★阿修羅♪ > 国家破産48 > 1001.html ★阿修羅♪ |
Tweet |
【経済面】2007年01月15日(月曜日)付
(けいざい一話)資生堂「ノルマより信頼」
「最近、売り上げはどう?」。化粧品最大手の資生堂では、そんなあいさつ代わりの言葉が禁句になりました。前田新造社長(59)が昨年4月、店頭に立つビューティーコンサルタント(BC)の売り上げノルマを廃止したからです。販売が落ち込むリスクもある試み。商品のブランドも絞り込みを進めます。どちらも、お客さんの信頼を勝ち取る狙いです。創業130年を超える会社は変わるのでしょうか。(田島幸治)
接客の技術を磨こうと、全国のBCが研修施設に集まってきた=神奈川県横須賀市で
●親身の接客、ファン増やせ 必要ない商品買わせればマイナス
「商品・サービスなど企業活動の『品質』はたし算ではなく、かけ算。一つでもゼロがあれば、すべてがゼロになる」
仕事始めの5日、前田社長が幹部社員約150人に説いたのは、脱「たし算」の哲学だった。昨年3月まで「きょうは美白化粧品5個」などと販売ノルマがあったが、すべて廃止した。その背景にもこの考え方がある。
前田社長は「ノルマによる売り上げの『上積み』なんて、必要ない」と言い切る。なぜ、脱「たし算」なのか。
国内の化粧品市場は頭打ちで、縮小も予想される。花王の傘下に入ったカネボウ化粧品も強力なライバル。外資も攻勢を強める。むやみに「たし算」による成果を求めたところで限界はある。「大切なのは、今日買わなくても『資生堂と一生付き合いたい』というお客さまを増やすことだ」
カギはお客さんの信頼だ。だが、「ノルマの影で大切なお客さまを失っていた」と前田社長は考える。BCがノルマ達成に向けて、がんばれば、がんばるほど同社の売り上げは伸びる。だが、お客さんは必要のない商品を買わされかねない。商品、広告や文化活動で、長い時間をかけて築いた信頼。それが、接客一つで、一気に崩れるおそれがあると考えた。
ノルマがなくなり、BCには肌の悩みや化粧品の選び方、化粧法などについて親身に相談に乗ることが求められる。その評価方法の一つが、はがきアンケートだ。BCがお客さんに手渡し、「要望を聞いたか」「また接客を受けたいか」など、BCの接客を4段階で評価してもらう。半年で約22万通が送られてきた。
ノルマ廃止について、横浜市のスーパーで働くBCの成田美由紀さん(36)は「きれいになってもらうための接客ができるようになりました」と顔をほころばせる。以前は売り場に立っても「あといくら売らないと」という思いが頭のすみから離れなかった。
●一時的な減収覚悟
ノルマ廃止は、前田社長にとって10年越しの「リベンジ」だ。
96年、マーケティング担当の化粧品企画部長に就き、ノルマ廃止に踏み切った。しかし、「売り上げが減ったらどうするんだ」「BCがなまける」などと批判が噴き出し、半年足らずでノルマが復活。「旗振り役」だった前田社長はわずか1年で海外事業関連の部署に異動。「正直切られたと思った」と振り返る。
その後、取締役経営企画部長として経営改革に取り組んだ手腕が評価され、14人抜きで社長に抜擢(ばってき)。就任内定後の05年3月に打ち出したのが、今回の改革だった。「資生堂を選んでいただくには、店頭でお客さま一人ひとりの信頼を勝ち取るしかない」。前田社長の言葉は重みを増した。
ノルマ廃止の効果は、売り上げなど「数字」にすぐに出るわけではない。一時的な減収は覚悟のうえだが、営業部門には抵抗もあった。前田社長は会議で「納得できないのなら話し合おう」と積極的に議論をしかけ、全社に脱「たし算」の哲学が浸透してきた。前田社長は「今回は会社全体の方針だから、すごみがぜんぜん違う」と言う。
●ブランドの絞り込みも
仲間由紀恵、広末涼子、竹内結子……。有名女優が競演するCMで話題となったシャンプーやコンディショナーの「TSUBAKI(ツバキ)」ブランド。資生堂は50億円という、この分野で過去最大の広告・販促費を投じた。代わりにほかのヘアケアブランドの広告・販促は中断した。
開発者のメンツなど「社内事情」を優先すると、売れ行きが落ちたブランドを切り捨てられない。落ち込みをカバーするために別のブランドを投入する――。そんな悪循環が続いて、ブランド数は一時100に。広告や販売促進、開発などの力が分散し、トップシェアのブランドは、ほとんど他社に握られていた。
前田社長は「ブランドを出してはだめになることの繰り返し。それでは信頼をつかめない」。広告や販促費を投入するブランドを27に絞り込んだ。
広告に社章の「花椿(つばき)」を使ったTSUBAKIは昨年3月下旬の発売から半年で年間売り上げ目標100億円を突破。ヘアケア市場のシェア(業界推計)で「万年4位」だった資生堂が06年はトップに躍り出る見込みだ。
◆(視点)収益、これから正念場
資生堂の06年9月中間決算(連結)の売上高、営業利益は前年同期を上回ったが、国内化粧品売上高は同0・2%減。BCが担うカウンセリング分野は同2%減だ。前田社長は「夏の天候不順の影響で、ノルマ廃止と無関係」とするが、「販売力が落ちたのでは」との指摘も。
だが、「一時的に売り上げが落ちても、2年、3年かけて信頼が得られれば、あまりある果実が待っている」と前田社長は自信を見せる。顧客志向という「あるべき姿」をどう収益につなげるか。これから正念場だ。
◆キーワード
〈ビューティーコンサルタント(BC)〉 全国にある資生堂の販売会社に所属して専門店や百貨店、スーパーの店頭に立つ。約1万人のほとんどが女性。男性も30人程度いる。
http://www.asahi.com/paper/business.html