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仕掛けられた情報心理戦、独り歩きした誤情報『2度目実験』―「東京新聞」特報
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投稿者 天木ファン 日時 2006 年 10 月 12 日 09:33:30: 2nLReFHhGZ7P6
 

仕掛けられた情報心理戦

 独り歩きした誤情報『2度目実験』

 核の脅威が日本列島を震え上がらせている。十一日朝は、「北朝鮮が二度目の核実験を実施」という誤情報が国内を駆けめぐり、世界に飛び火した。今後、実験再実施の可能性は十分に有りそうだ。しかし誤情報は、なぜ独り歩きしたのか。不安の高まりが混乱を誘発したとしたら、北朝鮮が仕掛けた情報心理戦の術中にはまったようなもの。日本の危機管理は大丈夫か。

   (橋本誠、浅井正智)

 第一報を流したのは日本テレビ。「北朝鮮が午前七時四十分、二回目の地下核実験実施と政府関係者」というテロップが午前八時二十三分と同二十四分に流れた。

 同三十二分ごろには、NHKがニュース番組で「北朝鮮二回目の地下核実験の情報 政府が確認中」と速報。アナウンサーが「政府関係者によると、今朝、北朝鮮で揺れが観測されたという情報があり、政府は北朝鮮が核実験を行った可能性もあるとして情報の収集を急いでいる」と伝えた。

 テレビ朝日も同四十四分ごろ、北朝鮮問題の特集番組で、コメンテーターが「北朝鮮が二回目の核実験を実施したという情報があるが現在確認中」と話した。

■皮肉まじりに否定情報発信

 しかし九時ごろ、韓国の聯合ニュースが「異常な動きは全くない」とする青瓦台(大統領官邸)当局者の談話を配信。韓国の地質資源研究院も「北朝鮮ではどのような地震波も感知されていない」と発表し、AP通信や米FOXテレビなど欧米メディアも否定する情報を流した。韓国のニュースチャンネルYTNは青瓦台関係者の話として「地震波は全く検知されていない。日本だけ検知されたということはあり得ない」と皮肉たっぷり。

■3時間経過し誤報を認める

 結局、日本テレビは十一時半のニュースで「現時点で北朝鮮が核実験を行ったとの確認に至っておらず、引き続き情報収集を行うとともに、内容を訂正し、おわびします」と「誤報」を認めるが、取材源の秘匿の原則を理由に情報の出所を明らかにはしなかった。

 この間、日本列島は上を下への大騒ぎだった。

 地震波を観測する気象庁にはマスコミの問い合わせが殺到した。午前八時五十八分ごろには、福島県沖を震源とするマグニチュード(M)6・0の地震も発生しており、核実験と結びつける憶測が混乱に拍車を掛けた。気象庁は九時半、「十一日午前五時から八時半の間、北朝鮮北部周辺を震源とすると思われる振動波形は観測していない」と発表し、火消しに追われた。

 防衛庁は午前九時四十五分、副長官を筆頭とする対策本部会議を開き、「特異な地震波はキャッチされていない」という気象庁の情報を確認。二十四時間態勢で警戒していた外務省でも、米国、中国、韓国などから情報を収集したが、「具体的な兆候は把握できなかった」とした。

 しかし、麻生太郎外相は同日午前の参院予算委員会で「今日中に二回目の核実験を行うであろうという情報に接している」と述べていた。防衛庁広報課は「ノーコメント」とするが、別の政府関係者にも「数日中に核実験が行われる可能性がある」という米軍からの情報が入っている。

 米国大使館は「コメントを可能にする情報を持っていない」としているが、この「予測」情報が勘違いされて伝わった可能性は否定できない。韓国軍関係者が「北朝鮮が核実験をするという情報はあった」と述べた報道もあり、韓国軍も同様の情報を把握していた可能性もある。

 基地の町にも激震が走った。米軍、自衛隊の航空基地がある青森県三沢市基地対策課は「報道を受けて、米軍に警戒レベルを確認したが、四段階の一番下で通常通りだった」と話す。

 しかし、三沢基地周辺町内連合会の岩本芳勝会長は「まさかと思ったが、あの国だから、追いつめられればやるのかと思った」と驚いたという。同基地では、自衛隊のT4練習機が放射性物質の粉じんを観測していることもあり、住民の関心は高い。岩本会長は「自衛隊も米軍も平静を装っているが、頻繁に訓練空域に飛んでいる。核実験があった後は、余計にそう感じる」と不安を口にする。

 なぜ、ガセ情報は駆けめぐったのか。 

 軍事や危機管理の専門家たちは「不確定情報にメディアも政府も振り回されるのは、北朝鮮の核問題が情報心理戦に突入したことを示している」と指摘する。

 北朝鮮のやり口は巧妙だ。二〇〇三年に核保有を表明し、今月三日には核実験を予告していた。そこまで手順を踏みながら、肝心の実験の映像は公開しなかった。これは普通ではない。

 従来の核保有国は核実験の映像を世界に向けて公開してきた。「爆発の映像を見せ、相手の国をひるませることで、初めて軍事的な抑止効果が得られるからだ」と軍事ジャーナリストの前田哲男氏は話す。

 だが北朝鮮は違った。「情報を小出しにしているため、こちら側が最悪のケースを想定して疑心暗鬼になっている。主導権が北朝鮮に握られてしまっている。少ない賭け金で大きな勝負をする、相当したたかなやり方だ」と前田氏はみる。

 今回最も控えめな反応をしているのは米国かもしれない。「米国は北朝鮮が本当に核実験をやると予想していた。それに加え、北朝鮮が小出しに切ってくる核カードで交渉のテーブルにつくのは得策ではないと分かっていた」(前田氏)ことが背景にある。

■政府情報にも問題点あった

 軍事ジャーナリストの神浦元彰氏は、今回情報に踊らされたもう一つの要因として、「日本政府が適切な情報を出さなかったせいでもある」と強調する。

 そもそも軍事の世界では、核実験は短期間の間に複数回するのが常識だ。九八年五月にインドとパキスタンが相次いで核実験を行ったときは、インドが五回、パキスタンは六回の実験をほとんど日を置かずに実施した。複数回の実験で信頼性を高めなければ核武装するまでに至らないからだ。

 「『北朝鮮は一回目の実験で失敗したので二回目を行う』という報道があるが、これは完全に間違っている。一回目に成功したら、立て続けに二回目、三回目の実験を行うのは当然のこと。二回目がないとしたら、それは実験が成功したことを意味するのではなく、まだ核武装する能力がないか、それとも成功してはいても核武装までする意志がないかのどちらかだ。政府は二回目、三回目の実験が当然あり得ると国民に向かって適切に情報を出すべきだった。そうすれば今回のようなことにはならなかった」と神浦氏は政府の対応を批判する。

 情報心理戦になったとき、心得るべきことは何なのか。

■事実を把握し冷静に対応を

 危機管理コンサルタント「リスク・ヘッジ」の田中辰巳代表は、企業の危機管理にかかわった経験から「暴力団やエセ右翼団体から脅迫されたり、インターネット上で誹謗(ひぼう)中傷されても、過剰反応したらかえって相手の術中にはまってしまう。北朝鮮に対しても同じことだ」としたうえで、こう話す。「危機管理の第一歩は事実を正確に把握し、それに即した対応策を冷静に練ることから始まる。相手を過度に怖がったり右往左往することは、最もやってはいけない愚策だ」

<デスクメモ> 十年以上も前に北朝鮮を旅した。ホテルを抜け出し、平壌市内を歩くと、五分もせずに脂汗が出てきた。町の人の刺すような視線が記者一点に集まる。「モーゼの十戒」のように人込みが割れる。東京をクマのぬいぐるみを着て歩いたら、あんな具合か。まもなく「ドーシタノ」と作り笑顔で案内員が現れた。 (充)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20061012/mng_____tokuho__000.shtml

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