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□北朝鮮 「軍拡アリ地獄」の原点は 「将軍さま」の父親コンプレックスにあり=黒田勝 [SAPIO]
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20061110-02-0401.html
2006年11月10日
北朝鮮 「軍拡アリ地獄」の原点は 「将軍さま」の父親コンプレックスにあり=黒田勝
北朝鮮が核実験をやった(と発表した)。この前は日本海で多数のミサイル発射だ。近年、北朝鮮の派手な“軍事行動”が目立つ。北朝鮮では「先軍政治」とか「先軍思想」などといったスローガンもある。「先軍」とは「軍事優先」の意味だ。1990年代半ばの飢餓時代には、「苦難の行軍」などといって国民に奴隷的ガマンを強いている。北朝鮮はなぜ軍、軍、軍……なのか。
写真を見ると金正日総書記の周りにはいつも軍服姿がある。北朝鮮では国家機関はもちろん、社会のいたるところで軍服が幅を利かしている。官営メディアで伝えられる金正日の視察対象も、ほとんどが軍関係だ。金正日の肩書は「総書記」より「国防委員会委員長」が圧倒的に多い。
共産主義国家は、中国でもわかるように「軍より党」といって党支配が原則だが、北朝鮮は違う。これは金正日政権になってからの現象である。その証拠に、金正日は父親・金日成の死後、政権を受け継いで10年以上も経つのに、朝鮮労働党の党大会はまだ一度も開いていない。「党より軍」なのだ。
そして金正日は国民に自らを「チャングンニム(将軍さま)」と呼ばせている。今や北朝鮮は完全に「軍事独裁政権」なのだ。以下、テポドンはおろか核保有にまで突っ走ってしまった金正日総書記の“軍事好き”の秘密を探ってみる。
結論を先にいえば、あれは世襲権力者としての「パパ(金日成)コンプレックス」である。あるいは戦争を知らない世代の「遅れてきた青年」的な「軍事コンプレックス」といおうか。
もちろん独裁者にとって権力維持のためには軍重視は不可欠だ。軍にそむかれたのでは、たちまちクーデターで権力を失ってしまう。世襲二代目の金正日が金日成死後、まず軍を固めて権力の安定を図ったのは当然のことだった。
しかし金正日総書記にとって最大のコンプレックスは、世襲二代目につきものの“カリスマ不足”だった。父・金日成は、誇張されてはいるが、抗日パルチザンの闘争歴がある。無残に敗退し中国軍の助けでなんとか盛り返したのが実情だったが、朝鮮戦争の戦争経験もあった。
金日成は“戦い”つまり軍事=力で権力を握り、軍事=力で権力を維持したのだ。そのカリスマ(神格?)が50年以上にわたる国民支配の源泉になった。そこで金正日も自らを「将軍さま」と呼ばせ、軍事的カリスマで権力を維持しようと「先軍政治」などという軍事独裁体制を編み出した。
ミサイルも核実験も、米国を対北直接交渉に引き出すための、外交カードであることは間違いないが、同時に、あるいはそれ以上に権力維持のための“対内的カリスマ作り”なのだ。
金正日総書記の「父親コンプレックス」は、裏返せば国民との関係における権力不安のことである。だから、ミサイルや核兵器を手に米国と堂々とわたり合う「将軍さま」の姿に、国民はカリスマを感じて、忠誠を誓うというかたちにしたいのである。
とすると、「先軍政治」の下でのミサイルや核兵器へのこだわりは、逆に金正日総書記の権力基盤の弱さを物語っているということになる。人間だって、ことさら強がりを見せようとする時は、弱みがある時なのだ。
エンドレスの軍事独裁に踏み込んでしまった「将軍さまの失敗」は、やはり父親が亡くなった1994年の後、選択の失敗にある。あの時、二代目の不安心理から経済重視の「改革・開放へ」という変化に踏み出せなかったのが禍根になった。不安心理から変化を恐れたのだ。
しかし過ぎたことを言っても仕方ない。変化は拒否したのだからこのまま走るしかない。金正日政権の「貧者の先軍政治」は、結局はミサイルだ、核実験だと、軍拡のアリ地獄になりつつある。そして今後、国際社会の締め付けは強まる。またまた「苦難の行軍」をやるにしても、このままではそんなに長生きはできないだろう。
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