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高村薫さんと考える:今月のテーマ いじめ <with 藤原健・編集局長>
◇暴力であり犯罪だ
相次ぐいじめ自殺。いじめた側の子に対して出席停止(注)などの厳しい姿勢で臨もうとする議論も起きている。作家・高村薫さんは「親の期待を背負い、いろいろなストレスを抱えた子どもたちにいじめが加われば、(自殺へと)背中を押されてしまう」と分析する。そして、今、いじめに苦しんでいる子どもたちに「長い人生で、苦しい今だけがすべてではない。5年、10年先、何か楽しいことがあるかもしれない。自分を相対化して考えてほしい」と呼び掛けた。【構成・大場弘行、写真・貝塚太一、北村隆夫】
◇平等、並列・・・自由競争が排除され、発散されるエネルギーが行き場を失った
◇学校が人生のすべてではない、苦しい今だけがすべてではない
藤原健・編集局長 子ども社会は大人社会を映す鏡。いじめの問題を今、きちんと考えなければなりません。
高村薫さん いじめは昔からありますが、近年の日本のいじめは昔と中身が違ってきていると思います。集団生活というものは、自由競争の中で序列化が起きるもので、みんなが平等、並列というのは幻想なんですが、学校とは、そうした厳しい現実を前提にしながらも、仲良くしようという社会生活を訓練する最初の場だったはずです。貧しくても、学校では、勉強さえすれば一番になれ、スポーツが出来れば尊敬もされた。学校が楽しく、救いの場になる最低条件は、家庭環境にかかわらず自由な競争があることです。
なのに、学校では今、その訓練が放棄されています。平等、並列を出発点にして、自由競争を排除し始めました。競争で発散されていたエネルギーが行き場を失い、ゲーム感覚の憂さ晴らし、いじめが始まった。これが近年のいじめの特徴だと思います。
藤原 高村さんは、子どものころいじめられた経験は。
高村 あります。私の場合、新興住宅地にある小学校でしたが、私が集団でつるまないから、女子グループに「何で一緒に来ないんだ」といじめられました。中2のころ、そのグループがほかの子をいじめたので、教室の真ん中で大げんかし、授業が始められないことがありました。私は性格が強い方だから対抗できました。
今は一人っ子も多く、大事に育てられ、強く、たくましくとはいきません。親の期待を背負い、しかも、自分の将来や大人になることに夢を持てず、受験、家庭など、複数のストレスを抱えています。そこに、いじめが加わると、(自殺へと)背中を押されてしまう。
藤原 福岡県の中学生が、ディープインパクト(競走馬)の子どもに生まれ変わりたいという遺書を残して自殺しました。その直後、通勤中のバスの中で、中学生がそれを笑いながら話題にしているのを見ました。社会全体に、弱さを見せた人に追い打ちをかける雰囲気があります。
高村 そういう感性の持ち主が、社会に出るといじめる側に回る。
藤原 大阪府富田林市で自殺した女子中学生は、病気で身長が低く、そのことでいじめられていました。
高村 学校は義務教育で誰もが行く場であり、安全であるべきなのに、学校や教育委員会、文部科学省がその義務を果たしておらず、私は猛烈に腹が立っています。追い詰められた子を救うには、転校などの措置でいじめた子と引き離すしかない。しかし、学校がまるで聖域のように扱われています。殴られても、金を取られても、話し合いで仲直りして我慢しましょうねと、事実を覆い隠す。世間では法を犯せば刑罰を科す。学校でも最低限の秩序が必要ではないでしょうか。
藤原 これまで、いじめた側をどうするかという論議が欠落していましたね。
高村 いじめは暴力であり犯罪なのだと、子どもにしっかり教えることが必要です。いじめで、心的ストレスを与えて死なせたら、それは罪なんだと。ことの重大さを理解させなければ、反省も償いも生まれません。そのための方法として出席停止という議論が出てきていますが、校長が全校集会で「命を大切にしましょう」と訴えるだけではだめです。
藤原 今、まさに遺書を書かんとしている子に高村さんが声をかけるとしたら。
高村 まず、学校があなたの人生のすべてではないと言います。とりあえず、休めばと。学校に行かなくても死にはしない。転校も出来ます。長い人生で、苦しい今だけがすべてでもありません。5年、10年先、何か楽しいことがあるかもしれない。つまり、自分の存在、置かれた状況を相対化して考えることです。
本来、学校でそうした相対化を学ぶものです。家庭では大事にされ、「オンリーワン」ですが、学校では大勢の中の1人。人はいろいろあるんだ。そういう複雑な序列の中に自分を置くことで、自分の存在を相対化できるのです。
藤原 一方で今、熱心な先生ほどくたくたです。家庭と学校が両輪として、心豊かな子どもを育てたい。
高村 学校や教師が担わされている分野が多すぎます。先生は時間が足りない。しつけ、心のケア、人生相談など何から何までやらされる。肝心な授業に注ぐエネルギーが残っているのか。社会と学校が担う分野の線引きをし、社会が学校をどうとらえるのか、もう一度きちんと整理し直すべき時が来ていると思います。
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(注)学校教育法で規定されている。他の子どもの学習権を保障するため、小中学校を運営する市町村教委が適用を判断する。02年1月の法改正で「他の児童の心身に苦痛を与える行為」など基準が明確になったが、精神的ないじめの適用はわずかにとどまっている。相次ぐいじめ自殺を受け、政府の教育再生会議で厳格な適用も検討されたが、「いじめ問題への緊急提言」には明記されなかった。
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◇社会の中の自分
高村さんが指摘したように、子どもにとって、学校は「最初に出会う社会」だ。そこにはルールもあるし、理不尽なこともある。それを自覚させ、考えさせることで子どもは「社会の中の自分」−−高村さんの言葉を使えば「相対化」−−を意識し、課題を克服する力を獲得できる。残念なことに、学校からいじめをなくすことは難しい。であれば、いじめがどんなに人を傷つけるかをきちんと教え、具体的な対策を立てておく必要がある。
高村さんは「弱い立場の人をいじめることは犯罪にも等しい」と憤っている。いじめた側が無自覚なままに社会に出たときの恐ろしさにも言及する。
政府の教育再生会議は、いじめをした児童・生徒に対する「毅然(きぜん)とした対応」と、いじめに加担した教員の懲戒処分を盛り込んだ緊急提言をまとめている。これをめぐる論議は分かれているが、学校の悩みは、社会全体の悩みであることを再確認したい。教員の奮闘だけに期待するのは限界がある。もう、放置は許されないところまできている。【藤原健】
ご意見、取り上げてほしいテーマをお寄せください。〒530−8251(住所不要)毎日新聞社会部「高村薫さんと考える」係。ファクスは06・6346・8187。メールはo.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp。次回は来年1月7日。都市と地方をめぐり幅広く論議します。
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◆いのちの電話
◇1人で悩まないで、かけてください
【いじめに関する主な相談窓口】
<大阪府>
▽子ども悩み相談フリーダイヤル電話0120・728・525
(大阪府、子ども専用、24時間)
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(NPO子どものための民間教育委員会、24時間)
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(大阪法務局、月〜金8時半〜17時15分)
<京都府>
▽いじめ相談ホットライン電話075・351・7834
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(京都府警少年課少年サポートセンター、24時間)
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(神戸地方法務局、月〜金8時半〜17時15分)
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▽奈良すこやかテレフォン電話0742・35・1002
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▽奈良いのちの電話電話0742・35・1000(24時間)
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(県立教育研究所、月金9〜21時、火木9〜17時、水9〜12時と17〜21時、土日祝日と年末年始は休み)
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(県警少年サポートセンター、月〜金8時半〜17時15分、土日祝日と年末年始は休み)
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<石川県>
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(いしかわ子育て支援財団、月〜土9〜21時、日13〜17時、祝日休み)
<福井県>
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▽いじめ110番電話0120・874・371または0120・779・110
(県教委、月〜金9〜19時、土日祝10〜17時)
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(県青少年総合相談センター、子ども対象、年末年始を除く毎日8時半〜23時)
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(県警、20歳未満の青少年と保護者など、24時間)
<広島県>
▽いじめダイヤル24電話082・420・1313(24時間)
※担当者との直接相談は月〜金9〜16時。
▽広島いのちの電話電話082・221・4343(24時間)
▽ひろしまチャイルドライン子どもステーション
電話0120・7・26266
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<香川県>
▽子どもと家庭の電話相談電話087・862・4152
(児童相談所、月〜土9〜21時、日祝日は休み)
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電話089・945・4115(9〜18時)
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▽県警いじめホットライン電話088・623・7324(24時間)
▽子ども何でもダイヤル電話088・626・0874
(県中央児童相談所、9〜21時)
<高知県>
▽少年サポートセンター電話088・872・7867
(県警・県教委、平日8時半〜17時)
毎日新聞 2006年12月3日 大阪朝刊