★阿修羅♪ > 戦争85 > 514.html
 ★阿修羅♪
JMM [Japan Mail Media]  「紛争頻発」 レバノン:揺れるモザイク社会  安武塔馬 
http://www.asyura2.com/0610/war85/msg/514.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 10 月 11 日 00:33:10: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2006年10月10日発行
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JMM [Japan Mail Media]                  No.396 Extra-Edition
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

▼INDEX▼


■  『レバノン:揺れるモザイク社会』 第41回
   「紛争頻発」


 ■ 安武塔馬 :ジャーナリスト、レバノン在住


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 『レバノン:揺れるモザイク社会』                第41回
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「紛争頻発」

○  マルジュアイユーン兵営問題

 第五次レバノン戦争中のエピソードで、あまり外国では報道されなかった事件のひ
とつにマルジュアイユーン兵営問題がある。

 マルジュアイユーンはレバノン南東部の山岳地帯にあるキリスト教徒の町。200
0年まで続いたイスラエル軍の南部占領期間には、イスラエルの支援を受けてPLO
やヒズボッラーと激しい戦いを繰り広げた南レバノン軍(SLA)が本部を置いた場
所である。

 停戦間際の8月10日、イスラエル軍が大規模な地上侵攻を実施、この町の中にあ
る兵営がイスラエル軍に占拠された。この時、ISF(内務治安部隊)と国軍兵士併
せて400名近くが捕虜となり、翌11日午後になってようやく解放され、町からの
退去を認められた。ここまでは世界のメディアが報じている。

 しかしそこから先は、戦争の本筋から離れるので世界的にはほとんど報道されてい
ない。いや、レバノン国内でさえ、反シリア連合系列のメディアはあえて報道しない。

 兵士の解放が実現して間もなく、まだ戦争が終わらぬうちから、ヒズボッラーのア
ル・マナール・テレビが、イスラエル軍が占拠する兵営内部の様子をおさめたビデオ
を放映し始めたのだ。映像は、屈強そうなISF兵員が、重装備のイスラエル兵の前
に整列させられ、ひとりひとりIDカードのチェックを受ける屈辱的なシーンをとら
えている。もっと悪いことに、この兵営の責任者だったISFのアドナーン・ダウー
ド司令官が、イスラエル軍の若い兵士らと親しげに談笑し、所長室内で部下にお茶を
入れさせ、イスラエル軍兵士にふるまわせる卑屈なシーンまでがばっちりと写ってい
るのだ。

 2005年2月のハリーリ前首相暗殺事件以後の政変でハリーリ派が掌握、急速に
拡大されたISFに対して親シリア勢力の間では反感が高まっていたが、マルジュア
イユーン兵営のこの映像はそれに油を注いだ。

 ISFは本来、警察あるいは機動隊のような国内治安対策を専門とする部隊であっ
て、国防を担う正規軍ではない。だから侵攻してきたイスラエル軍には抗すべきもな
い。それに、ISFの隊員や司令官にしてみれば、何でヒズボッラーが勝手に始めた
戦争のために自分らが死なねばならぬのか、という気もあったに違いない。だから乗
り込んできたイスラエル軍にまったく抵抗しなかったのだろう。

 しかしヒズボッラー他の反イスラエル勢力は、イスラエルがレバノン一国を相手に
戦争し、レバノン全土のインフラを破壊し、連日民間人を容赦なく殺傷している時に、
ISFが抵抗の素振りすら見せなかったことは、恥ずべき売国行為と受け止めた。だ
からアル・マナールだけでなく、NTV、NBN(アマル系列)などもこの「問題」
を取り上げ、未だにダウード司令官の処罰を求めている。今にして思えば、戦後に続
発するISF絡みの事件のきっかけはここにあったのかもしれない。

○  渦中のISF

 停戦発効後の9月2日に、ISF情報局のシハーデ副局長がサイダで暗殺未遂に
遭った。その後、ISF情報局の電子情報システム「オンライン」へのシステム接続
問題をきっかけに、フトフト暫定内相とジェッズィーニ公安局長の対立が表面化、
ジェッズィーニが送検されるところまでエスカレートした。

 公安局長の留任が決まり危機が収拾されたと思ったら、今度はISFとダーヒヤ
(ベイルート南郊外)の群集が衝突し、住民側2名が死亡する事件が10月6日に勃
発。ただでさえ騒然たる政情を、一層不安定にしている。

 内務省側の言い分では、第五次レバノン戦争でダーヒヤ一帯が激しい空爆にさらさ
れ、行政の空白が生じたのにつけこんで、ダーヒヤの一角ラメル・アーリー地区で住
宅や貸店舗などの違法建築が始まった。この地区の役場の要請を受けて、違法建築を
撤去すべくISF部隊が派遣されたが、撤去に抗議する住民が投石などで抵抗したた
め衝突となり、17歳と11歳の少年それぞれ一名ずつが銃撃を受けて落命した。

 違法建築を強制的に取り壊す必要があるのはわかるが、非武装で抗議する群集の排
除に、放水車や催涙弾、ゴム弾などを用いず、いきなり実弾を使ったと言うのでは、
過剰な実力行使のそしりを免れない。これについてもISF側は「群集の中に破壊分
子が混ざっており、先に発砲してきた」「死傷者の体内から検出された弾丸はISF
の装備ではない」と当初説明したが、10日現在までにその主張は裏付けられていな
い。被害者側はISFが責任逃れをしていると受け止め、一層感情を害する結果に
なっている。

 なお、フトフト暫定内相や閣僚は、いずれも6日の衝突による死者のことを「殉教
者」と呼んでいる。イスラエルとの戦争で殺されれば殉教者、反シリア闘争で殺され
ても殉教者。そこまでなら「なるほど、相手が誰であっても祖国のために戦って死ん
だなら殉教者になるのだな」と納得出来るが、違法建築取り壊しの抗議デモで、機動
隊に殺されても殉教になるというのは理解を超えている。要は政治家にとって便利で
使いやすい用語ということなのだろう。

 8日にはベイルートのISF兵営に爆弾が投擲される事件も起きた。犯人は摘発さ
れておらず、6日の衝突事件とすぐに結びつくかどうかは不明であるが、情勢が確実
にきな臭さを増しているのは間違いない。

○  マロン派司教会議声明

 4日にマロン派司教会議が出した声明も、物議をかもしている。

 声明は挙国一致内閣樹立=内閣改造の要求について、「要求の背景に、ハリーリ前
首相暗殺事件の国際法廷設置を阻止しようという隠れた意図があってはならぬし、外
国あるいは特定勢力の意志に応えるものであってもならない」と牽制。政治的中立を
旨とする教会としては異例に踏み込んだ立場を示した。

 ヒズボッラーが内閣改造を求める表向きの理由は、「レジスタンス=ヒズボッラー
の武装闘争庇護」を施政方針に掲げる筈のセニオラ内閣が、ヒズボッラーの武装解除
へと態度を翻したからである。施政方針を変更するのであれば、もはやヒズボッラー
は閣内にとどまれない、国会選挙を前倒しにするか、さもなければ内閣を改造せよ、
というわけだ。

 アウンが内閣改造を求めるのは、キリスト教徒最大派閥であるアウン派(全128
議席中22議席を押える)が疎外されているのはおかしい、という理由からである。
ヒズボッラーの言い分も、アウンの言い分も、民主主義の原則に照らせば無理ない主
張だ。

 これに対して、「内閣改造要求はシリアの意向を呈し、国際法廷設置を妨害するた
め」とする司教会議の声明は、全面的に反シリア連合の主張に沿っている。反シリア
連合が声明を大歓迎し、アウン派やヒズボッラーが拒否するのは自然な成り行きだ。

 9日には、キリスト教徒地区クスラワーンの村で、アウンとフランジーヤ元内相
(代表的な親シリアのマロン派政治家の一人。LFとハリーリ派の連合の前に200
5年の国政選挙で落選。ヒズボッラーとも盟友関係にある)を支持する家族が、武装
集団に襲われ一人が入院する事件も起きている。アル・マナールはこの集団をLFメ
ンバーであると報じている。

 過去半年以上にわたって国内対立の絶妙の火消し役を務めてきたベッリ国会議長も、
ハリーリ派とヒズボッラーが断交状態にある今、どこから調停を開始すれば良いのか
わからず、お手上げと言った様子だ。しかし各勢力のアジテーションとレトリックは
日に日にエスカレート、街頭レベルでもきな臭い事件が頻発しており、放置していて
はいつ爆発してもおかしくない。

 ベッリは9日にサウジを訪問し、アブダッラー国王と会談している。国内のプレー
ヤー同士の調停がままならないので、レバノンのスンニ派社会に大きな影響力を持つ
サウジに働きかけて、ハリーリ派を軟化させる作戦であろう。果たしてベッリの目論
見は成功して、対イスラエル戦争を生き延びたレバノンは、内戦で自壊することを避
け得るのであろうか?

 レバノン南部では停戦発効後2ヶ月にならんとする現在も、クラスター爆弾の暴発
と犠牲者のニュースを聞かない日はない。と言うのに、他の地区ではレバノン人同士
の抗争で犠牲者が出始めている。その事実に暗澹たる思いをするのは私だけではない
だろう。

----------------------------------------------------------------------------
安武塔馬(やすたけとうま)
レバノン在住。日本NGOのパレスチナ現地駐在員、テルアビブとベイルートで日本
大使館専門調査員を歴任。現在は中東情報ウェブサイト「ベイルート通信」編集人と
してレバノン、パレスチナ情勢を中心に日本語で情報を発信。
<http://www.geocities.jp/beirutreport/> 著作に『間近で見たオスロ合意』『アラ
ファトのパレスチナ』(上記ウェブサイトで公開中)がある。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JMM [Japan Mail Media]                  No.396 Extra-Edition
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
----------------------------------------------------------------------------

 次へ  前へ


  拍手はせず、拍手一覧を見る

▲このページのTOPへ       HOME > 戦争85掲示板

フォローアップ:

このページに返信するときは、このボタンを押してください。投稿フォームが開きます。

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。