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企業減税は消費税にツケ [AERA]
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投稿者 white 日時 2006 年 11 月 27 日 19:57:40: QYBiAyr6jr5Ac
 

□企業減税は消費税にツケ [AERA]

 http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20061127-01-0101.html

2006年11月27日
企業減税は消費税にツケ
経済界が「4兆円の企業大減税」を主張している。財界だけがいい思い、
どころじゃない。この減税、参院選後に「消費税率2%アップ」に変身しそうだ。
「30%をめどにして考えるべきだ」
 11月13日午後、千代田区の経団連会館。日本経団連の御手洗冨士夫会長(キヤノン会長)が記者会見でこう明言すると、記者の間に驚きが走った。さりげない言葉が意味するところは、現在39・54%(標準税率)である企業の実効税率負担を10%下げろ、という提案だった。
 税率が10%下がれば4・4兆円に上る巨額減税が経済界にもたらされる。
「企業は軒並み最高益なのに、賃金はいつまでたっても上がらない」。サラリーマンに不満が渦巻くなかで、さらに悪者になりかねない企業優遇を御手洗会長が言い出したのには訳がある。
「経済界が、企業減税にもっと本気になってくれないと困る」
 政府内部からそんなささやきが経済界に伝わった、と関係者はいう。財政難に苦しむ政府が減税をささやくなどありえない、と思うのが普通だが、そんな常識が通らないほど、税を巡る政府内部の駆け引きは複雑で見えにくい。

企業へのバラマキか
 今なにが起きているのか。闇に光を当てる今回のヒントは「予想を超えた自然増収」である。
 慎重に見積もっていた税収が、好調な企業業績に支えられ、予想外に膨らむ可能性が見えてきたのだ。財務省ではいま、今年度の税収を見定める作業をしている。当初予算では45・9兆円の国税収入が見込まれていた。それが3兆〜4兆円は伸びる見通し、という。「5兆円に達すると聞いた」という自民党幹部もいる。
 思いがけない臨時収入である。赤字に押しつぶされそうな財政にとって、まさに干天の慈雨。国債を減額する貴重な財源である。
 ところが、いま始まろうとしているのは企業減税というバラマキだ。政治献金復活など、急接近している産業界と政府・与党の「宴会」ともいえる大盤振る舞いだ。
 事態を理解するために、話を7月にさかのぼる。政府は「骨太の方針2006」を決めた。この中でいわゆるプライマリーバランス(基礎的財政収支)を2011年度に黒字化すると決めた。そのためには歳出を11兆〜14兆円削り、歳入は2兆〜5兆を増税で増やす。この「2兆〜5兆円の増税」は消費税引き上げへの重要な布石だった。「09年度に消費税増税」が財務省の腹案だった。
 ところが、ここに来て3兆〜4兆円の税収増が出て、前提が狂い始めた。税収不足が消費税増税の根拠だったからだ。いまの調子では増税なしで当面の再建目標を達成できる可能性が出てきた。納税者にとってうれしいことだが、先々のことを勝手に心配する財務省には、目先の増収は「嬉しくないこと」に映る。
 税収増をうまく処理しないと消費税増税が閉ざされる、とみた財務省の一部が、企業減税や予算のバラマキに理解を示し始めた――という構図である。

景気拡大の実感は薄く
 企業大減税への舞台回しはすでに整っている。財務省主導から官邸主導へと変わった政府税制調査会がその装置である。財政再建論者だった石弘光前会長(前一橋大学長)に代わって、新会長に就いたのは本間正明阪大大学院教授。法人税減税による経済活性化が持論で、安倍首相の掲げる成長路線にぴたりと合う。
 政府税調の委員は正委員と特別委員計36人のうち企業幹部は4人だった。それが新体制で顔ぶれが変わると38人のうち8人が企業幹部になった。本間会長と合わせ「経済界のための政府税調」といった様相だ。
 産業界重用は安倍首相が議長を務める経済財政諮問会議にも言える。4人いる民間議員のうち2人は御手洗会長と丹羽宇一郎伊藤忠商事会長。労働界や消費者代表はいない。残る2人は経済界に理解がある学者が占めている。
 財政再建の砦だった財務省には「商工族」の重鎮、尾身幸次氏が大臣として送り込まれた。やはり商工族である甘利明経産相と組んで企業減税を進める布陣を敷いている。
「成長していかなければ少子化対策も財政再建もできない。世界からの投資を増やし、アジアの成長を日本に取り込む」
 首相は今年9月の総裁選での演説で成長重視の「上げ潮路線」を強調した。企業に利益を上げてもらい雇用や設備投資を刺激し、消費の増大や中小企業への波及を促す、という政策だ。
 今年7〜9月期の国内総生産(GDP)は、前期比0・5%増で、7四半期連続のプラス成長となった。今月も景気拡大が続けば、いざなぎ景気(4年9カ月)を抜いて戦後最長になる。
 本当かね?と首を傾げたくなる話だ。数字の上ではそうかもしれないが、そんな好景気を実感できるひとはどれだけいるのか。

高齢者への負担増続く
 05年度の法人企業統計調査で従業員給与(パート、アルバイトを含む)は前年度より0・5%減って351万円、3年連続のマイナスだ。ピークが97年で390万円だったが1割も下落している。
 小泉政権下の02〜06年の税制改正では、企業は1・4兆円の大減税だった。個人所得は3・9兆円の大増税である。企業の最高益を支えたのは、庶民の負担増だった。定率減税がすべて撤廃される07年には個人の税金はまた重くなる。すでに老齢者控除廃止や公的年金等控除の縮小で高齢者の負担は増えている。そんな中で安倍政権と経済界は企業減税に向かって走り出した。
 第一弾は、減価償却制度の見直しを通じた法人税減税だ。これまで、古い生産設備でも一定の価値が残っているとみなし、償却は取得価格の95%までにして、残りの5%は償却させないできた。しかし、諸外国並みに全額償却へ見直すなどし、5千億円規模の企業減税が見込まれている。
 財源は07年1月からの庶民増税(定率減税の全廃)による1兆円増収があてられる構図だ。
結局は庶民にしわ寄せ
 経済界が目指す本丸は、法人税の税率自体の引き下げだ。現在、法人税(国税)は30%、これに地方税などを加えた39・54%の税率を大幅に引き下げようとしている。冒頭の御手洗会長の発言は、まさにこの点に触れたものだ。口火を切ったのは、本間・政府税調会長である。11月初めに「欧州並みを目指すのは一つの考え方だ」として、35%前後へと5%引き下げに言及した。
 13日の御手洗発言は、下げ幅を10%へと2倍に進めて、減税規模は4・4兆円と巨額になった。まるでバナナのたたき売りのように、「兆円規模の減税」の大安売りだ。
「企業が国際競争力を失っては困る」(御手洗会長)として、欧州やアジア並みへの税率引き下げが唱えられている。
 法人の実効税率は、イタリア(ミラノ)37・25%、フランス(パリ)33・33%、中国(上海)33・00%で各国は日本よりは低い、というのがその論拠だ。しかし、90年代以降繁栄を続ける米国(ロサンゼルス市)は40・75%と日本よりも高い。米ニューヨーク市に至っては45・95%と日本の5ポイント高で、税率の高低が競争力に影響するのかは疑わしい。
 日本では、研究開発・情報技術(IT)減税措置(約7千億円)が設けられており、先進的な企業の実効税率は、実際は「20%台後半」(関係者)ともいわれ、法人実効税率の比較自体が難しいのが実情だ。
 そもそも、国際競争を勝ち抜く必要がある企業は限られている。国際競争を旗印に、国内向けサービス産業を含む全体の法人税を引き下げるのは、理由にならない。
 結局は、選挙目当てのバラマキとの批判は免れないだろう。
 しかし、問題はその財源だ。
 好景気で法人税収が伸びているとはいえ、80年代後半のバブル景気の際にも予想外の税収増が続いたのは数年だった。4・4兆円の企業減税には、4・4兆円の増税が必要だ。国内では、消費税、所得税、法人税が3大税目だ。法人税を減税すれば、庶民増税は不可避だ。
 実は89年度から99年度までの10年で、法人税(国税)は40%から30%まで、10ポイント下がっている。89年に19兆円あった法人税収は、不況も相まって99年には10・8兆円まで、8兆円も落ち込んだ。そこで登場したのが、89年に創設された消費税だ。99年には消費税収は10・4兆円になり、まさに法人減税を消費増税が埋め合わせた。
 消費税1%の税収は、2・2兆円(国・地方の支出分を除く)。ちょうど、消費税を2%上げれば、御手洗会長が主張する4・4兆円の企業減税がまかなえる形だ。安倍政権は、企業減税だけを先行議論し、消費税については来年夏の参院選後まで議論自体を封印する意向だ。しかし、企業減税はいずれブーメランのように消費税増税に跳ね返る。納税者の監視が不可欠だ。
経済部 尾形聡彦
編集委員 山田厚史

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