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(回答先: Re: NHK世論調査 安倍内閣支持11ポイント下がって48% 投稿者 通行人2 日時 2006 年 12 月 11 日 20:39:37)
さらば、煽動と強者の政治 文藝春秋 12月号
http://ozawa-ichiro.jp/massmedia/contents/appear/2006/ar20061110135257.html
安倍さんの発言は曖昧。“官邸主導”も見せかけだ
まず、体調はいかがですか。大事な時期の検査入院で、さまざまな憶測を呼びました。
小沢 大丈夫です。少し疲労を感じたので、これからの戦いに備えてリフレッシュしておこうと思い、全部検査してもらいました。特に重大なものは何もなかった。安心して動き出したところです。
新総理、安倍晋三さんの印象は。
小沢 僕と安倍さんとは年齢差が十二歳、ちょうど一回り違いますし、安倍さんは僕が自民党を離党して細川政権をつくったときの選挙で初当選しています。安倍さんのお父さん、晋太郎さんにはとても可愛がってもらったけれど、晋三さんと政治の場で接したことはあまりなかった。すれ違いといえばすれ違いですね。
安倍さんは自民党総裁選のとき、小沢さんのイメージについて「旧田中派全盛時代の人という印象。古い永田町の代表選手」「自民党幹事長として一九九一年の東京都知事選に磯村尚徳氏を出して負けた人だ」とコメントしています。
小沢 まあ何ということはない。安倍さんより年上だし、安倍さんより長いこと政治家をやっている。古いといえば古いね(笑)。でも、古いか新しいかは、ここ(頭を叩いて)の中の問題ですよ。
所信表明演説や予算委員会での答弁を聞いたり、党首討論をやってみて、安倍さんが総理大臣としてどうかといえば、正直まだわからない。何しろ彼の政権は始まったばかりですからね。ただ、総理になる前は、中身の善し悪しは別にして、元気よくいろいろなことを言っていましたが、なった途端に奥歯にモノの挟まった言い方になってきた。主張したいことがあるのなら、もっときちんと言わなければならない。やっぱり総理になると、役人に周りをぐるりと固められてしまうから、どうしてもことなかれ主義になって、適当にその場その場をしのげればいい、と思うようになるのかな。でもそれも、内外の状況次第でしょう。外はやはり北朝鮮の問題、中・韓との関係、内は膨れ上がる公的債務、年金など社会保障制度の問題や少子化、格差問題。彼は大変な時期に総理大臣になったなあ、と思いますよ。
曖昧な新総理の理念
中韓との関係についていえば、総理に就任して直後、小泉政権時に滞っていた首脳会談を実現させ、関係改善への一歩を踏み出していますが。
小沢 よいことですよ。よいことですけれど、彼が本に書いたり、自身で総裁選の場で主張されていた歴史認識、憲法改正の話などは、日中、日韓首脳会談でも、また党首討論の席でもはっきりと言っていない。そこが問題だと思います。
象徴的なのが、靖国参拝の件です。「行く行かないについては言わない」と言っていますが、総理ですから常に行動は公に報じられる。行けばわかります。この「言わない」ということを、どんな意味で発言したのか。また中国もその発言についてはさしたる反応もなく受け止めているようですが、本当にそうなのか。裏になにかあるのか。そこがなんとも曖昧でわからない。参拝の是非はともかく、総理大臣であれば物事の理非曲直ははっきりさせるべきでしょう。靖国の問題はもちろん、少なくとも自らの歴史観、政治哲学、理念をはっきり示さないと、国民はその政治家を信じていいのかどうか、判断ができませんよ。
A級戦犯の戦争責任問題もそうです。晋三さんがおじいさまの岸信介さんに憧れと尊敬の念を持っていることは本にも書かれていて、その心情は私にも十分理解できますが、予算委員会では「(岸が)東條内閣の閣僚として開戦詔書に署名したことは誤りだった」と言っている。実際、不起訴にはなったけれど、岸さんはA級戦犯容疑者として逮捕されている。総理大臣になってもやっぱり、岸さんの戦争責任の問題については持論を譲らないという心理状況なのかなと思っていたら、これもまたよくわからない。
僕の戦争責任に関する認識を言えば、岸さんなど特定の人が、ということではなく、戦争指導者たちはみんな大きな責任があると思っています。戦争はクラウゼヴィッツの言うように「他の手段をもってする政治の継続」であって、人の生命を奪うのだから最終、究極の選択肢です。しかし、日本の戦争を指導した人たちは、結果として百数十万の同胞を死に追いやり、戦争に負けた。彼らの「政治」は失敗したんです。責任は当然あります。もちろん、その責任者たちが連合国軍によって裁かれることの当否はまた別の問題ですが、少なくとも当時の戦争指導者はその結果責任を負うべきだと思います。安倍さんもそこを曖昧にせず、自分の信念に基づいてきちんと発言すべきでしょう。
自らの政治信念や理念、哲学をはっきりと表明することは、政治家として基本中の基本です。日本が成熟した民主主義国家であるならば、それができない人が総理などにはなれないはずですが・・・。
権力を得るためにはAと言った方が得だからAと言い、いったん権力を手中にしたら、今度は権力を維持するためにはAと正反対のBと言った方が有利だからBと言う。それが許されるなら、民主政治は成り立ちません。
小泉劇場は“障子いじり”だ
日本はいまだ成熟した民主主義国家ではない、ということですか。
小沢 残念ながらそういうことです。日本という国の政治を誰に任せるか、というときに、政治家の基本的な政治理念、哲学という次元で勝負がつくなら簡単な話で、それこそが民主主義の根幹です。しかし日本の場合、理念や哲学ではリーダーは決して選ばれない。マスコミにしても、政策論争は通りいっぺんの報道で、興味があるのは政局ばかり。この国の民主主義はまだまだ成熟していないんです。もちろん、日本だけでなくどの民主主義国家もそういった情緒的なポピュリズムの要素は持ち合わせていますが、日本は特に未熟だと思います。その特質をうまく利用したのが、小泉政権でした。小泉政権はこの五年間、終始高い支持率を保ちました。彼は錯覚を起こさせるのがうまい。まさに「小泉劇場効果」です。
まず、日本人は「今まで通りでうまくいく」のがベストだと考えています。特に戦後六十年は変化をものすごく嫌ってきた。しかし冷戦体制が崩壊し、バブルがはじけ、不景気が世を覆い尽くしたときに、心の中では「変わらざるを得ないんじゃないか」という思いが急速に広がってきた。ただ、その変わる「はじめの一歩」を踏み出す勇気がまだ一つ足りない、というのが現状だと僕は思っています。
そこに小泉さんが出てきて、中身はなにもないのに、「自民党をぶっ壊す」と分かりやすく宣言し、体制内改革によって日本を変えることを主張しました。そのあたりが、今の国民やマスコミ、特にテレビにとってはちょうどよかったんです。実態は「今まで通り」だし「自民党をぶっ壊す」と言えば、少しは変わるように見えますからね。小泉さんは、ときに脅したり、ときになだめ、すかし、あるいは景気のいい話をポンポンと織りまぜながら、国民心理、マスコミ心理を巧みに利用したんです。これはまさにポピュリズムの典型であって、煽動の政治です。まともに考えればそのいい加減さ、中身のなさにすぐ気付くはずなのに、それが結果として支持された。実に危険なことだと思います。
僕はここ十数年、それこそ『日本改造計画』を書いたころからずっと、今の日本は幕藩体制の末期に近い状況だと思っています。日本という家は土台から腐ってきていて、小泉政権が行ってきたような、障子とふすまを張り替えて体面だけ保とうとするような施策ではどうしようもない。おそらく安倍政権では、この傾向がもっと強くなるでしょう。どう考えても、倒すべきアンシャン・レジーム(旧体制)なんですよ。
日本におけるアンシャン・レジームとはなんだ、と?
小沢 特に高度成長期以降、日本の政治は富をどう配分するかだけに腐心してきました。その再配分の権限は、本来政治家のものです。その時々の優先順位に基づいて予算を決め、政策を決めて実行していく、それはまさに政治家の領分ですよ。しかし実際は、官僚機構がずっとその役割を果たしてきた。「平等」の大義名分のもとに、バランスをとりながら各省庁が納得のいく答えを見つけ出し、それをそのまま国の政策としてきた。つまり、戦後日本の内政は役人が動かしてきたし、それは今もまったく変わっていないんです。ところが、右肩上がりの経済成長がバブル崩壊以降低迷する中で、この官僚主導のシステムはあちらこちらで綻びが見られるようになった。
表面的にいえば、それは自民党政権にも共通認識としてあったのかもしれない。橋本内閣以降、小泉政権に至るまで行政改革をかかげ、旧体制からの脱却を一見図っているように見えますが。
小沢 いやいや、小泉さんも安倍さんも、すべてその官僚主導の体制を前提として、壁紙張りや障子いじりに終始しているだけですよ。小泉さんの場合は、そのやり方がかっこよく見えただけのことです。
安倍内閣も、小泉内閣が進めた改革を継承する、と言明している。首相補佐官制度などは、小沢さんが前々から言っていた官邸機能の強化を実現させたかのようにも見えます。
小沢 確かに僕は『日本改造計画』の中でも、わざわざ図示して首相補佐官制度の導入を提唱しましたが、今の安倍さんの仕組みは、僕の言葉と上っ面の形を真似ただけですよ。結局、あの補佐官一人一人の下に全部役人がつくわけでしょ。それでは何も変わらない。政治家がもっと大挙して官邸に乗り込んで、必死で知恵を出し合い、官僚に食らいつく体制でないと、何にもできない。あれでは逆に、官僚機構のさらなる肥大化を許すことになりかねない。内閣の陣容を見ても、論功行賞だかお友達だか知りませんが、とにかく役人と議論して、自身の政策をなんとか実現させようと燃えている人間が一人としていないじゃないですか。
それから、小泉さんが役人や官僚組織と対決した、というのは大いなる間違いです。小泉さんほど役人の言うとおりにしてきた総理はいません。だって、小泉さんは何にもわからないんですからね。だからすべて官僚に丸投げ。実際、道路公団や郵政公社はいったいどうなったのか。何も変わっていないじゃないですか。先日、道路公団のトップに会いましたが、「◎◎高速道路株式会社社長」なんて肩書になっていただけ。彼は元建設省の役人上がりですよ。化粧を直しただけで中身は同じなんだ。
そうすると、小泉さんだろうと安倍さんだろうと関係はなくて、自民党政権自体が役人から政治を取り戻そうとはしていないし、できないんだ、と。
小沢そうなんです。それが歯がゆくて仕方がないんです。
内閣は本来、大きな大きな権力を持っている。その権力は選挙で票を投じた国民から信任、付与されたもので、すべからく国民のために活用すべきなんです。ところが日本では、その権力をなぜか、国民が選んだわけでもない官僚が握っている。僕はそこを何とかしようと思って、自民党の幹事長だった時にずいぶんと頑張ったし、個人的には、かなりの部分で政治家が主導権を握れるようになってきたな、と思えたときもあった。でも、自民党内はやっぱり、官僚とのもたれ合いが骨の髄まで染みついていて、それ以上はどうにもならなかった。だから外に出たんです。自民党ではできないけれど、民主党が政権を握れば、僕の主張しているおそらく革命的な改革についても、筋道だった議論の中で役人を説得できる自信があるし、またそれを理解してくれている役人もいますからね。僕一人のことを考えたら、自民党にそのままいたほうがずっと楽だった。でも、国民の生活、未来を預かる政治家である以上、それはできなかったんです。
格差社会は戦後日本が作った
小泉内閣の「負の遺産」とされる格差社会の進行については。
小沢 この問題も、小泉内閣だけでなく、戦後日本の官僚支配体制、自民党政権の長い怠慢が生みだしたものです。
戦後の日本は、「護送船団方式」という言葉もあったように、社会主義国家と見紛うばかりの規制大国でした。しかし、さきほども触れたように、高度成長期は上から下まで、富がある程度平等に行き渡る条件が整っていたので不満は出なかった。
それが、九〇年代以降、グローバリゼーションの到来によって規制撤廃の動きが高まってきた。僕自身も規制撤廃は必要だと考えています。しかし、さまざまな規制を撤廃することで生まれる新しい社会構造、経済構造について、役人は新しい仕組みのグランドデザインを描けない。本来この構造を考えるのは政治家の仕事ですが、いずれにしても新しい仕組み、ビジョンを役所も政治家も考えられないまま、「世の時流がグローバリゼーションだから」ということで、かなり乱暴な形で規制緩和に突き進んだ。特に金融分野を中心に、無原則、ノールールで市場原理を導入した結果、ホリエモンや村上某たちのような歪んだ価値観の勝ち組と、市場原理にはじき飛ばされた負け組を生んだんです。小泉さんはたまたま、その混乱の時代に登場して、国民受けのする踊りを踊っただけなんですよ。小泉内閣が「強者の論理」を無秩序に推し進めて、格差社会の進行を加速させたことは間違いありませんがね。
では、どうすれば格差を最小限に食い止めることができるのでしょう。
小沢 格差社会の遠因がグローバリゼーションにあるからといって、それを「アングロサクソンの策謀だ」と、負け犬の遠吠えのように言っていても仕方がない。波は世界中に押し寄せてきているのだから、むしろそれを奇貨として、日本がその波の中できちんとやっていける体制をつくればいい。
規制撤廃と自由競争は、原則として必要です。しかし、大多数の人たちが安定して、また安心して暮らせなければ国家は成り立たない。そのためのセーフティネットを一般労働者、農業、中小企業等々、ありとあらゆる分野に張りめぐらせる必要がある。僕は日本では、その二つを両立させることができると思っています。日本人は悪い意味でいい加減、いい意味で器用(笑)。きっとうまい仕組みを考えますよ。
逆に役人の世界は、セーフティネットが整備されすぎている。年功序列と終身雇用に手厚い補助、さらに天下り先まで至れり尽くせりです。国民の間で不公平感が募るのも当然ですよ。官も民もリーダー層にはきちんと自由競争原理を導入すべきです。上に行きたいならリスクをとって自らの力で競争に挑め、と。そうしないで「私は課長ぐらいでいい、安心して仕事をしていきたい」というのであれば、それでも働き続けていけるシステムにすればいい。
第一、このままのシステムでは、役所でも民間でも傑出したリーダーは生まれません。日本は欧米に比べて、平均的には知的にも技術的にも非常にレベルが高い人材が多くいるけれど、ことリーダーシップについていえば、いわゆる上澄みの層は欧米にはかないません。
なぜそういった人材が生まれないんでしょうか。
小沢 「和を以て貴しとなす」という世界では必要なかったのだと思います。出る杭は打たれる、と言うでしょう。そもそも日本は歴史的にずっと豊かだった。織田信長の頃は急速な経済発展を遂げていて、当時のヨーロッパとは比較できないほど大きな経済規模になっていたし、生活水準も高かった。古代のころは、ヨーロッパとの差はもっとあったようです。いつでも「みんなで分けて食べれば生きていける」環境にあったから、まあまあケンカはするな、ということだったのだと思います。格差社会が進んでいても、それを他人事のように眺めている人が少なくない。それは現時点で誰もが一応「食えている」からです。ニートが増えているということは、逆に「何もしない若者たちも生きていられる」ということでもある。
上の層の競争はおおいに結構ですが、今は社会構造の歪みがあらわになって、不満が渦巻いている。
小沢 そうです。非正規雇用の労働者が三人に一人の割合になりましたよね。確かに経済合理性は、営利活動を行うときにはどうしても無視できない要素です。でもそれだけだと、企業マインドはどうしても歪んだ方向に進んでしまう。僕は最近、経営者の人たちに「あなたは、いつでもクビにできて賃金の安い非正規雇用の方がいいと思っているかもしれないが、会社への忠誠心や一体感といった日本的経営のよさは、それで完全に失われてしまうぞ」と言っています。労働組合もそう。どうせこの流れは止められない、とあきらめ顔の組合幹部が多いので、「今こそあなたたちの出番だろう。労働者の当たり前の権利を主張する時じゃないのか」とお尻を叩いているところです。
最近、小沢さんは自らの政治理念を語るときに「共生」という言葉をよく使いますね。格差社会が深刻化するにつれて、さまざまな場面で聞かれるキーワードですが、小沢さんの言う「共生」とは一般的にいわれるそれとは少し意味が違うように思います。
小沢 さまざまな人たちがともに生きていける社会としての「共生」はもちろんですが、私は、日本人はそれにとどまらず、もっとレベルの高い「共生」を目指すべきだし、またその力を本来的に持っている、と思っています。基本とすべき社会の形は、国民が一人一人、個人として自立している社会です。
そういった自立社会を実現した上で、その先の日本の役割を考えたときのキーワードは、おそらく「平和」「環境」でしょう。平和とは何かといえば、諸国家、諸民族の「共生」であり、環境は自然との「共生」です。
こういった発想は、キリスト教を基調とする欧米文明からも、イスラム圏からも、なかなか出てこない。彼らにとっての宗教的対立は恐らく不可避なものでしょう。その点日本人は、さきほども指摘しましたが、ものすごくいい加減で、融通無碍。八百万の神がいて、死ねばみんな神様、仏様になる(笑)。宗教間・文明間の対立を偏見なく解決できるのは、おそらく世界の中でも日本人だけじゃないか、と思うんです。
勝算はわれにあり
高い次元での「共生」を目指したいと。
小沢 そうです。ただ、いくらいろいろ考えても、野党の立場じゃ何もできない。自ら政権をとるしかないんです。僕はよく皆さんに「現状で満足しているんだったら、自民党に一票入れてください。現状じゃだめだと思うなら、われわれに一票入れて、政権を一度やらせてください。もし僕がいま主張していることを実現できなかったら、すぐに自民党に代えればいい。それが民主主義じゃないですか」と言うんです。政権を担当したこともないのに、「あなたたちにはできない」と言われても、どうしようもありませんよ。
もちろん勝算はあると思っています。 そう思う根拠は二つあります。一つは、小泉改革なるものが国民の支持を得たことです。内実は何もなかったけれど、「変えなければ」という国民全体の意識があったからこそ、ああいった体制内改革の看板が支持されたのだと思います。もう一つは選挙の票です。二年前の参院選で民主党は自民党に勝っている。それから、昨秋の衆院選では「改革を止めるな」「郵政民営化」ブームの中で民主党が大敗を喫しましたが、大敗は小選挙区制度のせいです。実質の総得票数は自民党の三二五一万票に対して、民主党は二四八〇万票で、前回の票とほとんど変わらない。票は減っていないし、自民党との差も全体票の中では一〇%ほどの開きしかない。小泉劇場の観客の分が向こうに上積みされただけであって、あれほどの逆風の中だったにもかかわらず、大した差じゃないんです。
日本人は変わることに対して大変臆病なんだと思いませんか。
小沢 恐れもあるでしょうし、これも幕末と同じ状況だと思うけれど、幕末の人々が「徳川の太平の世が潰れるわけがない」と思っていたように、今の日本人も「自民党政権が崩れるわけがない」と思い込んでいる。
でも僕はね、この国は明治維新をやった国だ、そういう回天の事業を成し遂げる勇気をもった国だということもまた知っている。そこに期待をつないでいるんです。
幕末、黒船がやってきて、幕藩体制が外からゆさぶられ、欧米列強の植民地になってしまうおそれもあったのに、その危機にあたって、あれだけの人材が出て維新を成し遂げたのだから、日本人の本来的な能力は、決して保守的でも閉鎖的でもないし、消極的でも臆病でもない。民主党がもっとわかりやすく、国民が納得でき、安心できる、将来の見える基本政策を打ち出すことができれば、僕は選挙で間違いなく勝てるし、政権交代も実現できる、と思っています。とにかく、幕藩体制を潰さなければ、何も始まらない。公武合体では近代日本は生まれなかった。尊皇攘夷から尊皇倒幕に転じて初めて文明開化の世が来た。いまの日本も同じなんですよ。
十月には二つの選挙区で補選がありました。結果は残念なものでしたが。
小沢 今回は新総理誕生と北朝鮮の核実験という、自民党への追い風が吹いていて、負けはしましたが、悲観はしていません。今後に希望を持てるいい戦いをしたと思う。我々の努力しだいです。例えば四月の千葉七区補選では、大方の予想を覆して勝利を収めました。ウチの議員は議論好きが多いから、会議が多いし長い。そこで僕が「会議はやめて現地に行こう」と言ったんです。一票でも、足を使って取りにいこうじゃないか、と。みんな最初は「なんで?」と思ったようです。でも、結果が出たのだから、「みんなの力を結集すればできるじゃないか」という雰囲気が出てきた。
ただ失礼ながら、私の民主党議員の印象は高学歴で優秀、しかし現場で泥臭く生活者と四つに組んで世の中を変えていこう、という迫力に乏しいように思います。
小沢 そうなんです。その点自民党は、もう土下座しようが何しようが必ず選挙に勝ってくる、地元の人に寄り添うようにして粘っこく一票を拾う、という執念があるでしょう。それを学べというんです。ところが、昨年秋の衆院選で落ちて、すぐに他のどこかに就職した人が二、三人いた。それだけ優秀、ということかもしれないけど、もし本当に政治家をやりたいのなら、一期や二期は泥にまみれる執念があっていいと思う。
さて、来年七月の参院選は、小沢さんにとっても、安倍さんにとっても勝負のときとなります。二十九の一人区のうち、いくつとることが目標ですか。
小沢 参院選は、一人区が二十九あるうち、前回獲得できたのは十三。今回は二十選挙区以上で勝負できる態勢を作って、最低限過半数の十五議席はとらなきゃならない。そうすれば、十九ある二人区で一人ずつはとれますから、合わせて三十四議席。さらに比例区で最低十五、六議席とることができれば、もうそれで五十を超える。改選前が三十一ですから、ウチが二十議席増えて自民党が二十議席減れば、それで与野党逆転です。
もちろん、安倍自民党は今のところ支持率も高く、決してあなどれない。やはり政権党は現実に権力を持っているし、「お上信仰」が依然として強い中で役所の全面サポートを受けるから強い。彼らはいい加減な言葉を掲げても選挙ができます。けれども、こちらはやはり、本当の中身のあるスローガンを掲げなければならないから、遥かに大変です。
でもね、絶対にいけると思っているんです。特に一人区は郡部を抱えた県でしょ。その郡部で今までずっと自民党を支えてきた人たちこそ、いま一番格差に苦しみ、将来を不安に思っているんですね。主として農林漁業などの一次産業。零細な地場産業の担い手です。彼らが格差社会の負の部分の直撃を受けていて、今の農政や産業政策に大きな不満を抱いています。また、医師会をはじめとする各種団体など、自民党の支持基盤も相当ゆらいでいます。
僕は今、農協などの団体回りに力を入れています。ウチの議員の多くが「どうせあそこは自民党支持だから、行っても無駄だ」と足を運ばないので、あえて老体にむち打って出向いているんです。確かに各種団体のトップは自民党を向いているけれど、一般の団体員はそうではない。個人、団体を問わず、どんどんアプローチしていけばいいんですよ。
四月に党代表に就任されたときに、ビスコンティの映画『山猫』のバート・ランカスターの言葉を引用されましたね。民主党も自身も含めて「変わらずに生き残るためには、みずから変わらなければならない」と。
小沢 そうです。生き残らなければならないのは民主党や僕自身だけじゃない。日本が生き残るためには、自ら変わる勇気を持たなければならない。「変わる」ことはつまり、我々が政権を握ること、政権交代を実現させることなんです。
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