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「一橋新聞」(一橋大学の学生新聞)に掲載された北朝鮮問題に関する中岡さんのインタビュー記事です。
学生新聞への掲載を意識してか、メディア・リテラシーに関する事柄や、朝鮮を理解するための”恨”についても述べてあり、わかりやすくまとまっています。
知り合いの方へ説明する際に役に立つと思います。
・2年前にボルトン前国連大使(当時は国務次官補)が東京で行なった演説で、「アメリカは北朝鮮の体制変換を求めない」と語っていた。
・アメリカ政府の北朝鮮に対する姿勢は、イラクやイランに対するものとは明らかに異なる。
・皮肉なことだが、今回の北朝鮮の核問題のおかげで日中関係・米中関係が改善している。
・アメリカの外交官と話をしたとき、「6カ国協議の場で日本の影響力はまったくない」と語っていた。
中岡望の目からウロコのアメリカ
http://www.redcruise.com/nakaoka/?p=198
2006/12/23 Saturday
北朝鮮問題を問う:一橋大学学生新聞『一橋新聞』のインタビュー
一橋大学の学生新聞『一橋新聞』に北朝鮮問題をどう考えるべきかというインタビューを11月の中旬に受けました。そのインタビュー記事は同紙の12月12日号に掲載されました。新宿の喫茶店で2時間に及ぶインタビューを受け、同紙の学生記者がそれを編集し、さらに私が編集して掲載されました。紙面の制約もあり、インタビューでの発言が充分に伝えられなかった部分もあり、本ブログでは、新聞掲載の内容を補足するかたちで加筆しました。したがって、本ブログと同紙の記事は同じものではありません。12月の中旬、アメリカの外交官と話す機会がありました。同氏は「アメリカはイラク戦争の経験から多くを学んだ。それが今のブッシュ政権の対北朝鮮政策に出ている」と語っていました。”体制転換”に関しても、以前の本ブログで書いたように、2年前にボルトン前国連大使(当時は国務次官補)が東京で行なった演説で、「アメリカは北朝鮮の体制変換を求めない」と語っていたのを記憶しています。まだ同外交官は「クリントン政権の時の交渉でアメリカは何度も北朝鮮に騙された」とも語っていました。北朝鮮は核をカードに小出しで妥協しながら、大きな譲歩を勝ち取ろうとしてるというのが、同氏に分析でした。次いでに私と韓国の最初の出会いについて最後に書いてみます。
【リード】
北朝鮮の核実験を受け、関係国は北朝鮮外交の見直しを迫られている。ジャーナリストの中岡望氏に、北朝鮮問題の展望とメディアの報道姿勢について聞いた。
【本文】
――まず、経済制裁はどの程度有効なのですか?
質問に答える前にいくつか事実関係を確認しておく必要があります。まず、アメリカは朝鮮戦争以来、北朝鮮に対する経済制裁を継続しているということです。最近では国内法に従って北朝鮮の預金口座・資産を凍結しています。これが、アメリカと北朝鮮の最大の課題になっています。6カ国協議で北朝鮮は、まずアメリカが金融資産凍結を解除すべきだと主張しているのは、こうした背景があるからです。日本も既に何度か制裁を発動しており、「国連制裁決議」によって特に新たに大きな制裁が加わったわけではありません。
もうひとつは、アメリカの北朝鮮に対する認識です。バーンズ国務次官補が「北朝鮮は直接的な軍事的脅威になっていない」と発言しているように、アメリカ政府の北朝鮮に対する姿勢は、イラクやイランに対するものとは明らかに異なります。アメリカ政府は「北朝鮮の体制変換を求めない」と繰り返し発言しています。ですから、イラク問題と北朝鮮問題の枠組みにはかなりの違いがあるわけです。こうした点を意識しながら、今後の対応を見極める必要があります。
では、質問の経済制裁に効果があるかどうかですが、それは北朝鮮と圧倒的な経済関係を持つ中国と韓国の対応によって決まるでしょう。両国は国連決議に基づき制裁を“厳格に”実施すると言っています。が、現実にどこまで行うかは分かりません。それに国連決議では人道的援助の継続は認めています。また、中国と韓国は北朝鮮と貿易を継続しています。贅沢品の輸出規制など新たに導入された制裁もありますが、その効果を過大に評価すべきではないでしょう。メディアは、この制裁を必要以上に取り上げていますが、話題性はあっても、それが北朝鮮に及ぼす影響はほとんどないと考えたほうがいいでしょう。以上を考え合わせると、経済制裁が無力とは言わないまでも、期待した効果を発揮するかどうか疑問です。
――中間選挙の結果を受けて、アメリカの外交方針は変わっていくでしょうか?
今までアメリカ政府は、2ヵ国協議を拒否するなど強硬路線を取ってきました。アメリカ国内では、ブッシュ政府の強硬策が北朝鮮を必要以上に頑なにさせたという批判の声もあります。ブッシュ政権の北朝鮮政策は失敗したと指摘する声もあります。中間選挙での敗北を受けブッシュ政権も「対話」を視野に入れた柔軟な姿勢をとり始めています。ベトナムで開かれたAPECに出席したブッシュ大統領は「北朝鮮が6ヵ国協議に復帰すれば、新しい“インセンティブ”を与える」と繰り返し発言していました。具体的に何が“インセンティブ”なのか分かりませんが、アメリカの対北朝鮮政策が対決一点張りではないことは確かです。まず考えられるのは、今まで拒否してきた二国間協議に条件付で応じる可能性があるということでしょう。
現在、アメリカが真に恐れているのは北朝鮮の核兵器の直接的な軍事的脅威ではなく、北朝鮮からの核流出によって国際的な“核独占体制”が崩れることです。また、北朝鮮も核を外交的な切り札として利用しようとしています。朝鮮半島の非核化、北朝鮮の核開発中止は最大の優先課題ですが、軍事的脅威を必要以上に強調すべきではないと思います。また、バーンズ国務次官補は、日本の核武装論に触れて、安保条約があるから日本は核を保有する必要ないと語っています。
――今回の核実験・6ヵ国協議の再開をめぐり、大陸諸国の動きが注目されます。
既に述べたように、重要なのは中国と韓国の動向です。韓国にとって南北統一は民族の悲願です。中国は北朝鮮の経済を完全に飲み込むまでになっています。北朝鮮の持つ天然資源にも強い関心を示しています。したがって両国は、北朝鮮との関係の急激な変化を望んではいないでしょう。また目先的にいえば、2008年に中国は北京オリンピックを控えており、朝鮮半島での政治的混乱は避けたいと思っているでしょう。ただロシアの動きは釈然としませんが、北東アジアでの利権確保の道を模索しているのは間違いありません。最近、北朝鮮に対する債務を帳消しにする提案を行なっています。
また皮肉なことですが、今回の北朝鮮の核問題のおかげで日中関係・米中関係が改善しています。少なくとも北朝鮮の非核化という点では米中の利害関係は一致するわけです。さらに12月に米中戦略対話が行なわれたように、米中関係は急速に改善しています。もちろん、貿易問題や元相場問題などありますが、それは両国の関係を損なうものではないでしょう。民主党は中間選挙でアウトソーシングによる雇用の喪失を訴えていました。その意味では貿易赤字や為替問題が議会で議論されることはあるでしょうが、そのことをあまり過大に評価すべきではないでしょう。たとえば、元相場問題では12月に発表された財務省の「国際金融報告」では、5月の報告に続いて中国を“為替操作国”に指定していません。ポールソン財務長官は、口では元相場を切り上げるべきだと強く主張していますが、本音は必ずしもそうではないようです。かつての日米通商問題や円相場問題とは、かなり質が違っていると思っています。
また、将来、6ヵ国協議が北東アジアの外交フォーラムに発展する可能性はあるかもしれません。以前、本ブログでフランシス・フクヤマが6カ国協議を東北アジアの安全保障問題などを議論するフォーマルに発展させるべきだと書いたことがありますが、その可能性は否定できないでしょう。APECで議論する案もありますが、もっとメンバーを限定して行なうほうが良いと思います。
――それでは、日本の対北朝鮮外交の課題はどこにあるのでしょうか?
アメリカの外交官と話をしたとき、「6カ国協議の場で日本の影響力はまったくない」と語っていました。安倍政権は拉致問題を最優先に掲げています。安部政権の誕生の経緯から考えれば仕方のないことかもしれません。しかし、そのことによって「圧力と対話」のうち、「対話」のチャネルを失ってしまったことは間違いありません。交渉しようにも窓口がないのです。北朝鮮は援助が欲しいのだから、いつか北朝鮮のほうからアプローチがあると政府関係者は見ているようですが、朝鮮民族は韓国にせよ、北朝鮮にせよ、非常にプライドの高い民族です。なかなか妥協してこないのではないかと思います。むしろ、北朝鮮は6カ国協議の場から日本を排除しようとしています。ますます交渉の可能性は小さくなっているのが実情です。
また、日本の対北朝鮮政策の問題は、北朝鮮の脅威ばかりを強調し、その脅威にどの程度の「蓋然性(プロバビリティ)」があるかを冷静に分析していないような気がします。脅威論を過剰に煽るのは、メディアにも問題があります。北朝鮮の国内情勢をもっと戦略的に分析することが必要でしょう。情報の大部分を脱北者の証言に頼っているようでは、正確な分析と政策を打ち出すのは困難でしょう。
――北朝鮮関連の報道を読み解く際、何を意識すべきしょうか?
ある夕刊紙が「アメリカ政府が北朝鮮への先制攻撃を検討」という大見出しの記事を掲載していました。しかし、読んでみると、まったく根拠のない内容でした。しかも旧聞の報道を焼き直した程度の内容で、信憑性も何もないものでした。週刊誌でも同様な記事が頻繁に見られます。たとえば、「北朝鮮が対日テロを計画している」とって記事が盛んに報道されています。こうした煽情的な見出しに踊らされないということが重要です。脅威がゼロとは言いませんが、まるで明日にでも脅威が現実のものになるというのは、やはり正常な反応ではないでしょう。
記事を読む際の基本は、報道された情報に日付があるか、情報源に信憑性があるかを確認することが必要です。また、推測や希望的な観測か、売らんがための記事なのか、事実に基づいた分析なのかを識別する必要もあります。本当に重要な情報なら、海外のメディアも放置するはずはありません。時々、週刊誌でワシントンのジャーナリストさえ知らない“内部情報のスクープ”などという記事を掲載しています。北朝鮮関連の報道はどうしても制約があるため、できるだけ海外メディアの報道と比較しながら読むと良いでしょう。
そして、何より大切なのが「コモン・センス(常識)」を働かせることです。常識的に考えて変だと感じたら、まず疑ってみるべきです。
追記:
私の最初の韓国訪問は1985年です。この年にソウルで世界銀行・IMF年次総会が開かれました。会場はソウルのヒルトンホテル。会場の周囲には機関銃を持った韓国兵士が入り口などで警備をしていました。銃をもった兵士の圧倒的な威圧感を感じた最初の経験でした。後にニューヨークで2002年に警戒警報がオレンジかなにかになったときに、偶然、ニューヨークにいて、街の角々に武装した兵士が立っていたときにも、同じような感覚を味わいました。2週間ほどソウルに滞在し、取材活動をしました。現代自動車や中小企業団体、政府機関を取材しました。
との時、いろいろ経験しました。当時のベーカー財務長官が途上国の債務問題解決のための”ベーカー・プラン”を発表しました。帰国直前の朝7時頃からだったと思いますが、ベーカー長官の記者科研がありました。その記者会見は、記者しか参加できませんでした。しかし、大蔵省の記者クラブ財研の記者は英語ができなくて、記者会見でベーカー長官がどんな発言をしたのか理解できないので、当時の大蔵省の担当者に記者会見に出席して、後でブリーフィング(記者説明)をするように依頼したと聞いています。要するに、当時も今も、記者は国際会議の内容は大蔵省や外務省の説明をベースに記事を書いているのです。自分で取材する日本人記者は稀有な存在なのです。サミットの囲み記事、すなわちエピソード記事はどの新聞も同じですが、それは政府のブリーフィングで書いているからです。
その時、いろんな韓国人から聞いた韓国論の話は、韓国の文化を理解するには”恨”(ハングル語で”ハン”といいます)を知らなければならないということでした。そのとき、あるジャーナリストから聞いたのですが、韓国の新聞の社説は当時でも書き出しから3分の2は豊臣秀吉の韓国征伐から始まるということでした。日本人のように「過去を水に流すのが美徳」の国とは違い、昔味わった屈辱を恨みとして持ち続けるのが朝鮮民族の特徴だということです。
当時、ある韓国人から、韓国の悲劇は両側に中国と日本がいることだと意っていました。もし違った場所に韓国があったら、韓国人はもっと幸せになっていただろうと、冗談半分に意っていました。今の韓国、北朝鮮も同じ思いを抱いているのかもしれません。
”恨”を国民の基本的な思想の基盤として語らなければならない歴史を持つ国は、悲しい国かもしれません。しかし、そうした”恨”すら理解できない人々は、もっと悲しい存在かもしれません。それぞれの国は、それぞれ歴史的に忘れがたい経験の累積の中で生きているのです。かつての日本の痛みは、韓国や北朝鮮の痛みでもあるはずです。それをどう共感しあえるかが、これから100年の東北アジアの政治的、経済的状況を決めるのでしょう。安倍さんは、本当に何を考えて、100年先を見据えた内外政策を展開しているのだろうかと思わざるを得ません。