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差し迫る資源・エネルギー危機
日本の進路は平和によってしか確保できないことを無視する安倍内閣
10月22日に行われた衆議院補欠選挙では、神奈川と大阪の両方で自民党が勝利した。
10月9日に北朝鮮が強行した核実験は、対北朝鮮強硬派を「売り」にしてきた安倍新政権にとって追い風となったのである。
しかし、北朝鮮という「悪役」がいなければ成立しない安倍政権の政治には根本的な限界がある。
サハリン・プロジェクトが破綻寸前
例えば北朝鮮の核実験以上に、日本の総合的安全保障を脅かす重大な問題が起きている。
ピーク・オイルを迎えた世界は石油減耗の時代に突入し、中国やインドのエネルギー消費量の飛躍的増加と相まって、資源・エネルギー争奪戦が激しさを増している。この争奪戦の中で、日本のエネルギー戦略は深刻な危機を露呈しつつあるのだ。
経済産業省は今年、「新・国家エネルギー戦略」を打ち出した。この中で、資源小国である日本はせめて海外での自主開発油田を確保しなければ、エネルギーの安定供給を実現できないとして「自主開発油田からの輸入比率40%」という目標を掲げた。しかし今や、日本が海外で行ってきたエネルギー開発プロジェクトは次々と破綻している。目標の達成など夢のまた夢という状況だ。
日本は、これまで海外で4つの資源開発プロジェクトを行ってきた。ロシアではサハリン1、サハリン2、イランのアザデガン油田開発、そして東シナ海ガス田開発だ。この4つのプロジェクトのうち3つが、当初の計画からの大幅な後退、プロジェクトそのものが破綻寸前という状況に追い込まれている。
まず指摘すべきは、30年来日本が開発に参加し、今月からやっと原油の輸入を開始したロシア・サハリン沖事業サハリン1のつまずきだ。最近事業を主導する国際石油資本(メジャー)の米エクソンモービルは、産出する天然ガスの全量を中国に輸出する仮契約を結んだことを明らかにした。
日本は天然ガスの年間輸入量の約1割にあたる年600万トンを、サハリン1から調達する計画だった。そのため政府主導で本州まで海底パイプラインを敷いて、天然ガスを輸入する計画を建てていた。ところが、肝心の買い手である電力、ガス業界が従来通りの液化天然ガス(LNG)での輸入を希望した。国内でもたもたしているうちに、中国に契約を取られてしまったのである。
同じくサハリン2でも重大な問題が起きている。サハリン2の事業主体であるサハリンエナジーへは、ロイヤル・ダッチ・シェルと三井物産、三菱商事が出資している。このプロジェクトにロシア政府が露骨に介入し始めている。
昨年、沖合いのガス田から延びるパイプラインの海中ルートが、希少生物であるコククジラの棲息域を通るとの理由で変更を余儀なくされた。そして今年9月には、パイプライン建設に伴う環境破壊を理由に、ロシア天然資源省が開発許可そのものを取り消す決定を行った。
表向きは環境保全を理由にしているが、ロシア側の本当の狙いは政府系ガス会社であるガスプロムを事業主体に参加させることだ。さらにロシアにとって不利となっているこれまでの生産物分与協定(PSA)を破棄して、取り分を大幅に増やすことを狙っている。
今後ロシア側との交渉が頓挫すれば、2008年夏からスタートする予定だったサハリン2からの天然ガス輸入は根本的な見直しを迫られるだろう。日本は天然ガスの約97%を輸入に頼っている。サハリン1、サハリン2は有力な供給源となるはずの巨大プロジェクトだったが、今や瀕死の状態なのだ。こうした動きに対し対北朝鮮強硬策の安倍内閣は無為無策、まったくお手上げの状態だ。
資源ナショナリズムの台頭
イランでの油田開発を巡っても、同様の問題が起きている。 日本の国際石油開発(INPEX)は、2004年にイラン政府との間でアザデガン油田の開発契約を結び、75%の開発権を得ていた。ところがイランの核開発疑惑に対して制裁圧力を強めてきたブッシュ政権は、日本の開発計画を強く牽制。その結果日本は今日まで開発に着手することが出来ないできた。日本の態度に業を煮やしたイラン政府は、ついにINPEXの開発権を10%に引き下げると決定したのだ。
アザデガン油田は世界最大規模の未開発油田である。石油輸入のほとんどを中東に依存してきた日本にとって、この油田の独自開発はエネルギー戦略上極めて重要だった。イラン政府による事実上の開発契約破棄は、ブッシュ政権に追随してきた小泉外交の大きなツケだが、安倍内閣はこの問題に対しても何の手も打てないでいる。
自国の資源・エネルギーを重要な外交カードに利用し、資源ナショナリズムに走ろうとするロシアやイランのような動きは、世界的に今後ますます強まっていくだろう。同時に、今後減耗していくだけの石油は、ますます投機的な商品となりつつある。2002年には1バーレル20ドル前後だった原油価格は、今年一時1バーレル75ドルまで上昇。最近は下落傾向にあったが、それでも1バーレル60ドル前後を推移している。
10月19日に石油輸出国機構(OPEC)はドーハで緊急会合を開き、原油価格の下落に歯止めをかけるとして、日量産油量を120万バーレル減産することを決めた。下落しているとされている価格ですら4年前の3倍近いのだ。これは資源・エネルギー需給がいかに逼迫しているかを物語っている。
国内資源がほとんど存在しないにも関わらず、日本はアメリカに次ぐエネルギー消費大国である。2001年時点の全世界の原油輸入量の内、日本は1割近くを占める。この量はアメリカに次いで第2位、実に2億1000万トンに上る。これまではジャパン・マネーに物を言わせて石油を買い漁ることが可能だったが、今後日本がこれほど膨大な石油を安定的に輸入し続けることなど不可能だ。
ロシアやイランでのプロジェクト危機は、まさにその兆候だ。 この危機的状況に対し、対米追随を公然と掲げる元外務官僚の岡崎久彦などは、「島国だった日本が幕末に開国して以来、七つの海を制覇していたアングロ・アメリカン世界と仲良くしていれば、国民の安全と繁栄が約束されるということだ」(2005年11月17日 産経新聞)などと述べている。アメリカが必ず日本をみてくれると思い込んでいるのだ。
国際世論を無視した単独行動主義で「石油のための戦争」を強行したアメリカ自身が、イラクで泥沼の内戦に引きずり込まれて、手も足も出ない状態ではないか。安倍内閣は対米追随で思考停止してしまっている。
資源小国だからこそ平和外交を
安倍首相は就任早々、北朝鮮の核実験の最中に訪中・訪韓した。北朝鮮の核実験強行は、6カ国協議の当事者である日本、中国、韓国の共同歩調の必要性を強めた。「靖国問題」で頓挫していた小泉外交のツケ払いにとって追い風となったのだ。安倍は、懸案の靖国問題について「行くとも行かないとも言わない」と態度を曖昧にしつつ、今や最大の貿易相手国となりつつある中国との関係修復、「戦略的互恵関係」の構築を掲げている。中国側も、「日中関係を長期的に安定して発展させていくため」には、政治の面で互いに信頼を深めていくべきだと応じた。
日中首脳会談後、北朝鮮の核問題への対処とともに「東シナ海のガス田開発問題で話し合いを加速すること」を盛り込んだ「日中共同プレス発表」も行われた。
そこでは安倍はこれまでの持論を押し隠し、「日本はかつて、アジアの人々に大きな損害と苦痛を与えた。その反省をもとに、日本は平和的発展の道を歩み続ける」、「歴史問題を適切に処理していきたい」と語る以外なかった。これは対米追随や侵略賛美の右翼イデオロギーでは、今後のアジア外交を切り開いていくことはできないことを、安倍自身が突きつけられ、様変わりを余儀なくされているということだ。
残り少い資源・エネルギーを巡って、民族や宗教の違いを口実に各国が自国利害だけを追求すれば、人類は破滅に向かう以外ない。ましてや資源小国日本は、重層的で平和友好的な外交を強めていかない限り、あっと言う間に必要最低限のエネルギーの確保すら出来なくなるだろう。オイル・ルートにエネルギー供給の大半を依存している日本こそ、世界の平和と安定を誰よりも必要としているのだ。
にもかかわらず、北朝鮮の核実験を巡る朝鮮半島の緊張緩和に対しては安倍政権はまったく後向きだ。10月24日には、アメリカのペース統合参謀本部議長が国防総省で記者会見し、米軍はイラクやアフガニスタンに大量派兵しつつ、北朝鮮と交戦状態になっても勝利するだけの戦力を保有していると強調した。「米国の潜在的な敵は、わが国が自国の利益を守るため明日にでも圧倒的戦力を展開できる能力があることを見誤ってはならない」。
北朝鮮への牽制だ。そこでは万一戦争となれば、民間人の被害が増す「第二次世界大戦や朝鮮戦争のような状況になる」との見方も示した。戦争となれば朝鮮半島で何十万人もの大量殺戮が起きるのだ。日本だけが無傷にはなりようもないのである。安倍内閣の対北強硬策ではアジアに平和はやってこない。
グラン・ワークショップ実行委員会は、12月10日に「核と戦争の危機を止めよう!」緊急集会を呼びかけている。12・10緊急集会を成功させ、朝鮮半島危機を回避する民衆行動をつくり上げよう。
(2006年11月5日発行 『SENKI』 1228号1面から)
http://www.bund.org/editorial/20061105-1.htm