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□住民投票で読み解く 米中間選挙 [東京新聞]
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20061116/mng_____tokuho__000.shtml
住民投票で読み解く 米中間選挙
『宗教的保守後退せず』
今月七日の米中間選挙で共和党が大敗した。直接の敗因は泥沼のイラク情勢だが、一昨年の大統領選では妊娠中絶や同性婚など「道徳的価値」をテーマに「保守革命」を掲げるブッシュ大統領が再選された。今回の中間選挙の結果は、ここ数年来の保守化に対する揺り戻しなのだろうか。中間選挙当日、全米各地で実施された住民投票の結果にも注目しつつ、米「保守革命」の行方を占ってみた。
四年ごとの大統領選の合間にある米国の中間選挙。民主党は今回、予想された下院のみならず、上院、州知事選でも共和党優位の勢力図を逆転させた。
米CNNのコメンテーターの一人は開票速報で「有権者の多くは自分が票を投じた民主党候補の名前さえ定かではない。彼らはブッシュとイラク戦争が嫌で民主党に投票したのだ」と民主党の勝因を説明した。
二〇〇一年の9・11同時テロ事件後、ブッシュ政権は対外的にはアフガニスタン、イラク戦争へと突き進んだが、内政的にもテロ対策の名の下に「愛国者法」など監視社会化を進め、社会意識も保守化した。
その象徴が〇四年十一月の大統領選で、投票率が上がれば勝てるという民主党の経験則を覆し、投票率の上昇にもかかわらず「道徳的価値」を争点にすえたブッシュ陣営が勝利した。
今回、二つの戦争を先導した新保守主義派(ネオコン)に批判が集まったが、政権の屋台骨で保守化の柱である宗教的保守にまで影響は及ぶのだろうか。今回の中間選挙の結果は、保守化という振り子が戻る兆候とみなせるのか。
■「9・11」以降 意識も保守化
そんな米国民の意識を直接反映しているのが、各州で同時に実施された二百以上の住民投票だ(結果は別表)。とりわけ、注目されるのが同性婚と人工妊娠中絶の可否で、この二つが半世紀に及ぶ米国内の「文化戦争」の柱になってきた。
価値観の対立による文化戦争を同志社大学神学部の森孝一教授(米国宗教史)はこう説明する。「宗教的な人々と、非宗教的な人々の対立ではない。米国は八割が宗教的な人たちで、その中でどこまで多様性を認めるかという対立だ」
「多様性を認めない」人たちの中心がプロテスタントの福音派(エバンジェリカルズ)と呼ばれる人々で人口の四割を占める。共和党最大の支持基盤だ。「福音派は聖書を字面通り信じる人たちなので、同性婚や中絶は認めない」
その福音派が中心の宗教的保守と共和党の蜜月について、津田塾大学の中山俊宏助教授(アメリカ政治)は「一九七〇年代後半、共和党が宗教的保守を動員して強固な地盤を築いたことに始まる」と説明する。
それまで宗教的保守は積極的に政治にかかわろうとしてこなかったが、「中絶反対」という共和党のメッセージは彼らの動員に大いに役立ったという。やがて、彼らも政治家の動かし方を学び、両者は持ちつ持たれつの関係を築いた。
特にブッシュ政権発足以降、共和党は同性婚、中絶といった問題を前面に押し出して有権者の亀裂をつくり、保守派を取り込む選挙戦術を駆使してきた。
ニューヨーク在住のジャーナリスト北丸雄二氏は中間選挙の雰囲気をこう伝える。「ニューヨークは民主党の牙城だが、共和党にとって何一ついいところがなかった選挙という印象だ。テレビCMに史上最高の二十六億ドルが費やされたが、大半はネガティブキャンペーン(中傷広告)。相手候補の失言がインターネット上に繰り返し流され、うんざりした」と振り返る。
■アリゾナ州は同性婚を容認
住民投票については「アリゾナ州で同性婚を禁止する州憲法改正案が否決されたことに驚いた」という。他の州でも反対票が40%に届くところが出た。「隣の同性カップルが結婚しても一般の人に影響があるわけではない。あえて目くじらを立てなくても、という世論になってきている」
カリフォルニア州出身で「ニューズウィーク日本版」副編集長のジェームズ・ワグナー氏も「アリゾナは保守的。そこで同性婚の禁止が否決されたということは、保守運動の流れが変わる前兆かもしれない」と驚きを隠さない。
ただ、ワグナー氏は「家族の価値観や中絶問題では彼ら(保守派)は依然力を持っている」と指摘する。
民主党の勝利が保守化傾向を戻す兆候と過大に評価できない、と東大法学部の久保文明教授(アメリカ政治)も判断している。
「保守化が盛り返すこともありうる。民主党で当選した議員は中道派が多く、保守傾向が強い。銃規制や人工妊娠中絶を選ぶ自由を打ち出さない候補が多かった。リベラルが勝ったとはいえず、民主党の政策が追認されたわけではない。勝因はイラク戦争に対する不信任で、有権者の価値観は保守的なままだ。ブッシュ政権が軌道修正するとしても、信仰を重視する宗教的保守の影響力が小さくなったわけではない」
久保氏と同様、米国人である明治学院大学のロバート・スワード教授(情報社会論)も「選挙後、ブッシュ大統領は今までのポリシーを覆すような話は一切していない」と話す。
スワード氏は各地の選挙結果がわずかな差だったことも指摘。「有権者の意識は明確に分裂している。保守化は止まっていない。白人の福音派たちは二〇〇四年の大統領選では78%が共和党に投票したが、今回も71%と高い率を保っている」と解説する。
前出の中山氏は米国民はブッシュ政権にノーを突きつけたが「国全体はむしろ右に重心を移す結果になったともいえる」という。共和党で落選したのは穏健派が多く、党自体は一枚岩で右に固まったとみる。
「住民投票での中絶禁止法の否決(サウスダコタ州)は、極端に厳しすぎる内容だったからで保守化の問題は関係ない。中絶や同性愛の問題で最終的な判断を下す連邦最高裁判所の判事に保守派を配置できなくなったとか、政治にモラルの問題を据える手法も使えなくなったという側面はある。が、国民の価値観は一気に変わるものではない」
森氏も「共和党は負けたが保守革命が終わったとはいえない」と判断する。
「同性婚禁止の住民投票で、大半の州で今回も禁止が勝った。保守は後退していない。選挙の出口調査では投票でイラク問題を重視した人が68%と多かったが、中絶、同性婚の問題を重視した人も57%いた。今回、宗教右派幹部の同性愛スキャンダルで共和党に投票しなかった人が出たが、福音派の動向がアメリカ政治を決定するという基本構造は変わっていない」
■リベラル急転 民主は選ばず
こうした“敵失”による勝利を民主党も自覚している、と北丸氏はみる。
「民主党は急にリベラルにかじを切ることはない。現在の課題はイラクから撤退する道をどう見つけるかであり、同性婚など国論を割る問題には触れないだろう。何といっても二年後を意識している。大統領を取らないと政治は動かない」
<デスクメモ> 中東に滞在中、イスラエル市民の関心事がパレスチナ問題ではなく、宗教と世俗の摩擦だと知って驚いた。清教徒が建国した米国もまたしかり。宗教的価値観と近代理性の相克が社会を揺らす。日米同盟が常識として語られる。でも、そんな米国のディープな“心情”を理解しているか、というと心もとない。(牧)