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第18回 「奥の院」は今、何を考えているのか? (原田武夫)
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投稿者 新世紀人 日時 2006 年 12 月 03 日 13:39:23: uj2zhYZWUUp16
 

http://biz.yahoo.co.jp/column/company/ead/celebrated/person5/061117_person5.html
2006年11月17日 (第1、第3金曜日更新)

第18回 「奥の院」は今、何を考えているのか?

想定内の出来事ではなかった「M&A」相場

 去る11月7日(米国時間)に投票が行われた米国中間選挙の結果、あらゆる側面から見て民主党が勝利した。そしてこの「勝利」がマネーの潮流が織りなすトレンドの転換点、すなわち私のいう「世界の潮目」であることは言うまでもない。

 しかし、ここで「想定内の『世界の潮目』が発生した」と喜んでいるようではダメである。そもそも今回の出来事は、向こう10年間程度にわたって起きる大きなシナリオの「序章」の一つに過ぎない。したがって、次の「世界の潮目」がいつ、どのような形で生じるのか、そして1か月あまりたてば早くも始まる2007年に、マーケットとそれを取り巻く内外の環境の「初動」がどのようなものになるのかを的確に予測しなければ、これからのうねりに乗り損ねることになる。

 そのためには、あなたの周りに大勢いるフツーの日本人たちのように「世界の潮目」に対して、いつも受身であってはならない。これからのうねりを乗り切る日本の個人投資家(私のいう「新しい中間層」)に求められるのは、むしろ「世界の潮目」を作り出す者たちに自らを投影し、あたかも自分がその一人であると仮定して思考するセンスと能力である。つまり、米国にあってあらゆる党派対立を超える存在であり、国家意思を密かに体現している閥族(ばつぞく)集団である「奥の院」が今、一体何を考え、どうしようとしているのかに思いを馳せることこそ、私たちには必要なのである。

 その観点からいうと、やはり思考の出発点は「中間選挙における民主党の勝利」である。そもそも2年前(2004年)に行われた米国大統領選挙の際、私は共和党を率いるブッシュ大統領ではなく、民主党のケリー候補(上院議員)を米国陸軍人脈が主体となって「勝たせる」ことになっているとの情報を得ていた。しかし、蓋を開けてみると、結果はブッシュ大統領の勝利であった。普通であれば、「民主党が勝つとのあの情報はガセだったのか」ということになるだろう。

 しかし、私は決してそうは思わない。――なぜなら、その後、2期目に入ったブッシュ政権は何かに追われるかのごとく、実に「よく働いた」からである。2004年当時、日本は前年(2003年)に新興市場銘柄を中心とした「株式分割ブーム」に沸いた直後であり、マーケットではやや手詰まり感が見られ始めたころであった。これに対し、NY市場から盛んに聞こえてきたのが、「日本でM&A旋風を起こし、徹底した日本買いをすることになる」という情報である。一介の外務官僚に過ぎなかった当時の私は、そういわれてもなかなかピンとは来なかったことをここで白状しておきたい。日本の株式マーケットで「M&A相場」がやってくることなど、およそ「自明かつ想定内の出来事」ではなかったのである。

小泉政権はアメリカからのシグナルで持ちこたえてきた

 そして、ブッシュ大統領が2期目に就任した2005年。永田町・霞ヶ関では突如として「三角合併解禁のための会社法改正」論議が噴出し始めた。「外資=黒船による日本乗っ取り」とのお決まりの感情論が叫ばれる中、この改正会社法は施行を1年後の2006年ではなく、2007年の5月1日からという条件付きで成立した。

 その一方で、小泉純一郎前総理大臣率いる小泉内閣は、「何が何でも郵政民営化しかない」とあらためて主張し始める。それまで支持率を高めてきたお得意の北朝鮮問題が拉致被害者横田めぐみさんの「遺骨問題」をめぐってまったく動かなくなった中、小泉政権は春から夏、そして秋にかけてただひたすら「郵政民営化問題」という内政問題の一点買いでついには大勝負に出る。――9月の衆院総選挙、すなわち「郵政解散」である。

 結果はこのコラムの読者の方々も十分ご存じのとおりである。どこの誰だか分からない大量の「小泉チルドレン」なる一群が国会議員バッジをつける中、小泉政権は国会で「郵政民営化法案」を賛成多数で可決させた。郵政民営化の「出口プラン(EXIT PLAN)」は、郵貯・簡保に預けてある私たち日本人の預貯金がこれまでのように国債ではなく、株式で運用されるという一点に尽きる。総額350兆円もの「株買い」が始まるというのであるから、これを狙わない外資はいない。この総選挙での「小泉大勝」と合わせ、運用資産総額が1兆円規模の米系巨大ファンドまでもが日本に上陸し始めた。

 そうした小泉政権をサポートし続けたのがブッシュ政権なのであった。改正会社法であれ、郵政民営化であれ、仕込んだのは米国であり、そのためのツールは「対日改革要望書」なのである。どんなに国内で批判が高まっても、小泉政権が持ちこたえられたのは、「ブッシュは小泉をサポートしている」という絶えざるシグナルがワシントン、そしてNYから発せられてきたからであった。その意味でブッシュ大統領は、日本からの国富の移転を狙う「奥の院」からすると「グッド・ジョブ!(でかした!)」ということになるのだろう。なにせ、350兆円もの真水を日本の乾いた土地から蒸発させ始めることに成功したのだから。

 しかし、「奥の院」の所業がすさまじいのはここからである。小泉前総理が郵政民営化に励む中、米国はもう一つの仕掛けを着実に仕込み、実行した。それが堀江貴文社長(当時)率いるライブドアによるニッポン放送買収劇である。これについて私はこのコラムの第1回(「ライブドア・ショックの教訓」)で記したので、ここでは詳しく繰り返さないことにする。若干付け加えて言うならば、この出来事を通じて「奥の院」は「日本における大企業のM&Aがどれほどの震度があるのか」、そして「それに対する日本の世論の耐久度と敏感さはどれくらいのものであるのか」を十分に学習したのだと私は聞いている。「奥の院」は机上演習だけではなく、実弾演習もしっかり行う用意周到な人々なのだ。

 そしてこれをきっかけに日本ではどういうわけか、一方では「郵政民営化論」が盛んに叫ばれつつ、他方で「構造改革が格差社会を招いた」、「拝金主義はいけない」といった議論が持ち上げられるようになる。何も狙ったわけではなく、あくまでも私のかねてからの主張を淡々とつづっただけに過ぎないのだが、拙著「騙すアメリカ 騙される日本」(ちくま新書)もいまだに売れ続けているようだ。売れるのは結構だが、他方で「奥の院」による次なる「世界の潮目」に向けた仕込みを感じている著者は私だけではないだろう。しかし、逆にこれに乗ずる著者たちもいる(これが戦後日本における情けない日本の「言論人」の大多数だ)。今年に入り「ライブドア事件」「村上ファンド事件」が発覚するに至り、日本の世論は一気に拝金主義批判へと走り、「国家の品格」なる精神論だけが横行していく。

「悲しい日本人の性」は変わらないのか?

 一方、中近東に目を転じてみると、イラクでは米国が着々とマネーの上での「出口プラン」を遂行してきた節がある。まず今年前半、イラク国債が「私募債」の形で発行された。「そんなリスクの高い債券を買う人がいるのか?」――そう思ってしまう読者は、あまりにも素直な典型的日本人である。今年前半にしばしば起きたイラクでのテロ事件、あるいは空爆騒ぎは決まって私募債の売買が行われる日であり、東京やNYなど公開されたマーケットとは無縁の私募債の世界であっても、極力安く買い叩くための演出が行われたに過ぎない。そしてその後、原油は今夏に向けて歴史的な高値へとNY市場における先物主導で誘導されていった。リスクが高いはずのイラク国債が持つ唯一の裏づけは、イラクがまだまだたくさん抱えている原油である。その原油価格が上がれば、イラク国債の価値がどうなったのかは、もはや明らかであろう。ちなみに日本政府は、この後に及んで10月24日にイラク政府に対し製油所改良のための円借款(約21億円)を供与することを決定した。――まさに「日本人が来たら売り抜けろ」というマーケットの格言そのものの光景がここにはある。

 そして、そのイラク問題をめぐってブッシュ大統領率いる共和党は今回の中間選挙で敗北した。しかし、以上のようにマーケットをめぐる事実関係を客観的にたどる限り、なぜブッシュ共和党が負けたのかは明白だろう。イラクで売り抜け、日本で着実に仕込みを行った「奥の院」とその傘下にある米系ファンド・投資銀行、さらにはその周辺にいる欧州系金融機関からすれば、もはやブッシュ共和党に用はないのである。だからこそ、想定内の敗北となり、「世界の潮目」の到来となるのである。

 したがって、私たち日本の個人投資家にとって重要なのは、「奥の院」が一体次に何を仕込んでいるのかをいち早く知り、それに向けて備えることである。そのための方法が二つだけある。

 一つは、東京、とりわけ永田町、霞ヶ関、そして大手町にうごめく日本国籍を持った米系ロビイストたちの動きを克明に追うことである。「そんな人物はいない。また原田武夫は『陰謀論』をたきつけている」とお決まりの評論をしたいお茶の間書評家の方々にはぜひ、有馬哲夫「日本テレビとCIA」(新潮社)を読んでいただきたい。拙著「『日本叩き』を封殺せよ 〜情報官僚・伊東巳代治のメディア戦略」(講談社)でも書いたとおり、近現代の日本には政財界の至るところに外国勢力の走狗となることを生業(なりわい)としている日本人たちがいる。明治・大正・昭和と続いてきたこの「悲しい日本人の性」が、現代になったからといって変わるはずもないのである。

 そして最近、私はこれら日本人ロビイストの中でも指折りの人物が、何を熱心にロビイングしているのかを見聞きするに及んだ。――意外にも「労働者の権利保護」である。

米国民主党が1990年代に掲げたテーマが再び……
 「奥の院」の今の思考を知るもう一つの方法が、日本のみならず、世界中のメディアを同時並行でウォッチすることである。毎日お届けしているメールマガジン「元外交官・原田武夫の『世界の潮目』を知る」などで伝えているように、日本のみならず、すべての国における言論は、米国による「枠組み設定」がされており、一定の範囲内の出来事しかメディアでは事実上報道されないようになっている(かつて江藤淳氏が言った「閉ざされた言語空間」である)。

 しかし、各国ではそれぞれ事情が違い、そのメディアに米国がはめた「枠組み」も少しずつブレがある。だからこそ、世界中のメディアを同時並行にフォローすることによって、地球上の裏側で起きている出来事に関する報道を通じ、日本の今、そして近未来を読み解くことが可能となってくるのである。そして、この1か月くらいで、急に報道の量が世界的に多くなってきたことがある。――「環境保護」、「代替エネルギー」、そして「アフリカ」である。

 「労働」、「環境」そして「アフリカ」と聞かれてお気づきになられた方もきっといることであろう。これらはいずれも、弱者保護を前面に出した米国民主党が好んで取り組むテーマなのである。1990年代のクリントン政権のころを思い出していただきたい。当時から民主党政権の政策テーマはまさにこれだったのである。そして今やふたたび、東京で同じロビイングが行われているわけである。まさに、歴史は繰り返すわけであり、このコラムの第7回(「破壊と創造の『潮目』を知る」)で記した米国による対日統治の基本プログラムである「破壊と創造のプロセス」がここにも見て取れるはずだ。それが見えないのは、日本史は言うに及ばず、もはや世界史すらまともに学ばない子どもたちを粗製乱造している私たち日本の大人たちだけである。

 今、「新しい日本人」に脱皮するための分水嶺に私たちはいる。株式マーケットにおける日々の損得に一喜一憂するのではなく、読者の皆さんにはぜひ一度、「『奥の院』が今、何を考えているのか」を考えていただきたい。長州(山口)・薩摩(鹿児島)といった田舎にあって世界を見通す能力を持っていたのが私たちの先祖なのである。今こそ、私たちは空理空論で出口のない精神論(「武士道」)ではなく、自らのDNAに刷り込まれているアニマル・スピリットを呼び起こすべきだろう。「大儲け」はその後必ずついてくる。

※ 原田武夫についてのさらに詳しい情報は、「しごとの自習室 - 原田武夫通信」をご覧ください(外部サイト)。



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