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【経済面】2006年10月15日(日曜日)付
大手行、法人税納めぬ「怪」 「最高益」あげても欠損金あれば免除
最高益をあげ、公的資金の完済が相次ぐ大手銀行だが、いまだにどこも法人税を納めていない。単年度では黒字でも、その額が過去の不良債権処理で膨らんだ「税務上の繰り越し欠損金」と相殺でき法人税が免除される、という税務ルールがあるからだ。大手各行が納付を再開するまでには平均4年強かかる見通し。巨利をあげる大手行が法人税を納めないという異常な状態が当分は続く。(堀篭俊材)
大手9行別、法人税納付再開まであと何年?
●再開まで4年
住友信託銀行が07年3月期決算で94年3月期以来、13年ぶりに法人税を納付することになった。06年3月期に繰り越し欠損金が大手行で最少の約830億円まで縮小。07年3月期で解消できる見通しになったためだ。同期の経常利益予想の1500億円を基に試算すると、約270億円の法人税が発生する見込みだ。
三井トラスト・ホールディングス傘下の三井アセット信託銀行のように、規模の小さな銀行が法人税を納付している例も一部にあるが、大手行ではまだ法人税納付を再開したところはない。
●欠損金13兆円
06年3月期決算で、6大金融グループはバブル期をしのぐ過去最高の合計3兆円の当期利益をあげた。決算上は巨額の利益を上げながら大手行が法人税を払っていないのは、各行の税務上の黒字(課税所得)が、過去の不良債権処理で膨らんだ繰り越し欠損金を大きく下回っているからだ。
大手行の多くは金融システム危機が高まった96〜97年度と、不良債権の最終処理に乗り出した01〜02年度に大幅な赤字決算を計上。6大金融グループ傘下の大手9行の06年3月期の繰り越し欠損金は合計13兆円以上にのぼる。
日本経済研究センターによると、住友信託に次いで納税再開に最短距離にあるのは三菱東京UFJ銀行で、それでも2・5年が必要だ。
●控除は7年間
みずほコーポレート銀行は10年以上かかる計算だ。ただ、繰り越し欠損金による控除が認められるのは発生後7年まで。同行は早ければ11年3月期から課税所得に応じて法人税を支払わなければならない。連結納税をするりそなホールディングス(りそな銀行と近畿大阪銀行の2行で試算)も12年3月期で控除期間切れとなる。
法人税の納付再開の見通しについて、大手行自身は「09年3月期には繰り越し欠損金を解消させたい」(三菱東京UFJ銀行)、「4〜5年後までに納税できるように努める」(三井住友銀行)などとしている。
●負担は国民に
「法人税を払えないのでは『半人前』」(与謝野前金融相)と大手行に対する風当たりは強い。だが、大手行にしてみると、税金を前払いする形で不良債権を処理してきた経緯があり、「現時点で法人税を払っていないことだけを取り上げられても困る」(大手行幹部)と反論する。
銀行にとって法人税の免除は、現金支出を抑え、内部留保を高めることで公的資金の返済に集中できる効果がある。その公的資金は住友信託、三菱UFJ、みずほの各グループがすでに完済。三井住友も近く残額を一掃できる見込みだ。
日本経済研究センターの望月均主任研究員は「法人税の免除は、公的資金と同様に、金融危機を封印したコストを国民がずっと負担しているようなもの。毎年の利益に応じて法人税を払ってこそ、企業は社会的存在として認められる。その意味で大手行はまだ『一人前』とは言えない」と指摘している。
◆キーワード
〈繰り越し欠損金〉 赤字(欠損金)が出たら、翌期以降の黒字(課税所得)と相殺できる税務上のルールがある。例えば500万円の赤字が出た翌期に300万円の黒字になれば、前期の赤字と相殺して納税せずに済む。さらに200万円分の赤字を持ち越せるため、次の期に300万円の黒字が出ても差し引き100万円に課税されるだけになる。04年度に金融機関の不良債権処理を支援する優遇税制として、全産業を対象に繰り越せる期間を5年から7年に延長した。
http://www.asahi.com/paper/business.html