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JMM [Japan Mail Media]  携帯電話ナンバーポータビリティサービスの最大の利益享受者は?
http://www.asyura2.com/0610/hasan48/msg/415.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 11 月 13 日 18:46:35: ogcGl0q1DMbpk
 

                            2006年11月13日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.401 Monday Edition
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●リニューアルしました→            http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼

■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第401回】

   □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
   □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
   □金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
   □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
   □飯田泰之  :駒澤大学経済学部専任講師
   □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
   □津田栄   :経済評論家

 ■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』


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 ■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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 Q:735への回答ありがとうございました。昨夜5日日曜日に、バンボレオの一
行が来日しました。キューバ人と会うと理由は今もって不明ですが元気になります。

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 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第401回目】
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====質問:村上龍============================================================

Q:736
 携帯電話のナンバーポータビリティサービスが始まりました。このシステム変更に
よって、最大の利益を享受できるのは誰なのでしょうか。

============================================================================
※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 今回導入されたナンバーポータビリティーサービスに関連して、ソフトバンクが見
かけ上、かなり思い切った料金体系を導入しました。それにより、契約切り替え等の
事務が殺到したため、一時、手続きを受け付けることが出来ないという混乱も生じた
ようです。今回のサービス開始によって、短期的に最も大きな利益を享受したのは、
一部の契約者と、電話会社の広告合戦による手数料を受け取った広告代理店だったよ
うな気がします。

 今回のサービス開始で、新規に携帯電話を持つ人は少なかったといわれています。
新規加入に特別のメリットが付与されていたわけではありませんから、それは当然の
ことといえるでしょう。そうすると、今回の動きは、既に携帯を保有している人が、
契約会社を変えたケースが大部分だったはずです。外から新規に入ってくる契約者の
数が少ないわけですから、最初から決まった数の契約者を、主要携帯電話会社3者で
取り合ったことになります。

 短期的に見れば、携帯電話の契約者数を増やした企業は、今回のシステム変更のメ
リットを享受したといえるでしょう。今後、現在の料金体系のもとで、安定した契約
者数を維持することが出来れば、当該電話会社は収入を増やすことが出来るからです。
しかし、ソフトバンクという戦略性の高い企業の参入によって、携帯電話の料金体系
が、今後、変化する可能性が高まったと考えられます。現在、世界的に比較しても、
わが国の携帯電話料金は高いといわれていますから、たぶん、料金体系に変化が起き
ることは避けられないと考えます。

 そうすると、たとえ、今回、契約者数を増やしても、ソフトバンクの参入で料金体
系が引き下げられることになると、当該企業の収益は必ずしも増加するとは限りませ
ん。少なくとも、今までのように安定した寡占状況の下で、潤沢な利益を上げ続ける
ことは出来なくなると思います。

 一方、携帯電話の契約者から見ると、今回のシステム変更でメリットを享受できる
人もいるでしょう。それは、契約状況が変化していることからも分かります。契約を
変更して得になると思うからこそ、契約会社を変更するはずですから、少なくとも、
見かけ上の経済合理性が存在すると考えられます。証券会社の業界アナリストに尋ね
てみましたが、彼は、「特定の人としか電話やメールのやり取りをしない人たちには、
それなりのメリットがある」と指摘していました。

 ただ、今回のシステム変更で、契約会社を変更した人は、既携帯電話保有者の数パ
ーセントに過ぎない、といわれているようですから、多くの契約者には、あまり大き
なメリットがなかったか、あるいは、面倒な契約変更をするに値する利点がなかった
ことになります。

 むしろ、携帯電話利用者の側から見ると、ソフトバンクの参入をきっかけに、世界
的にも高いといわれる、わが国の携帯電話料金に一層の競争原理が働いて、料金が下
がることの方が大きな要素になると思います。この点については、ソフトバンクの戦
略的な行動に期待をかけたいと思います。

 携帯電話会社や契約者については、一部の例外を除くと、いずれも享受できるメ
リットに重要な不確定要素があります。最も期待されるのは、今回のシステム変更を
きっかけにして料金が下落することですが、それも、今後の動向しだいでは、再び、
安定的な寡占体制に戻り、それぞれが潤沢な収益を稼ぎ出す均衡点に収束する可能性
もあります。

 それらすべてを勘案すると、今回の件で、間違いなく大きなメリットを享受したの
は、電話会社各社の宣伝合戦で、多額の広告収入を受け取った広告代理店だったよう
に思います。これは、ナンバーポータビリティーサービスの導入というイベントに伴
う、漁夫の利=リスクなしの“たなぼた収益”と考えられます。


                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 日本の携帯電話の料金体系の特徴は、一言でいうと、端末を安く売ってその分通話
料を高くしていることにあります。現在でも新規加入の時、機種を問わなければ携帯
端末の代金はゼロになるのがその表れです。これができるのは、日本の制度は通信業
者(キャリア、auとかdocomo、ソフトバンク)が携帯端末を販売し、端末はその業者
の通信でしか使えないので、ユーザーを囲い込むことが出来るシステムだからです。

 日本のように、通信業者が専用携帯端末も販売するというのは世界的には特殊な方
式のようです。日本以外のほとんどの国では、端末の購入とキャリアの選択は別だて
でおこなわれ、通話料と携帯端末それぞれ独立に、価格と性能・サービス競争がおこ
なわれます。

 さきほど、日本の携帯端末は安いと書きましたが、表面上は安く見えますが、から
くりは通信業者の代理店が販売奨励金をもらって安く販売しているだけで、それを除
いた日本の携帯端末価格は割高です。日本の携帯端末のトップメーカーでも、世界市
場ではノキア、サムスンといったワールドクラス・プレーヤーには決定的な差をつけ
られているのが現状で、量産効果が上がらない分かなり割高なものになっていると言
われています。

 日本の携帯電話市場は、これまでキャリアによる高付加価値の商品戦略が奏功して、
消費者は、iモードや着うた、写メのような高機能をもてはやし、その分高い通信料
金を支払っています。安いサービスが開発されたとしても、電話番号と端末がともに
通信業者に握られていることで、キャリアを変えることには大きな不便が伴いました。
通信の品質は高いが料金も飛び切り高いという市場が形成され、既存キャリアにとっ
て、美味しい市場が囲い込まれていたわけです。

 このユーザー囲い込みの一角が、ナンバーポータビリティサービスの実施により崩
れたことになります。

 今回のナンバーポータビリティサービス開始で、低料金をアピールして攻勢に出た
ソフトバンクは、乗り換えを促すために他社の継続割引を引き継ぐなどしたため料金
体系がかなり複雑なようですが、基本的には同じソフトバンク内の通話を準固定性に
した料金体系がセールスポイントです。直ちに他社からの乗り換えを促すようなイン
パクトはありませんが、限界的なユーザー獲得を重ね、長期的にはシェア拡大の可能
性もあるかとおもわれます。

 ソフトバンクはサービス開始に際し、契約切り替えのシステムにトラブルを起こし、
スタートダッシュに失敗しています。同社がADSLに進出した時も、初期の顧客管
理やサービス切り替えに、同様なトラブルを起こしていたのを思い出します。また同
じことを繰り返したのには、あきれたのを通り越して確信犯的なものを感じます。結
局ADSL市場では、初期のトラブルにかかわらず、モデム無料戦略などを繰り出し、
圧倒的なシェアNo1にまで持っていきましたので、今後もさまざまなシェア獲得戦略
をうち出してくるでしょう。

 今回のナンバーポータビリティサービスにより、消費者はキャリアを変える自由の
一端を獲得したわけです。今後、消費者の多様なニーズにあわせて、多様なサービス
が提供されれば、消費者・ユーザーはそのメリットを最大限享受できることになりま
す。

 海外の例に倣い、固定電話の時と同様な形での規制緩和が今後起こるとするのなら
ば、今度はキャリアが専用携帯端末を販売する方式が廃止され、端末はそのままで
キャリアだけを変えることができるようになるでしょう。携帯回線の切り売りが開始
されれば、多様なキャリアが独自のサービスを展開しだすでしょう。また、IP電話
と携帯電話がつながった低価格通信の登場も日程に上ってくるでしょう。消費者が、
自分で選ぶ気になれば、安くて多様なサービスを享受できる可能性が出てきたことに
なります。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 ソフトバンクが携帯電話事業への新規参入の方針を転換し、ボーダフォンから日本
での事業を1兆7500億円で買収することを決定したのが今年の3月でした。その
当時、ソフトバンクが買収を決定した背景の一つとして指摘されていたのが、今回導
入されたモバイル・ナンバー・ポータビリティー(MNP=番号継続制度)が携帯電
話キャリア市場にとって大きな転換点となる可能性でした。

 しかし、実際にこれまでMNPが同様なワン・ストップ方式で導入された米国と韓
国の事例を見ますと、導入当初の市場への影響度は対照的なものとなっています。

 米国では、2003年11月にMNPが導入されていますが、導入に伴うキャリア
間のマーケット・シェアの変化などの影響は当初比較的小さなものでした。MNP導
入当初のシステム不具合やキャリアによる過当競争の手控えなども要因として指摘さ
れていますが、各キャリアによる長期契約制度など事前の顧客囲い込み戦略が奏効し
たことが大きかったとされています。

 一方、韓国では、2004年1月のMNP導入が、キャリア間の競争を加速し、結
果的に2−3位キャリアのマーケット・シェア拡大をもたらすと同時に、飽和状態と
見られていた市場で加入者数の増加(複数契約によるものと思われる)などの効果を
生みました。この背景としては、韓国でのMNP導入が、当初は最大手のSKTの契
約者が他のキャリアに移行する場合のみを対象とするなど、SKTが支配的なマー
ケット・シェアを持つ市場構造に対する競争促進の意図を持つものであったことが指
摘されます。ただし、過当競争の結果、各キャリアの営業利益率の急低下という状況
も同時に招いています。

 日本でのMNP導入がいずれの事例をなぞるのかは予断を許しませんが、今回の日
本でのMNPサービス開始直後の状況については、ソフトバンクモバイルでのシステ
ム障害の影響もあり、MNPサービスの利用状況は比較的低調なものとなっているよ
うです。

 ただし、MNP導入を前に、キャリア各社が長期契約者に対する利用料割引の拡大
など、事前の顧客囲い込み戦略を強化したことにより、利用者は実質的にキャリア間
の競争促進によるサービス向上や料金低下のメリットを享受できたと言えます。

 携帯電話キャリア市場のような寡占市場において利用者に健全な競争によるメリッ
トを享受させるためには、今回のMNP導入のような競争促進策の導入によるプレッ
シャーを通じて、各社のサービス向上や料金低下の努力を促すのが有効です。しかし、
こうした競争促進策によって実際に大きなシェア変動がもたらされた場合、逆に市場
の寡占度が上昇したり、極端な場合には独占的な状況が生じたりする結果も想定され
ます。従って、競争促進策の導入が、必ずしも結果として利用者に健全な競争メリッ
トをもたらすとは限らないことには注意が必要です。

 一方で、韓国でのMNP導入事例のような意図的に独占的なマーケットシェア構造
の緩和をめざす競争促進策も可能ですが、特定の利用者に利益・不利益を与えるよう
な制度の導入に対して社会的な理解や合意を得ることは一般には難しいでしょう。規
制業種での競争政策の難しさは、公平な競争ルールの導入と同時に、最終的に利用者
の利益となる競争結果を必要とすることにあると思います。

 今後、携帯電話キャリア市場での利用料割引の拡大などを通じた直接の競争による
シェア争いは一服する可能性がありますが、一方で、モバイル市場のサブ・マーケッ
トであるモバイル・プラットフォーム市場、モバイル・コンテンツ市場などでのビジ
ネス拡大と競争が加速していくことが見込まれます。

 プラットフォーム市場とは、主に携帯通信を通じて行われる決済業務を指します。
ここでは、従来はコンテンツに対する課金業務が主でしたが、非接触ICチップの実
装による決済機能付き携帯電話(「おサイフケイタイ」)の普及による携帯クレジッ
ト事業の拡大が期待されています。

 消費者金融の分野では、上限金利規制の強化によって信用力の低いハイ・リスクの
借り手への融資が困難となる一方、今後の収益源を確保するためには、より小額・低
リスクの貸し出しを低コストで拡大する業務への進出が課題となっています。その意
味からも、携帯クレジット事業は注目されており、昨年来、ドコモは三井住友カード、
みずほ銀行およびクレディセゾンなどとの提携を相次いで打ち出しています。

 また、モバイル・コンテンツ市場については、通信容量の拡大と高速化によってイ
ンターネットや従来メディアのコンテンツがモバイル・キャリアを通じても提供可能
となります。こうしたモバイル・コンテンツの高級化・高付加価値化は、プラット
フォーム市場の拡大にもつながります。特に、消費と同じプラットフォームで完結す
る携帯クレジットなどの金融サービスと組み合わせることで、極めて効率的なビジネ
ス・モデルが構築できる可能性があります。

 携帯通信事業をめぐっては、キャリア市場での競争激化による収益低下が不可避と
考えられるなかで、プラットフォーム市場、コンテンツ市場など関連する分野で広く
効率的に収益を上げるビジネス・モデルを確立することが競争力を維持する上で不可
欠と考えられます。特にMNP導入によって利用者の流動性が高まる中では、各キャ
リアともこうしたサービスの導入で他社に遅れをとることがないよう積極的に取り組
まざるを得ません。

 携帯通信事業はその高い普及率から、非常に広がりのある顧客基盤を持ちますが、
上記のようなより高収益のビジネスについては、ヘビーユーザーとなる特定の顧客層
が対象となります。そのような特定の顧客層が多角化する携帯通信事業の収益源とし
て寄与する一方で、携帯を単に通信手段として利用する一般の顧客層はキャリアの利
用料低下の利益を享受することが期待されます。

 もちろん、プラットフォームやコンテンツの利用者は、そのサービスを利用する対
価としてコストを支払うのですから、必ずしも直ちに不利益を受けると言うわけでは
ありません。しかし、そこで利用されるサービスには消費者クレジットのように現在
の消費と将来の消費をかなり不利な条件で交換するような取引も含まれており、利用
者の選択の余地が拡がるということの意味は冷静にとらえる必要があります。

                外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 携帯電話のナンバーポータビリティ制度の導入で、最大の利益を享受するのは消費
者でしょう。利便性の向上と料金低下の可能性があるためです。携帯電話会社を変え
る時に料金を支払う必要はありますが、他国では常識になっていた携帯電話会社を変
えても携帯番号が変わらないという制度を、日本の消費者もようやく享受できるよう
になりました。

 ナンバーポータビリティ制度の導入によって、料金引き下げ競争が激化して、料金
が下がれば、消費者に恩恵が発生します。規制改革による利用者メリットは、経済用
語で「消費者余剰」と呼ばれます。これは消費者が財やサービスを購入するに際して、
支払ってもよいと考える最大の金額から、実際に支払った金額を差し引いた金額で、
消費者の満足度を測る指標です。内閣府は2003年12月に発表した「90年代以
降の規制改革の経済効果」というレポートの中で、携帯電話の参入規制や料金規制の
緩和、売り切り制の導入によって、1.7兆円もの利用者メリットがあったと試算し
ました。今回のナンバーポータビリティ制度の導入による利用者メリットは、過去の
規制改革によるメリットよりは小さいでしょうが、一定の利用者メリットはあるで
しょう。

 現時点で、KDDIもナンバーポータビリティ制度の導入の恩恵を受けたといえま
す。11月8日に携帯電話会社3社は新制度による加入者の転出入状況を発表しまし
た。10月24−31日の転出入数は、業界2位のKDDIが9.8万増だったのに
対して、最大手のNTTドコモは7.3万減、3位のソフトバンクは2.4万減でし
た。KDDIは他社に先駆けて秋冬商戦向けの新機種を投入したことや、音楽配信サ
ービスやデザイン性の高さが若者の人気を集めたといいいます。NTTドコモは年末
商戦に向けて新機種を導入して巻き返しを図る計画といいます。

 今回ソフトバンクは、KDDIに問題を指摘されて公取委の調査対象になった「通
話0円、メール0円」との広告に加えて、孫社長が先行する2社に価格競争を挑む意
気込みを示しました。ソフトバンクのシステムトラブルは当初加入増の申し込みが殺
到して引き起こされたという見方もありましたが、実際には純減でした。中間決算発
表で、孫社長は「ソフトバンクが草刈場になると言われていたことを考えれば善戦」
と述べました。

 どんな商品やサービスもそうですが、企業から見れば、料金引き下げが販売数量の
増加につながらなければ、売上減少につながるので、企業経営が悪化します。最近は
年末商戦に向けて、薄型テレビも値下げ競争が激化する見込みが出て、液晶やプラズ
マ関連株が下落しています。ソフトバンクの場合、今年3月に英国ボーダフォンの日
本の携帯事業を2兆円近い金額で買収した際にLBO(レバレッジド・バイアウト)
や証券化スキームなどで資金調達したため、資金繰りの余裕が大きい訳ではありませ
ん。ソフトバンクがどこまで値下げ競争に耐え得る体力があるか疑問の余地がありま
す。NTTドコモの中村社長は、ソフトバンクの新料金プランに直ちに追随しないと
述べました。今回のナンバーポータビリティ制度の導入によって、消費者の利便性は
高まったものの、値下げによる消費者余剰は小さなものにとどまるでしょう。

 ニューズウィーク日本版の11月15日号は「携帯後進国ニッポン」というカバー
ストーリーを掲載しました。ナンバーポータビリティ制度の導入の遅れのみならず、
日本の携帯料金は世界的にみても高く、サービスや端末の選択肢も少ないという批判
的な記事でした。日本の消費者は値段が多少高くても、品質が良い商品やサービスを
望む傾向があり、日本の携帯市場も他国と異なる面があります。ただ、それは消費者
の効用関数の違いですので、後進国と断言するのはどうかと思います。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 飯田泰之  :駒澤大学経済学部専任講師

 数年ぶりの友人から不意に電話がかかってくるということは少なくありません。い
ま30歳前後の人は大学卒業時には携帯電話の普及率が高くなっていたため、比較的
仲の良かった友人にも携帯番号しか教えていないというケースが少なくないのではな
いでしょうか?

 ナンバーポータビリティサービス(MNP)によって、利益を享受するのは消費者、
なかでも最大の利益を享受するのが「ロイヤリティの高いDoCoMoユーザー」です。一
方、最も損をするのがDoCoMoということになるでしょう。携帯電話業界は今日的な産
業組織論とその応用である競争戦略論のの典型的事例となっています。当該分野の紹
介もかねて少し理論的に説明してみることにします。

 企業にとっての利益は、売り上げからコストを引いたものに他なりません。より詳
細に、「価格×数量−コスト」が企業の利益だと考えると良いでしょう。一方、ユー
ザーの利益はその財・サービスに対して「支払っても良い最高の金額」から価格を引
いたものです。例えば、自分が利用する各種携帯電話の各種サービスに1万円払って
も良いと考えている人にとって、月の携帯代金が8千円ですんだならば……この人の
携帯電話利用の利益は2千円というわけです。

 携帯電話事業は携帯電話網の整備に大きなコストがかかるのに対し、加入者の増加
による追加的な費用は大きくありません。他方であるキャリアのユーザーが一人増え
ることによる追加的費用は微々たるモノです。これは食料品や衣料などの消費財とも
家電や自動車などの耐久消費財とも異なる性質です。このようなコスト構造を持つ産
業では、加入者・通話数が増えるほど平均費用(加入者・通話数1単位あたりの費用)
は低下していきます。つまりは、より多くの加入者を持つ企業にコスト優位があるわ
けです。DoCoMoはここ数年間携帯電話シェアの過半を保っており、その意味でDoCoMo
は最も低い平均コストでサービスの供給が可能なはずです。

 安く供給できるから安く売る……のでは企業側にはなんのメリットもありません。
低コストで供給できるものを出来る限り高い値段で販売してこそ旨味があるのです。
通常の財・サービスでは同質的なものを1社だけが高く売ることは出来ません。そん
なことをすれば、顧客はさっさと購入店舗・企業を変更してしまうでしょう。ところ
が、携帯電話事業についてはユーザーはキャリアの変更をそう簡単には行えませんで
した。電話番号が変わることには大きなコストが伴うからです。このようなキャリア
変更費用の存在が、現時点で多数のユーザーを抱えるDoCoMoに完全競争価格よりも高
い価格とそれによる超過利潤をもたらしてきました。

 しかし、MNP実施後にはこのキャリア変更費用は大幅に低下します。仮にDoCoMo
が高価格の提示を継続するとユーザーを失い、その結果としてコスト優位を喪失する
ことになります。それを防ぐためには、値下げする以外に方法がありません。各消費
者の「携帯サービスに支払っても良い最高の金額」が一定であれば値下げは得です。
そして中でも、(DoCoMoの絵文字が好きだ等の理由で)これまで通りの料金体系で
キャリア変更費用が無くてもDoCoMoから他のキャリアに変更するつもりがないハイ・
ロイヤリティのユーザーにとっては大きな朗報といえるでしょう。

 従来型産業とは異なる費用構造を持ったネットワークが他産業の経済活動にしめる
重要度は日増しに増大しています。このような新産業での競争政策を考える上で、M
NPの導入とその帰結には目が離せないと言って良いでしょう。

                     駒澤大学経済学部専任講師:飯田泰之

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 ■ 山崎元  :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 JMMがネット経済を取り上げた頃に、参考書として読んだ「ネットワーク経済の
法則」(カール・シャピロ、ハル・R・ヴァリアン、共著。千本倖生監訳。宮本喜一
訳。IDGコミュニケーションズ)を繙くと、「現在の顧客からの利益=総スイッチ
ングコスト+品質とコストの優位性」という利益の一般的な内訳を示した式が出てき
ます。

 たとえば、表計算ソフトのマイクロソフト・エクセルは、仮に同じ程度の機能を
持った表計算ソフトが市場に現れても、エクセルのユーザーが、エクセルから他のソ
フトに乗り換える時に、新しいソフトの利用と習熟に必要なコスト(スイッチング・
コスト)の分迄は、相対価格を高く保つことが出来るし、さらに、一パッケージ当た
りの製造コストが(限界コストで考えています)、他のソフトよりも安いとすれば、
相手は自分の製造コスト以下に価格を下げることができないので、その優位性の分も、
利益として実現することが出来ます。対抗商品を出す側は、ユーザーが乗り換えしや
すいように、エクセルとファイルの互換性を持たせることが必要ですし、エクセルで
出来ることは同様の手順で簡単にできる、といった操作上の互換性をできるだけ確保
して、なお且つ、価格か機能で優位を確立できなければならない、ということです。

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの携帯電話三社の競争にあてはめて考える
と、ナンバーポータビリティは、これまで携帯電話会社を変更を考えた際に、ユーザ
ーにとってスイッチング・コストの発生源だった携帯の電話番号変更が、手数料を払
えば必要なくなるということですから、各社の既存顧客からの利益に対しては、それ
ぞれ圧迫要因になるはずです。

 個々の会社別には、ナンバーポータビリティによって他社から移ってくる新規顧客
からの利益が重要ですが、業界全体としては、利益を減らすはずで、即ち、明らかな
メリットは利用者にあるはずです。論理的可能性としては、携帯ユーザーが全体とし
て増えるということがないではありませんが、携帯電話は既に普及が進んでいるので、
利用価格の引き下げ率よりも利用者の伸び率が勝るというような状態にはならないで
しょう(もともと、携帯電話会社にそういう認識があれば、もっと価格が下がってい
た筈ですし)。

 経済的な理屈上は、スイッチング・コストが下落すると、競争が促進されて、これ
までユーザーを囲い込んでいた企業の製品・サービスの価格が下落し、乗り換えを行
わないユーザーもナンバーポータビリティのメリットを享受することができる、とい
うストーリーになりますし、ユーザー側からすると、オプションが一つ増えたという
ことでもあって、「ユーザーが受益者だ」ということに間違いは無いと思うのですが、
そうした経済原理がダイナミックに働いて、携帯電話の利用価格が目立って下がるた
めには、電話会社変更の手数料がもう少し下がらないといけないように思えます。

 総務省のホームページによると、ユーザーが転出する際に、これまで利用してきた
携帯電話会社に2100円の手数料を払うことになっており、受け入れ側は手数料無
料とのことですが、出て行く顧客のデータをハンドリングするのに、2100円もの
コストが掛かる、というのは、納得できません。2100円という手数料はまだまだ
高く、手続きにかかる時間や手間も考えると、現在、ユーザーのスイッチング・コス
トを、上回っている場合が多いのではないでしょうか。

 ユーザーの利便を図り、競争を促進することが良いと考えているなら、手数料はゼ
ロを義務付けてもいいのではないでしょうか。総務省としては「様子を見たい」、あ
るいは「激変は困る」、ということなのかも知れませんが、現段階のナンバーポータ
ビリティ制度は、「一応、自由化を進めて、競争を促進しております」という、アリ
バイ作り程度のものに過ぎないように思います。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 <http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/>
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 ■ 津田栄   :経済評論家

 携帯会社は、これまで、会社変更による手数料発生や各種サービス消滅のほか、携
帯電話利用者が携帯電話会社を変更しようとすると使っていた携帯番号を変えること
を求め、その場合に友人・知人などに変更の連絡をしなければならない煩わしさなど
コストとハードルを設けて、一旦獲得した顧客を囲い込み、逃がさないようにしてき
ました。

 しかし、携帯電話が国内でほぼ普及し、新規加入者の大幅増加が今後望めなくなっ
てきた中で、携帯電話会社がこうした顧客囲い込みを続けると、利用者の利便性の向
上が期待できない一方、また自由で公正な競争を生まないことで業界自体が停滞する
恐れがでてきました。そこで、規制緩和の一端として、アメリカ、ヨーロッパ、香港、
韓国など携帯電話先進国と同じように、今の携帯番号を変えずに携帯電話会社を変更
することができる、今回のナンバーポータビリティサービスが開始されたといえます。

 その意味で、今回のナンバーポータビリティサービスは、第一義的に利用者の利便
性の向上を目指したものであり、システム変更による最大の利益を利用者が享受でき
るはずです。ただ、先月始まったこのサービスは、ソフトバンクの直前の新サービス
発表とシステムトラブルにより混乱してしまったため、期待していたよりは盛り上が
りが欠けているように見えます。しかしながら、これも、利用者が各社のサービス内
容を見極めたいとの慎重姿勢をとってすぐに飛びつくことはしなかったためで、当然
の結果といえます。なぜなら、利用者は、まだそのメリットがつかめないというより
も、まだメリットが小さいと見ているといえなくもないからです。

 というのも、携帯電話会社を乗り換える場合の転入費用は無料なものの、転出費用
は各社共通で2,100円、新規契約手数料で3,000円前後かかるほか、契約期
間のある各種サービスの途中解約手数料などあってまだコストが高く感じるからです。
その他、メールアドレスを引き継げず、変更しなければならないこと、保存している
ゲームや着信音(着歌など音楽)などのコンテンツも引き継げないこと、電子マネー
も引き継げない場合もありうること、各種サービスやポイント、継続割引などが消え
ること、その上転入した携帯電話会社の携帯電話を新規に買わなければならないなど
コストやハードルは依然高いからです。

 つまり、利用者は、規制緩和から、今回のナンバーポータビリティサービスでこれ
までできなかった携帯電話会社の変更が自由にできるようになったものの、それ以外
の高いコストやハードルが残っているばかりか、当初期待した各種サービスの新設や
料金の低減はまだ見られないため、このナンバーポータビリティサービスによる利益
はまだまだ不十分であるということです。その点で、ナンバーポータビリティサービ
スは、携帯電話会社が少し譲歩し、その分利用者に移転しただけで、利用者はまだ十
分な利益を享受できていないといえましょう。

 その背景を探れば、携帯電話会社が携帯電話端末を自分の会社専用として販売する
方式で端末を通じて顧客を囲い込んで、高いサービス料を利用者に払わすことで利益
を稼ぎだしていることに起因しているように思います。すなわち、携帯電話会社の収
益が、その代理店で新規契約のほか、時には会社を変更しないで機種変更だけでも携
帯端末が0か1円という値段を見かけるように、端末販売からではなく、その契約継
続から得られる料金で成り立っているからです。それは、日本の5割以上のトップ
シェアを持つNTTドコモの9500億円以上の莫大な経常利益(05年度決算)を
見ても、いかに大きな収益になっているかが分かります。

 それは、携帯電話会社が自社専用の携帯電話端末を開発させ自社の代理店等で販売
するという日本独特の携帯電話販売・サービス方式によるものであり、世界ではあま
り例が見られません。世界の主流では、携帯電話サービスと携帯電話端末販売は独立
しています(先日テレビで携帯に内蔵するカードを新規に買った携帯端末に差し込む
とどんな携帯端末にも使えるのを見かけましたが、海外のナンバーポータビリティサ
ービスとはそのカードを変える(買う)ことで携帯電話会社のサービスを変更するこ
とのようです)。

 だからこそ、方式の違いから、日本の携帯電話会社がどんな高度な携帯電話技術を
もって海外に進出しても他社のシェアを奪うことができず、また携帯端末製造会社が
どんな機能の良い製品を開発製造しても、世界でシェアを伸ばせない状況にあります。
海外では、携帯電話会社は電話サービスの競争をし、端末製造会社は電話端末の性能
を競争することで、選択の自由を持つ利用者から支持を得ています。つまり、海外で
はこのような形で携帯電話会社と端末製造会社はそれぞれの領域において競争するこ
とでシェアを奪い合い、その結果として、ナンバーポータビリティサービスによる利
益を利用者が実感できているのではないかと思います。

 したがって、日本も、最終的に、日本だけでなく世界を視野に入れて、携帯電話サ
ービスと携帯端末販売を分離して、携帯電話会社が自分たちの領域である電話サービ
スに特化してサービス競争をし、携帯端末製造会社はどこの電話会社にも使える携帯
端末の機能競争で勝負することのほうがよりメリットがあり、それが利用者に利便性
やサービスの向上、料金の低減を提供し、高機能携帯端末の選択の自由を与えること
になります。そこで、はじめてこの当初の目的である利用者の利益につながることに
なるのではないでしょうか。その意味で、今回のナンバーポータビリティサービスは、
始まったばかりで、携帯電話会社の囲い込みを完全に崩せるものではなく、利用者に
利益ではあってもまだまだ不十分であるといえます。そして、今後の新規サービスの
提供や料金の引き下げが行なわれて競争が促進されるまで、このサービスによる最大
の利益を利用者が享受すると見るのは難しいといえるのではないでしょうか。

                             経済評論家:津田栄

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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:736への回答ありがとうございました。また、本日12日夜の「JMMナイ
ト」に参加されたみなさん、お疲れさまでした。あれからキューバ人にブラジル料理
屋でお肉を食べさせました。かなり酔って、もうヘロヘロです。

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Q:737
 政府・与党自民党の一部に、日本の核武装に関する議論が必要だという意見が出て
いるようです。日本の核武装が現実になる場合、日本経済にどのような影響を与える
のでしょうか。

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                                   村上龍

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