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http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20061024/mng_____kakushin000.shtmlより転載。
総務相、NHKに『拉致』放送命令発言
報道への介入懸念
菅義偉総務相がNHKにラジオ国際放送で北朝鮮の拉致問題を重点的に扱うよう命令する意向を示した発言が、放送界や有識者を戸惑わせている。命令に従えば、NHKの編集権への政治介入を許すことになりかねないうえ、次はNHKのテレビ国際放送、さらには民放の報道内容へと業界全体が巻き込まれていく懸念があるからだ。 (放送芸能部・小田克也)
「拉致問題は、国の重要課題。(NHKに国際放送するよう命じる)そういうことも考えたい」。発端は、菅総務相が十三日の閣議後会見で述べた一言だった。
この発言は「総務相はNHKに放送区域、放送事項などを指定し、国際放送を命じることができる」(放送法三三条)を念頭に置いている。
命令放送に必要な費用は、同法三五条の規定では国が負担することになっている。政府は現在、NHKのラジオ国際放送にのみ国費を出しており、拉致問題を放送するよう命じることができるのは、ラジオの国際放送だけとなる。
三三条で言うところの「放送事項」とは、総務省によれば、「時事」「国の重要な政策」「国際問題に関する政府見解」の三つを指す。
政府としては、これだけは在外邦人に伝えてほしいとの意向から示した大枠で、歴代総務相がこれ以上具体的な命令をしたことはない。
というのも、仮に命令すれば、NHKの編集権との整合性が問題になるのは避けられない、との判断があるからだ。
菅総務相の発言をめぐっても、上智大学の音好宏・助教授(メディア論)は「編集権を侵しかねない。命令放送は、編集権を尊重する形で行われてきた。その実情を無視している」と批判。放送制度が専門の服部孝章・立教大社会学部教授も「放送事項はあったが、内容まで踏み込まなかった。NHKの拉致問題報道が、総務相の命令か、報道機関としての判断か区別がつかなくなる」と危惧(きぐ)する。
総務相経験者の自民党の片山虎之助参院幹事長も「検討の余地があるのでは」と慎重な対応を促している。
当のNHKは「拉致問題はきちんと取り上げてきた。これからもきちんと報道する」(原田豊彦放送総局長)との見解。放送を所管する大臣の発言だけに、正面切って反発はしにくいようだ。
ただ、ことはNHKだけにとどまらず、将来、民放に波及していく可能性がある。
総務省は、NHKのテレビ国際放送についても来年度予算案に費用を盛り込み、命令の対象にしようとしている。さらにテレビ国際放送を強化するため、新たに設立するNHK子会社に民放などが出資する形を検討中。そうなれば、民放にとっても人ごととは言っていられない。
「今回の一件は、アリの一穴になりかねない。政治の介入がNHKのラジオ国際放送からテレビ国際放送へ、さらに民放の報道番組へと広がるかもしれない。編集権がなし崩し的に脅かされる恐れがある。業界全体の問題だ」(在京キー局社長)との声も漏れる。
NHKはイラク戦争の際、総務相の要請を受けてラジオ国際放送で在外邦人向けの安全情報を流した。要請は三三条と関係なく、NHKも必要と判断して実施した。「菅総務相も、このやり方でやればいい。三三条を持ち出すのは無理がある」。ある民放首脳はこう“助言”する。
菅総務相は十七日の閣議後会見で「報道の自由を制約しない中で、やりたい」と編集権への配慮をにじませたが、NHK幹部は「命令に従えば『編集権への介入を許した』といわれ、断れば『拉致問題に消極的』ととられる。安倍政権も『報道機関に威圧的』との印象を持たれる。どう転んでも損な話だ」と、複雑な表情を見せている。
<メモ>NHKのラジオ国際放送 世界に向けて短波で放送。日本国内の動きを伝えるニュース、海外安全情報、NHKのど自慢などを放送。日本語以外の言語による放送も実施し、合計22言語にのぼる。放送にかかる本年度の費用は85億円。このうち国の負担は22億5000万円余。
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