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□人物交差点 話題のひとに迫る 潘基文 [中央公論]
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20061128-02-0501.html
2006年11月28日
人物交差点 話題のひとに迫る 潘基文(次期国連事務総長)
アジア出身者の事務総長は三五年ぶり。国連総会で満場一致で任命された。
ただ、勝因はといえば「他にめぼしい候補がいなかったから」との見方も。
北朝鮮の核問題で強い指導力が発揮できるかは未知数だ
「事務総長自ら動くことが求められる時は北朝鮮を訪問し、指導者らと会談する」――。十月半ば、ニューヨークで日本人記者団と会見し、金正日総書記と会談する意向を表明した。無論、北朝鮮の核実験実施発表(十月九日)で揺れ動く北東アジア情勢を意識した発言である。
十月十三日、今年末で任期が切れるコフィ・アナン国連事務総長の後任に、国連総会で満場一致で任命された。アジア出身者では一九七一年に退任したビルマ(現ミャンマー)のウ・タント氏以来、二人目。第八代事務総長として、二〇〇七年一月一日から五年の任期を務める。
冒頭の発言のほかにも記者会見では、国連安保理が十月十四日に採択した北朝鮮制裁決議の履行を各国に求めるとともに、今は空席になっている北朝鮮問題担当事務総長特使を任命する考えを明らかにした。北朝鮮の核・ミサイル問題が注目を集めている時だけに、国際社会の期待にさっそく応えようとする意欲をのぞかせた。
一九四四年、韓国中部の忠清北道・忠州生まれ。忠清北道は、李朝とも呼ばれる朝鮮王朝(一三九二〜一九一〇年)時代の支配階級「両班」のイメージで語られることが多く、潘氏にどことなく貴族然とした雰囲気が感じられるのは、そのせいだろうか。地元・忠州高校に在学していた六〇年代初め、英語弁論大会で入賞。もらった副賞で米国に行き、当時のケネディ大統領と面会する機会を得た。その際に大統領から将来の夢を聞かれ、「外交官になります」と答えたエピソードも知られている。
一九七〇年、名門ソウル大の外交学科を卒業し、外交部(現外交通商部)入部。主に北米畑を歩み、八七年駐米参事官兼総領事、九〇年米州局長、九二年駐米公使などを歴任した。金泳三政権下の九六年から二年ほど、青瓦台(大統領府)の外交安保首席補佐官を務め、中央政界とのつながりが強まったようだ。
国連との接点は、二〇〇一〜〇二年に国連大使のかたわら、当時の韓昇洙国連総会議長の秘書室長を務めたことだった。〇三年二月の盧武鉉政権発足と同時に大統領外交補佐官、翌〇四年に外交通商部長官に抜擢され、韓国政府としても、各国の支持集めに全面支援態勢を構築して臨んだ。それだけに、自国の外交官から国連事務総長を出したことは、韓国外交史に残る歴史的快挙だ。
今回の事務総長選びは、順番から言って「次はアジアから」との声が大勢を占める中で進行。七月以降に計四回行われた非公式投票で、いずれも潘氏がトップを占め、極めて順調な選出過程をたどった。だが、勝因はというと、「ほかにめぼしい候補がいなかったから」「難点を抱える候補を『消去法』で除いた結果、残っただけ」との陰口も聞かれる。テロとの戦いやイラク戦争、レバノン紛争などで厳しい国際社会の目にさらされるブッシュ米政権が、国連で新たなトラブルの種を抱え込みたくなかったため、スムーズな事務総長選びになったとの見方すらある。
人物評も「調整型」「とらえどころがない」「仕事の虫」「面白みに欠ける」など、必ずしも芳しくはない。
「対日観」も気になるところだ。盧政権の対日強硬政策を支えた“実績”があるうえ、「過去を克服していない」と日本の保守層、指導層の歴史観を問題視する姿勢でも一貫している。日本語もできるわけではない。アナン事務総長は安保理改革に積極的に取り組み、日本の常任理事国入りも支持したが、潘氏は日、独、インド、ブラジルが常任理事国になることに強く反対した韓国外交を率いる責任者だった。日本は非公式投票では、四回とも潘氏への支持票を投じた。だが、事務総長は再選されるケースが多く、日本外務省内では「向こう一〇年間、日本の常任理事国入りは厳しくなったのでは」という悲観論もささやかれているという。
北朝鮮訪問への意欲表明も、国際社会からは評価されるだろうが、当の北朝鮮は冷ややかに受け止めているに違いない。北朝鮮はもともと「国連軽視」姿勢で、韓国との関係はそもそも「外交」とは見なしていない。韓国の外交官を務めた「米国通」の経歴が逆にネックになる恐れは否定できない。
核実験強行で北朝鮮核問題が緊迫の度を強める中での潘氏の事務総長就任。当然、世界各国はその手腕に期待したいところだが、成果を上げられないとなれば落胆も大きい。冷戦終結後、地球上に唯一残る分断国家の一方の当事国から事務総長を選んだことは、果たして、「吉」と出るのか、それとも「凶」と出るのか。