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「安倍学校」の圧迫感(AERA)
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投稿者 彗星 日時 2006 年 10 月 18 日 13:36:48: HZN1pv7x5vK0M
 

AERA
2006年10月16日

「安倍学校」の圧迫感


ダメ教師も、ダメ子どもも、ダメ親も、みんなサヨナラ。
勉強も、モラルも、歴史観も、たたき直します。
主義を同じくする側近たちと、国のための教育「再生」スタート。

「教育の目的は、志ある国民を育て、品格ある国家、社会をつくることです」
 安倍晋三首相は9月29日の所信表明で教育の目的をこう説明した。品格ある国家をつくるための安倍流教育改革が進むと、小学校はどんな姿になるのか。ある文部科学省職員が将来の姿を予言した。
 朝の全校集会では国旗を掲揚して、国歌を斉唱する。授業は夜まで。ゆとりは撲滅。夏休みは大幅に短くなり、地域によっては土曜日授業も復活している――。
 この文科省職員は言う。
「愛国心を盛り込んだ教育基本法が通れば、現実味のある話だ。新内閣の施策からは国が教育に強く関与しようとする意図が感じられる。それに『あの2人』でしょ?」
 教育再生を重要課題に掲げる安倍氏は、官邸に下村博文官房副長官と山谷えり子首相補佐官を迎えた。この2人が教育再生の中心を担う。3人のつながりは深い。


危なっかしい行動派

 文科省幹部の一人は、安倍氏が掲げる教育政策を見るたびに、「下村勉強会」を思い出す。
 下村氏は早稲田大在学中に塾の経営を始めた。本人曰く「悪ガキが多く集まった」という塾で教えているうちに、「日本の教育を変えたい」と思うに至り、都議を経て国政に出た。
 2004年9月、文科政務官になるとすぐに、「これは、と思う官僚10人ほど」(下村氏)を集めて勉強会を開いた。朝8時から政務官室で週1回。勉強会は約2カ月続き、政策提言をまとめた。抜群の行動力にも見えるが、自民党の閣僚経験者は言う。
「あいつは、あまり深く考えずに動くので、危なっかしいんだな」
 前出の文科省幹部は、その「下村私案」の一部分を覚えている。
「バウチャー制を導入し、生徒数に応じて学校に予算を配分する」「国の責任で教育水準を確保する」「全国学力テストを毎年実施して学力向上につなげる」「英国型の学校評価制度を導入して問題校は閉校させる」
 いずれも、「安倍流教育再生」のメニュー通り。この幹部は言う。
「ここまで下村さんの意見を採り入れている以上、安倍政権で下村さんの影響力は大きいはずだ」
 山谷氏は数年前、性教育の実態を批判する活動をしているときに安倍氏と知り合った。党の「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」では、安倍氏が座長で、山谷氏は事務局長だった。
 04年9月末、新憲法制定などを主張する「日本会議」に所属する国会議員が英国の実態を視察するメンバーに選ばれた。出発前には、自民党幹事長代理(当時)だった安倍氏から直接声を掛けられた。
「英国改革の際の反対運動の中身をしっかりと調べてきてほしい」
 この安倍氏の言葉を聞いて、山谷氏は思った。
「この人は将来、本気で教育改革をするつもりだ」


国定教科書の現実味

 奇遇にも、その2年後、教育改革の担当者として官邸に入った。ちなみに、下村氏もこの視察団の一員だった。
 では、この3人の「教育再生トライアングル」は何を目指すのか。
 3人はともに「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」のメンバーでもある。この会は、多くの歴史教科書が自虐史観に基づいているとし、扶桑社版教科書の執筆陣らによる「新しい歴史教科書をつくる会」と協力関係にあった。
『サッチャー改革に学ぶ教育正常化への道』(中西輝政氏監修)の中で、3人は「偏向歴史教科書是正に成功したイギリス」というテーマで、座談会をしている。その中で安倍氏は、執筆陣でさえ「やや思想性が強い記述が多すぎた」と言っていた扶桑社版の歴史教科書について、こう述べている。
「ストライクゾーンど真ん中の記述ばかりで、市販本も売れたのに、教育現場での採択は惨憺たる結果になった。現状の採択の仕組みでは、大多数の国民の良識は反映されないどころか、否定されてしまうわけです」
 下村氏も8月下旬のシンポジウム「新政権に何を期待するか?」でこう話した。
「歴史教科書の記述も官邸のチェックで改めさせる」
 いまの法律では無理だが、学校教育法を変えて文科省の検定をやめ、官邸による「検閲」が許されるようになれば、「国定教科書」の道も開かれるかもしれない。


問題家庭は24時間監視

 教育再生策の具体的な中身は、有識者会議「教育再生会議」が、年内に中間まとめ、来年3月までに最終報告書をまとめる予定だという。実質の審議は2カ月余しかない。しかし、安倍氏の提案する施策は盛りだくさんだ=チャート参照。
 文科省の課長の一人は言う。
「短期間でまとめ上げるには、抜本的な法改正を伴わない施策から着手せざるを得ない」
 この課長は、1規範意識の向上、2指導力不足教員の排除、3奉仕活動の制度化、に手を付けるだろうと考えている。
 規範意識の向上については、安倍首相自身が『美しい国へ』の中で、
「問題を起こす児童・生徒に対する教員のしつけの権限を法制化」「地域に悪影響を及ぼすおそれのある問題家庭を24時間監視」
 を具体策に挙げ、こう書く。
「善悪のけじめをきちんとつけること、犯罪の芽を初期の段階で摘むことに重きをおいている」
 山谷氏も本の座談会で、こう指摘している。
「英国では、子どもの非行や不登校を防げなかった親に、罰金刑を科している」
「学校の送り迎えは親の義務」
 英国流の「安倍改革」が実現すると、親も覚悟が必要だ。


治安面でもウケるはず

 学校現場はどうなるか。
 安倍氏は著書などで、教育水準を保つ監査機関をつくることを表明している。英国では教員の指導ぶりの視察などで、監査官が年に2回は学校を訪ねているという。安倍氏は著書にこう書いている。
「ダメ教師にはやめていただく」
 全国学力テストは、来年から文科省が実施する予定だが、結果の公表は「市区町村単位」と定めている。しかし、安倍氏は学校ごと、クラスごとの公表が念頭にあるようだ。著書にはこうある。
「結果が悪い学校には支援措置を講じ、改善がない場合は教員の入れ替えを強制的におこなえるようにすべきだ」
 大学進学者は3月の高校卒業から半年間、小・中学生は夏休み中に介護などの奉仕活動を必修化するという。
 ある教育行政関係者はこう話す。
「全国同じ教科書で、同じ指導法、奉仕と愛国心。これじゃ、まるで北朝鮮だな」
 一方、自民党の閣僚経験者は、
安倍氏が教育再生に熱心な背景をこう解説する。
「最近の若者のモラル低下や学力低下を嘆く人は多い。ここにメスを入れれば、治安面からも国民受けすると考えているはずだ」
 安倍首相は、政権の存続をかけた参院選を来年夏に控えている。教育政策を選挙の目玉にしようとしているというのだ。


文科省には任せない

 しかし、あまりに強い統制力、管理主義的なムードを漂わせる「官邸」に対し、違和感を抱く文科省職員も多いようだ。
 案の定、伊吹文明文科相は、「官邸主導」で進もうとしている教育改革を牽制し始めた。
「英語教育より国語教育を充実させる方がいい」
「(安倍首相が提唱する)バウチャー制度は慎重な姿勢で臨む」
 安倍首相周辺はこの「不協和音」について、こう解説する。
「小泉さんと同じ手法。身近に『抵抗勢力』をつくって、それを打ち負かして、求心力を保つやり方ですよ」
 伊吹文科相は「抵抗勢力」なのだという。だから、迎え撃つ官邸は強力なトライアングルを作ったのだろう。
 安倍氏と親交がある八木秀次高崎経済大学教授は、教育再生会議を設置すること自体が、文科省と対決する覚悟の表れだと見ている。
「安倍首相は『教育再生を文科省に任せっきりにしない』という意思を示した。再生会議には従来の文科省が選ぶ教育専門家ではなく、経済人が相当入ってくるはずだ」
 今回の安倍流教育改革は、英国の教育改革が下敷きになっている。著書に『イギリス教育行政制度成立史』がある首都大学東京の大田直子教授は、サッチャー改革直後、反発した教員が大量にやめて学校が混乱した点にも触れて、こう話す。
「下村、山谷両氏が英国視察をしたのは2年前の9月で、サッチャーが改革を始めてから15年以上たっている。長い時間をかけて、改良し終えた姿だけを見て、真似するのではだめでしょう」
 慶応大の金子郁容教授は、
「首相が教育改革に関心を持つのはいいことだ」
 と評価したうえで、
「学校が自律的に教育や学校経営をできるようにすることが前提」
 と指摘する。教員の志望者は大都市を中心に減少傾向に歯止めがかからない。さらに教員には厳しい時代が待っているとなれば、教員の質が下がりかねない。だから、金子氏はこうも話した。
「不適格な教員に辞めてもらうことは必要だが、それより、新たに教員になりたいという人の層を増やす仕組みを作ることが肝心だ。基本的な前提を変えないで、『上からの押しつけだけ』では、大きな効果は期待できない」
編集部 河野正一郎

http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20061016-01-0101.html

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