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「西山太吉国賠訴訟第 8回口頭弁論」傍聴報告 2006/11/11
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11月7日(火)13時30分より東京地裁にて「西山太吉国賠訴訟第8回口頭弁論」が行われました。今回は原告本人の西山太吉さんの尋問が行われるとあって、100名以上の傍聴希望者があり、抽選の結果49名に傍聴券が与えられました。運良く抽選に当たり、裁判を傍聴することができましたので、以下にその内容を報告します。また、裁判の後、藤森克美弁護士より傍聴者に対する説明が行われ、続いて司法記者クラブでの記者会見がありましたので、あわせて報告します。
※筆者注:34年前、沖縄返還交渉において日米政府に密約があったことをスクープした元毎日新聞記者西山太吉さんは、国家機密を漏洩したとして情報提供者の外務省の女性事務官とともに有罪判決を受けました。2000年と2002年に米国の公文書によって密約の存在が明らかになったことを踏まえ、2005年春、西山さんは国を提訴しました。
裁判の主なやりとり
加藤謙一裁判長が原告指定代理人と被告(国)指定代理人にそれぞれ準備書面提出の確認をした後、西山さんが宣誓を行い、原告指定代理人の藤森弁護士による尋問が行われました(尋問時間は40分)。
藤森弁護士は、西山さんが裁判所に提出した陳述書に沿って尋問しました。日米交渉の経過を克明に記した米国の機密文書「沖縄返還−省庁間調整のケース・スタディ」の入手経路についての質問の後、日米政府が合意をした時期について問われ、西山さんは「1969年に佐藤首相とニクソン米大統領が共同声明を出したときにはすでに主なものは全部決まっていた」と答え、沖縄返還交渉でもっとも難しかったのが財政問題であり、当初5、6兆円のつかみ金を求めていた米国に対し、国内的説明から積み上げ方式を求める日本との間で交渉が難航していたこと、結局米国に押し切られる形でつかみ金方式を飲むことになったこと、1969年中に飲まなければ(日本側が求めている)1972年の返還はないと米国が圧力をかけてきたことなどが機密文書には詳細に記されている、と西山さんは述べました。また、財政問題に関して外務省はノータッチであり、すべては当時の大蔵省主導によるものであった、とも述べました。
「共同声明は真実を述べているか」という質問に対し、西山さんは「嘘を書いている。核は撤去すると書いてあるが、緊急時に持ち込むことを佐藤はOKし、それを秘密にした。そのことはのちに交渉にかかわった人物が明らかにしている。財政問題はすべてこれからとしていたが、1週間前に決まっていた」と述べ、国内の反発を恐れ、核の緊急時持込や5億2000万ドルのつかみ金を米国に払うことは隠してくれと日本側が米国に頼んでいたことを明らかにしました。
西山さんがスクープした、米国が負担すべき原状回復費400万ドルを日本側が肩代わりする密約は氷山の一角であり、「沖縄返還交渉そのものが密約であった」と述べ、「核抜き本土並み」のスローガンで、あたかも沖縄が平和裏にタダで戻ってくるようなイメージを国民に与えていた沖縄返還が、佐藤政権の喧伝する美辞麗句とかけ離れたものであり、その実態がいかに日本にとって屈辱的なものであったか、機密文書で明らかになったと西山さん述べました。
「最高裁はなぜ誤判をしたのか」という質問に、西山さんは、「検察が証拠を隠し、証人が偽証に偽証を重ねた結果、裁判所が誤った判決を出した」と答え、「この問題が国会で審議されることを避けるために偽装が行われた」との認識を示しました。日本政府は、野党に「沖縄をカネで買った」と批判されることを恐れ、米国に「頼むから隠してくれ」と頼みこんだそうです。すでに議会に報告していた米国が、報道関係に責められたら真実を言うと言っていたことなど、機密文書で明らかになったことを述べました。
起訴状にある「情を通じて」という言葉によってどのような変化が生じたかという質問に、西山さんは、「世の中の流れが激変した」と述べ、「国民の知る権利」や「言論・表現の自由」が争われた裁判が、男女のスキャンダルにすり替えられたことについて、「メディアの果たした役割は大きかった」と述べました。検察が密約を隠蔽するためにメディアを使い、情報操作を行ったことに対して厳しく批判しながら、「対等な人間関係においてやったことであり、その取材方法をめぐってはモラルの問題として扱うべきだ」と反論しました。
検察が自分たちに不利になるような情報を出さなかったことについても、その違法性を指摘しながら、「証拠を全部出して公正な裁判が行われなければならない」と厳しく批判しました。また、事柄の重大さを理解せず、結果的に権力に加担したメディアについても厳しく批判しながら、この問題は「たんに条約の偽装や密約といった問題ではない」と述べ、現在の米軍再編に伴う日米軍事一体化の出発点がこの沖縄返還における日米交渉にあったと指摘しました。また、決定的な証拠や証言があるにもかかわらずいまも密約の存在を否定し続けている日本政府を「嘘をつき続けている」と厳しく批判し、「あくまでも戦わなければならない」との決意を述べました。
西山さんは「裁判は公平ではなかった」と述べ、「厳密な証拠に基づいた裁判によって負けたのならよい。だが、検察は証拠を全部開示していない。それどころか、悪用、乱用し、裁判史上例がない10以上の偽証を行った。戦後、もっともいびつな、公正でない裁判が行われた。メディア報道が検察を有利にした」と裁判の不当性を訴えながら、そのような裁判がまかり通っているのは、「司法のレベルが低く、社会的水準が低いからだ」と断じました。事件から現在までの心境について、「人間としての怒り、不条理感が支配している。徹底した不条理感を味わった。それは、人が語るような言葉で言い尽くすことはできない」と語りました。
米国の公文書や吉野発言(筆者注:2006年2月、沖縄返還交渉にあたった元外務省アメリカ局長の吉野文六氏が、密約があったことを認める発言をした)によって密約の存在が明らかになったのちも、一貫して政府が「密約はなかった」と否定し続けていることに対し、西山さんは「日本の矛盾を世界に示した。恥さらし」と切捨て、「米国の外交機密文書と吉野氏の発言を政府が全部否定するなら、それを立証する責任が必要になる」と述べ、説明責任を果たさない政府を批判しました。また、嘘をつき続けている政府を許容している社会に対しても「権力に対する監視能力がないために恐ろしいことがまかり通っている。検察が政府を擁護し、検察が組織犯罪に加担している」と述べ、権力を監視する能力が国民にないため、組織ぐるみの国家犯罪が行われていることに警鐘を鳴らしました。
一審の無罪判決のあと毎日新聞社を退職した理由にについて、西山さんは「女性が有罪になった時点でやめなければならないと思った」と述べ、会社側からの働きかけもあったが、西山さんとしては自分が有罪になっても無罪になっても、情報提供者の外務省の女性事務官が有罪になった時点で記者をやめることを決意していたことを明らかにしました。新聞社をやめたあと、ジャーナリストの仕事に就いていないことを問われ、「事実上不可能だった。発言する機会がなく、社会的に断絶され、封殺された」と述べ、自他共に認めるほどの天職だった新聞記者をやめ、30数年間の沈黙を続けた理由を明らかにしました。
今回国家賠償を起こした理由について、西山さんは「沖縄返還問題は異質なものが入っていて、これこそ今日の米軍再編につながっている。情報操作をして不利なものを隠蔽して美辞麗句を並べ、無償で沖縄が戻ってくるようなイメージを与えた。だが、いまも米軍基地の75%が沖縄にある。沖縄は一つも変わっていない。これは情報操作といったようなものではない。情報における犯罪だ。それがいまも続いている。沖縄はすこぶる今日的問題であり、これをやらなければならないと思った」とその理由を述べました。
当初、被告(国)指定代理人は20分の尋問を要求していたのですが、加藤裁判長の「質問はありませんか」という問いかけに対し、被告指定代理人は「ありません」と答え、被告側尋問なしの裁判となりました。
次回の裁判は12月26日(火15時に、東京地裁で行われる予定です。
裁判のあとの説明会
藤森弁護士(以下略して「弁護士」)から裁判についての説明の後、傍聴者との質疑応答がありました。
弁護士 「西山さんはシャイ。本来なら慰謝料を請求しているのだから精神的苦痛を訴えなければならない。陳述書にはそれが書かれていない。証言でもほとんど言ってくれなかった。いじわるな裁判官なら、精神的苦痛を受けた立証はないとしてしまう。西山さんにそう言ったが、譲らない。だが、密約が明らかになったことで国家の組織犯罪が暴かれた。西山さんが入手した電信文は保護に値しない秘密であることを立証することができたと思う。国は20分反対尋問をするはずだったが、なにもない。国は中身では争わず、除籍期間や時効で争うつもりかもしれない。加藤裁判長はこれまでいい判決を書いている。その点は良心的な裁判官ではないか。ただ、最初は刑事記録を出す必要性を認めていたのに、途中で腰が引けた。『ケース・スタディ」には1969年の日米共同声明の嘘が赤裸々に出ている。『ケース・スタディ』、『柏木・ジューリック秘密合意』、『吉野・シュナイダー秘密文書』。この3つの密約で沖縄返還協定そのものが嘘で固められたものであることが明らかになった。西山さんは裁判で、公正な裁判を受けられなかったことへの不条理を訴えた」
傍聴者 「次の弁論について聞かせてほしい」
弁護士 「さらに証拠を集め、検察の嘘を明らかにしていきたい。公文書や吉野発言で密約があったことが明らかになっているのに、嘘がまかり通っているのはおかしい。職業裁判官の倫理に期待したい。証拠を吟味し、事実を認定し、違法がなかったかを示す。高いモラルをもっている裁判官なら正しい判断をしてくれるはずだ。職業裁判官の魂を呼び起こしたい」
傍聴者 「裁判は次回が最終か?」
弁護士 「書面を出してから決まるのではないか」
傍聴者 「野党でこのことを追及する議員はいないのか」
弁護士 「鈴木宗男議員がやってくれている。質問趣意書を外務省に出している」
傍聴者 「外務省はなんといっているのか」
弁護士 「答えは同じ。密約はないと言っている」
傍聴者 「西山さんの話は苦痛がにじみ出ていた。よく伝わってきた。裁判官が人間だったら西山さんの思いを汲み取ってくれるはずだ。西山さんは精一杯言った。それを感じた」
傍聴者 「裁判官が身を乗り出して真剣に聞いていた。西山さんの話にいちいち頷いていた」
傍聴者 「西山さんの目の色、顔をよく見ていた。裁判官があそこまで身を入れて聞くということはないのではないか」
記者会見の主なやりとり
司法記者クラブでの記者は、西山さん、藤森弁護士、田島泰彦上智大学教授の3名が出席しました(以下敬称略)。
西山 「検事の尋問を期待していたが、なかったのでガッカリした。沖縄返還がどういう性質のものか。戦後最大の外交問題であるにも拘らず、政府から国民にその実態が明かされていない。沖縄返還は現在の米軍再編に伴う日米軍事一体化の出発点だった。自分たちに都合のいい美辞麗句を並べ、それによって日本がどのような影響を受けるか言わなかった。深刻な代償を払うことがわかると国内で摩擦が起こる。それにメディアが一役かった。これは情報操作といったレベルでなく、情報犯罪だ。権力を国民が監視しないため、国民が権力に見下されている。米軍再編について、抑止力とか負担軽減といった言葉でカモフラージュしているが、実態は日米軍事共同体である。グァム移転は負担軽減ではなく、グァムが海兵隊を必要としているから行くのだ。あくまでもアメリカの都合で移転するのに、なぜ日本が移転費を負担しなければならないのか。あのときとまったく同じだ。1つも変わっていない。アメリカの最大のテーマは北朝鮮ではなく、中近東だ。その中近東に一番介入しているのは日本。一番先にイラク戦争を支持した。なのに、イラクをやらない。新聞もテレビも北朝鮮をやっている」
弁護士 「裁判を起こしたとき手元にあったのは米国の公文書と、一審と二審の判決文、そんな程度でしかなかった。裁判で3本の密約があったことを立証できた。東京地裁の判決が嘘だったことが米国の公文書や吉野氏の発言でも明らかになった。東京地裁の判決は間違っていたということを立証できたのではないか。国側は反対尋問を20分としていたが、一切なかった。ふつう、反対尋問がない場合は認めたことになる。検察が証拠を隠さなければ、事件は解明できた。公正な裁判ではなかった。誤判については、職業的な魂をもった裁判官なら誤判といわないとおかしい。本来なら、公文書が出てきた時点で検察が再審の請求をしなければならないはずである。時効にもかかっていない。ごくわずかの資料で出発した裁判だが、応援してくれた人がいて、原告尋問まで辿り着くことができた。検察が刑事裁判で嘘をついていた証拠を12月26日まで手に入れて裁判所に出していきたい」
田島 「反対尋問がないことは異例。なんの反論もないのか。あるいはボロがでるからしないのか」
弁護士 「検察は中身について認否していない」
西山 「それでいく、としたのではないか。それ以外のやり方はない。形勢不利と判断した」
記者 「久しぶりに法廷に立ってどんなことを思ったか」
西山 「法廷は大嫌い。今度の民事については、裁判をやっていると同時に、法廷という場を通して自分のジャーナルを展開している。その認識できている。いまの自分の立場ではこういう場以外、世に問う場がない。判決もさることながら、先進国の中でこれほどグレードの低い国はない。首相も外務大臣も密約の存在を否定している。政府側からそれに対する説明責任が付加されなければならない。説明責任を果たしてほしい。立証責任が政府にある。こんな国はない。それを許容している社会がある。愛想が尽きる。吉野氏は、沖縄はいまも占領下にあると言っている。勇気ある発言だ。逃げてちゃいけない。これは日本全体の問題だ。政府の嘘を許容するような社会ではダメだ。それでは日本にまともな民主主義は育たない。情報犯罪を摘発し、権力とメディアの正しい在り方を、法廷を利用して闘っていく。判決の結果より大事なのは、情報犯罪を告発することだ」
(ひらのゆきこ)
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