉致問題を始めとしてほとんど敵対的な関係にある日本には、安全保障上どのような選択肢があるのだろうか。 
 幸いにも北朝鮮の空軍力は極めて旧式で、また空中給油能力もないから、核爆弾を抱えた北朝鮮空軍機による脅威はほとんどない。もちろん、片道特攻の奇襲攻撃なら一回は成功する可能性があるが、反復攻撃はできない。航空自衛隊が警戒態勢を敷けば、まずその防空網は突破できないだろう。貨物船などに搭載して港で爆発させるという方法は、成功しても被害はほぼその港だけに限定されるから、軍事戦略的な効果は少ない。現在のように北朝鮮からの船の入港を禁止しているなら、この方法は実施できなくなる。
 北朝鮮の核攻撃手段で最も効果的、それゆえ日本にとって怖いのは弾道ミサイルである。現時点で北朝鮮の核兵器が、弾道ミサイルに搭載できるほどの大きさと重さであるかについては、それを推測する手がかりが全くないが、前述のように実験を繰り返していけば、いつかは必ず小型軽量型が開発できる。日本を射程に収める北朝鮮の弾道ミサイルが、まともに飛ぶ信頼性の高いものである事実は、七月五日の発射で実証された。命中精度は分からないが、核弾頭なら高い命中精度である必要はない。
 北朝鮮が(日本にも届くような)巡航ミサイルの開発を進めているのではという推測はあるが、巡航ミサイルをまともに飛ばすためにはスカッドやノドンとは比較にならない高い技術が必要で、それを北朝鮮が実用化できる可能性は「当面」ない(要するに、時間の尺度の問題であるが)。
 弾道ミサイルの脅威に対抗する「防衛的手段」には、現在のところ米国が開発している(一部日米共同で研究開発が行われている)弾道ミサイル防衛(BMD)システムしかない。非常な高速で落下してくる小さな(核)弾頭を「無力化する」というのは大変に難しい技術であり、また高額の経費がかかるのだが、これ以外に方法がないという現実は重い。核兵器の技術と同じで、BMDも開発と実験を繰り返していけば、必ず迎撃率(防衛効率)は改善されていく。実際、最近、米国のBMD実験は「よく当たる」ようになった。 
 高価な点を批判する声もあるが、その批判は、ではBMD以外により安価で効果的で、国民が北朝鮮の核ミサイルに怯えずに済むどんな方法があるのかを提示していない。将来には弾道ミサイル迎撃の方法として、現在の迎撃ミサイルに頼る方法に加えて、地上や航空機、あるいは衛星から発射する強力なレーザーなどの新しい技術も実用化される可能性があるが、そのとき初めて、どれが最も効果的なのか、「費用対効果」を論じる余地が生まれる。
 とはいえ、現在のBMDでは心もとない。航空機による片道攻撃でも、たとえ一回でも成功すれば日本の都市一つが消えることになり、その打撃は計り知れない。港で貨物船が核爆発を起こしても港湾都市一つが消えてしまう。そんな被害に日本は耐えられない、一発でも日本で核兵器が爆発しないような方策を講じなければならない、と考える人もあるだろう。
 実は他国にこう思ってくれる人がいるだけで、北朝鮮としては核兵器を持つ意味があるのだが、国民に「核攻撃の恐怖」を無視せよというのもまた無理な話である。
 そこで、日本も核兵器を保有して相手(北朝鮮)と同じ力を持ち、攻撃してきたらやり返すという状態を作り出して、相手に核攻撃をさせないという「核抑止論」が生まれる。重要なのは、「相手が核攻撃を思いとどまる」という点であって、一発でも日本で核兵器が爆発してしまえば、元も子もない。ここから、「核抑止は機能するか」という問題が生まれてくる。
 日本はこれまで(核兵器廃絶を謳いながら)米国の核抑止力、すなわち「核の傘」に依存してきた。日本に核攻撃があったら、米国が攻撃してきた相手に報復の核攻撃を加えてくれるという(言葉による)保障で、日本に対して核攻撃をしようとする国が現れない(だろう)とする理論である。十月十八日に来日したライス米国務長官は、日本政府首脳に対して米国の核の傘による抑止力が依然有効であると保証した。しかし、北朝鮮が本当に米国による核攻撃(の可能性)を恐れて、日本に核の脅しをかけてこないものか、もちろん、誰にも断言はできない。
 東京に核弾頭が落ちてくれば、確実に日本の政治・経済体制は破壊されて機能しなくなるが、北朝鮮は国家主要幹部が退避できる地下施設を持っていると推測される。おびただしい地下施設、トンネルの存在がそれを裏付ける。さらに日本の都市が一つ消えたとして、それで米国はロサンゼルスが消えるのを覚悟で北朝鮮に核攻撃をするだろうかという点には、常に一抹の疑念が残る。日本がいくら核兵器を持ちませんと公言しても、米国を始めとする世界が「日本の核武装疑惑」を払拭できないのと同じことである。冷戦時代、欧州NATO(北大西洋条約機構)加盟国では常にこの疑問が提起されていた。
 確かに一九五〇〜八〇年代には、米ソの間で熱い戦争は起こらなかった。だが、それは米ソ両国が互いに突きつけていた膨大な核兵器の破壊力による恐怖のためであったのかについては、つまり、核抑止力が本当に機能していたのかについては、未だに議論がある。特に北朝鮮のように、これまで、国際常識を逸脱した言動を繰り返してきた国が、核抑止力を「尊重するか」については不確実性が大きい。
 
(その3)へ続く


▽核に無知な日本人に贈る基礎知識 =江畑謙介(その3)

 http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20061215-03-0501.html

2006年12月15日
核に無知な日本人に贈る基礎知識 =江畑謙介(その3)

日本独自の核・非核抑止手段の現実性
 その不確実性があっても日本独自の核兵器を持つべきだとする考え方もある。技術的には日本は核兵器を短時間で持てる可能性が大きい。核爆発(核分裂型の原爆と、原爆の高温を利用して核融合を起こさせる水爆とがある)の原理や構造はかなり公開されているので、それを実際のものにするには大きな障害はない(小型化や効率を高めるにはいろいろな工夫が必要になるが)。核分裂物質のプルトニウム239やウラン235は既に日本にあるし、核兵器に使うために純度や濃縮度を高めるのはそれほど難しいものではない。その施設は既に日本にある。その気になれば半年もあれば造れるという推測は誇張ではないだろう。
 しかし、物理的障害や政治的な問題もある。技術的な詳しい説明は省略するが、広島に落とされた原爆の起爆方式(ガン・バレル=砲身型)はウランしか使えず、しかも大量に必要で、小型化も難しいから、爆弾にせよミサイルの弾頭にせよ起爆方式にはあまり適さない(核砲弾のような例外はあるが)。小型軽量化や核分裂物質の効率的利用を狙うなら、長崎に使われた原爆の起爆方式(インプロージョン=爆縮型)にするのが一般的である。
 ところがこの方式はかなり複雑で、理論計算から実際の製造技術など不確実要素が多い。そこで爆発実験をしてみないと、実際に核分裂の連鎖反応(核爆発)が起こるのか、所期の爆発力が得られるのか、などが分からないのだが、日本には核実験ができる場所がない。これだけ活断層だらけの日本で、国民に不安を与えずに核実験を行える場所があるだろうか。
 政治的には、日本が核武装に走れば、少なくとも近い将来の話で言えば、日本は世界に背を向けることになる。米国が日本の核武装を許さないのは明白である。核兵器を造ろうとするなら日本はNPT(核拡散防止条約)から脱退し、IAEAによる保障措置(核の不正利用監視査察制度)を拒絶する必要がある。北朝鮮やイラクのフセイン政権が行ったのと同じことをせねばならない。それで一億三〇〇〇万人の国民の生活を保障できるだろうか。日本が核兵器を保有できるのは、世界の多くの国々がほとんど「当たり前の兵器」として核兵器を保有するような状態になった時だろう。そうなれば、フランスやイギリスのように、海外に「核実験場」を求めることができるかもしれない。
 では、核兵器ではなく通常兵器で北朝鮮に一矢報いる方法はないだろうか。北朝鮮のミサイル連続発射時にも出た議論である。これには北朝鮮の(核)ミサイルに対するものと、それ以外の政治中枢や軍事施設、経済インフラなどに対する攻撃とがある。
 北朝鮮の核ミサイルに対する(それが発射される前の)攻撃がいかに困難であるかについては、以前に本誌(本年九月号)で解説したので省略する。結論だけを書けば、北朝鮮の核ミサイルを発射前に破壊するのは不可能に近いどころか、発射準備すら探知するのは難しい。
 核ミサイル以外の目標に対する攻撃では、北朝鮮に「それだけの被害を受けたら、とても日本に対する核攻撃は引き合わない」と思わせるだけの打撃を与えられるものでなければならない。東京が消されたからといって、平壌の金日成像を破壊するだけでは、単に少し溜飲を下げるだけで、本来の目的である「抑止力」は発揮されない。通常兵器(弾頭)で、北朝鮮の軍事施設や経済インフラに大きな打撃を与えるには膨大な数(のミサイルや爆弾)が必要になる。第二次世界大戦末期、ドイツはイギリスに一〇五〇発のV2弾道ミサイルを撃ち込んだが、その通常型一トン弾頭で命を落とした人数は、たかだか五〇〇〇人でしかなかった。
 北朝鮮の政治や戦闘指揮中枢(司令部機構)を狙って攻撃するという方法は、高度のインテリジェンス能力と先制攻撃が必要になる。指揮中枢の人間がそこにいるという情報をリアルタイムで掴み、相手に逃げられないように奇襲的に、すなわち先制的に攻撃せねばならない。事態が緊迫化してしまってからでは、北朝鮮の政治、軍事の要人は地下司令部に退避してしまうだろう。そうなると核兵器を使わない限り、通常弾頭ではどうやっても破壊できない。
 それ以前の話として、その「秘密の地下司令部」の位置を正確に把握し、そこに目標の要人がいるという事実を確実に把握できなければならない。

日本は核兵器の研究を
 結局、世界が北朝鮮に核兵器を放棄させることが(経済制裁にせよ軍事制裁にせよ)できないのであれば、日本は核兵器を持つ北朝鮮と共存していくことを覚悟せねばならない。予見できる将来、そのための方策は弾道ミサイル(将来は巡航ミサイル)防衛態勢を固め、その何パーセントかの迎撃可能性に期待するしか方策がないように思われる。
 北朝鮮が核兵器放棄に応じたなら、完全に核兵器開発能力がなくなったことが確認できなければならない。この分野で日本は本来なら主導的役割を果たすべきなのだが、その知識、能力は日本にはない。日本は「唯一の被爆国」として核廃絶を世界に謳いながら、核兵器そのものに対する研究を全く忌避してきた。そのため核廃絶の現実的で具体的な方策を提示できず、ただ「世界に核廃絶を訴える」精神論しか持ちえなかった。核兵器とはどんなもので、どんな技術が必要で、どうして核実験が必要で、どんな証拠が得られるなら、どんな核兵器が使用されて、どのような威力であったのかなどが全く分からない。
 北朝鮮の最初の核爆発の直後から、米国だけでなく日本も大気サンプルをとって、その塵から核爆発によって生じる特有の物質の検出をしようとした。ところが米国はその証拠を捉えたが、日本は検出できなかった。核爆発が小さくて失敗に終わったから大気中に漏れ出した放射性同位元素の量も少なくて捕捉できなかったと言えなくもないが、米国ができて日本ができないという理由としては説得力が小さい。日本には核実験を行った時にどのような物質が生まれ、どんな物質がどれだけの割合で検出されたら、どのような形の(設計の)核爆発装置だったのかを推定する知識がほとんどない。
 こうした知識には、実際に核実験を行った国でなければ得られないものもあるが、公開されている「核実験の常識」も多い。日本は、そのような知識どころか、前述の広島型起爆方式はウランしか使えない、長崎型起爆方式はプルトニウムもウランも使えるという基本的知識すらない政府、マスコミ関係者が多い。
 核拡散防止のために主要先進国(大量破壊兵器関連技術移転管理機構:NSG)は、核兵器開発に応用できる材料や技術(たとえば三次元精密測定装置や周波数測定器など)の移転(輸出)を規制している。
 NSGの会合で核兵器保有国は、たとえば、これまで一〇ミクロン以下の加工精度を持つ工作機械の輸出を規制してきた。が、今度は七ミクロン以下にしようと提案があっても、どうして一〇ミクロンはよくて七ミクロンはだめなのか、核兵器を造っていない日本のような国には分からないから、それに従うしかない。うがって考えれば、世界市場を席巻している日本の工作機械の輸出を制限するための理由付けにされているのでは、という疑問も生じる。
 実際に核兵器開発と核実験を行わずに、核兵器開発生産に必要な技術や情報を完全に得ることはできないが、公刊資料だけでも相当な情報が得られる。研究をオープンな形で行えば、世界の疑惑、懸念を招かずに済むであろう。何らかの現実的で具体的な政策を打ち出すためには、まずその問題についての知識がなければならない。
 前述の日本核武装論についても、一体どれだけ現実を踏まえた議論が国会やメディア上で行われてきたか。ただ核兵器はいかん、議論することすらだめだ、知識を持つのも悪だ、というのがこれまでの日本の姿勢ではなかったか。それはあたかもダチョウが地面の穴に首を突っ込んで、ただひたすら厄災が通り過ぎるのを待つかのごとき状況である。有事法制もそれを定めなければ日本が非常事態にならないかのような反対論が展開された。日本が本当に核廃絶を望むなら、核兵器の実体を研究し、現実的で具体的な方策を世界に提示すべきだろう。
 
(えばたけんすけ=拓殖大学海外事情研究所客員教授、軍事評論家)

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