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JMM [Japan Mail Media]   「民主党と上手に付き合う方法」  冷泉彰彦 
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投稿者 愚民党 日時 2006 年 11 月 11 日 18:43:42: ogcGl0q1DMbpk
 

                            2006年11月11日発行
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JMM [Japan Mail Media]                No.400 Saturday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼

  ■ 『from 911/USAレポート』第276回
    「民主党と上手に付き合う方法」

 ■ 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)

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 ■ 『from 911/USAレポート』第276回
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「民主党と上手に付き合う方法」

 票の再集計などといった泥仕合も取り沙汰されたバージニア州の上院議員選挙でし
たが、9日の午後になって、共和党現職のジョージ・アレン候補は敗北宣言を出しま
した。「州民の税金を使って対立を煽る行為には私は与しない」という声明で、長い
選挙戦は終わりを告げ、同時に上院の51議席つまり過半数を民主党が押さえること
が確定したのです。

 リード院内総務は現在は少数党なので「マイノリティー・リーダー」と呼ばれてい
ますが、1月からは「マジョリティ・リーダー」として上院民主党の議員団をまとめ
て強大な権限を行使することになります。そのリード総務は改めて「勝利宣言集会」
で演説を行いましたし、既に下院議長就任が確定的となったナンシー・ペロシ下院院
内総務は、大統領との会談に臨み、お互いに協力を約束しました。

 もっとも直後に大統領は、共和党が多数のうちの議会に「ジョン・ボルトン国連大
使の正式承認」と「令状なき国内盗聴活動の合法化」を可決するよう動いており、本
当に与野党の協力が可能になるのかは、まだまだ怪しい状況もあります(そうは言っ
ても、上院の共和党議員の中には、ボルトン不支持の動きが広がっており、最終的に
は一国主義的な匂いの「国連改革」の象徴であるボルトンは失職するのではという観
測もあって、ブッシュは手足を縛られつつあります)。

 いずれにしても、事ここに至ってはアメリカ政治における民主党の存在感は大きく、
日本としてもこれを重視しなくてはなりません。では、日本は民主党とどうすれば上
手に付き合って行けるのでしょうか。この時点で基本的なところから考え直してみる
必要があるのだと思います。というのも、過去を振り返って見ると漠然とではありま
すが、日本の政界や財界では相手が共和党の方が「やりやすい」というムードが強
かったからです。

 勝手な推測ですが、日本から政界や財界の人々がワシントン詣でをしたり、東京な
どで会談したりするときに、共和党系の人物と比較して民主党系の人の場合は「どう
も、やりにくい」という感覚があるようです。それはどうしてなのでしょう。

 恐らく民主党系の人には「オレが民主主義を教えてやる」とか「お前らの社会は後
進的だろう」というような見下げたような態度、あるいは女性の場合ですと「どうせ
あなた達は私たち女性をバカにしているんでしょう。でもそういうあなた達を私は心
底軽蔑しているのよ」という顔色がチラチラするのではないでしょうか。

 仮にそうであっても、日本人の側からは相手は「ガイジン」ですし、会話は英語に
なることが多いので「神秘的な微笑み」で適当にうなずいてしまうのです。ところが
そうした曖昧な微笑というのが、民主党系の人には許せないわけで、余計に会話は噛
み合わないことになる……そんな光景が目に浮かぶようです。

 ビジネスの場合でも、民主党の匂いのする相手ですと、契約書の細かなところまで
ウルサイことを言い理念で攻めて来ます。まず良好な関係ありき、ではなくて言いた
いことを全部言わないと気が済まないし、それに対して日本側が曖昧だとイライラす
る、そんな感じです。会食の席でも、この料理にはMSG(人工調味料)は入ってい
ないか、とか自分は菜食主義なので、などと面倒なことを言うのは民主党系が多いと
思います。

 共和党系の人はそんなことはありません。郷に入っては郷に従え、という柔軟性が
どちらかといえばあって、出された食事はニコニコ食べるし、アメリカでは言わない
ような下ネタの冗談などにもちゃんと付き合ってくれるでしょう。コミュニケーショ
ンの上で、微妙に意思が通じない局面があっても、それこそ曖昧な微笑みを許してく
れるのではないでしょうか。そして一旦友人になれば人懐っこく交友を続けてくれる
のです。

 では、単に民主党系の人は尊大で傲岸なのでしょうか。共和党系の人の方が異文化
コミュニケーションの力があるのでしょうか。この問題はそう単純ではありません。
まず、民主党系の人は普遍的理念を世界に広めるのが大好きです。リベラル・デモク
ラシーという信仰が骨の髄まで染みこんでいて、そしてこの理想は全人類に共通だと
思っています。アメリカ人だけに人権が認められ、繁栄しているのでは物足りない、
全人類にリベラル・デモクラシーによる繁栄が行き渡るべきだ、信仰の範囲はそこに
まで及んでいます。

 そう言うと、「押しつけがましさ」はブッシュと同じと思う方も多いかもしれませ
ん。ですが、日本の戦後改革で社会民主主義的とも言える政策を巨額の援助と共に持
ち込んだのは民主党に他なりませんし、ベルリン危機でのスピーディーな判断にして
も、コソボではイスラム系に肩入れした姿勢にしても、民主党の「デモクラシー布教
活動」の根っこには善意と自信があります。共和党系の「デモクラシーの押しつけ」
が根の部分には異文化への違和感や恐怖心など、一国主義や孤立主義の匂いを漂わせ
ているのとは正反対というわけです。

 では民主党系の人の異文化への姿勢はどうなのでしょうか。実はこの問題では変化
が起きつつあります。特に若い世代は、リベラル・デモクラシーだけでは生きてゆけ
ないし、そもそもアメリカが一番だとは思っていません。時には自国の文化を卑下し
てでも、発想の自由を確保してみたい、そのためには外国の異なった価値観を導入し
て、自分を高めてゆきたい、そんな意欲も持ち合わせています。

 例えば、2004年の大統領選挙の際には、ケリー候補の敗北を契機に「世界の皆
さんブッシュを選んでしまってごめんなさい」というメッセージをネット上で延々と
書き連ねる運動が、民主党系の人々の間で流行しました。元来は自分たちが善意で掲
げていた「世界へのコミット」がブッシュのような一国主義的な覇権の口実にされる
のを憎みながら、アメリカを代表して「ごめんなさい」という柔軟性、あるいは異文
化に学ぼうという姿勢も出てきているのです。

 反面、そうした意欲に水を差すような言動は嫌います。外国の人が「自分はアメリ
カが分からない」というのは許せても、「どうせアメリカ人には自分は分かってもら
えない」とか「分かってもらえなくても良い」あるいは「説明するのは面倒」という
ような姿勢を見せられると、非常に不愉快になるのです。「押しつけ」への反省は始
めていても、「世界中の人々と分かり合える」という底抜けの楽天主義に水を差され
ると、急に機嫌が悪くなるのが彼等の特徴とも言えるでしょう。

 その意味では、共和党的な発想法は全く違います。彼等は元来は異文化への関心は
薄いのです。日本に出張して楽しかったといっても、所詮は絵はがきを収集する程度
のことです。それで自分の価値観が変わったりはしないのです。同時に相手が変わる
とも思っていないのであって、何となく違う者同士でも利害関係として手が組めれば
御の字というところがあるのです。サウジ王家と親密に交際できるブッシュ一族の姿
勢が良い例でしょう。要するにお互いにメリットがあれば良いという姿勢とでも言い
ましょうか。

 では、民主党は空想的な理念に凝り固まった人間の集団、政治と言うよりも「リベ
ラル・デモクラシー」という宗教教団なのでしょうか。理念のためなら現実を無視し
ても構わないのでしょうか。これは全く違います。民主党は万年野党ではありません。
常に政権担当能力を維持しているばかりか、軍部にしても産業界にしても幅広いネッ
トワークを持っています。理念だけでなく、現実も巧みに操る政治勢力として理解す
る必要があるのです。

 しかし理想を掲げた理念と、複雑な現実の間には大きな溝があります。実は民主党
の民主党たるゆえんは、この理念と現実の間の折り合いのつけかたにあるのでしょう。
民主党系の有能な人間は、理念と現実の乖離を嘆いたりはしません。必死になって理
念と現実の距離を埋めてゆこうとします。理想的な結論が現実と乖離していても、学
問の力を借り、粘り強い交渉を続け、事実を検証し続けながら、時には言葉のレト
リックを駆使し、ウソも突き通し、陰謀も果敢に張り巡らして、辻褄を合わせてきま
す。

 ある意味で、アメリカが世界の中で少なくとも軍事面と経済面で「超大国」として
のリーダーシップを維持しているのは、こうした暑苦しいまでの民主党的な生命力と、
その行きすぎをチェックする共和党という正反対の勢力が絶妙にバランスを取ってき
たためとも言えるでしょう。ですから、民主党と付き合う上で、この点、理念と現実
の乖離に対する姿勢というのがカギになると思います。

 まず、民主党的な勢力を「のさばらせたくない」と思ったら、理念と政策の間に矛
盾はないかを攻め立てるのが利きます。「ダブル・スタンダード(二重規準)」では
ないか? 前言とは矛盾するのではないか? その前提数字は間違っているのではな
いか? こうしたロジカルな攻め方をすることは非常に効き目があります。痛いとこ
ろを突くと必ず反応があるはずです。何故ならば民主党系の人物は「理念そのものに
ついて、そして、その現実との折り合いのつけかたについて」非常にプライドを持っ
ているからです。

 相手がひるんだら容赦なく攻め立てて良いのです。こちらが必死に攻めれば相手も
必死で応戦してくるでしょう。ここで間違ってはいけないのは、この人達には「恥」
の概念は余りないのです(共和党系の人には時々感じることがありますが)。ですか
ら攻めるのが良いのです。譲歩のつもりで妥協すると「バカにされた」と思って逆効
果にもなります。とにかく、「人と人は分かり合える」という楽観的な大前提を信じ
ているので、その枠組みだけは守ってあげるのがコツでしょう。上手くいくと、机を
叩いてやり合った方が親友になれる、そんなケースもあると思います。

 では、そんな民主党の対日政策はどうなるでしょう。まずは少し過去を振り返って
みることにしましょう。アジア各国について冷戦終結後に民主党が取ってきた具体的
な姿勢を簡単にまとめると次のようになります。

(中国)人権問題には懸念を示しつつ、成長を支援していた。チベット問題では、分
離独立派に理解を示す。台湾問題に関しては中立。

(朝鮮半島)クリントン政権下のオルブライト国務長官(当時)訪朝に見られるよう
に、核危機に対してはKEDOの軽水炉技術供与。生存を保障しながら韓国経由で
「自由の風」を入れようとした。金大中訪朝もその流れで支持した。

(日本)90年代の改革の進まない状況には不満。上の世代には、第二次大戦の「敗
戦国」というイメージが強く残っていた。一方で「経済力に見合う負担をしないのは
不公正」という苛立ちもあった。自動車、半導体、鉄、あるいは牛肉オレンジなど貿
易問題の紛争も仕掛けた。

 確かに日本との関係は良くありませんでした。こうした事情の背景には、経済問題
で日本がアメリカの最大の貿易相手国であると同時に、ライバルであったという事実、
更にはお話したような「どうも話が合わない」という点があったように思います。

 ですが、2006年の現在、状況は大きく様変わりしています。アメリカにとって
の日本は「京都や日光を観光して絵葉書を買って帰る」ような存在ではなくなりまし
た。健康志向の食品、ハイブリッドを中心とした省エネ高級車、温暖化に対する環境
政策、といった「まぶしい価値観」を発信する国であり、何よりも行き詰まった「キ
リスト教的善悪二元論」を疑いだした時にアメリカ人が抵抗なしに意識できるほとん
ど唯一の「別の」世界観を提示してくれる存在です。

 民主党は元来はキリスト教保守派を抱え込んだ政党でしたが、最近はユダヤ穏健派
の影響から、ある種の相対主義といいますか、ポスト・モダン的な匂いを漂わせてき
ています。このポスト・モダン的な志向性は、ヨーロッパ思想のようなロジカルなも
のではなく、むしろ日本のサブカルチャーであるとか、サムライ哲学(そんなものが
あるのかどうかは定かではありませんが)への強い憧れという形になってきているの
です。

 この欄でもお伝えした映画『ラスト・サムライ』などは、そんな民主党系の人々に
よる日本への(やや過剰で、多少ズレはあるものの)愛情告白であると言えるでしょ
う。そんな中、日本に対する偏見は驚くほど消えていっています。そして、文化や技
術などの面で、民主党的な人々の間で日本という存在が過剰なぐらい注目を集めてい
るのだと言って良いのでしょう。

 一方で、年月は中国という国も大きく変えました。開発独裁ならまだ言い訳は可能
でも、ここまでの経済規模となると経済大国独裁とすら言えるような状況です。結果
平等と清廉潔白な行動様式を掲げたイデオロギーは完全に形骸化しています。豊かさ
に手が届いているのに、過酷な死刑制度や地域間格差を放置し、多様性の導入は最初
から諦めている、そんな中国はすでに民主党的な発想法からは許容の範囲を越えてし
まっていると見るべきでしょう。

 政治というのはしばしば現実の時間軸には遅れがちになるものであって、現在の民
主党にもまだまだ中国びいきはいます。、第二次世界大戦を戦った党を自認する以上、
敗戦国日本よりも戦勝国の正統性を共有する中国を贔屓する、あるいは共和党と台湾
との開発独裁時代の匂いを残した同盟関係に対抗するように中国に親近感を持つ、そ
んな勢力はまだ残っています。また民主党的な価値観からは「善人なのかもしれない
が何を考えているか分からない日本」が今後も続くのであれば、「利害は対立しても、
そのことを含めて堂々と主張してくる中国」を重視せざるを得ない、というムードは
まだ残っているのかもしれません。

 ですが、こうした傾向は時間と共に消えていくのだと思います。繁栄を謳歌しつつ
も自由を実現できない存在、しかもアメリカの国内雇用を奪っている存在に対しては、
やがてはチベットだけでなく、その体制そのものを疑い出すことは避けられないよう
に思うのです。私は中国とアメリカの民主党との間を引き裂けと申し上げているので
はありません。ですが、現在の日米関係の中で不自然なほど薄い民主党との信頼関係
を好転させる場合の一つの要素として、「民主党の中国離れ」という可能性を計算に
入れる必要はあるのではないかと思います。

 考えてみれば、現在の日本が抱えている問題の多くは、アメリカの民主党がそれな
りに取り組んできた問題に重なります。例えば格差の問題、国内での雇用問題は日本
の現状とアメリカの現状は似たような問題を反映しています。一つは空洞化の問題で
あり、もう一つは「成果の分配」の問題だからです。

 例えば、非婚少子化の問題も、労働条件や核家族イデオロギーなど民主党の得意と
する(少なくとも長年苦労してきた)領域に他なりません。また「いじめ」や「カリ
キュラムの柔軟性」の問題なども、硬直した官僚的な発想では全く手に負えなくなっ
ています。ある種、アメリカのリベラルの持っているような底抜けの理想主義や、概
念と現実を結びつける馬鹿力のようなものを参考にしないと乗り切れないように思う
のです。

 この間、民主党は少数野党として、戦時の団結ムードにも押されて大変な「冷や飯」
を食わされました。その結果として、一方的に理想を説いているだけの傲岸な姿勢で
は人心を得るのは難しいこと、反対のための反対も、怒りに身を任せた反対も外から
見れば見苦しい姿を晒すということ、など貴重な教訓を学んできたのだとも言えるで
しょう。これに加えて、善悪二元論から自由な若い世代も育ってきています。

 そんな民主党との、あるいは民主党的なカルチャーとのパイプを太くすることで、
日米関係を更に豊かにする、そんな時代がやってきたのだと思います。現在の彼等は
「聞く耳」を持っています。それに対して、とにかく語りかけてゆくこと、説明して
ゆくことが大変に重要ではないかと思うのです。

 とにかく民主党的な人々は「大まじめ」です。例えば「北村透谷(明治の思想家)
の自殺が日本の民主主義の脆弱性の良い例ではないか」とか「『サンリオのキャラク
ター』の幼児性の奥にあるのはイノセンスへの希求ではないのか」などと「知日派」
を自認するような人々は、面倒なことをたくさん質問してきます。お願いですから、
大まじめで応対してあげてください。「美しい国」日本を良く知って世界に紹介する
というのは、そういうことも含まれるのです。ちなみに私は「サンリオ」の話は条件
つきで「イエス」ですが、北村透谷うんぬんは「ノー」だと思っていますが。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『メジャーリーグの愛され方』。訳書に『チャター』がある。
最新刊『「関係の空気」「場の空気」』(講談社現代新書)
<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061498444/jmm05-22>
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JMM [Japan Mail Media]                No.400 Saturday Edition
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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