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極端に言えばどんな小さな地域金融機関も救済しなければならなくなってしまう。【経済産業研究所】
http://www.asyura2.com/0610/hasan48/msg/173.html
投稿者 hou 日時 2006 年 10 月 10 日 21:28:27: HWYlsG4gs5FRk
 

(回答先: 新「紀陽銀行」・・・ 血税   315億円の11月  注入      <あべ改革逆行政権・愚の骨頂> 【時事通信】 投稿者 hou 日時 2006 年 10 月 10 日 21:21:36)


http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0136.html

一線を画すべき「地域再生・活性化」と金融行政の関係:「金融機能強化法」の評価


RIETI上席研究員
鶴光太郎
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先の通常国会で、健全行にも予防的に公的資金による資本増強ができる制度を盛り込んだ「金融機能強化法」(金融機能の強化のための特別措置に関する法律)が成立した(6月14日)。来年4月からのペイオフ完全解禁を前にして、主要行よりも不良債権処理、業務の健全化に遅れが見られる地域金融機関(地銀、第二地銀、信金・信組)を主な対象に、公的資金投入という「アメ」を使いながら、合併などの抜本的な組織再編成を促進し、金融不安が起きないよう万全を期したいというのが金融当局のねらいである。もちろん、主要行への公的資本増強に使えないわけではないが、2004年度の財源はとりあえず2兆円の枠しかとっていないこと、公的資本増強の要件として、地域経済にとって存続が不可欠であること、地域経済の活性化に資することが明示されていることからも、地域金融機関を念頭に置いたスキームであることが窺われる。

しかし、金融行政が地域経済の再生・活性化にどの程度関わっていくかは必ずしも自明ではない。厳しい状況にある地域経済の再生・活性化を謳えば、どのような政策も政治的に正当化されるような雰囲気が蔓延してはいまいか。金融行政の場合も、りそな、足利銀行への公的資本増強以来、政策判断根拠として地域経済への配慮が全面的に強調されているようにみえる。本稿では、特に金融行政の地域経済との関わりという観点から「金融機能強化法」を批判的に検討してみたい。


■「意図せざるケインズ政策」の役割を果たしたりそな銀行への公的資本増強
昨年のりそな銀行や足利銀行が公的資本増強を受けたのは預金保険法第102条スキームによるものであった。これは「信用秩序の維持に重大な支障が生じる恐れがある」、つまり、金融危機の一歩手前と判断されて初めて公的資本増強措置を発動できるというスキームであるため、「金融危機対応会議」などのプロセスを踏んでいるうちに金融危機が現実のものになってしまうという「綱渡り」的な性格があったことは否めない。金融当局にとって、(健全行に対しても)予防的に公的資金を注入できると明示的に認められる制度の確立は悲願であった。実際、りそな銀行の場合も、本来のスキームをやや逸脱して、金融危機の未然防止という観点から手続きに入ったのである。

しかしながら、りそな銀行への公的資金投入が決定された昨年5月以降、株価は反転し、急速に上昇すると同時に、実体経済の着実な回復もあいまって、主要行の業績改善、不良債権処理が進み、主要行に対し金融危機未然防止を目的とした公的資金予防注入の必要性は薄れていった。興味深いのは、りそな銀行への公的資金注入が一種の「ケインズ的な財政政策」の役割を果たしたことである。つまり、政府の銀行問題へのコミットメントの強さ(公的資金投入)が株式市場で評価されることで、これまで不安定であった銀行株の価格が安定する。すると、マーケット・コンフィデンスが高まり、株式市場が全体として回復する。一方、株式市場の回復・安定が「呼び水」となり、実体経済にも好影響を与え、経済全体の回復の足取りがしっかりしてくるというメカニズムである。したがって、金融行政としては、りそな銀行への公的資本増強は、その判断根拠、「銀行救済予想」の浸透によるモラルハザードという点で問題があったが、結果的には「意図せざるケインズ政策」という役割を果たしたのである。

■地域金融機関の抱える問題:「リレーションシップ・バンキング」のデメリットの顕在化
主要行の場合、こうしたマクロ経済の回復の恩恵を直接受けやすいが、地域金融機関の業績は、地域経済に特有な事情の影響を強く受けているため、ペイオフ完全解禁以前に、経営が脆弱な地域金融機関への対応策がどうしても必要となってくる。地域金融機関は、これまでも、長期・継続的かつ密接な銀行・顧客関係に依存した貸出等の金融サービスの提供、つまり、「リレーションシップ・バンキング」が基本的なビジネス・モデルであった。したがって、地域金融機関が現在抱える不良債権等の問題は「リレーションシップ・バンキング」が持つデメリットの部分がストレートに顕在化したものと捉えると分かりやすい。

具体的には、当該地域の構造不況業種・企業との長期的継続的な取引や地域に密着した信頼関係が逆に非効率的な借り手に対しても融資を継続してしまうという、「ソフトバジェット」、「追い貸し」が発生し、不良債権を増加させ、金融機関の健全性を損なってきたのである。

■貸し手・借り手関係のリシャッフルの重要性と競争環境の整備
こうした問題を解決するためには、金融当局が主張する「リレーションシップ・バンキング」の機能強化ではなく、貸し手・借り手の関係を一度中立的な(距離を置いた)関係に戻し、非効率的な貸し手・借り手関係を整理、リシャッフルすることが必要である。

そうしたプロセスの中で、淘汰される企業、金融機関が仕分けされていき、健全な金融機関から有望な顧客に対し新たな「リレーションシップ・バンキング」が形成されていくと考えられる。したがって、地域金融機関の経営健全化のためには、主要行と同じく検査などを通じて資産査定を厳格化し、不良債権処理、ガバナンスの強化を図ることが先決である。地域金融機関の特殊性をいたずらに強調するのは適切とはいえない。

また、地域経済への影響を恐れて破綻すべき金融機関を安易に救済するのではなく、ある金融機関が破綻しても、その(優良な)借り手へのマイナスの影響が最小限になるように代替的な金融機関が参入し、新たな「リレーションシップ・バンキング」が容易に構築できるような競争環境の整備が重要であるはずだ。その意味で、ある地域経済において特定の地域金融機関が金融サービスを独占しているような状況は、借り手、貸し手双方ともリスクが分散できないなど、リレーションシップ・バンキングのデメリットが顕在化しやすく、金融行政からみても望ましいとはいえない。長期的・継続的な取引関係といえども、サービス供給側の(少数間での)競争が重要なのは日本の系列システムとまったく同様なのである。

■「金融機能強化法」のスキームの問題点
こうした立場から、今回成立した「金融機能強化法」はいかに評価できるであろうか。まず、ある程度規模の大きい地域金融機関の中には、それが危機的な状況に陥る前に公的資本増強を「てこ」にして金融当局がその抜本的な事業再構築に積極的に関与すべき銀行がいくつか存在するであろうし、「金融機能強化法」はそのための重要なスキームを提供しているといえる。しかし、本稿では以下の2つの問題点を指摘したい

まず、第一に、地域金融機関の経営の脆弱性を克服していく上で、経営責任を問われない公的資本増強という「アメ」を与えるほど、合併等の組織再編が有益かどうかという点である。確かに、強い金融機関と弱い金融機関が合併すれば、ガバナンスの主体も明確になり、その後の事業再編も進めやすいが、特に弱い金融機関同士が対等合併する場合は、それぞれの「企業文化」の衝突から始まり、シナジー効果を出すことは至難の業である。また、「リレーションシップ・バンキング」を提供するのに重要な、借り手に関する「ソフトな情報」の入手・活用においては、規模の小さい銀行の方が有利であることが最近の理論・実証研究でも明らかになってきている。つまり、合併した地域金融機関は以前よりもきめ細かな中小企業向けの融資を行いにくくなる可能性があるのだ。さらに、合併が金融機関の地域独占につながる懸念もある。以上を考慮すると、当局として「つぶせなくなるほど大きくする」ことで、ペイオフ解禁に直面した預金者を安心させる方策をとっていると勘ぐられても致し方ないであろう。60年代末に故山本直純氏がタクトを振って一世を風靡した某チョコレートのコマーシャル、「大きいことはいいことだ!」を突然聞かされているようで、その時代錯誤性を感じずにはいられない。

第二は、公的資金注入に当って、当該金融機関の地域経済への活性化や地域におけるプレゼンスの大きさがその要件の一部となっていることである。しかし、特定の金融機関の破綻が地域経済に大きな影響を与えることを理由に破綻させない、または、政府が当該機関をなんらかの形で救済するべきという議論には経済学的な根拠が薄いといわざるを得ない。むしろ、銀行に対し事業会社などとは異なった規制を行う根拠は、「負の外部性」の存在である。つまり、金融機関が破綻する場合は、決済システムなどを通じて、健全な他の金融機関や取引先の企業にまで広範囲に影響が及ぶ可能性があるからである。したがって、マイナスの影響が及ぶ範囲の広さが規制や介入の判断のポイントとなる。

「リレーションシップ・バンキング」を展開する地域金融機関の場合、どんな小さな地域金融機関でもその活動地域における借り手との関係は非常に密接なので、それが破綻した場合、その借り手に与える影響は甚大である。つまり、影響を受ける地域の範囲は狭くても不利益を蒙る借り手がそこに集中し、個々の不利益のサイズも大きいのである。したがって、地域経済への影響を強調しすぎると、極端に言えばどんな小さな地域金融機関も救済しなければならなくなってしまう。

先にも述べたように、地域金融機関の問題解決において、「リレーションシップ・バンキング」における貸し手・借り手関係のリシャッフルと新結合が重要だとすれば、短期的にはこうした移行過程において地域経済にマイナスの影響を与える可能性がある。しかし、このようなリシャッフル、新結合に向かうプロセスなしでは長期的に地域経済が再生・活性化することも難しいであろう。したがって、金融行政の短期的な目標としては、地域再生・活性化までを含めるのではなく、あくまでも地域金融機関の経営の健全化に焦点をおくべきだ。地方再生・活性化につながれば「バラマキ」もかまわないというような「既得権益の保護」と金融行政は一線を画するべきである。


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