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ビルダーバーグ、それは世界の有力な政治家、銀行家、多国籍企業が秘密裡に組織した国際機関。政治、市場経済、戦争を仕切る権力者たちが目論む、「新たな世界秩序」樹立計画の驚愕の内実。衝撃のノンフィクション。
2006年11月20日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.402 Monday Edition
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http://ryumurakami.jmm.co.jp/
▼INDEX▼
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第402回】
□真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
□杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
□山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
□津田栄 :経済評論家
□金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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Q:736への回答ありがとうございました。また、本日12日夜の「JMMナイ
ト」に参加されたみなさん、お疲れさまでした。あれからキューバ人にブラジル料理
屋でお肉を食べさせました。かなり酔って、もうヘロヘロです。
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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第402回目】
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====質問:村上龍============================================================
Q:737
政府・与党自民党の一部に、日本の核武装に関する議論が必要だという意見が出て
いるようです。日本の核武装が現実になる場合、日本経済にどのような影響を与える
のでしょうか。
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====
※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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■ 真壁昭夫 :信州大学経済学部教授
仮にわが国が核兵器を保有する場合には、安全保障、政治、さらには経済に大きな
影響をもたらすことが予想されます。その場合の経済効果を考える場合、主に二つの
パスを想定すると整理し易いと思います。一つは、核武装がもたらすダイレクトな経
済効果です。単純に考えるとダイレクトな経済効果は、現在、わが国が安全保障につ
いて米国に頼っているために負担しているコストから、核兵器を保有することによっ
て新たに発生するコストを引いた金額を減額することができます。その金額は少なく
ないはずです。
米国は、現在、覇権国として"世界の警察"の役割を担っています。アジア地域で
は、次の覇権国候補である中国の著しい台頭もあり、米国のプレゼンスは拡大しつつ
あるといわれています。プレゼンスをたかめるためには、当然、コストがかかります。
その費用の一部を、わが国政府=財政支出で賄っているのが現在の構図です。という
ことは、わが国が支出しているコストは、単にわが国の安全のためのコスト・プラス
アルファーということになるはずです。そのため、わが国が核兵器を持って、米国に
対する依存度を低下させることができれば、その分のコストはある程度低減できると
考えられます。
一方、核兵器を保有するために新たに発生するコストもあります。現在のわが国の
技術力を勘案すると、核兵器を作ること自体には、それほど多額の費用は掛からない
といわれているようですが、核兵器を保有するためには、発射装置や安全確保システ
ムの構築など様々なアディショナル・コストが必要になります。
削減できるコストと、新たに発生するコストを比較すると、長期的に見れば、削減
できるコストの方が大きいのではないかと思います。それは、最近の米軍再編に関わ
るわが国の費用負担を見ていても明確でしょう。他の人が費用負担をしてくれると思
えば、費用支出の効率化を考える姿勢はなくなります。また、こちらの言い値で負担
してくれるのだと思えば、できるだけ多額の見積もりを出すことが有利になるからで
す。
もう一つ重要なことは、核兵器を開発したり、関連施設を構築する費用が海外に流
出せず、国内に還流することです。安全保障を米国に依存すると、単純化すると、そ
のコストは米国中心の軍需産業に還流していたと考えられます。その資金の一部、あ
るいは太宗が、わが国の中で使われることは経済的には、大きな需要創出効果を生む
ことでしょう。また、それに伴って、核兵器を自国で保有し管理するノウハウが、着
実にわが国に蓄積していくことです。これに関するラーニング・エフェクトは大きい
はずです。
もう一つのパスは、安全保障上の問題や政治的な経路を通じて、間接的に及ぶ、い
わばインダイレクト経済効果です。そうした経済効果を計量化することは難しいでし
ょうが、中・長期的な視点から見れば、こちらの効果の方がマグニチュードは大きい
と考えます。北朝鮮の核実験など最近のわが国を取り巻く様々な問題を考えると、現
在のわが国が磐石な安全保障体制の上にあるとは考え難いと思います。特に、わが国
の安全保障は、米国に対する依存度が極めて高く、自分で自分の安全を守ることがで
きない状況になっています。
しかも、中国、北朝鮮を初めいくつかのアジア諸国が、既に核兵器を保有している
状況を考えると、政治的にわが国の発言力が低下することは避けられないでしょう。
それは、国連の常任理事国にノミネートしたときの投票結果を見ても、かなり鮮明に
なっています。安全保障や政治の要因は、当該国にとって存亡に関わる大きな問題で
す。これらのファクターは、経済の上部構造、つまり、経済よりも重要なものだと思
います。核兵器を保有することが、安全保障、政治など全ての問題を解決するもので
はないでしょうが、解決に向けた筋道を提示することができる事象だと考えます。
こうした要素を考えると、私自身、わが国が直ぐに核兵器を保有すべきだという議
論には組しませんが、議論があることに問題があるとは思いません。その議論は、た
ぶん、経済的効果だけに止まらず、国の存続意義に立ち返るような根本的な議論にな
ると予想します。
信州大学経済学部教授:真壁昭夫
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■ 杉岡秋美 :生命保険関連会社勤務
日本が技術的に核武装する能力があるのは、疑いをえないところです。日本同等の
科学技術のレベルを持ち、より経済規模の小さいフランスやイギリスでも核兵器を開
発して維持しています。また、そのことによって、特に経済が悪くなったという話
も、よくなったという話も聞きません。
核兵器の製造は原料の手配に費用がかかりそうですが、原理的には確立されてい
て、大学院レベルの知識があれば設計できるといわれています。実験をどこでするの
かという問題は残りますが、あとは日本の得意な製造技術で解決できますので、数ヶ
月と言うわけにはいきそうもありませんが、年単位の事業計画を作れば、他国に脅威
を与えうるものが十分出来上がるでしょう。輸送手段を含めて、どれだけの量を持つ
か次第では、原子力産業や防衛産業に、ある程度の厚みをもったも核兵器産業が付け
加わる可能性もありそうです。
しかい、経済的な議論はここでとまってしまいます。核武装と経済の関係は概念的
にも実態的にも、両者の関係に明確なものがなく、したがってその経済的な帰結につ
いても明確なことを言いにくいというのが正直なところです。つまり、日本の場合、
北朝鮮とは違って経済力が核武装の制約となっているということはありそうにありま
せん。また、開発したからといって経済を崩壊させることはありません。
素直な、議論の流れとしては、まず核武装したことによる、直接的な国際政治や外
交面でのインパクトを論じ、それぞれのケースのもとでの経済への影響を考慮するこ
とになるのですが、結論はあいまいなものになります。
たとえば、日本経済が大きく依存する東アジア経済圏では、日本の核武装によ
り、韓国も核武装してしまうと、日本、中国、韓国、北朝鮮のすべてが核保有国とし
て対峙する可能性を考えてみましょう。この状況は不穏で、この地域の経済繁栄には
つながりそうもありませんが、それでも安定を保つことが出来れば、安全保障上は帳
尻が合うのでしょう。しかし、この状況は経済的には良いとも悪いとも判定が付きが
たい状況です。
国際政治情勢の他のケースについても検討がされるでしょうが、特徴的な経済的な
帰結を導き出しにくいのではないかと思います。
経済の側面から、核武装に対して良いとも悪いとも言えず、結局、核武装の議論と
経済の議論は、かみあわないままになりそうです。かみあわない理由はいくつか挙げ
られます。核兵器は、期待される財としての効用は、核抑止力とパワーバランスとい
う究極の公共財で、効用の有無や多寡を議論するときも、大所高所からの抽象論を展
開せざるを得ないもどかしさがあります。開発や生産を計画するにしても、米国のマ
ンハッタン計画のように、高度に計画経済的な手法をとらざるを得ず、市場経済的な
議論にはなじみにくい面があります。
また、これが一番大きいのではないかとおもいますが、日本の場合、どのような側
面から論じようと、近い過去における広島のトラウマを思い出さざるを得ない事情が
あります。これまで日本が核兵器の議論をタブー視して、本格的な議論を避けてきた
ことには十分な理由があったのだと思います。
核武装に進むにせよ、進まないにせよ、経済的な配慮からは自由に決定が出来る経
済力がある以上、結局問題は、このトラウマをどう扱うかにかかっているように思い
ます。
生命保険関連会社勤務:杉岡秋美
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■ 山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
核武装も含めた議論が必要だという、自民党の中川昭一政調会長の問題提起は、一
方で物議を醸しましたが、政治的にはなかなか上手な駆け引きではなかったか、とい
う印象を持ちます。「議論が必要だ」という言明自体には、誤った点はないので、民
主党の鳩山氏などの「議論すべきでない」という批判が奇妙なものに聞こえました
し、中川氏も謝罪や訂正に応じることなく態度の一貫性を維持することが出来まし
た。「ここまでなら問題ない」との計算済みの発言でしょうし、民主党は、まんまと
引っ掛かったように見えます。
さて、ご質問の、日本が核武装した場合の日本経済に対する影響ですが、これはか
なりネガティブなものではないかと思います。
私は、軍事問題の専門家ではないので、以下は、正しい議論になっていないかも知
れませんが、日本が核兵器を保有しても、これを対外的に抑止力として十分機能させ
ることが難しいように思えます。
先ず、日本が先制攻撃に核兵器を使うことは無いのでしょう。具体的に国名を挙げ
ることは控えますが、外国を大規模に破壊すること自体が日本のメリットになるとは
思えません(逆に、外国にとっても、核兵器による日本の大規模破壊は得になりませ
ん)。
また、相手の攻撃に対する報復として核兵器を使った場合、日本は国土が狭く、し
かも、狭い地域に人口が密集しているので、相手国ないし、その同盟国による再報復
の核攻撃で日本は致命的なダメージを負うことになるでしょう。つまり、日本は、実
際には、核兵器を使うことができない公算が大きいということではないでしょうか。
また、上記は、通常兵力による侵略を受けた場合にも言えることでしょうから、核
兵器を保有することが、通常兵力面でのコスト削減に対して有効に機能するとは思え
ません。従って、日本の核武装は、防衛面では単なる(しかも、少なからぬ)コスト
増を意味すると思われます。
加えて、核兵器による攻撃能力を保有すると、敵国は、先ずはこれを叩こうとする
でしょうから、核兵器を守るためにミサイル・ディフェンス網が必要でしょうし、こ
うしたディフェンスのシステムは、人口密集地帯を守るためにも配備されることにな
るでしょう。ミサイル・ディフェンス網の技術的有効性については、確かなことが分
かりませんが、「確実な防御」を求めると非常に高く付きそうだということと、相手
の攻撃技術の進歩に対応するための投資(技術開発を含む)が長きにわたって必要だ
ろうということが容易に想像できます。端的にいって、際限なくコストが掛かりそう
ですが、そもそも、ミサイル・ディフェンス網の有効性を国民がどうやって確認して
安心することができるのか、という点にも疑問も感じます。
日本が持つべき軍事力や、国のあり方については、さまざまな意見がありますが、
日本を攻めようとする外国にとっては、日本の生産力を支配下に納めることにこそメ
リットがあり、国土や社会を破壊した状態で日本を支配下に納めても、得をしないよ
うに思います。また、日本の個人の財産権を侵害するような侵略は、日本の生産シス
テムのパフォーマンスを著しく低下させるでしょうから、そのような侵略が合理的で
あるとも思えません。
防衛的な軍事力や警察力を全く持たなくていい、ということはないでしょうが、攻
撃者にある程度のコストを覚悟させる程度の備えがあれば、それ以上の軍事的に圧倒
的な優位は必要ないでしょう。所詮使えない核兵器を持つことは、日本の経済的資源
の大きな無駄遣いにつながるように思えます。
アメリカが将来にわたってどの程度日本の防衛に軍事力を割くかについては、かな
りの不確実性があるように思えますが、通常の防衛に関して、これまでのようにアメ
リカにコストを払うか、日本が自分で防衛力を持つかについては、必要な防衛力の水
準と、両オプションで掛かるコストとリスクの比較を共に明示的に議論して決定する
べきでしょうが、日本が核武装する方が得になる、という可能性は、ほぼ無いように
思えます。この点を確認するために、それこそ、「議論」をするのは、良いことであ
るかも知れません。
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
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■ 津田栄 :経済評論家
日本が核武装することを、製造・管理と、核武装による内外における間接的な影響
という二つの面で検討してみると、日本の経済にはマイナスが大きいといえます。
まず、核爆弾を作るのは、日本の高い核技術から容易です。ウランやプルトニウム
などの材料は、原子力発電所から排出され、その処理に困るくらい豊富ですし、製造
機器関連は海外での核製造に使われるくらい信頼される性能を有しています。また核
分裂を起こす仕組みは既に研究され、ネットでも見られるようにそれを利用して核爆
弾を簡単に作ることができます。物理学専攻だった友人によれば、簡単なものであれ
ば数百万円でもできると言っていました。それが本当かどうかは分かりませんが、日
本の資金力であれば、難なく作ることは可能です。
ただ、作った核爆弾を試験しなければなりません。お金のない北朝鮮でも、その作
った核爆弾が実際に爆発するのか実験しています。そのための実験場を探さなければ
なりません。もし実験すれば、その実験場を中心に半径数十キロは放射能のために立
ち入り禁止になります。今、日本でそういう場所は簡単に見つかりません。もし見つ
かっても、そのための穴を掘らなければなりません。その実験場確保のための補償や
実験場などの使用不能による機会損失、そして実験費用は相当な金額になるでしょう。
また、核爆弾を作っても、それを運搬する飛行機を確保しなければなりません。ア
メリカが気前よく提供するとは思いません。もちろん、今保有する戦闘機に載せれば
運搬は可能です。ただし、一機でいいのではなく、核爆弾を抱える爆撃機と援護機が
必要ですので、そのために相当数の戦闘機を長距離戦闘爆撃機として、空中給油可能
に改造しなければなりません。また空中給油機を買うか開発しなければなりません。
アメリカは、日本が核武装すれば、将来の敵になるかもしれないと警戒して、軍事関
連の機材や情報も提供しなくなりますから、全て自前でしなければなりません。その
開発には相当の負担と時間がかかります。
最近の流れは核爆弾をミサイルに積んで飛ばすのが一般的で、北朝鮮はその実験も
同時に繰り返しています。日本も核爆弾の小型化を開発することになり、こちらも問
題でしょうが、命中精度の高い、つまり正確に飛ぶミサイル開発のほうがより大変で
す。まだ人工衛星を飛ばすことに日本の技術は完全に信頼される所までいっていませ
ん。これもアメリカは絶対に教えてくれませんから、自前でやらざるを得ません。そ
の開発費が相当掛かります。
要は、核爆弾を作るのは簡単でもそれをどう使うかでは想像以上の経済的な負担と
時間が必要になります。また、核爆弾を作ればその他の通常戦力が必要でないという
考えもありますがむしろ逆です。略奪や破壊から守るために、核爆弾を保管し、警備
・管理すること、運搬手段である飛行機やミサイルの警備・管理も、場所の確保を含
めて、これまで以上の人員と費用が必要となります。というのも、自衛隊基地の現状
の警備では略奪や破壊が容易と言われていますので、そのためより厳重な警備・管理
と通常戦力が必要です。つまり、これまで以上の国防予算を組まなければならないと
いうことになります。結局、核武装ということは、持っていて使わないとしても、扱
いにくいだけでなく、それだけで金食い虫であるということになります。
それでは、核武装したことにおける間接的な影響ですが、まず国内では、軍事予算
の急増により、財政的に逼迫する度合いが大きくなります。今でさえ、財政赤字が膨
大で、解消する道が厳しい中で、軍事にお金を使うことになれば、財政赤字はますま
す悪化すると思われます。なぜなら、ヒトもモノもカネも何も価値を産まない軍事に
流れることで、資源をムダに消費してしまうことになるからです。つまり、使わない
ことが最善ですが、使わないということはそのまま資源が付加価値を産まず固定化さ
れることになり、経済には大きな負担になります。もし使うとなれば、日本という地
政学的な状況では、逃げ場がない中で、日本中が戦場化し、これまで育ててきた重要
なヒト、モノ、カネの資源を失いかねません。結局、軍事は非効率な存在です。
もっと大きな問題は、核武装が現実行なわれれば、日本を取り巻く政治・経済環境
は激変すると予想されることです。まず、アメリカも日本の核武装には賛成するとは
思えません。これまでも経済的に対立してきましたが、日米安保条約による日米同盟
のもと政治的に対立する所までは行きませんでした。もちろんアメリカの理不尽な要
求を呑んできた面も否めません。それを差し引いても、日本が、戦後60年余戦争に
巻き込まれることもなく、経済的に発展し、ここまで成長できたのも、アメリカの核
の傘に入っていたからだといえなくもありません。
しかし、もし日本が核武装するとなると、これまでの日米関係は難しくなります。
アメリカの核の傘から離れた日本と経済的に対立する局面では、日本が自己主張して
政治的にも対立することもありえ、アメリカにとって日本は仮想敵国になる可能性が
あります。そうした場合、日米同盟が動揺し、アメリカは日本に対して厳しい目で見
るでしょうし、対応も甘くない可能性があり、アメリカの市場は日本に対してこれま
でのように開放的であるという保証はありません。むしろ警戒して、日本に対して市
場を制限することもありえます。
まして、アメリカよりも問題が大きいのは、信頼関係がまだ築けていない中国、韓
国をはじめ、アジア諸国です。日本と目と鼻の先にある韓国も、日本の核武装が現実
となれば、彼らもそれに対応して核武装の決定をする可能性があり、アジアも含めて
世界に核武装の連鎖が起きることもありえます。また中国も、核武装した日本を相当
に警戒するはずです。そして、完全に信頼を得ていないアジア諸国からも疑心の目で
見られます。それは、日本がこれまで核不拡散条約(NPT)を遵守すると言ってき
た約束を自らから破り、アジア諸国との信頼関係が崩れてしまうからです。
そうなれば、世界の平和的安定のなか外需主導型で経済が回復してきた日本にとっ
ては、自ら世界の平和を崩して不安定にし、アメリカだけでなく中国ほかアジア諸国、
世界の市場を失って、経済的に相当の痛手を受ける恐れがあります。しかも、日本を
嫌い、内外の資金が海外に逃げて、円安になるばかりでなく、海外からの物資の輸入
も難しくなってインフレが起き、生産も消費も低迷することがありえます。その対応
を誤れば、それはいつか来た道にもなります。
結局、日本の核武装は経済的に現実的な選択ではないと思います。しかし、もし万
が一核武装が現実になれば、上記のようなことが起こり、経済的な負担と損失は計り
えないものと考えます。そしてその時の経済的負担と損失は最終的に私たち日本国民
が負うことになります。確かに北朝鮮の核問題は許しがたく、その対応として核武装
が是か非かの議論をすることも当然必要ですが、政府として、感情的にならず、冷静
に考えるべきです。
むしろ、アメリカや中国・韓国などアジア、そして世界から核武装しないことから
の実益(ある程度コストを負担してもアメリカによる防衛や中国などアジアからの間
接的な支持など)を取るくらいのしたたかな外交をして、経済的により効率的な資源
の活用を図るべきでしょう。そして、今回の北朝鮮の核問題から、自ら核武装するよ
りも、東京や名古屋など主要な都市部にヒト、モノ、カネを集中させることでクロー
ズアップしている日本の大きな危機に対処することが必要ではないでしょうか。つま
り危機管理の観点から、万が一のことを想定して、ヒト、モノ、カネを地方に分散さ
せ、また非核の通常攻撃で侵略される場合も考えて、地方における防衛を重視して国
としてのあり方を柔軟に考えることの方が重要なのではないでしょうか。
最後に、これは、もちろん一方的な最悪の状況を想定していますから、そうならな
いこともありえます。しかし、今日本は、私たち日本国民が思っている以上に厳しい
目で見られている状況にあるというのだけは忘れてはいけないように思います。政治
と経済は別だという考えもありましょうが、それは平和で、アメリカというバックの
もとパワーバランスが取れているからです。しかし、人間ですから、平和が不透明に
なってバランスが崩れ、一旦関係が悪化すれば、政治も経済も一緒になって悪い方に
傾いていきます。そうした状況で、核武装が現実的な選択なのかもう一度考える必要
があり、政府は前のめりになるようなことはあってはならないし、国民も自分の問題
として責任を持って考えるべきではないでしょうか。
経済評論家:津田栄
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■ 金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
まず、日本経済に影響を与えるのは、核兵器の存在そのものではなく、日本を取り
巻く国際関係が規定する経済環境といえます。現在のように日本の核武装に対する国
際的な合意が形成されていない状況の中で核武装に踏み切った場合、日本経済が受け
る経済的損失は極めて甚大なものになることは明らかです。独断で核武装に踏み切っ
た場合に当然に適用される経済制裁についても、北朝鮮のように既に国際社会から孤
立した経済が受ける影響度とは比較にならないほどの打撃を、日本経済は受けること
になります。
さまざまな禁輸措置によって国内の産業活動や消費生活が受ける直接の影響と同時
に、金融市場においては、日本経済が受ける制裁の影響を嫌気した海外資金の逃避に
よる日本株市場の下落、さらには為替市場での円の下落などが日本の経済システムを
揺るがすことになるでしょう。
また、日本の独断による核武装に対して、米国などの同盟国をはじめとした主要国
での世論が敵対行為として激しく反発した場合、日本の持つ海外資産の凍結といった
措置にまで発展する可能性もあります。これはグローバルに事業を展開する日本企業
の活動が休止状況に追い込まれるばかりではなく、政府、金融機関あるいは個人が保
有する海外の政府証券を差し押さえられる事態も意味します。
以上は極論ですが、日本の核武装に関する議論は、あくまでも国際社会における合
意形成が前提であることは明確にすべきでしょう。少なくとも、国際社会において日
本の核武装を期待する、ないし是認する意見が全く形成されていない中での核武装議
論は、実質的な空想論に留まります。
現在、原子力発電を実用化している国が31カ国、イランやイスラエルなど建設中
や計画中の国を含めて36カ国となっていますが、その中で使用済み核燃料の再処理
能力を公式に持つのは現核保有国を除いては日本だけであり、日本が意識する以上に
海外での日本の核武装に対する強い警戒感の裏付けとなっています。
それだけに、日本は核査察を受け入れ国際機関の厳重な監視下に置かれていること
からも、日本のように情報が公開された国家で極秘裏に核武装の開発・準備を進める
ことは現実的には困難です。仮に日本の核兵器開発計画に対する警戒感が生じた段階
では、経済制裁には至らずとも、査察強化、核燃料等の禁輸措置、さらには日本の原
子力発電関連企業の海外提携先企業・合弁先企業への規制を通じて、日本の原子力発
電事業が支障を来たす事態も想定されます。日本の総発電量の3割を占める原子力発
電が影響を受ける場合ですが、原子力発電以外の電力供給源をフル稼働すれば夏場の
ピーク時以外は凌げるでしょうが、ひとたび電力供給に支障が生じた場合の混乱によ
る経済損失はかなりの規模になるでしょう。
外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎
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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:737への回答ありがとうございました。今、ソウルにいて、作品の取材を兼
ねて、韓国の映画関係者にインタビューをしています。土日の明洞はものすごい人出
で熱気を感じました。
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Q:738
週明けから、安倍政権が初めての予算編成に取り組みます。どういったところに注
目すればいいのでしょうか。
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村上龍
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JMM [Japan Mail Media] No.402 Monday Edition
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【発行】 有限会社 村上龍事務所
【編集】 村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】
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