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週のはじめに考える「社説」
民意の離反 恐るべし
発足から二カ月ちょっとの安倍政権。もう始まった支持率降下が黄信号点滅を連想させます。原因はいわずもがな。民意を侮ってはいけません。これ、鉄則です。
開いた口がふさがりません。
「郵政法案に反対票を投じた。しかし私は郵政民営化に反対とは、ひとことも申していない」
「反発は承知の上。しかし党員、党友のみなさんに丁寧な説明をすれば、理解を得られる」
武士の情け、発言者の名は伏せます。この議員たちに投票した人ならもう、ご存じでしょうから。
開き直りです。去年の郵政騒動で「筋を通して」自民党を追放された彼らが復党するにあたっての弁。
■私たちは絶対忘れない
よくもまあ言えたもの、とは思いませんか。彼らはめでたく明日にも正式復党の運びだそうです。
次は郵政選挙で落選した組。来年七月の参院選に出る人を優先する、なんていう話もあるそうで…。
これが例の“負け組”の「再チャレンジ」なんですかね。
政治家とは、なんて恥知らずな商売でしょう。不信が募ります。
私たちは絶対に忘れません。公選法に引っかからなければ、きたるべき選挙の候補一覧に「復」のマークを乗っけて報道したい気分でもあります。
腹立たしい思いの矛先は、「情」やら「和」とかで彼らを迎え入れた側にも向かいます。
党の総裁、安倍晋三首相は申し訳程度のコメントをしたそうです。「一緒に『美しい国づくり』に汗を流してもらいたい」と。
「美しい」。目前の出来事とは不釣り合いな言葉。世間はさすがに敏感です。復党容認を実力者に迫られていた旨の報道も、一部あったし。
前首相の小泉純一郎氏は復党組が「白旗掲げて土下座したんだ」と、どぎつい表現で首相の結論に賛同しました。状況を直感するカンはまだ鈍っていないようです。
■流れの反転は正攻法で
もっとも小泉氏は以前に「復党を認めたら参院選負けるぞ」と予言していたそうでありますが。
安倍首相だって、ダメージだけのこんな騒ぎ、早く打ち止めにしたいと思ったに違いありません。
そこで打ち出したのが「道路特定財源の一般財源化」。難しそうな話ですが、簡単にいうと、道路整備などに向けられてきた税金(三兆数千億円)の使い道を自由にする。
地域格差などを背景に、役所や与党の利害が交錯して抵抗は強く、前政権も決着させられないまま安倍政権に引き継がれています。
首相が「改革」の柱に据えるのは当然ですが、このタイミング。計算が透けて見えるものだから反対勢力をいっそう勢いづかせることに。
しかるべき政策も動機が疑わしいとおかしくなる。やはり大方の国民を味方にするには正攻法で臨んでほしい。そうあるべきでしょう。
もちろん明言したからには、腰砕け、先送りなどという失態は許されません。それこそ民意がそっぽを向く。覚悟を促しておきます。
就任間もなく首相は中国と韓国を訪問し、小泉氏の靖国参拝で途絶えていた首脳会談を復活しました。これには財界などの評価も高い。
作用があれば反作用があるのは世の習いです。首相に靖国参拝の継続と外交タカ派路線を期待した人たちは面白くない。改憲に五年、と言った首相に、なーんだと右寄り論壇からブーイングもありました。
で、首相はどうしたか。与党の首脳や閣僚の「核武装論議」発言を放任したり、「集団的自衛権の解禁」へ研究を指示したり。
安全保障や北朝鮮絡みの外交姿勢で政権の求心力を維持したい−。
そうした思いをすべて否定するつもりはありません。ですが、それも露骨に過ぎると、ついて行けない。
やたらナショナリズムを刺激する政治手法は、健全でないのです。
首相として初の国会が残り二週間足らず。前政権から引き継いだ課題のうち、防衛庁の省昇格はめどがつきました。あの改正教育基本法も、週内にも成立、と伝えられます。
私たちは今も「なぜ急ぐ」と慎重論です。改正に賛成の人もおおむね「慌てることはない」と考えているのが世論調査でわかります。
首相の答弁では、なぜ変えるか、敗戦日本の占領下につくられたこと以外の理由に乏しい。こちらの耳が遠かったのかもしれませんが。
民意の熟成はしばしば国会の論議より遅れるものです。待つ勇気も必要。教育の憲法なのだから、そうするだけの価値があると考えます。
■優れた平衡感覚が要る
民意を気にしたら何もできないと反論されそうです。わかりますが、それも時と場合によりけりです。
かつて民意は「戦争」へ雪崩を打ちました。新聞もあおった。だから自戒を込めて書いています。民意恐るべし、離反も恐るべし、と。
多数意思が常に正しいとはかぎりません。だからといって、軽視するのも、やみくもに追従するのも、愚の骨頂。政治には優れたバランス感覚が必要とされるゆえんです。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sha/20061203/col_____sha_____001.shtml
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