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JMM [Japan Mail Media]  「転機を迎えた日米関係」 from 911/USAレポート  冷泉彰彦 
http://www.asyura2.com/0610/bd46/msg/310.html
投稿者 愚民党 日時 2006 年 10 月 22 日 18:35:43: ogcGl0q1DMbpk
 

                            2006年10月21日発行
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JMM [Japan Mail Media]                No.397 Saturday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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  ■ 『from 911/USAレポート』第273回
    「転機を迎えた日米関係」

 ■ 冷泉彰彦   :作家(米国ニュージャージー州在住)

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 ■ 『from 911/USAレポート』第273回
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「転機を迎えた日米関係」

 ライス国務長官の訪問は、北朝鮮の「核実験宣言」に対して関係五か国がどのよう
に対応してゆくのかを探る旅に他なりません。ですが、今回のライス外交から伝わっ
てくるものは、どこか焦点がボケた印象があります。ライスという人個人が東アジア
の歴史や文化に「勘」が働きそうもないということもありますが、それ以上に「アメ
リカの世論や政治家がアジアについて理解していない」ということを反映しているの
かもしれません。

 焦点ボケの第一は、日本の核武装問題です。今回のライス訪日に関して、日本では
「同盟の再確認」というような一般的な見出しが多いようですが、アメリカのメディ
アでは「ライス長官、日本に核武装の意志がないとの確証を得る」(NYタイムスの
19日の記事)などという「日本の核武装」という観点からの報道が目立っているの
です。

 勿論、背景には自民党の中川昭一政調会長や麻生太郎外相の「核武装論議を避ける
ものではない」云々という発言が、アメリカのメディアで大きく取り上げられたとい
う問題があります。何も知らずにこうしたニュースに接した政治評論家や議員たちは、
「技術大国の核武装は危険」であるとか「いやアメリカは理解を示すべきだ」などと
勝手なことを言い出していました。

 政治に関してはプロ中のプロであるはずの、共和党のニュート・ギングリッチ氏
(元下院議長)ですら、18日にFOXニュースで「日本は核武装の瀬戸際まで行っ
ている」と発言していますから、アメリカの「トンチンカン」ぶりは相当なレベルで
あると言っていいでしょう。勿論、中川発言も、麻生発言も真意は別のところにあり
ます。

 いくら世論と乖離していても、いくら人類の常識に反していても「日本は核武装は
絶対にしない」と断言してしまっては保守政治家の内輪のサークルの中ではパワーを
失ってしまうらしいのです。中川政調会長などの場合は、最低でも「議論は排除しな
い」という言い方をしておかないと、自分の「タカ派イメージ」が維持できないので
しょう。つまりこうした発言は100%「政治的発言」であって「政策としての主
張」ではないのです。

 勿論、こうした見方は中川、麻生両氏に対して甘すぎるのは確かです。「絶対出来
っこない」から「罪はない」と思っていても、こうした発言を繰り返す人間が増えて
いくことは長い目で見て日本の核武装、つまり現在の核不拡散体制の完全崩壊に寄与
してゆくからです。ですが、他でもないアメリカの政治家が「真に受ける」というの
はどうかしています。

 そもそも、こうした「出来っこない」ような「威勢の良い」ことを100%政治的
発言として言葉のパワーゲームの道具にするのは、アメリカが本家であると言っても
良いのでしょう。現在は中間選挙へ向けての選挙戦が終盤を迎えていますが、共和党
保守系の議員のTVやラジオの広告では「○○議員(本人)はアラブ人やムスリムの
飛行機搭乗事前審査に徹底して賛成してきました。△△議員(民主党、つまり対立候
補)はテロリストの人権に賛成する投票行動をしており、アメリカの敵です」という
ような内容が目に付きます。(例えば共和党全国委員長のケン・メーランの20日朝
のNBCでの発言)

 民主党候補を「非国民呼ばわり」するというのも尋常ではありませんが、こうした
中傷発言というのは前にもこの欄でお話ししたように「相手の消極的支持者を棄権に
追い込む」のを主目的としていて、その他のターゲットは「この広告を見ても投票行
動を変えない」と読んでいるために抑制が利かないのですが、それはさておき、実態
としては中川・麻生発言と変わりません。つまり政治的発言というのは、しばしば
「現実」と乖離することがあるということです。ジャーナリズムや世論が政治家とい
う「言葉のプロ」に押されている構図が変わらない限り、こうした現象は無くならな
いのでしょう。

 それにしても「日本の核武装」についてワシントンやメディアの「知日派ではな
い」部分が、ここまで騒ぐというのは日本の世論に対する無理解も相当なものなのだ
と思わされます。確かに小泉政権下の日本は、イラク派兵に参加し、北朝鮮問題での
国連での対応では「アメリカ以上に強硬」な姿勢を取ってきた、そんなイメージが出
来上がっています。

 一方で、日本の世論にあっては、広島と長崎での原爆被害という歴史的経験は消え
ておらず、またその惨状を世界の歴史に伝えていくことで、あらゆる核戦争に対する
最大の心理的抑止力としようという覚悟も消えてはいません。アメリカ同様「平和主
義は金持ちのキレイ事」だという嫉妬感情を悪用する政治家が後を絶たず、世論の半
数の表面的な言動はタカ派に流れてはいても、深層の感情には「反核」が国是である
という合意は崩れていないのです。それが、アメリカには十分伝わっていない、日米
蜜月といってもその程度のことだというのは問題ではないでしょうか。

 ライス訪日に関するもう一つの問題は、北朝鮮への対応戦略です。先週のこの欄の
続きになりますが、具体的に北朝鮮の政権崩壊に対してどう対応するか、という問題
もありますが、それ以上に、東アジア全体に対してどういったメッセージを発信する
のか、例えばライス長官と歓談する麻生外相の「笑顔」は昨日から今日にかけてアメ
リカのTVで何度も放映されていますが、その両者が良い関係であるとして、その関
係から周辺国にどんな貢献をしようとしているのか、そのメッセージが全く伝わって
来ていません。

 例えば、自由と繁栄の達成度ということでは日米両国は、関係五か国の中でも飛び
抜けています。ですが、この二か国が一緒になって自由と繁栄を北朝鮮に持ち込む、
いや持ち込まないまでも、その方向で独裁と孤立を止めるようメッセージを送る、そ
んな気配は余りありません。確かに「北朝鮮人権法案」のような動きもあったのです
が、これも「脱北者」問題を直視するような迫力には欠けていました。しかも、ここ
へ来て唐国務委員の訪朝など、北朝鮮に対する中国の積極的な介入に任せるような事
態になっている中、日米は「メッセージ」を停止しているように見えます。

 それにしても、麻生外相の満面の笑顔というのは、アメリカから見ているとよく分
かりません。そもそも北朝鮮危機というのは、非常に苦(にが)い問題であって、そ
の問題を契機に日米両国の外相が意気投合したとしても、笑顔というのは似合わない
はずです。例えば、日本の独自制裁というのは「悪者を許さない」という姿勢だと考
えれば威勢が良く聞こえますが、実際は「日本から北朝鮮への最後の貨物船」だとい
うNHKの映像を見ると、そこに満載されているのは大量の中古自転車だったりする
のです。

 資本主義的な繁栄の中にある日韓中の三か国に囲まれた中に、中古自転車を海外か
ら輸入しなくてはならない国がある、その悲惨を考えると笑ってはいられないはずで
す。自転車などという安価な低付加価値品を自製もできないし、新品輸入もできない
という事態がいかに異常なのかは、少し考えれば分かることでしょう。私は今回の核
実験宣言に関しての制裁措置に全面的に反対はしませんが、とにかく満面の笑顔で語
る問題ではないと思います。

 では、北朝鮮は一体どうなるのでしょう。NBCのワシントン総局長ティム・ラサ
ートといえば、TVジャーナリズム界ではトップに立つ一人ですが、そのラサートが
18日には「金正日はもう命は取らない代わり、第三国に出して静かに老いてもらう
しかないでしょう」と放言していました。ラサートという人は、冗談でこんなことを
言う人物ではないので、もしかすると訪朝直前にワシントン入りしている唐国務委員
とホワイトハウスの間で、何か密約でもあるのかもしれません。

 仮に中国主導で北朝鮮の政変を演出し、それこそ「ルーマニア方式」での政権交代
を狙うことになるのでしょうか。私には今週前半に色々と噂の出た「ルーマニア方
式」というのは怪しいと思います。確かにルーマニアの場合は、チャウシェスク夫妻
を銃殺刑にしただけで東欧革命に影響を受けた変革エネルギーは吸収して、二人を外
した当時の政権中枢はそのまま生き残りました。その結果として、ソ連崩壊の直接の
影響は受けずに、今に至るまで開発独裁的な色彩の政権を維持しているようです。

 ですが、ルーマニアではいくら開発独裁的だとはいっても、公選制もあれば、複数
政党もあるのです。。一方で、北朝鮮の場合は、北に政治的自由を許さない中国があ
り、南により本格的な民主主義の韓国があり、という中ではルーマニアのように都合
の良い政権は、仮に過渡的なものだとしても難しいと思います。また、拉致事件や偽
札、麻薬販売、あるいは収容所での非人道的な迫害行為など、事実の究明と責任追及
の必要な疑惑が多くあり、仮にもトップ1名だけに責任を負わせることは不可能でし
ょう。

 そんな中、20日には北朝鮮を訪問してきた唐国務委員とライス長官の会談があり、
その中で伝えられた事実として、アメリカでは「核実験について金正日が謝罪」した
というニュースが大きく取り上げられています。今週の時点では、強硬な姿勢を続け
る役が日米、硬軟使い分けての交渉でとりあえず破綻の先送りに成功した(ように見
える)中国という「役割分担」が浮かび上がりました。ブッシュ政権のアジアへの影
響力はこれでまた少し下がるでしょう。

 さて、そんな中でこの秋以降の日米関係はどうなるのでしょう。まず、11月の中
間選挙ですが、投票日まで二週間強となった現時点では、下院は民主党の圧勝、上院
も過半数という可能性が濃くなっています。今週あたりからは、雑誌やTVでは「レ
ーガン以降の共和党革命の終焉」であるとか、「宗教票の共和党離れ」という話で持
ち切りです。また、その宗教票の受け皿として、宗教色の極めて薄いヒラリー・クリ
ントンではなく、若き黒人政治家のホープ、バラク・オバマ上院議員を「ニューリー
ダー」として推す声が大きくなってきており、民主党は意気が上がっています。

 勿論、投票日まで二週間強はあるわけで、何があってもおかしくないとは言えます。
ですが、事ここへ至っては、中間層を取返そうとして大胆な施策、例えばイラク撤兵
の日程発表などということをホワイトハウスがやれば、政治的には民主党の得点にな
ってしまい選挙結果を好転することはできなくなるのです。何故ならば、それぞれが
ブッシュ支持の理屈を「自分の言葉」で選挙戦のメッセージにしてきた各候補は、ブ
ッシュのツルの一声で「イラクはこの際撤兵」というような変節を見せることはでき
ないからです。この時点での政策変更は、基礎票の崩壊を招きかねないというわけで
す。ですから、余程の突発事態がない限り形勢逆転は難しいでしょう。

 さて、議会を民主党が握るとなると、これは革命に等しいこととなります。下院議
長ポストはは民主党へ行き、ブッシュ政権は予算や法案で大きな妥協を強いられるだ
けでなく、様々な調査委員会が民主党主導で立ち上げられることにもなるでしょう。
例えば「大統領罷免」という動きをするのも物理的には可能になってきます。勿論、
すぐにブッシュ罷免という動きにはならないでしょうが、例えばハリバートン社との
癒着などを材料にチェイニー副大統領を揺さぶるようなことは可能になるし、実際に
仕掛けてくるかもしれません。

 では、アメリカ政局が民主党主導になったら、再び「ジャパン・パッシング」が起
きて、日米関係は冷え込むのでしょうか。私は、現時点ではその心配をする必要はな
いと思います。というよりも、現在共和党内で起きている「ブッシュ離れ」のモメン
タム(勢い)の方が日本に取って危険だという見方をしています。例えば、最初にお
話したニュート・ギングリッチが「日本は核武装寸前」というセンセーショナルな言
い方をしてくるあたりに、それは現れています。

 例えば米中関係ですが、確かにクリントン政権は米中を重視していました。ですが、
それは民主党の長い伝統の中で「開発独裁よりは共産主義」に漠然と理解を示してし
まうというセンチメントの流れ、そして巨大な途上国であった中国が安定成長するこ
とがクリントン流のグローバル・エコノミーに取って「良いこと」だという価値観に
基づいたものだったと言えます。更に言えば、人権問題などを深刻に抱えている中国
人の方が、アドバイスをしても外圧への抵抗感からか言うことを聞かない日本人より
も親しく思えたということもあるのでしょう。

 ですが、6年の年月はとりわけ中国を大きく変えました。今や中国は「かつて結果
平等の理想を掲げた」という面影はまるでなく、巨大な途上国独裁という存在に変貌
しています。また、アメリカの雇用問題に取っても、摩擦の対象は日本ではなく中国
になってきています。アメリカは産業の空洞化が深刻であるとして、例えば日本の自
動車産業に対しては複雑な思いがありましたが、こと自動車に関しては、もう完全に
降参状態で、フォードは限りない縮小リストラの過程に入り、GMも依然として低迷
が続く中、アメリカの世論には日本車への憧れはあっても、怒りの感情は絶無といっ
て良いでしょう。その代わり、中国がアメリカの雇用を奪っているという認識はじわ
じわと広がっています。

 そんな中、今週発表されたウォールマート社による中国のスーパー「トラスト・マ
ート」の買収案に象徴されるように、共和党政権下の財界はますます中国との距離を
狭めています。このような大きな変化の中で、従来はあった「共和党=親日、民主党
=親中」という構図が崩れ始めているのを感じます。勿論、民主党の親日度が共和党
を上回るには、まだまだ時間が必要でしょうが、少なくともアメリカの「親日的なグ
ループの中心」が右から左に動きつつあり、少なくとも今現在は「中道」と呼ばれる
あたりに落ち着いているように思います。

 今週末に封切られるクリント・イーストウッド監督が硫黄島の戦闘を描いた映画
『父親たちの星条旗』(ライアン・フィリップ主演)については、詳しい内容や反響
については来週お伝えすることになると思いますが、封切り前の現時点でも「厳粛な
傑作」という声とともに「まるで民主党リベラルのような反米自虐史観の作品」とい
うような評価も聞こえてきています。また、同じ戦闘を日本側から描いた『硫黄島か
らの手紙』(同監督、渡辺謙主演)についても、相当に親日的な作品になっているよ
うです。この両作品が、アメリカの世論にどんな反応で迎えられるか、大変に興味深
いところです。

 現在の北朝鮮危機、そして間近に迫ったアメリカの中間選挙と、日米を取り巻く状
況は激しく揺れ動いています。その一方で、日米と中国の間になし崩し的に緊張緩和
が進む状況もあります。そんな中、ブッシュ=小泉の「プレスリー外交」は既に歴史
の彼方に消えつつあります。これからは、過去五年間の「蜜月状態」の惰性というこ
とでは日米は進んではいかないのでしょう。

 テロ対策だ、ミサイル防衛だという「異常事態の結束」で結ばれてきた日米ですが、
今後はもっと地に足のついた対話が必要になってくるように思うのです。進みすぎた
産業社会の中で起きる空洞化の問題、女性のキャリア追求と新たな家族のあり方の問
題、移民受け入れのノウハウ、環境やエネルギーの問題、そして緊張の増大ではなく
本当の意味で平和なアジアを保障する体制作りへと、日米がメッセージ性のある「平
時の関係」へと組み替える時期が来たのではないのでしょうか。

 中国は唐国務委員がアメリカや北朝鮮を駆け回るだけで「外交」が可能な国です。
世論との対話など省略してしまえるのです。ですが、そうした体制は長い目では脆弱
です。先週もお話したように、多様な価値、多様な選択肢を抱えながら社会を運営す
るノウハウを身に付けなければ、ある臨界点を越えて成長することはできないでしょ
う。日米が中国に改めてイデオロギー論争を仕掛ける必要はありませんが、自由とは
何か、多様な社会とは何かというメッセージを静かに訴え続けることは必要なのでは
ないでしょうか。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『メジャーリーグの愛され方』。訳書に『チャター』がある。
最新刊『「関係の空気」「場の空気」』(講談社現代新書)
<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061498444/jmm05-22>
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   <http://ryumurakami.jmm.co.jp/>
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