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アフガン 急速なタリバン復活=春日孝之(テヘラン支局)
◇「文化・人」軽視がテロ呼ぶ−−欧米的価値強要が裏目
アフガニスタンで不毛な戦いが続いている。米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍が南部を主舞台に展開する「テロとの戦い」だ。相手の武装勢力タリバンは、外国部隊が軍事作戦を強化すればするほど勢いを強め、今や国土の南半分を軍事的影響下に収めたとの見方もある。5年前、当時のタリバン政権は米同時多発テロに伴う米英軍のアフガン侵攻で崩壊した。国際テロ組織アルカイダのウサマ・ビンラディン容疑者を保護しているとの理由で掃討作戦の標的となり、散発的なゲリラ戦で抵抗する程度に弱体化していた。
一昨年来の急速なタリバン復活。その背景は何なのか−−。アフガン文化やアフガン人の命そのものへの無関心が、住民の反米感情の土壌となってタリバンに原動力を与えている。4年ぶりに訪れたアフガンで、そう感じた。
タリバンが最近発行した宣伝雑誌がある。その中に、米軍兵士がアフガン女性に両手を広げさせ、ボディーチェックをしているカラー写真が載っている。アフガン人にとって、この光景の衝撃はいかばかりか。
アフガン南部は部族であるパシュトゥン人の伝統的なイスラム社会だ。家は高い塀で囲み、家族にとっては「城」であり「聖域」だ。男性客が女性の姿を見ることはないだろう。夫は他人の男に妻を極力見せない。あるパシュトゥン人男性は男女の距離を「極論すれば見知らぬ女性に声を掛けただけで射殺されても仕方がない」と表現した。
傍聴したアフガン上院本会議で、外国部隊への苦言が相次いだ。「米国兵士は民家に土足で侵入し、女性に詰問する。敵意しか生まれない」「アフガン文化を尊重してほしいと何度も外国部隊に申し入れてきた。だが兵士の任期は半年。同じことの繰り返しだ」
タリバンは「幽霊のような存在」だ。住民には見えるが、外国人には見えないからだ。タリバンは武装していなければ住民と変わらない。外国部隊が見えない敵を相手にする以上、頼りは住民なのだが、空爆を含めた戦闘による巻き添えが後を絶たない。NATO軍の英国人幹部が8月、作戦に抗議し辞任した。英紙によると「家を壊されたすべての人、息子を殺されたすべての人が英国に敵対している」と語ったという。
パキスタン軍情報機関のハミド・グル元長官は、米軍などによるアルカイダやタリバン幹部の追跡について「池の中を泳ぐ魚を素手で捕まえるようなものだ」と形容した。住民の反米感情である「水」が逃走を容易にしているというたとえだ。外国兵士は池の底の泥をかき乱して、自ら相手を見えなくしているのだろう。
アフガン情勢を分析している独立系国際シンクタンク「センリス協議会」は最近、英国主導の「麻薬撲滅作戦」がタリバン復活を加速させているとの報告書を出した。アフガン産アヘンは今や世界市場の9割以上を占める。協議会によると、外国部隊は極貧農民が生活の糧として育てたケシ畑を破壊しても、代替作物への転換や生活面での支援をしていない。そんな農民に生活資金を与え、診療所を開設しているのがタリバンだという。
協議会は「麻薬撲滅作戦を停止し、軍事作戦は二の次にしてアフガン最大の敵である貧困対策を含めた開発支援に集中すべきだ」と提言する。ケシを買い上げ焼却する方法もある。干ばつの影響もあり数百万人が餓死寸前と推計されるが、多くは南部の住民だ。「テロとの戦い」や「麻薬との戦い」のかたわらで見捨てられているのだ。
アフガン政府のおひざ元、首都カブールで多くのアフガン人から「米国などが押しつける民主主義はイスラム文化のアフガンには合わない」という言葉を聞いた。彼らの言う民主主義は「欧米的価値観」や「キリスト教的西欧文化」のニュアンスに近い。戦火の南部では、外国部隊に「侵略軍」のイメージが重なる。南部は国際社会の復興支援の恩恵から遠く、政府は汚職まみれだ。住民の失望や不満が交錯し、同じパシュトゥン人で構成するタリバンへの支持につながっている。
私は文字通りの「テロとの戦い」を否定するつもりはない。タリバンは自爆テロを採用し、資金的にも軍事的にもアルカイダ依存を強めているようだ。これがタリバン伸長を支えている面もある。だが住民のタリバン支持に正当性を与えているのは、他ならぬ「テロとの戦い」なのだ。これを認識せずに本当の「テロとの戦い」は始まらない。
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/kishanome/